2024.11.02更新

<ギランバレー症候群>
概要
ギラン・バレー症候群とは、末梢神経が障害されることによって脱力・しびれ・痛みなどの症状が引き起こされる病気のことです。
私たちの神経には、脳や脊髄(せきずい)といった“中枢神経”とそこから分岐して全身に分布していく“末梢神経”があります。末梢神経はさらに、運動に関わる運動神経・感覚に関わる感覚神経・身体の機能を調節する自律神経に分類されますが、ギラン・バレー症候群ではこれらの神経に異常が生じることによって発症すると考えられています。
末梢神経に異常が生じる原因は、ウイルスや細菌による感染をきっかけに起こる免疫反応が自身の末梢神経を攻撃することによるものと考えられています。この病気は特別な治療を行わなくても自然に症状が軽快していくケースが多い一方、重症化するケースもあるため発症した場合はできるだけ早い段階で治療を開始することが望ましいとされています。
発症率は10万人あたり1~2人と比較的珍しい病気ですが、小児から高齢者まで全ての年代で発症する可能性があるため注意が必要です。
原因
ギラン・バレー症候群患者の3人に2人は発症の1~3週間前にカンピロバクター、サイトメガロウイルス、EBウイルスなどの感染症にかかった既往があるとされています。カンピロバクター腸炎後に起こるギラン・バレー症候群では、この細菌に対する抗体が自身の末梢神経を攻撃してしまうことにより発症することが分かっています。サイトメガロウイルス、EBウイルス感染後に起こるタイプについても同様の原因が推定されていますが、まだ証明はされていません。
また、そのほかにも、インフルエンザなどのワクチンによって引き起こされるケースも報告されています。新型コロナウィルス感染の後に発症するケースも報告されています。
症状
ギラン・バレー症候群の症状の現れ方や重症度には個人差がありますが、下痢・風邪症状や発熱などの感染症症状が生じて1~4週間後に手足の力が入りにくくなっていくのが典型的なパターンです。多くは、足の力が入りにくくなり、徐々に腕にも脱力が広がっていき、階段の上り下りができない・布団の上げ下ろしができないといった症状が現れます。また、脱力と同時にしびれや痛みが生じるケースも少なくありません。
一般的に、これらの症状は上下肢に現れますが重症なケースでは、顔の筋肉や目を動かす筋肉、物の飲み込みに関わる筋肉にも麻痺が生じることがあり、中には呼吸に関わる筋肉が麻痺して呼吸困難に陥ることも少なくありません。さらに、末梢神経のなかでも自律神経のダメージが強い場合は、脱力・しびれ・痛み以外にも頻脈や血圧の高度の変動などの症状が引き起こされることも知られています。
ギラン・バレー症候群は突然、前述のような症状が現れますが、多くは発症後4週間ほど経つと徐々に改善に向かい、半年~1年ほどで元の状態に戻っていきます。しかし、急激に重症化するケースもあり、発症者の20%は1年後でも何らかの神経障害を残し、2~5%の方は命を落としているのが現状です。
検査・診断
症状などからギラン・バレー症候群が疑われるときは、次のような検査が行われます。
血液検査
末梢神経の異常を引き起こす糖尿病などとの鑑別をする目的で血液検査が行われます。また、ギラン・バレー症候群患者の60%の血中には末梢神経の成分を攻撃する抗体が存在するとされているため、この抗体の有無を調べる検査も行われます。
画像検査
脳や脊髄などの中枢神経の異常による症状との鑑別をするため、CTやMRIなどによる画像検査が行われます。
末梢神経伝導検査
末梢神経の電気的な活動が伝わる速さを測定することで、末梢神経が正常に機能しているか調べることができる検査です。ギラン・バレー症候群では、電気的な活動が伝わる速度が遅くなったり、伝わらなくなったりする部位が生じるため、診断の大きな手がかりとなります。
髄液検査
腰に針を刺して髄液を採取し、髄液中の細胞を詳しく調べる検査です。ギラン・バレー症候群では髄液中のたんぱくが増加し、細胞数が正常といった変化が生じるため、診断に役立つとされています。また、麻痺などを引き起こす髄膜炎や脳腫瘍では細胞数が増えるのでこれらとの鑑別にも有用です。
治療
ギラン・バレー症候群は特別な治療をしなくても自然に軽快していくケースが多いとされています。しかし、重症化した場合はできるだけ早い段階で次のような治療が行われます。
血液浄化療法
血液中の有害な物質を取り除いて体内に戻す治療法です。ギラン・バレー症候群に対して血液浄化療法を行うと、症状が軽くなり、回復が早くなることが分かっています。頻度や回数は重症度によって異なりますが、多くは1日おきに4~5回程度の治療が行われます。
免疫グロブリン大量静注療法
原因となっている免疫反応(抗体)を抑えるため、大量の免疫グロブリン製剤を点滴で投与する治療方法です。
症状を改善するための治療
ギラン・バレー症候群はさまざまな症状が引き起こされるため、それぞれの症状を改善するために治療が行われます。具体的には、呼吸困難に対する人工呼吸器装着、嚥下(えんげ)困難(物が飲み込めない)に対する栄養管理(経管栄養)などが挙げられます。
予防
ギラン・バレー症候群を引き起こす細菌・ウイルス感染自体を予防することは困難ですので、予防法はないのが現状です。
重症化すると呼吸筋の麻痺のために命にかかわるケースもあるため、感染症症状が現れて1~3週間ほどで急に脱力症状などが現れた場合はできるだけ早く病院を受診するようにしましょう。

 

投稿者: 大橋医院

2024.11.01更新

<新形コロナウィルス感染症>
概要
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による感染症です。2019年12月に中国で初めて報告され、今もなお世界的な流行を見せています。日本では2023年4月1日までに33,462,859人(国内人口の約26.5%)が新型コロナウイルス感染症と診断されています。
新型コロナウイルスについて厚生労働省は、入院措置・勧告や外出自粛といった措置をとれる“新型インフルエンザ等感染症(感染症法上の2類相当)”に位置付けていましたが、2023年5月8日から季節性インフルエンザなどと同じ感染症法に規定される“5類感染症”に移行しました。これにより、政府が外出自粛を要請することはなくなり、感染対策は個人や事業者の判断に委ねられるなど、大きな転換点を迎えました。
新型コロナウイルス感染症は、新型コロナウイルスの感染から1~14日(当初は平均約5日、オミクロン株では平均約2日)の潜伏期間ののち、発熱、鼻水、喉の痛み、せきなどの呼吸器症状や、嗅覚異常や味覚異常といった症状が現れます。また、感染者の一部は肺炎が悪化して酸素投与や集中治療室での人工呼吸管理が必要になることがあり、特に、高齢者や基礎疾患などがある人、一部の妊娠後期の人で重症化のリスクが高いといわれています。2022年7〜8月にかけて新型コロナウイルス感染症と診断された人のうち、重症化した割合は50歳代以下で0.01%、60・70歳代で0.26%、80歳代以上で1.86%、また死亡した割合は50歳代以下で0.00%、60・70歳代で0.18%、80歳代以上で1.69%と報告されています。
新型コロナウイルスは発症の2日前から発症後5~10日間程度までは、ほかの人に感染させる可能性があるといわれています。特に、発症直前や直後がもっともウイルス排出量が多く、感染のリスクが高まるため、流行期間中は症状の有無にかかわらず3密(密閉・密集・密接)や、飲酒を伴う懇親会のように感染リスクが高まる“5つの場面”を避けることが大切です。
原因
新型コロナウイルス感染症の原因は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)です。ウイルスはヒトの粘膜に付着し、そこから体内に入り込んで増殖することで発熱やせきなどの症状を引き起こします。
コロナウイルスとはRNAを遺伝情報とし、“エンベロープ”と呼ばれる脂質の二重膜を持つウイルスの総称です。新型コロナウイルス以外にはいわゆる“かぜ”の原因となるウイルスや、重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)の原因となるウイルスがあります。
新型コロナウイルスの感染経路
新型コロナウイルスは一般的に“飛沫感染”と“接触感染”によって感染し、中でも飛沫感染が主な感染経路であると考えられています。なお新型コロナウイルスは、飛沫が飛びやすいマスクなしでの会話や、3密(密閉・密集・密接)の環境で感染しやすいことが分かっています。
飛沫感染とは、感染者の飛沫(くしゃみ、咳、会話によるつばなど)に含まれたウイルスをほかの人が口や鼻などから吸い込むことで感染する経路です。
接触感染とは、感染者が触れることなどでウイルスが付着したものに、ほかの人が触れてその手で口や鼻などを触ることでウイルスが粘膜から感染する経路です。目の粘膜からも感染するといわれています。
感染後
新型コロナウイルスは、発症後7~10日間が経過するまではウイルス排出の可能性があるといわれているため、他人に感染させるリスクが高いことに注意する必要があります。特に発症後5日間は感染リスクが高いことから、外出を控えることが強く推奨されます。
また5日が経過していたとしても、熱が下がり、せきや喉の痛みなどの症状が軽快してから24時間程度は様子を見て、外出を控えることが推奨されます。
新型コロナウイルスの変異株
新型コロナウイルスなどのウイルスは、増殖や流行を繰り返す中で遺伝子配列を少しずつ変異させており、新型コロナウイルスは約2週間で1か所程度の速さで変異を繰り返しているといわれています。そのうち感染性が高まったり、ワクチンへの効果を弱めたりする、またはその可能性がある株を「懸念される変異株(VOC)」と「注目すべき変異株(VOI)」として警戒の対象としていますが、2023年9月時点では、VOCに該当する系統の指定はありません。
オミクロン株は従来の新型コロナウイルス同様、引き続き高齢者の重症化リスクは高い一方、若年者の重症化リスクはより低く、ほとんどが軽症で済むことが特徴です。
症状
新型コロナウイルス感染症の発症早期では発熱・鼻汁・喉の痛み・せき・倦怠感・息苦しさといったかぜやインフルエンザに似た症状や、嗅覚異常・味覚異常、下痢などが現れることがあります。一部の人は症状が悪化して肺炎になり、入院が必要になることもあり、さらに重症化すると集中治療室での人工呼吸管理が必要になります。
重症化する場合は発症後約5~7日程度で急速に悪化することが多く、特に高齢者や基礎疾患(糖尿病、心不全、呼吸器疾患など)を持つ人で重症化しやすいことが知られています。
また、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)と呼ばれる重度の呼吸不全や、サイトカインストームと呼ばれる過剰な免疫反応、血栓症や心筋炎が合併症としてみられることもあり、若年層であっても重症化することがあります。
新型コロナウイルス感染症の後遺症
新型コロナウイルス感染症にかかった人の中には、治療や療養が終わったにもかかわらず一部の症状が長引くことがあり、いわゆる後遺症として報告されています。
新型コロナウイルス感染症の後遺症については研究が進められている最中ですが、以下の後遺症が報告されています。
• 体のだるさ
• 筋力の低下
• 集中力の低下
• 脱毛
• 睡眠障害
• 嗅覚障害
• 咳
• 頭痛
• 味覚障害
• 記憶障害
• 関節の痛み など
• ただし、いずれの後遺症もほとんどの場合で時間の経過とともに軽快していく傾向があると考えられています。また、入院中酸素投与が必要であった人や、気管内挿管・人工呼吸器管理が必要であった人はそうでない人と比較して後遺症が残りやすいということも明らかになりました。
• 検査・診断
• 新型コロナウイルス感染症を診断するための検査には、抗原検査とPCR検査やLAMP検査があります。抗原検査は、ウイルスを特徴づけるタンパク質(抗原)の存在を調べるもので、PCR検査やLAMP検査はウイルスを特徴づける遺伝子配列の有無を調べるものです。それぞれ、検査の精度、検査が行える場所、判定にかかる時間が異なります。検査は、鼻咽頭(びいんとう)や鼻腔(びくう)のぬぐい液や唾液を検体として行われます。
• 新型コロナウイルス感染症は検査結果と医師の診察に基づいて診断が確定します。そのため、自分で行う抗原検査の結果が陰性であっても、医師の診察が行われていなければ新型コロナウイルス感染症ではないと確定することはできません。
• 新型コロナウイルス感染症の重症度
• 新型コロナウイルスの重症度は、血液の酸素飽和度(SpO2)と呼ばれる検査値と、臨床症状に基づいて判断されます。
• 軽症:SpO296%以上、呼吸器症状がない、せきのみで息切れがない
• 中等症I(呼吸不全なし):SpO294%~95%、息切れと肺炎所見がある
• 中等症II(呼吸不全あり):SpO293%以下、酸素投与が必要
• 重症:集中治療室での治療が必要または人工呼吸器が必要
治療
新型コロナウイルス感染症の治療方法は重症度によって異なります。軽症の場合は対症療法を行いながら経過観察を行うことで自然に軽快することも多く、解熱剤などが使用されることがあります。
病状や重症度に応じて、中和抗体薬、抗ウイルス薬、ステロイド薬、免疫調整薬、中和抗体薬や酸素の投与を行います。また、集中治療室での治療や人工呼吸器の使用が必要になる場合もあります。
新型コロナウイルスの治療薬
日本で使用できる新型コロナウイルスの治療薬については、2023年9月時点で主に以下の治療薬が承認されています。
抗炎症薬
• デキサメタゾン:ステロイド薬。中等症II〜重症の患者への投与が推奨されている。
• バリシチニブ:関節リウマチなどに使用される薬。中等症II〜重症の患者に検討される。
• トシリズマブ:関節リウマチの治療薬としても使用される。中等症II〜重症の患者に検討される。
抗ウイルス薬
• レムデシビル:エボラ出血熱の治療薬として開発されていた薬。ハイリスクの軽症~重症患者まで幅広く検討される。
• モルヌピラビル:ハイリスクの軽症~中等症Iの患者に検討される。妊婦には使用できない。
• ニルマトレルビル/リトナビル:ハイリスクの軽症~中等症Iの患者に検討される。併用できない治療薬が多いため注意が必要。
• エンシトレルビル:軽症~中等症Ⅰの患者に検討される。妊婦には使用できず、多くの薬剤が併用禁忌となっている。重症化リスクの少ない患者にも使用が可能である。
中和抗体薬
• カシリビマブ/イムデビマブ:ハイリスクの軽症~中等症Iの患者に検討されるほか、濃厚接触者の発症の抑制にも使用できる。
• ソトロビマブ:ハイリスクの軽症~中等症Iの患者に対して使用される。
• チキサゲビマブ/シルガビマブ:ハイリスクの軽症~中等症Ⅰの患者に検討されるほか、免疫抑制状態にある患者に投与し発症を抑える効果も期待できる。
• 新型コロナウイルス感染症は、マスクなどの防護対策を行わずに、3密(密閉・密集・密接)の環境で人と接することで感染が広がることが分かっています。そのため予防には、マスクなどの防護対策を行ったうえで3密を避け、体調が悪いときは外出を控えるなどの予防対策が推奨されます。接触感染を避けるために手洗いや身の周りのものの消毒・除菌を行うことが有効です。
• 新型コロナワクチン
• 2023年9月20日からの“令和5年秋開始接種”では、生後6か月以上を対象にオミクロン株の亜系統であるXBB.1系統に対応した1価ワクチンの接種が開始されます。
• 新型コロナワクチンは、新型コロナウイルス感染症の発症、感染、重症化を予防する効果があることが確認されています。また追加接種を受けた場合、追加接種をしていないケースと比べて、発症や重症化、入院それぞれの予防効果が高くなることも報告されています。
• ワクチンの種類にもよりますが、接種後に接種部分の痛み、発熱、倦怠感、頭痛、筋肉や関節の痛み、寒気、下痢などの副反応が一定の頻度でみられます。ごくまれですが、心筋炎が発症した事例も報告されています。

 

投稿者: 大橋医院

2024.10.31更新

<前立腺肥大>
概要
前立腺肥大症とは、男性の体において膀胱に隣接して尿道を取り巻いている前立腺という臓器が大きくなり、尿道が細くなることによって排尿にまつわるいろいろな症状をきたす病気を指します。
前立腺は男性ホルモンの変化に影響を受けます。そのため、前立腺肥大症では、男性ホルモンのはたらきが衰え始める30歳代から前立腺が大きくなり始め、加齢とともに大きくなります。肥大する前立腺の大きさや形には個人差があります。
原因
加齢に伴う男性ホルモンの変化が、前立腺肥大症に関与していると考えられています。これは、前立腺が男性ホルモンのはたらきと密接に影響し合う臓器であるためです。
このほか、以下に挙げる因子と前立腺肥大症との関連が明らかになりつつあります。
• 肥満
• 高血圧
• 高血糖
• 脂質異常症
など
症状
前立腺肥大症になると、尿道の一部が細くなるために尿に関するいろいろな症状が起こるようになります。具体的には、以下のような症状が現れます。
• 排尿困難(尿が出にくい)、または尿閉(尿が出ない)
• 頻尿:おしっこが近い、夜中にトイレで何度も起こされる
• 尿意切迫感:突然おしっこに行きたくなる
• 残尿感:尿を出しても出し足らない感じがする
• 尿失禁:尿を漏らしてしまう
• 検査・診断
• 前立腺肥大症の検査では、日常生活で尿について困っていることを問診で伺ったうえで、さまざまな検査を行います。たとえば、尿流測定で実際に尿の出る速さを測定したり、腹部超音波検査で尿が溜まった状態の前立腺体積や形状、膀胱変形の有無などを調べたりします。また、トイレの後に膀胱内の尿の量を推定(残尿測定)したり、直腸診を実施し、肛門から指をいれて前立腺を触診して大きさや硬さ、表面のゴツゴツ感がないかなどを調べたりします。
• 前立腺がんの腫瘍マーカーであるPSAという値は前立腺肥大症でもが高くなることがあり、高値の場合は定期的なフォローやより詳しい検査を行います。
• 治療
• 前立腺肥大症の治療方法には、大きく分けて薬を用いた薬物療法と、手術で前立腺の一部を取り除く手術の2つがあります。通常はまず薬物療法を行いますが、効果が不十分であったり、尿路感染や腎機能障害などの合併症が生じていたりする場合や、重症と判定されるような場合には、手術など外科的治療を行うことが多いです。
• 薬物療法
• 薬物療法で用いる薬には、前立腺や膀胱の一部の筋肉を緩めて尿の通りをよくするタムスロシンなどの交感神経α1受容体拮抗薬や、男性ホルモンのはたらきを抑える5α還元酵素阻害薬などがあります。また、近年では、タダラフィルというホスホジエステラーゼ5阻害薬も一般的になっています。
• 手術治療
• 手術は尿道から内視鏡入れて行う治療が標準的です。
• その方法には幾つかあり、尿道の内側から前立腺を削り取る経尿道的前立腺切除術(TURP)、ホルミウムレーザーを用いた前立腺核出術(HoLEP)やレーザーを用いた前立腺蒸散術(PVP)などがあります。

 

投稿者: 大橋医院

2024.10.30更新

<心臓神経症>
概要
心臓神経症とは、胸の痛みや呼吸苦、動悸など心臓に関わる症状があるにもかかわらず、検査などでは異常が認められず特定の身体疾患と診断できないものを指します。不安やストレス、抑うつ状態と関連していることが多く、不安神経症や身体表現性障害といった精神疾患に準じた治療が行われます。
原因
原因となるのは、心臓や肺などの臓器ではなく、日常生活や職場でのストレス、環境の変化などにより不安や緊張が高まっていたり、抑うつ状態であったりすることなどが発症の原因であるといわれています。
症状
胸の痛み、動悸、呼吸苦、めまいなど、狭心症や不整脈などの循環器疾患と同様の症状を自覚します。狭心症の症状は、運動時など体を動かしているときに起こることが多いですが、心臓神経症では安静にしているときに症状が起こることも多く、不安やストレスが強くなることに伴って症状が現れることもあります。
検査・診断
一般的に循環器疾患や呼吸器疾患、消化器疾患などがないか検査で調べ、臓器の異常による疾患が除外できた場合に診断されます。そのため、心臓神経症の診断に特別な検査はありません。循環器疾患や呼吸器疾患、消化器疾患を診断するための一般的な検査が行われます。
胸部レントゲン検査
心不全や気胸など、胸痛や呼吸苦をきたすような疾患がないか調べます。
血液検査
狭心症や心筋梗塞などの冠動脈が狭くなって起こる虚血性心疾患の場合、心臓の筋肉から出てくる心筋逸脱酵素が上昇します。また、動脈硬化のリスクが高いかどうかを血液検査で調べることもあります。
心電図検査(標準12誘導心電図、ホルター心電図、運動負荷心電図)
狭心症や心筋梗塞の場合は心電図の異常をきたすので、その有無を調べます。また、症状として動悸が現れている場合はホルター心電図により日常生活の中で不整脈が起きていないかを調べます。
心臓超音波検査
狭心症や心筋梗塞、心不全などの循環器疾患がある場合、心臓の動きが悪くなったり、心臓の弁の状態が悪くなったりしていることがあるので、心臓超音波検査によって調べます。
上部消化管内視鏡
胃炎や胃潰瘍により胸部の痛みが引き起こされていることもあるので、状況によっては内視鏡検査を行うこともあります。
他にも、冠攣縮性狭心症による胸痛の可能性もあり、ニトログリセリンなどの血管拡張薬を試すこともあります。さらに、そのほかの検査が追加される場合もありますが、このような検査によって原因となる疾患がみつからず、不安やストレスなど原因となるような背景がある場合に心臓神経症と診断されます。
治療
不安神経症や身体表現性障害などの精神疾患に準じた薬物治療や非薬物治療が行われます。治療の際には、内科や循環器内科の医師だけでなく、心療内科や精神科の医師と協力して行われます。
薬物治療
不安神経症の治療に用いられる抗不安薬、うつ病の治療に用いられる抗うつ薬などが使用されます。頻脈や動悸などの自律神経症状が強い場合はβ遮断薬が併用されます。
非薬物療法
症状の原因となっている不安やストレスを避けるような生活を心がけることのほか、認知行動療法と呼ばれる、医師や臨床心理士、カウンセラーとの対話のなかで病気や自己に対する認識を変えていき、回復を目指す治療法が用いられる場合もあります。

 

投稿者: 大橋医院

2024.10.29更新

<前立腺肥大>
概要
前立腺肥大症とは、男性の体において膀胱に隣接して尿道を取り巻いている前立腺という臓器が大きくなり、尿道が細くなることによって排尿にまつわるいろいろな症状をきたす病気を指します。
前立腺は男性ホルモンの変化に影響を受けます。そのため、前立腺肥大症では、男性ホルモンのはたらきが衰え始める30歳代から前立腺が大きくなり始め、加齢とともに大きくなります。肥大する前立腺の大きさや形には個人差があります。
原因
加齢に伴う男性ホルモンの変化が、前立腺肥大症に関与していると考えられています。これは、前立腺が男性ホルモンのはたらきと密接に影響し合う臓器であるためです。
このほか、以下に挙げる因子と前立腺肥大症との関連が明らかになりつつあります。
• 肥満
• 高血圧
• 高血糖
• 脂質異常症
など
症状
前立腺肥大症になると、尿道の一部が細くなるために尿に関するいろいろな症状が起こるようになります。具体的には、以下のような症状が現れます。
• 排尿困難(尿が出にくい)、または尿閉(尿が出ない)
• 頻尿:おしっこが近い、夜中にトイレで何度も起こされる
• 尿意切迫感:突然おしっこに行きたくなる
• 残尿感:尿を出しても出し足らない感じがする
• 尿失禁:尿を漏らしてしまう
検査・診断
前立腺肥大症の検査では、日常生活で尿について困っていることを問診で伺ったうえで、さまざまな検査を行います。たとえば、尿流測定で実際に尿の出る速さを測定したり、腹部超音波検査で尿が溜まった状態の前立腺体積や形
状、膀胱変形の有無などを調べたりします。また、トイレの後に膀胱内の尿の量を推定(残尿測定)したり、直腸診を実施し、肛門から指をいれて前立腺を触診して大きさや硬さ、表面のゴツゴツ感がないかなどを調べたりします。
前立腺がんの腫瘍マーカーであるPSAという値は前立腺肥大症でもが高くなることがあり、高値の場合は定期的なフォローやより詳しい検査を行います。
治療
前立腺肥大症の治療方法には、大きく分けて薬を用いた薬物療法と、手術で前立腺の一部を取り除く手術の2つがあります。通常はまず薬物療法を行いますが、効果が不十分であったり、尿路感染や腎機能障害などの合併症が生じていたりする場合や、重症と判定されるような場合には、手術など外科的治療を行うことが多いです。
薬物療法
薬物療法で用いる薬には、前立腺や膀胱の一部の筋肉を緩めて尿の通りをよくするタムスロシンなどの交感神経α1受容体拮抗薬や、男性ホルモンのはたらきを抑える5α還元酵素阻害薬などがあります。また、近年では、タダラフィルというホスホジエステラーゼ5阻害薬も一般的になっています。
手術治療
手術は尿道から内視鏡入れて行う治療が標準的です。
その方法には幾つかあり、尿道の内側から前立腺を削り取る経尿道的前立腺切除術(TURP)、ホルミウムレーザーを用いた前立腺核出術(HoLEP)やレーザーを用いた前立腺蒸散術(PVP)などがありま

投稿者: 大橋医院

2024.10.28更新

<パニック障害>
概要
パニック症(パニック障害)とは、予期しない突然の強い恐怖や不快感の高まりが生じて、動悸、息苦しさ、吐き気、ふるえ、めまい、発汗などの“パニック発作”を繰り返す病気のことです。
このようなパニック発作は特定の状況で生じることもあるため、発作を避けようとするあまり外出が困難になるなど日常生活に支障をきたすケースも少なくありません。また、さらなるパニック発作またはその結果について持続的な懸念、または心配(例:抑制力を失う、どうかなってしまう)が生じ、1か月以上持続します(予期不安)。
多くは成人前後に発症しますが、女性のほうがなりやすい病気であるとされています。
パニック症で現れるさまざまな症状は、発作が治まると自然に改善していくため治療の必要はありません。しかし、日常生活に支障をきたしやすい病気であるため、発作を予防するために薬物療法や精神療法などが必要となります。
原因
パニック症は、強い恐怖心が突然芽生えて動悸、息苦しさ、吐き気など、さまざまな症状が現れるパニック発作を繰り返す病気のことです。この病気の明確な発症メカニズムは解明されていませんが、脳の延髄(えんずい)と呼ばれる部位の機能に何らかの異常があることによって引き起こされるとの説があります。
延髄には体内の二酸化炭素の量を感知するはたらきがあります。パニック症の人は二酸化炭素のわずかな変化に過剰に反応することで“酸素不足”と誤認識し、呼吸や心拍数が速くなるといった症状が現れると考えられていますが、あくまで“仮説”とされているのが現状です。
症状
パニック症は、原因がないにもかかわらず突然生命の危機に陥るような強い恐怖を感じ、動悸、息苦しさ、吐き気、ふるえ、めまい、発汗などの症状に襲われる“パニック発作”が繰り返される病気のことです。災害時などに命に危機を感じて上述したような症状が現れることは多々ありますが、パニック症でははっきりとした理由がないのに突然発作が生じるのが特徴の1つといえます。
パニック発作は通常10分程度で自然に改善していきます。しかし、予期せぬ時に生じるため、発作に対して強い不安を覚えるようになります。また、発作が起こった場所や発作が起こっても助けを求められないような場所へ出向くことを極端に恐れるあまり、外出できなくなるなど日常生活に支障をきたしやすいのも特徴です。
検査・診断
パニック症は、上述したように動悸や息苦しさ、めまいなどさまざまな身体的症状を引き起こす病気です。
そのため、パニック症が疑われる場合であっても何らかの身体的な病気による症状でないことを確認するため、血液検査、画像検査、心電図検査などがそれぞれの症状に合わせて必要となります。これらの検査でまったく異常がなく、“理由がない予期せぬパニック発作が繰り返されること”、“パニック発作に対する不安が少なくとも1か月以上続いていること”に当てはまればパニック症と診断されます。
なお、パニック症は予期しないパニック発作が突然生じることが診断を下すための条件とされています。中には予期されるパニック発作を併せて持つこともありますが、原因がはっきり分かるストレスに晒された際の発作のみではパニック症とは診断されません。
治療
パニック症で生じるさまざまな症状は、身体的な異常によって引き起こされているわけではないため治療の必要はありません。しかし、この病気はパニック発作への不安から日常生活に支障をきたすことが多いため、パニック発作を抑えるための治療が必要です。
具体的には次の2つの治療が行われています。
薬物療法
パニック症では抗うつ薬や抗不安薬を用いた薬物療法が行われます。特に選択的セロトニン再取り込み阻害薬の効果が高いとされています。
精神療法
薬物療法と同時に精神療法を行うこともあります。カウンセリングを通して患者自身の認識と現実との違いを把握し、認識の歪みを改善する“認知行動療法”が行われることが多いですが、避けている場所や状況に身を置く“曝露療法”などが行われることも少なくありません。
予防
パニック症は明確な発症メカニズムが解明されていないため、確実な予防方法はないのが現状です。しかし、パニック症は放っておくと発作に対する不安感から日常生活に支障をきたすケースも少なくありません。
適切な治療の継続によって症状を改善することができますので、パニック症を疑う症状があるときはできるだけ早めに医師に相談しましょう。

 

投稿者: 大橋医院

2024.10.27更新

<腎性貧血>
概要
腎性貧血とは、腎臓で作られる“エリスロポエチン”と呼ばれる物質の産生量が減少することによって引き起こされる貧血のことです。エリスロポエチンは“造血ホルモン”とも呼ばれ、“赤血球”という血液の細胞の産生を促す作用があります。このため、エリスロポエチンが減少すると赤血球の産生量も減少し、貧血を引き起こします。
腎性貧血は、腎機能が低下するほど発症しやすくなります。これは、腎臓の機能が低下すると尿細管や間質に障害が生じ、エリスロポエチンの生産量が減少してしまうためです。慢性的に腎機能が低下する慢性腎不全は、糖尿病腎症や高血圧などの生活習慣病や、慢性糸球体腎炎によって引き起こされることがあります。
慢性腎不全と貧血、そして心疾患は、“心腎貧血症候群”とも呼ばれ、互いに影響し合っています。慢性腎不全にかかっている人は心疾患のリスクが高く(心腎連関)、貧血もまた心臓への負担となり、心疾患のリスクが高まるといわれています。これらによって結果的に心疾患にかかると、今度は腎臓に負担がかかるようになり、腎不全が悪化することで貧血が進行するという悪循環を招きます。そのため、腎性貧血は積極的な治療が望まれる病態のひとつとされています。
原因
腎性貧血は慢性腎不全(腎臓の機能が低下すること)により、“造血ホルモン”と呼ばれるエリスロポエチンの産生量が低下することによって引き起こされます。特に、腎臓の機能が健常人の半分以下になると発症するリスクが高くなることが分かっています。
慢性腎不全の原因として挙げられるのは糖尿病腎症や慢性腎炎、腎硬化症などの病気です。これらの病気では、赤血球の寿命が短くなったり、栄養不足を引き起こしたりしやすくなるため、エリスロポエチンの産生量低下と相まってさらに貧血を発症しやすくなると考えられています。
症状
腎性貧血では、貧血に特有の症状が現れます。貧血とは、全身に酸素を運搬するはたらきを担う赤血球上の“ヘモグロビン”が減少する病気です。このため、貧血を発症すると全身を巡る酸素が減少し、怠さや疲れ、息切れ、めまいなどを引き起こします。また、全身への血流量を増やして酸素不足を補おうとする仕組みがはたらくため、心臓の拍動が速くなり、動悸が生じやすくなります。このため、貧血が続くと心臓に過度な負担がかかり、心不全を発症しやすくなるのも特徴のひとつです。
また、腎性貧血の原因となる慢性腎不全は、尿量減少や血圧上昇などを引き起こすため心臓に負担をかけて心不全を引き起こしやすくなり、一方で心不全は腎臓への血流を低下させるため腎不全を悪化させます。その結果、腎性貧血が悪化し、それがさらに心不全から腎不全を悪化させるといった負のスパイラルに陥りやすくなる“心腎貧血症候群”が近年注目を集めています。
検査・診断
腎性貧血に対しては次のような検査が行われます。
血液検査
貧血の程度や血中エリスロポエチン濃度などを調べるために血液検査が行われます。そのほかにも、体内に蓄えられている鉄の量や、鉄が有効に使われているかを評価するための指標なども調べられ、貧血を引き起こしている原因をさまざまな角度から評価していくのが一般的です。
画像検査
腎臓の状態を調べるための検査です。一般的に、腎性貧血が生じる程度に進行した慢性腎不全は腎臓の萎縮が見られます。このような状態を確認したり、腎臓にがんなどの病気がないことを確認したりするため、超音波検査やCT検査などを実施するケースが一般的です。
腎生検
腎性貧血を引き起こす慢性腎不全の原因や重症度を調べるための検査です。腎性貧血の診断そのものには必ずしも必要ではありませんが、腎性貧血を引き起こす腎臓病の原因や重症度を知り、治療方針を決定するために重要な検査です。
なお腎生検は、入院のうえ行われます。背中から腎臓に針を刺して組織を採取し、その後、あおむけでの安静が必要です。光学顕微鏡、電子顕微鏡、免疫組織化学検査などの詳しい観察が行われます。腎生検は出血などリスクのある検査ですが、治療方針を決めるために必要と考えられる場合には、検査がすすめられます。
治療
一般的に、腎性貧血はヘモグロビン値が10~11g/dL(正常値:男性13.0~16.6g、女性11.4~14.6g)程度に低下した場合は治療を開始することが推奨されています。
治療は基本的に、赤血球造血刺激因子製剤(ESA製剤)の皮下注射が行われます。エリスロポエチンは赤血球の元となる造血幹細胞に刺激を加えることによって赤血球への分化を促します。このESA製剤は、エリスロポエチンが造血幹細胞に刺激を与える部位に作用することで赤血球の産生を促す効果を持つ薬です。このため、この薬を投与することで不足したエリスロポエチンの作用が補われ、貧血を改善へ導くとされています。
近年、低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素(HIF-PH)阻害薬が開発されました。HIF-PH阻害薬は、内服薬であり内因性のエリスロポエチン分泌を刺激します。すでに維持透析患者には保険適用で使用されており、今後は保存期慢性腎臓病患者への保険適用も期待されています。
一方で、腎性貧血を発症している腎不全患者は体内の鉄分が不足しているケースも多いことが知られています。検査で鉄不足が確認された場合は、鉄剤の投与(内服あるいは注射)が行われるなど、それぞれの症状に合わせた治療を併用していくのが一般的です。

投稿者: 大橋医院

2024.10.25更新

新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが5類となった2023年5月~24年4月の1年間で、死者数が計3万2576人に上ったことが24日、厚生労働省の人口動態統計で分かった。季節性インフルエンザの約15倍と格段に多く、大部分を高齢者が占める。政府は重症化リスクの低下を理由に新型コロナの類型を引き下げ、日常生活の制約はほぼなくなったが、今も多くの人が脅威にさらされている。

 現在の感染状況は落ち着いているが、例年冬にかけて感染者が増える傾向にある。東北大の押谷仁(おしたに・ひとし)教授(感染症疫学)は「大勢が亡くなっている事実を認識し、高齢化社会の日本で被害を減らすために何ができるのかを一人一人が考えないといけない」と訴えている。

 人口動態統計のうち、確定数(23年5~12月)と、確定前の概数(24年1~4月)に計上された新型コロナの死者数を集計。その結果、3万2576人となり、65歳以上が約97%だった。同時期のインフルエンザの死者数は2244人。新型コロナは、ウイルスが次々と変異して高い感染力を持つ上、病原性はあまり低下せず、基礎疾患のある高齢者が感染して亡くなっているとみられる。

 男女別では男性1万8168人、女性1万4408人で、男性の方が多い傾向だった。喫煙者や慢性肺疾患の患者が男性に多いことが一因の可能性があるが、詳細は解明されていない。

 新型コロナによる年間死者数は、オミクロン株の流行で感染が急拡大した22年は4万7638人、23年は3万8086人で、高い水準ながらも時間の経過に伴い減少傾向にある。自然感染やワクチン接種で免疫を持つ人が増えた影響という。

 3万2576人を23年の死因別年間死者数に当てはめると、1位がん、2位心疾患などに続き8位だった。

 今年4月1日以降、治療薬や入院費の補助といった患者への公費支援はなくなった。押谷氏は「社会経済を止めずに死者をできるだけ減らすためにも、高齢者へのワクチンや高齢者施設における検査といった有効性が示されている対策の費用は国が負担すべきだ」と指摘した。

 ※新型コロナの5類移行

 政府は2023年5月8日、新型コロナウイルス感染症の重症化リスクが低下したとして、感染症法上の位置付けを「新型インフルエンザ等感染症」から「5類」に引き下げた。法律に基づく入院勧告や外出自粛の要請はなくなった。患者への公費支援も段階的に縮小。今年4月1日以降、治療薬や入院費の補助はなくなり、ワクチンは高齢者らを対象とした原則有料の定期接種となった。マスク着用や換気、手指消毒といった対策は引き続き有効だが、個人の判断に委ねられている。

投稿者: 大橋医院

2024.10.24更新

<インフルエンザ>
概要
インフルエンザとは、インフルエンザウイルスにより引き起こされる急性ウイルス性疾患です。例年、11月頃から徐々に患者が増え始め、1月頃に流行がピークに達し、4月過ぎに収束する傾向があります。
インフルエンザの典型的な症状は、急激な発熱や悪寒戦慄(おかんせんりつ)、のどの痛みなど、急激に出現する上気道症状です。38度以上の高熱が3、4日持続した後、解熱していくという経過を辿ることが一般的です。熱が高くならない場合や長引く場合もあり、経過には個人差があります。
インフルエンザは基本的には自然に治癒をする病気ですので、必ずしも抗インフルエンザ薬が必要になる病気ではありません。しかし、肺炎や脳症を発症するリスクもあるため、風邪とは区別して考えるべき病気といえます。
治療を必要とするかどうかは、重症度や合併症の有無などによって異なります。そのため、医療者には注意深く観察する姿勢が求められます。
原因
インフルエンザウイルスにはA型、B型、C型の3つの型があります。このうち、冬に流行する「季節性インフルエンザ」を引き起こす型は、A型とB型です。
インフルエンザウイルスにはさまざまな種類があるため、一度かかっても同じ年でも、違うインフルエンザウイルスに感染することがあります。インフルエンザには、季節性インフルエンザ以外にも新型インフルエンザなど、世界的な大流行を引き起こしうるものが存在します。
新型インフルエンザとは、季節性インフルエンザと抗原性が大きく異なるインフルエンザで、一般の多くの方が免疫を獲得していないことから、全国的かつ急速なまん延により多くの方の生命および健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるものを指します。
季節性インフルエンザと異なり、ほとんどの方が初めて直面するタイプであるため有効な免疫を持っていません。そのため、世界的な大流行を引き起こし、ウイルスの性質によっては死亡率も高くなる可能性があります。2009年に大流行した新型インフルエンザ(H1N1型)は、日本だけでなく世界中で猛威をふるいました。
症状
インフルエンザは咳や鼻水を介する飛沫感染によって感染し、1〜2日程度の短い潜伏期間の後に発症します。
典型的なインフルエンザは、悪寒戦慄、急激な高熱と共に発症します。同時に、筋肉痛や咳、鼻水などの上気道の症状が現れることもあります。発熱期間は3〜5日ほどであることが多く、38度以上の高熱が持続した後に解熱傾向に向かいます。
一度解熱してから再度発熱する「2峰性発熱(にほうせいはつねつ)」と呼ばれる熱型をとることもあります。2峰性発熱の場合は、インフルエンザの自然経過なのか、肺炎などの合併症による発熱なのか、医療機関で正しく判断を受けることが重要です。新型インフルエンザでは、下痢や嘔吐などの消化器症状が生じることもあります。
また、肺炎や脳症などの合併症にも注意が必要です。インフルエンザウイルスの感染に合併症を発症している場合、以下の症状が現れることがあります。
• 発熱の期間が典型的なインフルエンザの例よりも長くなる
• 咳がひどくなり呼吸が苦しくなる
• 意識状態がおかしく、けいれんを起こす
など
重症の肺炎を発症している場合、呼吸のサポートが必要となることがあります。また、重症度が増した場合には、通常の呼吸管理が難しくなり、ECMO(体外式膜型人工肺)を用いた呼吸管理が必要になることもあります。
検査・診断
インフルエンザの診断には、迅速キットが使用されることがあります。鼻から長細い棒を入れて鼻咽頭から検体を採取したあと、迅速キットを用いてインフルエンザウイルスの有無をチェックします。結果は10〜15分ほどで判明します。
また、インフルエンザの検査時に合併症の有無も検査することがあります。肺炎の有無を確認するためには胸部単純レントゲン写真検査や胸部CT撮影を行います。脳症の有無を確認するためには、脳波検査やMRIなどの検査を行います。
治療
インフルエンザの治療方法は、重症度や患者さんの持病を考慮しながら決定されます。
特に、気管支(きかんしぜんそく)や心臓疾患、腎臓疾患などを抱えている患者さんの場合、インフルエンザが重症化するリスクが高くなります。このような患者さんには、積極的な治療を検討します。
インフルエンザの治療薬には、内服薬、吸入薬、点滴薬があります。早期の段階で使用すると高い効果が期待でき、発症後48時間以内に開始することがよいとされています。しかし、実際には症状や経過をみながら治療方針が決定されます。
治療薬の服用の有無や種類にかかわらず、インフルエンザ発症時には、異常行動などが発生しないよう注意深く観察する必要があるとされています。インフルエンザ治療薬のなかには、小児に対して原則使用してはならないとされていた内服薬もありました。しかし、その後さまざまな議論をふまえ、現在では10代の患者さんも使用することができるようになっています(2021年3月時点)。
また、抗生物質と同じように不適切に抗ウイルス薬を使用することは、薬剤耐性ウイルスを誘導することにもつながりかねません。インフルエンザ治療薬は医師の判断のもとで、指示に従った内服・吸入を行いましょう。
予防
手洗い、うがい、マスクの着用などを心がけましょう。また、ワクチン接種を受けることは重症化を防ぐための方法のひとつです。

 

投稿者: 大橋医院

2024.10.23更新

<RSウィルス感染症>
概要
RSウイルス感染症とは、RSウイルスによって引き起こされる呼吸器の病気です。
RSウイルスはヒトからヒトに感染するウイルスで、感染者の咳やくしゃみを吸い込んだり(飛沫感染)、ウイルスが付着した手指や物品を介したり(接触感染)することで鼻や口から入り込み、上気道から肺に感染します。
感染すると、発熱、鼻水や咳などの上気道症状がみられます。多くは軽症で済みますが、場合によっては肺に向かって感染が広がり、細気管支炎や肺炎を発症することがあります。
RSウイルスはごく一般的なウイルスです。2歳までにほとんどの子どもが初感染するといわれており、大人になっても再感染を繰り返すことがあります。初感染時には症状が重くなりやすく、特に乳児期早期の子どもや、基礎疾患がある子どもなどは重症化しやすいため注意が必要です。
原因
RSウイルスに感染する原因として、“飛沫感染”と“接触感染”が挙げられます。
飛沫感染では感染している人の咳やくしゃみ、会話時に飛び散る飛沫(唾液)が鼻や目から入ることで感染します。接触感染では、ウイルスが付着した手指や物品(手すりやドアノブ、机、椅子、コップなど)を介した間接的な接触によって感染します。
なお、RSウイルスが空気感染(飛沫核感染)*するという報告はありません。
*一部のウイルス・細菌では、飛沫の水分が蒸発した後にウイルスの飛沫核が空気中に長時間漂うことがある。この飛沫核を吸い込むことで感染することを空気感染(または飛沫核感染)という。空気感染する代表的なウイルス・細菌として、麻疹ウイルスや水痘・帯状疱疹ウイルス、結核菌などが挙げられる。
症状
RSウイルスに感染すると、典型的には4~6日の潜伏期間を経て、発熱、鼻水、咳などの症状が現れます。感染が上気道にとどまった場合はこうした上気道症状のみで済みますが、下気道まで感染が広がると咳がひどくなるほか、喘鳴(呼吸時のヒューヒュー・ゼーゼー音)や呼吸困難などの下気道症状がみられ、細気管支炎や肺炎が起こることもあります。
また、RSウイルス感染症は初回感染時に症状が重くなりやすく、初感染の乳児の約3割に下気道症状が現れるといわれています。特に低出生体重児や、心臓・肺・神経・筋肉などの病気がある場合、または免疫不全状態にある場合には重症化しやすくなります。また、生後1か月未満の乳児が感染した場合は無呼吸発作を起こして命に関わる可能性もあるため、このような子どもがいる家庭ではより注意が必要です。
一方、大人では軽いかぜのような症状(発熱・咳・鼻水・喉の痛みなど)のみで経過することがほとんどですが、高齢者では肺炎を起こすケースもみられます。
検査・診断
抗原検出キットを使った検査で診断が可能です。この検査では鼻の粘膜を綿棒で拭ったものを使用し、基本的には10分程度で結果が分かります。ただし、感度は100%ではないため、RSウイルスに感染していても陰性になる場合もあります。
また、保険適用となるのは1歳未満の乳児や入院中の患者、早産児、2歳以下の慢性肺疾患・先天性心疾患・ダウン症候群・免疫不全の子どもに限定されています。
治療
RSウイルス感染症に対する効果的な薬はないため、治療は症状の度合いに応じて症状を和らげる対症療法を行います。
具体的には、栄養や水分を補充するために点滴や胃チューブを用いた経管栄養、痰を出しやすくするために去痰薬の投与などが行われます。
また、呼吸困難によってチアノーゼを起こしている場合は酸素投与を行い、呼吸不全に陥っている重症例では人工呼吸器による治療が行われます。
予防
RSウイルスの感染を防ぐためには、マスクの着用や手洗い、子どもが日常的に触れる物品のこまめな消毒、人混みを避けるなどの基本的な感染予防対策が重要です。
早産児や、2歳以下の慢性肺疾患・先天性心疾患・ダウン症候群・免疫不全の子どもには、予防薬であるパリビズマブという注射薬を投与することができます。
また、近年では一部の成人を対象にRSウイルス感染症のワクチンが2つ承認されています。1つは2023年9月に60歳以上を対象に承認され、2024年1月から接種が可能となりました*。もう一方のワクチンは、2024年1月に妊婦を対象に承認され、さらに同年3月には60歳以上も対象に製造販売が承認されたもので、2024年5月現在、販売に向けた準備が進んでいます**。
*ワクチン接種は保険適用外(2024年5月現在)。

 

投稿者: 大橋医院

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