2024.10.10更新

肺炎は、細菌やウイルスなどの病原微生物が感染して、肺に炎症を起こす病気です。平成26年の厚生労働省の統計によると、わが国における肺炎による死亡数は、悪性新生物、心疾患に続く第3位となっています。このうち市中で起こる肺炎は、一般の社会生活を送っている人、すなわち健康な人あるいは軽度の病気を持っている人に起きる肺炎を指します。
 原因となる微生物は、肺炎球菌が最も多く、次いでインフルエンザ菌、肺炎マイコプラズマ、肺炎クラミドフィラとなっています。肺炎マイコプラズマによる肺炎は、一般に軽症で、若い人に多い傾向はありますが、入院治療を要するほど重症となったり、高齢な人に起きることもあります。
 せき、たん、息切れ、胸の痛み、発熱などの症状をみられます。疲れやすい、発汗、頭痛、吐き気、筋肉の痛み、さらには、お腹の痛みや下痢といった症状がみられることもあります。高齢な人では、肺炎を起しても、このような症状をはっきりと示さないことがあります。
 診察所見、胸部エックス線画像、血液検査で診断します。肺炎と診断した場合には、さらに原因微生物を調べる検査を追加します。鼻やのどの奥をこすりとったり、たんや尿を出してもらい、原因微生物を調べます。
 病原微生物に対する抗菌薬で治療します。軽症であれば、抗菌薬を飲んでもらい、外来への通院で治療します。年齢や呼吸状態などから重症と判断した場合には、入院してもらい、抗菌薬を注射します。普段から栄養の保持に心掛け、よく体を動かし、禁煙に努めることと、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンを接種しておくことが、肺炎予防につながります。

 

投稿者: 大橋医院

2024.10.10更新

中国中南大学のJie Wei氏らは、英国のプライマリ・ケア・データベースを利用して、2型糖尿病と痛風がある患者を対象に、糖尿病治療薬が痛風の再燃に与える影響を調べるコホート研究を行い、SGLT2阻害薬で治療した患者群は、GLP-1受容体作動薬またはDPP4阻害薬で治療した患者群に比べ、痛風の再燃リスクや総死亡率が低かったと報告した。結果は2023年8月25日のJAMA Network Open誌電子版に掲載された。

 現在の痛風診療ガイドラインは、尿酸降下薬を長期間使用して、痛風の再燃予防を推奨している。しかし、高尿酸血症があっても尿酸降下薬を処方されていないなど、最適な治療が実施されているとはいえない状況が報告されている。また、尿酸降下薬を使用している患者のアドヒアランスが低いことも、痛風の再燃につながりやすい。

 2型糖尿病治療薬であるSGLT2阻害薬は、糖尿病患者だけでなく、糖尿病ではない患者においても、主要な心血管有害イベントと総死亡リスクを減らすことが示されている。また、SGLT2阻害薬は血清尿酸値の低下にも関係することが分かっている。しかし、SGLT2阻害薬が、痛風の再燃や痛風患者の死亡リスクを減らすのに役立つかを調べた研究は報告されていなかった。そこで著者らは、痛風と2型糖尿病がある患者を対象に、SGLT2阻害薬と他の糖尿病治療薬(GLP-1受容体作動薬またはDPP4阻害薬)を用いた治療が、痛風再燃と総死亡率に与える影響を比較するコホート研究を計画した。

 

投稿者: 大橋医院

2024.10.09更新

難しい終末期患者の管理
 外科医として中規模公立病院で働いています。これまで、多くのがん患者さんを診てきましたし、終末期の症例も多く経験しました。がんの終末期で困ることの一つと言えば、「末梢静脈路確保ができなくなること」でしょう。元気なときは両上肢にムキムキの皮下静脈があった人でも、がんの終末期になると皮下静脈がほとんど分からなくなってしまうケースが多々あります。

 私が医師になった1990年代末、末梢静脈路確保ができなくなった終末期患者さんには中心静脈を確保していました。しかし、せん妄でせっかく入れたカテーテルを抜かれてしまうこともありました。

 また、終末期の患者さんに「カットダウン法でカテーテルを入れた」ということもありました。何とかして静脈輸液のルートを確保しなければならないと思っていたからです。ほとんど経口摂取ができない患者さんには水分を補給しなければならないと思っていましたし、疼痛が強い方には鎮痛薬の持続投与もしなければなりませんでした。

 数年後、中心静脈ポートが一般的になりました。大腸がん化学療法で48時間持続投与するメニューに必要なため中心静脈ポートが広がったのですが、それに付随して終末期にも広がった、という印象でした。ただ、中心静脈ポート留置術は局所麻酔とはいえ手術であり、弱った患者さんに行うのは気の毒に感じました。

 中心静脈確保や中心静脈ポート留置術は、患者にとっても医師にとってもストレスです。手技そのものに苦痛が伴いますし、合併症も無視できません。

在宅医療にマッチした過去の手技
 そんな中、私の周囲では2010年前後に静かに復活した過去の手技があります。それは皮下輸液です。在宅医療を積極的に行っている先生に教わりました。合併症はなく、手技も簡便で苦痛も少ないこの方法は、病院よりも在宅医療での需要にマッチしたのでしょう。私も中心静脈確保のストレスに辟易していたので、早速病棟でも始め、その有用性に感激しました。

 とはいえ、「輸液と言えば静脈から」と習った世代にとっては抵抗があったことも事実です。他科の医師に皮下輸液を勧めたところ、

 「そんなんええの? ありえへんやろ」

 などと言われたこともありました。

 看護師からも「そんなことをして良いのか」という意見もありました。しかし、折しも皮下輸液が見直され、緩和医療ガイドラインにちょうど掲載された時期でもあり、急速に広まって行きました。

半世紀を経て復活した皮下輸液
 輸液が日本で行われ始めたのは、コレラの流行をみた幕末から明治期でした。いかに脱水を補正するかが問題だったのですが、やはり静脈から水分・電解質を補充することは技術的に難しく、1950年代までは広く皮下輸液が行われていたようです。

 静脈輸液は、滅菌した輸液製剤、滅菌した静脈針、輸液チューブが必要であり、さらにそれを流通させねばなりませんので、一部では行われたものの、一般に普及するには至らなかったのでしょう。

 その後は静脈輸液が一般化して、皮下輸液はまったくと言っていいほど用いられなくなり、ほぼ忘れられた手技となっていました。2010年頃、約半世紀を経ての手技の復活となったわけです。

 過去の医学をひもとくと、現在忘れられているものの実は有用な手技があるのかもしれません。また、私たちが現在行っている手技がいったん忘れられ、そして復活することがあるのかもしれません。

 今行っている方法を絶対視せず、常に医学は変わりゆくものであるという広い視点を持つことは大事だと思います。そして俗物の私は、過去の手技の有用性を見出して現代に復活させることができればカッコいいだろうな、ドヤ顔ができるだろうな、なんて思っているのです。

※参考文献
1)日本医史学雑誌 第 58 巻第 4 号(2012) 437-455 日本における食塩水皮下注入から 静脈内持続点滴注入法の定着までの歩み 岩原 良晴

投稿者: 大橋医院

2024.10.08更新

なぜ、大腸に限局して発現している分泌性の脂質分解酵素が肥満に影響を与えるのか?

 東京大学は9月25日、大腸に発現している脂質代謝酵素であるX型分泌性ホスホリパーゼA2(sPLA2-X)が、腸内細菌叢の調節を介して全身の代謝に影響を及ぼすことを世界に先駆けて解明したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の村上誠教授と佐藤弘泰助教、医薬基盤研究所(NIBIO)の國澤純副所長、慶應大学薬学部の有田誠教授らとの共同研究によるもの。研究成果は、「Cell Reports」オンライン版に掲載されている。

 脂肪を多く含む食事(高脂肪食)を過剰に摂取すると肥満になるが、この時に腸内細菌叢の組成も大きく変化する。腸内細菌叢が悪玉菌優位に変わると大腸に慢性的な炎症が生じ、大腸上皮のバリア機能が乱れる結果、遠隔の臓器(例えば脂肪組織や肝臓)にも慢性炎症が広がり、肥満や2型糖尿病が悪化する原因となる。分泌性のリン脂質分解酵素の一つであるsPLA2-Xは大腸の上皮細胞に高発現しているが、それ以外の臓器にはほとんど発現していない。

 研究グループは、sPLA2-Xの遺伝子を破壊したマウス(sPLA2-X欠損マウス)に高脂肪食を与えると野生型マウスよりも太りやすいことを見出した。しかし、なぜ大腸に限局して発現している分泌性の脂質分解酵素が肥満に影響を与えるのかは不明だった。

sPLA2-Xがオメガ3脂肪酸を遊離して大腸の炎症を防ぎ肥満を抑制

 研究グループがsPLA2-X欠損マウスに高脂肪食を与えると、野生型マウスと比べて肥満が増悪。sPLA2-Xの主要発現部位である大腸では、炎症マーカーの発現が増加していた。sPLA2-Xが大腸の脂質代謝を調節していることを想定し、リピドミクスによってsPLA2-X欠損マウスの大腸の脂質を網羅的に分析したところ、オメガ3脂肪酸が野生型マウスと比べて減少していた。欠損マウスにオメガ3脂肪酸を多く含む餌を与えて飼育すると、太りやすい体質は解消した。

 このことから、sPLA2-Xは大腸のリン脂質を分解し、抗炎症性の脂質として知られるオメガ3脂肪酸を遊離することで大腸の炎症を防ぎ、肥満に対して防御的に働くことがわかった。

sPLA2-X欠損マウスが太りやすくなるメカニズムとプロセスを解明

 sPLA2-X欠損マウスの肥満増悪の表現型は、野生型マウスと欠損マウスを同じケージ内で飼育して腸内容物(糞便)を相互交換した場合や、抗生物質を与えて体内の微生物を一掃した場合には消失した。この結果は、腸内細菌叢の変容が欠損マウスの肥満の表現型の要因となっていることを示唆している。

 そこで、欠損マウスの腸内細菌叢を野生型マウスと比較したところ、クロストリジウム属の一部の細菌が欠損マウスで減少していた。クロストリジウム属の細菌は、食物繊維を代謝して短鎖脂肪酸を産生することが知られている。そのため、糞便および血液中の短鎖脂肪酸を測定したところ、欠損マウスでは野生型マウスと比べて短鎖脂肪酸が減少していた。短鎖脂肪酸には抗炎症作用や代謝改善作用があることから、短鎖脂肪酸を含む飲水を欠損マウスに与えたところ、肥満増悪の表現型は消失した。さらに、オメガ3脂肪酸を与えたマウスの糞便では短鎖脂肪酸が増加していた。

 これらのことから、sPLA2-X欠損マウスが太りやすい理由として「sPLA2-Xは大腸においてリン脂質からオメガ3脂肪酸を遊離する」「オメガ3脂肪酸の作用により、腸内細菌叢の中に善玉菌であるクロストリジウム属が増える」「その結果、クロストリジウム属が産生する短鎖脂肪酸の抗炎症・代謝改善作用により、肥満が抑えられる」というメカニズムが明らかになった。sPLA2-X欠損マウスはこのプロセスが破綻するため、太りやすい体質になる。

sPLA2-X欠損マウスが太りやすくなるメカニズムとプロセスを解明

 本研究は、大腸に発現している脂質代謝酵素sPLA2-Xが、腸内細菌叢の修飾を介して全身の代謝に二次的な影響を及ぼすことを示しており、腸内細菌叢の重要性を再確認するとともに、分泌性ホスホリパーゼA2の動作原理に関する新しい側面を明らかとしたものだ、と研究グループは述べている。

投稿者: 大橋医院

2024.10.08更新

急性痛の原因はほとんどが侵害受容性です。すなわち、外傷や疾患による組織の傷害や炎症によって、プロスタグランジンやブラジキニンなどの発痛物質が発現し、これらが末梢神経にある侵害受容器を刺激することで痛みが起こります。ただし、神経障害性疼痛の要素が多少なりともある場合(帯状疱疹の急性期など)もあります。また、心理社会的因子は、慢性痛のときほど大きな要因となることはまれですが、決して軽視してはいけません。例えば、興奮しているスポーツ選手が捻挫や打撲の痛みをものともせずにプレーを続けることがあるのはよく知られています。

 侵害受容性疼痛に対しては、痛みの原因となっている外傷や疾患の治癒を促進することが最も重要です。そのためにも痛みをできるだけ抑える必要があり、慢性痛とは異なり、神経ブロック療法や薬物療法を積極的に用います。

 神経ブロック療法は慢性痛の治療ではあまり推奨されませんが、急性痛に対しては著効を示します。ただし、1)合併症の治療・予防目的で抗凝固薬や免疫抑制薬を使用しているため神経ブロック療法がそもそも使えない患者さんも多い、2)外来ベースですぐに神経ブロックができる医療機関が少ない、3)持続的な効果を得るのが外来ベースでは困難である(薬剤の単回投与だと鎮痛効果持続時間は最長でも12時間程度となります)──などの理由から、実際にはそれほど利用されていません。

 やはり、急性痛治療の主力は薬物療法です(表1)。


表1 急性痛の対処によく用いられる薬
薬剤名 特徴 注意点
非ステロイド性抗炎症薬
(NSAIDs) 作用機序として、炎症に伴う痛みに著効する。 短期の使用なら問題ないが、長期連用では副作用(消化管障害、腎機能障害など)に要注意。効果時間が短いものもある。天井効果がある。
アセトアミノフェン 作用機序は不明。炎症がなくても有効。NSAIDsなどとの併用が可能(有効)。 十分量が使われていないことが多い。大量使用で肝機能障害を起こしうる。特にアルコール常用者では減量が必要。抗炎症作用は弱い。
トラマドール 弱オピオイド作用およびセロトニン・ノルアドレナリン再吸収阻害作用を持つ。麻薬処方箋が不要。 CYP2D6の活性が原因で人によって効果が異なる場合がある。CYP2D6阻害作用のある薬剤(パロキセチンなど)との併用に注意。投与開始時に嘔気が多い。
強オピオイド 炎症の有無と無関係に強力な鎮痛作用を発揮する。 保険適用上、急性痛にはフェンタニル(術後の静注)とモルヒネしか使えない。使いこなすためには、十分な知識と訓練と経験が必要。
第一選択薬、非ステロイド性抗炎症薬の注意点
 急性痛(≒侵害受容性疼痛)に対する第一選択薬はもちろん非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)です。組織の傷害や炎症によって発現するプロスタグランジンの生合成を抑制することが作用機序ですからドンピシャリです。ただ、気を付けなければならないことがいくつかあります。

1.短期間なら大きな問題になることは少ないですが、長期連用(数カ月以上)によって、消化管障害、腎機能障害、凝固機能障害、心機能障害などの副作用が起こる危険性があります。Cox-2選択性が高いもの(セレコキシブなど)は消化管障害が起こりにくいとされています。ただし(あくまで個人的な感想ですが)、セレコキシブ100mgはロキソプロフェン1錠よりも鎮痛効果が弱いようです。「手術後、外傷後、抜歯後」なら適応があるので、1回200mg(1日400mg)処方したほうが良いでしょう。

2.薬剤によっては鎮痛効果の持続時間が短いものがあります。例えば、ロキソプロフェンの効果持続時間は4-6時間です。従って、1日中続く痛みをカバーするためには長時間作用性のもの(セレコキシブなど)を選択する必要があります。

3.天井効果(鎮痛効果の限界)があるため、複数のNSAIDsを併用してはいけません。鎮痛効果はほとんど変わらないのに、副作用の危険性が増えます。例えば、ロキソプロフェン1錠×3回+屯用としてジクロフェナク座薬などはいけません。

アセトアミノフェンは用量と副作用に注意
 NSAIDsと同じくらい使い勝手の良い薬がアセトアミノフェンです。ただ色々な誤解があってあまりうまく使われていないようです。

1.適正とされていた用法・用量が以前はかなり少なかった(1回量300-500mg、1日最大量1500mg)ので、いまだに少なめに処方する医師が多いようです。現在は1回量最大1000mg、1日最大量4000mgまで処方することができます。従って、通常成人であれば1回量500-600mgは処方すべきです。1回量で200mgや300mgの処方を見ることがありますが、これは小児の用量です。

2.作用機序はいまだによく分かっていないのですが、少なくとも抗炎症作用はほとんどありません。従って、急性痛に対しては特に問題がない限りNSAIDsが第一選択薬となります。

3.日本では以前はNSAIDsに準じた扱いで、副作用や禁忌もNSAIDsに準じて書かれていました。ようやく最近、厚生労働省が改訂を指示し、「重篤な腎障害のある患者」「重篤な心機能不全のある患者」「消化性潰瘍のある患者」「重篤な血液の異常のある患者」および「アスピリン喘息(非ステロイド性消炎鎮痛剤による喘息発作の誘発)またはその既往歴のある患者」の5集団に対する禁忌解除を行いました。アセトアミノフェンは腎機能障害、心機能障害、消化管障害、凝固能異常をほとんど起こしません。その点ではNSAIDsよりも危険性は少ないです。

4.アセトアミノフェンで注意すべき副作用は肝機能障害です。重篤な場合は肝不全を起こし高率で死に至ります。気を付けなければならないのは、一度の大量摂取(24時間以内に合計で150mg/kg以上)、アルコール常用者、極度の栄養障害などです。これはアセトアミノフェンの代謝経路を考えると理解しやすいです(図1)。


図1 アセトアミノフェンの代謝経路


アセトアミノフェンのほとんどは肝臓でグルクロン酸抱合か硫酸抱合されて無毒化されます(1)。抱合されなかった一部は肝酵素のCYP 2E1で代謝され、NAPQIという物質になります(2)。この物質は肝毒性が強いのですが、通常はグルタチオン抱合で無毒化されるため、問題は起こりません(3)。
問題が起こるのは、1)グルクロン酸/硫酸抱合の処理能力を超えるほど一度にアセトアミノフェンを大量摂取した場合、2)グルクロン酸/硫酸抱合が起こるよりも先にCYP 2E1がアセトアミノフェンを分解してNAPQIが大量にできる場合、3)NAPQIを無毒化できるだけのグルタチオンがない場合です。
CYP 2E1はエタノールの主な分解酵素であり、アルコール常用者では酵素誘導されて活性が高くなっています。また極度の栄養障害がある場合には、グルタチオンの体内量が低下している場合があります。
 

5.1と逆ですが、アセトアミノフェンの投与量が多すぎる場合もあります。アルコール常用(ただし、具体的にどれくらいの頻度・量以上が問題となるかはよく分かっていません)を医師が見逃している場合も結構ありますし、アセトアミノフェンは市販の風邪薬を含む他の解熱・鎮痛薬に頻用されています。SG配合顆粒には1包1gあたり250mg、トラマドール・アセトアミノフェン配合錠には1錠あたり325mgが含まれています。

6.以上のことから私は、1回600mg、1日最大4回(2400mg)までを一つの目安として処方しています。

投稿者: 大橋医院

2024.10.07更新

わが国は超高齢化に伴い循環器疾患を有する人も高齢化し、フレイルを有する頻度は多くなっています。そのため循環器疾患とフレイルの関連についても多く検討されるようになっています。今回はフレイルと循環器疾患との関連について、特に多く罹患されている病気について説明します。フレイルと高血圧の関連については、血圧(平均血圧などを含む)は高いとする報告や逆に低いとする報告などがあり、一定の見解はありません。わが国における研究ではフレイルと収縮期血圧、脈圧(収縮期血圧ー拡張期血圧)などは相関し、高血圧の人ではフレイルと頭部MRIにおける白質病変(脳梗塞のリスクとなる)や尿蛋白との関連が強いことが示されています。このことはフレイルは高血圧による臓器障害の進展に影響する可能性があります。フレイルが降圧薬の治療効果にどう影響するかを検証した幾つかの試験では、降圧薬による治療は降圧を強化したほうがしない場合より脳卒中、心血管予防効果においてフレイルの程度にかかわらず強く認められるとされています。

ただしこれらの試験では脳卒中の既往者、認知症、施設入所者などは試験から除外されており、これらの人及び人生の終末期に近い人については、その降圧目標は個別に判断したほうがよいことがわかっています。フレイルと心房細動との関連は高齢者において高率に認められ、また、フレイルを有している人は認知機能が有意に低下していたとの報告があります。心房細動の人は梗塞(特に脳塞栓)を併発するリスクが高く、そのためその予防のために抗凝固薬を服用されている事が多いです。しかしフレイルを合併すると抗凝固治療を控えられる傾向があり、そのため脳塞栓発症リスクは高くなります。一方、心房細動の人において、フレイルは塞栓リスクや出血リスクよりも死亡などの強い規定因子であり、抗凝固治療による脳卒中予防の意義が低くなるという側面も指摘されています。したがってフレイル合併心房細動の人の抗凝固治法については、その益と害を考慮して治療の適応を決めるのがよいとされています。

フレイルと心不全は、併存する疾患、加齢に伴う身体的、精神的な変化、急性ストレスなどを介して双方向に影響し合っており、心不全の増悪や入院を繰り返すことにより不可逆な状態に陥ると考えられています。以前より心不全とフレイルとの関連については多くの報告があります。それらによると心不全の人はフレイルにより救急による医療機関への受診、入院、そして死亡といった予後の悪化に陥ることが多いというものです。すなわちフレイルは予後の悪化因子とされています。

またフレイル合併心不全の人の予後向上にむけた運動や栄養などの効果は確率されておらず、今後の展開が望まれています。心筋梗塞などの急性冠症候群(ACS)とフレイルとの関連では、再梗塞、再入院の増加、死亡と関連していたとの報告が多くみられます。この場合、カテーテルを冠動脈に挿入して梗塞の原因となっている血管の血流を梗塞前の状態に近くもどしても同様だとの報告が認められます。ACS後の人はフレイルの頻度が高く、その短期または長期の予後はよくないのが現状です。

以上、循環器疾患の人におけるフレイルの頻度は、一般の集団者より高く、フレイルがその予後の悪化因子であることを説明しました。今後は高齢の循環器疾患の人の増加は必至であり、フレイルに対する有効な介入・治療法の早期確立が求められるところです。

 

投稿者: 大橋医院

2024.10.06更新

うつ病エピソードを満たす患者に対して、うつ病と診断し治療しても必ずしも全ての患者が寛解に至るわけではない。そのような患者の中には、治療抵抗性うつ病の患者のほかに、発達障害などの併存症の診断治療が適切に行われていない患者や、うつ病ではなく双極症と診断し治療するのが適切な患者もいる。したがって、いくら現在の気分エピソードが抑うつエピソードであっても、双極症の抑うつエピソードの可能性を残しつつ診療を継続するのが良いと考える。

 本論文は、過去にうつ病と診断されたが、現在は双極症I型ないしII型と診断変更となった患者とうつ病患者の背景や特徴を比較検討しているため、気分障害の患者を診療していく上では臨床的に有用な報告だと考えた。

私の見解
 本研究には1463例のうつ病および過去にうつ病と診断されていたが、現在は双極症と診断変更となった患者が包括されている。当初うつ病と診断されていた患者の14.5%が後に双極症に診断変更された(I型4.0%、II型10.5%)。

 うつ病よりも双極症に多い特徴は、男性、再発回数が多い、気分変調症の合併、自殺企図、不眠症の併存の少なさ、興奮、身体症状、性欲低下、体重減少、精神病症状や他の精神疾患の合併、パニック症、広場恐怖症、社交恐怖症、全般不安症、強迫症、摂食障害および反社会性パーソナリティ症であった。双極症I型 vs うつ病、双極症II型 vs うつ病、双極症I型 vs 双極症II型のそれぞれについて有意差があった特徴を表で示す。

 

日常臨床への生かし方
 気分障害患者の診療において、現在のエピソードが(軽)躁病エピソードでない場合には双極症と診断することが難しい場合がある。一般的に双極症患者における(軽)躁病エピソードの期間は全期間に比べて短い(Arch Gen Psychiatry 2002; 59: 530-537、Curr Psychiatry Rep 2003; 5: 417-418)。気分障害の患者に対して初回の面接の後に詳細な2回目の面接をすることで、双極症II型の患者が22%から40%と約2倍も増えたという報告もある(J Affect Disord 1998; 50: 163-173)。井上らは、1)抗うつ薬による躁転、2)混合性の特徴、3)過去1年間のエピソード回数が2回以上、4)大うつ病エピソードの初発年齢が25歳未満、5)自殺企図歴の5つの臨床因子がうつ病と双極症の鑑別に有用だと報告しており、筆者も臨床で非常に参考にしてきた(J Affect Disord 2015: 174: 535-541)。

 本論文では、双極症のI型とII型それぞれについて、うつ病に比べて有意な背景や特徴にどのようなものがあるのかを検討しており参考になる。双極症とうつ病では治療法が異なるばかりか、抗うつ薬による躁転というリスクもあるため、本論文を参考にうつ病患者を診療する場合は、''この患者さんをうつ病として診療しているが双極症らしさを示す因子があるため、これまでに(軽)躁病エピソードがなくても今後双極症に診断変更する可能性があるかもしれない''と思いながら診療することは臨床的に有益だろう。

投稿者: 大橋医院

2024.10.04更新

フォシーガ(5mg)は、SGLT2阻害剤の中で、腎臓保護作用がすぐれている。

抗動脈硬化作用も優れており、脳梗塞、心筋梗塞、腎不全、動脈瘤にはならないし、

人工透析にはなりません。

あなたの糖尿病生活が大変、QOLが高いものになります。

投稿者: 大橋医院

2024.10.03更新

急性骨髄性白血病は、正常なら好中球、好塩基球、好酸球、単球と呼ばれる種類の白血球に成長する細胞ががん化して、短期間のうちに骨髄の正常な細胞を締め出してしまう、生命を脅かす病気です。

疲労感を覚えたり、顔色が青白くなったり、感染や発熱を起こしやすくなったり、あざや出血を起こしやすくなることがあります。

診断には血液検査と骨髄検査が必要です。

治療としては、寛解を得るための化学療法に加え、再発を避けるための追加の化学療法や、ときに造血幹細胞移植を行います。

(白血病の概要も参照のこと。)

急性骨髄性白血病(AML)はどの年齢層でもみられますが、成人の白血病では最も多いタイプです。ときに、別のがんの治療として行われた化学療法や放射線療法が原因でAMLが発生することもあります。

AMLでは、未熟な白血球が急速に骨髄に蓄積して、以下のいずれかの正常な血球に成長する細胞を破壊して締め出します。

赤血球:全身の組織に酸素を運んでいる血球

白血球:体を感染から守っている血球

血小板:血液凝固のプロセスを助けている細胞のような微細な粒子

がん化した白血球は正常な白血球のようには機能しません。そのため、白血球が増加しているように見えても、正常な白血球は減少しているため、感染に対する抵抗力は低下しています。

白血病細胞は血流に乗ってほかの臓器にも運ばれ、そこで成長と分裂を続けます。

AMLにはいくつかの種類(亜型)があり、白血病細胞の特徴を基に識別されます。

急性前骨髄球性白血病は、AMLの重要な亜型の1つです。この亜型では、前骨髄球(成熟した好中球に成長する初期段階の細胞)が染色体変異を起こし、これらの未熟な細胞が蓄積されるようになります。

AMLの症状
AMLの最初の症状は、急性リンパ性白血病のそれとよく似ていて、骨髄で正常な血球が十分に作られないことが原因で生じます。

発熱と大量発汗は感染を示唆している場合があり、 感染は正常な白血球が減りすぎることで起こる場合があります。

脱力、疲労、蒼白は、赤血球が減りすぎること(貧血)で起こる場合があります。呼吸が困難になったり、心拍数が速くなったり、胸に痛みが出たりする場合もあります。

血小板が極端に少なくなるために(血小板減少症)、あざや出血が生じやすくなり、ときには鼻血や歯ぐきからの出血がみられます。一部の患者では、脳や腹部の中で出血が起きることもあります。

白血病細胞は他の臓器に侵入することがあります。白血病細胞が骨髄で増殖すると、骨痛や関節痛を生じることがあります。白血病細胞によって肝臓や脾臓が腫れて大きくなると、腹部膨満感や腹痛が生じることがあります。白血病細胞によって、皮膚の表層付近(皮膚白血病)や歯ぐき、眼の中を含む全身のいたるところで小さなかたまりができることがあります。

皮膚白血病


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AML細胞は、髄膜(脳と脊髄を覆う組織)に広がって白血病性髄膜炎を引き起こすことがあり、その場合は以下の症状がみられます。

頭痛

嘔吐

脳卒中

視覚、聴覚、および顔面筋の障害(白血病性髄膜炎)

急性前骨髄球性白血病と呼ばれるAMLの亜型では、出血や血液凝固の問題がよくみられます。

AMLの診断
血液検査

骨髄検査

AMLの診断も急性リンパ性白血病の診断と同様です。各種の白血球の数の測定などを行う、血算といわれる検査を実施します。ほぼ常に骨髄検査を行って、AMLの診断を確定し、他の種類の白血病と鑑別します。未熟な白血球(芽球)を検査して染色体異常がないか調べますが、その結果は白血病の種類を特定し、治療に用いる薬剤を選定するのに役立ちます。

腫瘍マーカーや電解質異常を含めた血液検査や尿検査も行われ、AMLに関連する異常がほかにないか判定します。

画像検査も必要になる場合があります。脳に白血病細胞が伸展していることを示す症状があれば、CT検査やMRI検査を行います。胸部のCT検査を実施して、肺の周囲に白血病細胞がないか調べることもあります。内臓が腫大していかどうかを判定するため、腹部のCT検査、MRI検査、超音波検査が行われます。化学療法薬は心臓に影響を及ぼすことがあるため、化学療法を開始する前に心エコー検査(心臓の超音波検査)を行うことがあります。

AMLの予後(経過の見通し)
治療をしない場合、大半の患者が診断後数週間から数カ月で死に至ります。治療によって、20~40%の患者が再発せずに5年以上生存できます。強力な治療を行った場合、若い人では40~50%が5年以上生存できます。再発はほぼ必ず最初の治療から5年以内に起こるため、5年を過ぎても白血病が再発しない場合は治癒したと考えられます。

生存期間と最も強く関連する要因は、白血病細胞にみられる遺伝子異常の種類です。65歳以上の場合、血液検査で白血球数が多いなどの特定の結果が出た場合、別のがんのために化学療法と放射線療法を受けた後にAMLを発症した場合、また骨髄異形成症候群が先行して認められている場合は、予後が非常に悪くなります。

急性前骨髄球性白血病は、かつて白血病で最も悪性のものだと考えられていました。現在では、AMLの中で最も治癒の可能性が高い白血病です。急性前骨髄球性白血病の70%以上が治ります。早期診断が極めて重要です。

AMLの治療
化学療法

造血幹細胞移植

AMLの治療では、速やかに寛解を得る(ほぼすべての白血病細胞を破壊する)ことが目標になります。ただし、治療でよくなる前に、健康状態が悪くなることもよくあります。

また、治療によって骨髄の機能が抑制されて白血球(特に好中球)が非常に少なくなります。好中球が少なすぎると、感染を起こしやすくなります。治療により粘膜(口腔内など)も剥がれて、細菌が侵入しやすくなります。感染を予防するために細心の注意を払い、感染した場合は速やかに治療します。赤血球と血小板の輸血も必要になります。

寛解導入化学療法がAML治療の最初の段階です。一般的に使用される化学療法薬には、シタラビンやダウノルビシン(またはイダルビシンやミトキサントロン)などがあります。シタラビンは持続点滴で7日間投与し、ダウノルビシンは静脈内投与を3日間行います。そのほかにも、ミドスタウリンやゲムツズマブ・オゾガマイシン、デシタビン、アザシチジン、ベネトクラクス、グラスデギブ(glasdegib)などが(特に高齢の患者や特定の種類のAMLに)使用されることがあります。

地固め化学療法は、AMLが寛解状態になってから行われます。通常は、白血病細胞ができるだけ多く破壊されるようにするために、初回治療の数週間後からさらに化学療法を数コース追加します。

同種造血幹細胞移植(「同種」とは、ほかの人からの幹細胞であるという意味です)は、再発のリスクが高い一部の人で寛解導入療法と地固め療法の後に行われます。しかし、組織型が適合した(ヒト白血球抗原[HLA]が一致した)人から幹細胞が得られる場合にしか、移植することができません。幹細胞のドナー(提供者)は兄弟姉妹の場合が普通ですが、HLAが適合する他者から提供を受ける場合もあり、ときには、HLAの一部が適合しない家族や他人から提供を受けたり、へその緒に含まれる臍帯血(さいたいけつ)幹細胞を使用したりすることもあります。

急性リンパ性白血病とは異なり、成人での脳に対する予防的治療は、通常必要ありません。また、低用量の長期化学療法(維持療法)によって生存率は向上しないことが示されています。

急性前骨髄球性白血病では、全トランス型レチノイン酸(トレチノイン)と呼ばれる種類のビタミンAで治療することができます。 特に診断時に白血球数が多い場合や白血球が突然増加した場合は、化学療法に全トランス型レチノイン酸が併用される頻度が高くなります。急性骨髄性白血病のうち、この亜型のAMLに限っては三酸化ヒ素も効果的です。

再発
治療による効果がみられない場合や、寛解には至ったものの再発の可能性が高い(一般に、特定の染色体異常が認められている場合)と考えられる若い人では、化学療法薬の大量投与に続けて造血幹細胞移植が行われます。

造血幹細胞移植を実施できない再発患者には追加の化学療法を行いますが、しばしば治療に体が耐えられず、効果も得られにくくなります。若年者の場合および最初の寛解が1年以上続いている場合は、追加の化学療法で高い効果が得られます。再発したAML患者に追加の集中化学療法を行うべきかどうかを判断する際には、多くの要素が考慮されます。

さらなる情報

投稿者: 大橋医院

2024.10.03更新

体外衝撃波治療はrTMSと同様にPI3K-Akt経路を活性化させる
 これまでの連載で、うつ病や発達障害などの近年増加している精神疾患には炎症が関与していること、酸化ストレス除去に中心的な役割を果たすNrf2を活性化すると炎症が抑制されることを解説しました。また前回の連載(第35回)で、うつ病に対する物理学的治療法であるrTMS(repetitive transcranial magnetic stimulation)は、脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor:BDNF)の受容体であるTrkBの下流に存在するPI3K-Akt経路を活性化し、GSK3βの抑制を通じてNrf2を活性化することで抗うつ効果の作用機序の一部となっていることを解説しました。

 では、rTMSという物理学的治療により、抗うつ効果をもたらすことができるのであれば、他の物理学的治療、例えば衝撃波でも同様の効果をもたらすことはできるのでしょうか。

 衝撃波とは、音速を超える物体から生じる圧力の波で音波の一種です。過去には衝撃波は体外衝撃波結石破砕術(Extracorporeal Shock Wave Lithotripsy:ESWL)として胆石や尿路結石の破砕に用いられていましたが、近年は、ESWLの1/10以下のエネルギー量で行われる体外衝撃波治療(Extracorporeal Shock Wave Therapy:ESWT)が主流となっており、またESWTは抗炎症作用を持つことが報告されています1)。日本でも2012年に難治性足底腱膜炎に対するESWTが保険収載されています。

 ESWTは腱炎、偽関節、早期の無腐性大腿骨頭壊死など、主に腱や骨に対する治療法として整形外科領域で使用されています。ESWTの作用機序は、衝撃波により細胞に対して圧力、引張力、せん断力などの物理的影響が加わることでインテグリンやカドヘリンなどの細胞接着分子が影響を受け、その刺激を起点として細胞内でYAP/TAZなどの転写共役因子が活性化され、さまざまな遺伝子の発現が調整される一連の伝達経路、つまりメカノトランスダクションによると考えられています2,3)。細胞に対する物理刺激によってYAP/TAZが活性化されると、cyclic GMP-AMP synthase-stimulator of interferon gene(cGAS-STING)経路が抑制され、STINGが抑制されれば炎症性サイトカインを転写する因子であるNF-κBの核内への移行が阻害されるため、抗炎症作用が発揮されます3,4)。

 ESWTは抗炎症作用だけではなく、血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)やBDNFを増加させることが報告されています5,6)。そのため脊髄損傷などによる末梢の神経細胞に対する再生作用が期待されており7)、実際に脊髄損傷に対するESWTの治験が計画されています8)。ESWTはrTMSと同様にPI3K-Akt経路を活性化することが報告されているため9)、うつ病にも有効かもしれません。

衝撃波を頭蓋内に到達させる技術の開発で脳の局所刺激が可能に
 しかし、脳は頭蓋骨で覆われており、頭蓋外から衝撃波を当て、脳内に刺激が到達するのでしょうか。それについては経頭蓋集束超音波刺激(transcranial focused ultrasound stimulation:tFUS)という装置があり、頭蓋外から脳の深部にあるターゲットとなる脳組織へ集束した超音波を発射し、超音波の熱でそれを凝固させる、パーキンソン病や本態性振戦の治療法があります。衝撃波も超音波と同じく音波の一種なので、超音波が頭蓋骨を通過するならば衝撃波も通過できる可能性があります。

 この問題をスイスのStorz medical社が解決しました。Storz medical社はNeurolithという経頭蓋パルス刺激(transcranial pulse stimulation:TPS)を開発し、頭皮に装置を押し当て脳内へ向けて衝撃波を発射することで、頭皮から計測して8cmまでの深さで脳を刺激できることを示しました。この技術により脳の局所刺激が可能となりました。また、8cmあれば側頭葉内側にある海馬に到達させることもできます。さらには、超音波は多数の振動を伴う連続波で熱を発生させますが、衝撃波は単一の圧力パルスであるため、ほとんど熱を発生させません。2018年12月にStorz medical社は神経疾患の治療のための機器として、Neurolithの欧州連合(EU)のCEマークを取得しました。

 TPSは現在様々な脳疾患への臨床研究がなされていますが、その中で最も研究が進んでいるのはアルツハイマー病です。今回はTPSのアルツハイマー病に対するシステマティックレビューを紹介し、うつ病への展開について解説します10)。

投稿者: 大橋医院

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