2024.12.17更新

<たこつぼ型心筋症>
心筋症は心臓の筋肉の異常により心臓の機能が損なわれる病気です。心臓の筋肉が分厚く(心肥大)なる肥大型心筋症や、左心室が大きくなって(心拡大)心臓の動きが悪くなる拡張型心筋症といった特発性心筋症が代表的です。
たこつぼ型心筋症は1990年に日本で命名された二次性心筋症で、高齢の女性に多く、強い精神的や肉体的ストレスの後に胸痛や動悸(どうき)、呼吸困難、吐き気といった狭心症や心筋梗塞とよく似た症状で発症します。
急性心筋梗塞に似た心電図の波形と心臓超音波検査でこの病気に特徴的な心臓の動きが見られれば、緊急入院の上、集中治療室で厳重な管理と病状に合った治療を受ける必要があります。
診断を確定するには心臓カテーテル検査が必要です。心臓を栄養する冠状動脈には明らかな異常が無いのに、左心室の造影検査で、本来左心室は円錐型をしていますが、たこつぼ型心筋症では先端の心尖部(しんせんぶ)が動かなくなり、逆に手前の心基部(しんきぶ)が過剰に収縮し、心尖部が膨らんだように見えて、収縮時にその名の通り左心室は“たこ漁”で使用される“たこつぼ”の様な形になります。
経過は軽症から重症まで様々で、一般に予後は比較的良好ですが、心不全、不整脈、低血圧、ショックや突然死が起こる事もあり軽視できません。また再発される方もおられますので注意が必要です。
病因の詳細は不明ですが、身内の不幸や激しい口論、運動など突然の強いストレスにより、交感神経が活性化し血液中に大量のカテコラミン(アドレナリン、ノルアドレナリン)が放出されて心臓の筋肉が障害されるため、また中高年女性が多いので女性ホルモンが減少しているためではないかとも考えられています。
近年地震や台風、洪水などの大規模災害時の循環器疾患として、エコノミークラス症候群(肺梗塞症・深部静脈血栓症)、不整脈、狭心症、心筋梗塞、大動脈解離と共に注目され、2004年の新潟県中越地震や2011年の東日本大震災でも被災地で平時より多くの患者さんが発生してしまいました。自然災害に対する恐怖、愛する者との死別、経済的問題、家屋の全壊、避難所生活などによる精神的ストレスが発症の原因になっているようです。予防法はまだ確立されていませんが、避難所での自動血圧計やAED(自動体外式除細動器)の配置と、胸痛がある方への専門医による心電図や超音波検査の施行、プライバシーの確保や、早期からのメンタルヘルスケアの介入が必要と考えられています。

 

投稿者: 大橋医院

2024.12.16更新

<夜間頻尿>
α1受容体遮断薬(前立腺肥大)
薬の効果と作用機序
• 前立腺や尿道のα1受容体を遮断し、前立腺の縮小、尿道の拡張などにより前立腺肥大症に伴う排尿障害を改善する薬
o 前立腺肥大症は前立腺が大きくなって尿道が狭くなり、残尿感や頻尿などの症状があらわれる
o 交感神経に関わるα1受容体は前立腺や尿道などにもあり、α1受容体を阻害すると前立腺が縮小し尿道が広がる
o 本剤はα1遮断作用により、α1受容体を阻害する作用をあらわす
• 本剤の中には、血管を拡張させ血圧を下げることで高血圧治療薬として使用するものもある
詳しい薬理作用
前立腺は尿道を取り囲むように存在しているため、前立腺が肥大することで尿道が狭くなり尿が出にくくなり、残尿感やトイレが近くなる(頻尿)などの症状があらわれる。
交感神経に関わるα1受容体は前立腺や尿道・膀胱にもあり、α1受容体を阻害すると前立腺が縮小し尿道が広がる。
本剤はα1受容体遮断作用によりα1受容体を阻害し、前立線を縮小させ尿道を広げ尿道の抵抗を軽減させることにより、前立線肥大による排尿障害を改善する。また、本剤の中には血管におけるα1受容体に作用する割合が比較的高いものもあり、α1受容体遮断作用により、血管を拡張させ血圧を下げる作用をあらわすことで高血圧治療薬として使用するものもある。
主な副作用や注意点
• 精神神経系症状
o めまい、ふらつき、眠気などがあらわれる場合がある
• 循環器症状
o 起立性低血圧、血圧低下などがあらわれる場合がある
• 肝機能障害
o 頻度は非常に稀である
o 倦怠感、食欲不振、黄疸などのみられ症状が続く場合は放置せず、医師や薬剤師に連絡する
• 高血圧治療薬(降圧剤)との併用に関する注意
o 本剤と併用することで起立性低血圧がおこる可能性があるので注意する。

 

 

投稿者: 大橋医院

2024.12.13更新

<子供の体力低下>
子どもの体力低下の原因は、保護者をはじめとする国民の意識の中で、外遊びやスポーツの重要性を学力の状況と比べ軽視する傾向が進んだことにあると考えられます。また、生活の利便化や生活様式の変化は、日常生活における身体を動かす機会の減少を招いています。
さらに、子どもが運動不足になっている直接的な原因として次の3つをあげることができます。
1. 学校外の学習活動や室内遊び時間の増加による、外遊びやスポーツ活動時間の減少
2. 空き地や生活道路といった子ども達の手軽な遊び場の減少
3. 少子化や、学校外の学習活動などによる仲間の減少
今日の社会においては、屋外で遊んだり、スポーツに親しむ機会を意識して確保していく必要があり、特に保護者の皆様が子どもを取り巻く環境を十分に理解し、積極的に体を動かす機会を作っていく必要があります。
また、「よく食べ、よく動き、よく眠る」(調和の取れた食事、適切な運動、十分な休養・睡眠)という健康3原則をふまえた基本的な生活習慣を身につけることも重要であり、そのためには家庭における保護者の積極的な関わりが不可欠となります。
子どもが体力をつけるメリット
体力低下が心配される現代の子どもたち。何となく「子どもの体力はあったほうがいい」と考えている親御さんもいるかもしれませんが、実際、子どものころから体力をつけておくことには大きなメリットがあるのです。その中でも主なメリットを3つ紹介。親が理解しておけば、子どもへ運動を促すときもしっかりと説明ができますね。
 
強く健康な体になる
体力をつけることは、体の防衛能力を高めることにつながります。心肺機能が高まり、体内でよい循環が生まれます。筋肉がつくと基礎代謝も向上。血糖値をはじめ血圧や血中脂質の安定につながります。体内が整っていれば病気をしにくくなり、ウイルスなどへの抵抗力も向上していくのです。
 精神状態が安定する
体力をつけるためには運動が欠かせませんが、運動と精神の健康には深いつながりがあります。アメリカのプリンストン大学の研究(※)では、「体を動かすことでストレスに強くなる」ということが明らかに。運動をすると交感神経が活発になり、ポジティブな考え方ができるようになるのです。
また、運動によりセロトニンやエンドルフィンといった精神を安定させる効果があるホルモンが分泌されます。適度に体を動かすことで、身体だけではなく精神の強さも得られるといえるでしょう。
集中力が続かず、疲れやすい
運動不足が続くと血流も悪くなり、体だけではなく脳への栄養・酸素供給が滞りがちに。また、運動をすることで交感神経、副交感神経の働きがよくなり、自律神経が整えられるのですが、逆に運動不足だと自律神経が乱れてしまいます。こうしたことから、集中力が続かず、何事においてもすぐ「疲れた」「もういい」とあきらめがちになってしまうのです。
子どもの体力向上には親のサポートも大切
子どもと一緒に外遊びをしたり、外出の際に一緒に歩いたり、親が運動のきっかけづくりをしてあげることも重要です。自分の運動不足解消もかねて、子どもとともに体を動かすことを意識しましょう。
また、バランスの取れた食事や十分な睡眠など、体力をつけるために必要な生活習慣は、親のサポートなしには成り立ちません。子どもの健康な体を作るために、家庭の中でできることから始めましょう。
子どもの睡眠
小児の睡眠不足や睡眠障害が持続すると、肥満や生活習慣病(糖尿病・高血圧)、うつ病などの発症率を高めたり症状を増悪させたりする危険性があります。適切に対処していくには「早起き・早寝」という基本的な生活習慣から見直すことが必要です。


子どもの眠りに黄色信号
子どもは日中に遊び回り、夕食とお風呂が済めば、重たいまぶたをこすりながらあくびをして寝床に入る。私たちの子ども時代にはそれが一般的な姿でした。でも最近では、寝るべき時間に眠らない、眠くても眠れない子どもが増加しています。現代っ子の実に4-5人に1人は、睡眠習慣の乱れや睡眠障害など何らかの睡眠問題を抱えているのです。
幼児の睡眠習慣の問題
日本小児保健協会が1980年・1990年・2000年に行った幼児期の睡眠習慣に関する調査によると、1歳6か月児・2歳児・3歳児・4歳児・5-6歳児のすべてにおいて22時以降に就寝する割合が増加しており、子どもの生活リズムが年々夜型傾向にあることが明らかになりました。最近では夜型化に少し歯止めがかかりつつありますが、遅寝遅起きの子供が数多く見られます。
厚生労働省が行っている21世紀出世児縦断調査では、2001年に出生した4万人以上の子どもの睡眠習慣について追跡調査を実施しています。4歳6ヶ月時点での最も多い就寝時刻は21時台(50.1%)、次いで22時台(21.9%)であり、21時前に就寝する子供は5人に1人以下しかいませんでした。これは親が残業等で帰宅が遅いことも影響しています。お母さんが働いている家庭ではお母さんの労働時間が長いほど22時以降に就床する子どもの割合が多いことがわかっています。今後女性の社会進出はますます進みますが、親のライフスタイルによって子どもの睡眠も大きな影響を受けることは意識しておくべきでしょう。
学童期の子どもたちの睡眠習慣の問題
日本の小・中・高校生は世界的に見ても最も夜更かしをしていることで有名です。いくら夜更かしをしても登校時間は同じですから、睡眠時間は短くなり、朝に起こされてもボーっとしたまま朝食も摂らずに登校し、日中には強い眠気をこらえたまま授業を受けている子どもが数多くいます。眠気のためにもうろうとして授業に集中できず、学習障害や注意欠陥多動性障害などの発達障害と間違われてしまったケースもあります。
夜更かしの子どもは寝不足を週末に解消します。平日に比べて週末に3時間以上遅くまで寝ている子どもは睡眠不足があると考えてよいでしょう。週末に遅くまで寝ていると、その日の夜に眠れなくなり、月曜日の朝を辛い思いをして迎えることになります。
夜更かしは睡眠不足を招きます。睡眠不足の子どもが成長とともに激増していることが分かります。TV・ゲーム・勉強など原因はさまざまですが「なんとなく夜更かししてしまう」子どもが最も多いことが分かっています。このような子どもたちには適切な指導が必要でしょう。
体内時計を乱すもの
不規則な睡眠習慣は生体リズムを乱します。私たちは朝に目覚めて明るい光を浴びてから約14時間後より徐々に眠気を感じるように体内時計(生物時計)がセットされています。生活リズムが不規則な子どもでは、毎日の体内時計の時刻合わせがまちまちであるため、寝つき時刻も目覚め時刻もますます不規則になっていきます。特に週末に寝坊をする子どもは体内時計を整える強い光(太陽光)を浴びる機会も逃してしまい、夜更かし型に拍車がかかります。
夜更かしの子どもは寝不足を週末に解消します。平日に比べて週末に3時間以上遅くまで寝ている子どもは睡眠不足があると考えてよいでしょう。週末に遅くまで寝ていると、その日の夜に眠れなくなり、月曜日の朝を辛い思いをして迎えることになります。
「早寝・早起き」ではなく
「早起きのコツはなんでしょうか?」
このような質問をよく受けます。「早く寝なさい!明日起きられないわよ!」お母さんの小言が聞こえるようですが、この発想を逆転させてください。
「早寝・早起き」ではなく「早起き・早寝」から始めましょう。まず1週間、頑張って早起きをさせましょう。そして歯磨きでもしながらベランダに出て日光を浴びる。それが無理なら窓辺で顔を戸外に向けるのでも結構です(室内方向を見てしまうと体内時計の時刻合わせには不十分です)。
1~2週間ほども続けると子どもたちの体内時計は徐々に朝型に変わり、早起きの辛さは減ってきます。早起きさせた分の睡眠時間は早寝になった分で取り返せるでしょう。早起きから始めることで、太陽と朝食を効果的に使って体内時計の時刻合わせを行うわけです。ただしくれぐれも週末の寝坊には注意してください。お昼近くまで寝坊してしまうと体内時計が一気に遅れ、1週間分の苦労は水の泡になってしまいます。
睡眠障害を見逃さない
子どもでも、生活スタイルや睡眠習慣の改善だけでは対処できないさまざまな睡眠障害がみられます。その代表は睡眠時無呼吸症候群です。小児の2%で睡眠時無呼吸症候群がみられます。重度の場合には日中の集中困難や学習能力の低下がみられますから要注意です。そのほか、睡眠時遊行症(夢遊病)・睡眠時驚愕症(夜驚)・夜尿症・不眠症・概日リズム睡眠障害・ムズムズ脚症候群・アトピー性皮膚炎の痒みによる不眠など、大人と同様にさまざまな睡眠障害がみられます。寝ている途中に呼吸が止まってしまう、眠りの質が悪い、寝入りばなや夜間に身体の異常な動きがある、日中の眠気が強すぎる、このような症状が1か月以上にわたって続くときにはかかりつけの小児科医に相談しましょう。
睡眠と休養は健やかな成長の源
健やかな眠りがあってこそ、活発な日常生活が営めます。子どもの睡眠習慣は大人の生活スタイルを映す鏡です。家族全員で生活習慣を見直し、子どもの快眠を支えてあげてください。
今年は新型コロナウイルスの影響で夏休みが短縮され、すでに授業が始まっている学校もあります。
また、例年以上の猛暑日が続いていますので、学校では熱中症に気を付けながら感染対策を行う必要があります。
文部科学省は「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル~「学校の新しい生活様式」~(2020.8.6 Ver.3)」(https://www.mext.go.jp/a_menu/coronavirus/mext_00029.html)を発表しました。
学校は、換気の悪い密閉空間、多数が集まる密集場所、間近で会話や発声をする密接場面という3つの密が重なる場(3密)で、集団感染のリスクが高い場所に該当します。よって、学校における感染対策は、手洗い、マスクの着用などの基本的対策に加えて、3密を徹底的に避けることが必要です。
今回は、学校生活における3密の回避についてご紹介します。
3密を避けるために
●換気の徹底~「密閉」を避ける~
換気は、窓やドア等の2方向を開けて、30分に1回以上行うことが推奨されています。授業中は必ずしも窓を全開にする必要はありませんが、天候や教室の配置等により換気の程度は異なります。
窓のない部屋を使用する場合は常時入り口を開けたり、換気扇を用いて十分に換気します。また、人の密度が高くならないように注意します。
体育館のように広く天井の高い部屋でも換気は必要です。
エアコン使用時も室内の空気は循環しているだけで、外気の入れ替えは必要なため、換気を行います。
⇒「新型コロナウイルスの消毒・除菌を正しく行うために②」に換気の方法について図で掲載しているのでこちらもご参照ください。

●身体的距離の確保~「密集」を避ける~
「新しい生活様式」では、人との間隔はできるだけ2メートル(最低1メートル)空けることが推奨されています。
教室では人との間隔を十分に確保できるように座席を配置します。やむを得ずできない場合は、換気を十分に行うことやマスクの着用を併用すること等により、対応を行ってください。
なお、新規感染者や感染経路不明者が多い地域では、身体的距離の確保を優先し、分散登校や時差登校などが行われることがあります。

●マスクの着用について~「密接」を避ける~
学校では、身体的距離が確保できないとき時はマスクを着用するべきと考えられています。
近距離で会話や発声が必要なこともあるので、基本的にはマスクを着用することが望ましいとされています。登下校時に公共交通機関を使用する場合もマスクを着用します。ただし、下記のような場面では必ずしも必要ではないと言われています。
【マスクの着用が必ずしも必要ではない場面】
※マスクを外すときは身体的距離を確保し、近距離での会話を控えてください。
①身体的距離が確保できているとき
②熱中症のおそれがあるとき
③体育の授業を行うとき
⇒マスクの正しい使い方や取り扱い方についてはこちらをご参照ください。

学校生活を送る上で場面ごとのポイント

【授業】
音楽の合唱、管楽器の演奏、技術家庭の調理実習、体育で密集したり、組み合って接触する運動は感染リスクが高く注意が必要。
体育の授業では児童・生徒の間隔を十分に確保することが必要ですが、マスクの着用は必ずしも必要ではない。感染状況により、可能な限り屋外で実施することが推奨される。やむを得ず、体育館を使用する場合は、特に呼気が激しくなるような運動を避けることが望ましい。
【部活動】
地域の感染状況により、なるべく個人か少人数で間隔を空けて活動。
密集する運動や接触が多い活動、向かい合って声を発する活動は行わないか、慎重に検討。
運動部は、体育の授業における取り扱いに準じる。
【食事】
食事の前後は手洗いを徹底する。飛沫を飛ばさないように向かい合って食事をしない。
会話は控える。
【休み時間】
トイレは混雑しないように、廊下では私語を慎み滞留しない。
【登下校】
校門などに集まらない。
公共交通機関を利用するときはマスクを着用する。
熱中症のリスクがあるときは、身体的距離を確保してマスクを外す。

 

 

 

投稿者: 大橋医院

2024.12.12更新

メルスモンの筋注。

ビオチン酸、シナール、ハイチオール、ノイロビタン、ツムラ防風通聖散、トラネキサン、

ヘパリン類似物質ローション

投稿者: 大橋医院

2024.11.28更新

CNPの作用は?
CNPは主には血管内皮細胞等で産生・作用する血管作動性ペプチドで、循環ホルモンANP/BNPとは異なり局所因子として、CNP特異的受容体Guanylyl cyclase-Bを介して作用する。 最近、炎症細胞、線維芽細胞に対する役割として抗炎症・抗線維化作用も注目されている。

投稿者: 大橋医院

2024.11.27更新

心不全の薬物治療
薬物治療(薬による治療)は、心不全治療の基本となるものです。心不全の薬物治療の目的は大きく分けて二つあります。第一に、息切れや浮腫みなどの症状を改善すること、第二に、予後の改善、つまり心不全が悪くなって入院することを防ぎ、死亡率も下げ長生きできるようにすることで、それぞれの目的に適した薬を使う必要があります。予後を改選する薬の多くは生活の質(QOL)も改善することが知られています。

第一の目的に最も適した薬は、利尿薬です。心不全になるとレニン・アンジオテンシン、アルドステロンなどのホルモンが多く分泌されて、体に水分とナトリウムが溜まる結果、血液のうっ滞(うっ血)が起こり、息切れやむくみといった症状が現れます。利尿薬は体に溜まった水分やナトリウムを尿に出すことによって、うっ血を改善し、心不全の症状を軽くします。主に使われる利尿薬はループ利尿薬ですが、効果不十分の場合にはトルバプタンなども用いられます。

第二の目的に用いられる薬剤としては、左室の収縮機能の低下が原因で起きる心不全では、①アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、ACE阻害薬が副作用などで使えない場合はアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)、②交感神経の緊張を抑えるベータ(β)遮断薬、③アルドステロン拮抗薬、さらに最近使えるようになった薬剤として④サクビトリル/バルサルタン、⑤SGLT2阻害薬などがあります。これらの治療薬を使っても心不全の悪化を繰り返す場合にはベルイシグアトという薬剤も使われます。また脈が規則正しく(洞調律)かつβ遮断薬などの治療薬を用いても脈が速い場合にはイバブラジンという薬剤も用いられます。これらの薬剤は、大規模臨床試験によって収縮不全の患者さんが心不全が悪化して入院したり死亡することを防ぐ効果があることが証明されています。これらの薬のなかには心不全の症状がなくても、心臓の機能が低下していることが分かった段階から始めたほうがよいものもあります。

一方、左室の収縮機能の保持された心不全については、上記のように明らかに寿命を延ばす効果のある薬は見つかっていませんでしたが、最近になりSGLT2阻害薬がこのタイプの心不全の入院や死亡を防ぐ効果があることが明らかとなりました。心不全の症状をとるためには、左室機能の低下に基づく心不全と同様、利尿薬が有効です。また収縮機能の保持された心不全では高血圧、糖尿病、メタボリックシンドローム、心房細動などを合併していることが多いため、これらの併存症の治療をしっかり行うことも重要です。

心不全の薬物治療の効果を最大限に引き出すためにはまずきちんと薬を服薬していただくことがとても重要ですが、いずれのタイプの心不全においても高齢の患者では、薬をきちんと飲めない方や生活習慣の注意をまもれない方も多くなりますので、薬剤師や看護師が介入したり、家族がこれらについてのサポートをする必要も出てきます。

もう一つ、知っておいていただきたいのが、心不全以外の病気の治療に使われる薬が、心不全を悪化させることがあるということです。たとえば、鎮痛剤や消炎剤は腎臓の機能を落とし、体に水分が溜まりやすくします。そうなると心不全の悪化を助長する可能性がありますので、使用は必要最小限にすべきです。また、不整脈の薬やカルシウム拮抗薬の一部は、心臓の働きを弱め、心不全を悪化させる危険性があるといわれています。漢方薬のなかでは、甘草を含むものは、鎮痛剤・消炎剤と同様の理由で注意が必要です。糖尿病の薬のなかにも心不全を起こりやすくするものがあります。循環器以外の診療科から薬が処方されている場合は、どんな薬を飲んでいるのか、循環器の先生に知っておいてもらう必要があります(図19)。

投稿者: 大橋医院

2024.11.25更新

<腎性貧血>
概要
腎性貧血とは、腎臓で作られる“エリスロポエチン”と呼ばれる物質の産生量が減少することによって引き起こされる貧血のことです。エリスロポエチンは“造血ホルモン”とも呼ばれ、“赤血球”という血液の細胞の産生を促す作用があります。このため、エリスロポエチンが減少すると赤血球の産生量も減少し、貧血を引き起こします。
腎性貧血は、腎機能が低下するほど発症しやすくなります。これは、腎臓の機能が低下すると尿細管や間質に障害が生じ、エリスロポエチンの生産量が減少してしまうためです。慢性的に腎機能が低下する慢性腎不全は、糖尿病腎症や高血圧などの生活習慣病や、慢性糸球体腎炎によって引き起こされることがあります。
慢性腎不全と貧血、そして心疾患は、“心腎貧血症候群”とも呼ばれ、互いに影響し合っています。慢性腎不全にかかっている人は心疾患のリスクが高く(心腎連関)、貧血もまた心臓への負担となり、心疾患のリスクが高まるといわれています。これらによって結果的に心疾患にかかると、今度は腎臓に負担がかかるようになり、腎不全が悪化することで貧血が進行するという悪循環を招きます。そのため、腎性貧血は積極的な治療が望まれる病態のひとつとされています。
原因
腎性貧血は慢性腎不全(腎臓の機能が低下すること)により、“造血ホルモン”と呼ばれるエリスロポエチンの産生量が低下することによって引き起こされます。特に、腎臓の機能が健常人の半分以下になると発症するリスクが高くなることが分かっています。
慢性腎不全の原因として挙げられるのは糖尿病腎症や慢性腎炎、腎硬化症などの病気です。これらの病気では、赤血球の寿命が短くなったり、栄養不足を引き起こしたりしやすくなるため、エリスロポエチンの産生量低下と相まってさらに貧血を発症しやすくなると考えられています。
症状
腎性貧血では、貧血に特有の症状が現れます。貧血とは、全身に酸素を運搬するはたらきを担う赤血球上の“ヘモグロビン”が減少する病気です。このため、貧血を発症すると全身を巡る酸素が減少し、怠さや疲れ、息切れ、めまいなどを引き起こします。また、全身への血流量を増やして酸素不足を補おうとする仕組みがはたらくため、心臓の拍動が速くなり、動悸が生じやすくなります。このため、貧血が続くと心臓に過度な負担がかかり、心不全を発症しやすくなるのも特徴のひとつです。
また、腎性貧血の原因となる慢性腎不全は、尿量減少や血圧上昇などを引き起こすため心臓に負担をかけて心不全を引き起こしやすくなり、一方で心不全は腎臓への血流を低下させるため腎不全を悪化させます。その結果、腎性貧血が悪化し、それがさらに心不全から腎不全を悪化させるといった負のスパイラルに陥りやすくなる“心腎貧血症候群”が近年注目を集めています。
検査・診断
腎性貧血に対しては次のような検査が行われます。
血液検査
貧血の程度や血中エリスロポエチン濃度などを調べるために血液検査が行われます。そのほかにも、体内に蓄えられている鉄の量や、鉄が有効に使われているかを評価するための指標なども調べられ、貧血を引き起こしている原因をさまざまな角度から評価していくのが一般的です。
画像検査
腎臓の状態を調べるための検査です。一般的に、腎性貧血が生じる程度に進行した慢性腎不全は腎臓の萎縮が見られます。このような状態を確認したり、腎臓にがんなどの病気がないことを確認したりするため、超音波検査やCT検査などを実施するケースが一般的です。
腎生検
腎性貧血を引き起こす慢性腎不全の原因や重症度を調べるための検査です。腎性貧血の診断そのものには必ずしも必要ではありませんが、腎性貧血を引き起こす腎臓病の原因や重症度を知り、治療方針を決定するために重要な検査です。
なお腎生検は、入院のうえ行われます。背中から腎臓に針を刺して組織を採取し、その後、あおむけでの安静が必要です。光学顕微鏡、電子顕微鏡、免疫組織化学検査などの詳しい観察が行われます。腎生検は出血などリスクのある検査ですが、治療方針を決めるために必要と考えられる場合には、検査がすすめられます。
治療
一般的に、腎性貧血はヘモグロビン値が10~11g/dL(正常値:男性13.0~16.6g、女性11.4~14.6g)程度に低下した場合は治療を開始することが推奨されています。
治療は基本的に、赤血球造血刺激因子製剤(ESA製剤)の皮下注射が行われます。エリスロポエチンは赤血球の元となる造血幹細胞に刺激を加えることによって赤血球への分化を促します。このESA製剤は、エリスロポエチンが造血幹細胞に刺激を与える部位に作用することで赤血球の産生を促す効果を持つ薬です。このため、この薬を投与することで不足したエリスロポエチンの作用が補われ、貧血を改善へ導くとされています。
近年、低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素(HIF-PH)阻害薬が開発されました。HIF-PH阻害薬は、内服薬であり内因性のエリスロポエチン分泌を刺激します。すでに維持透析患者には保険適用で使用されており、今後は保存期慢性腎臓病患者への保険適用も期待されています。
一方で、腎性貧血を発症している腎不全患者は体内の鉄分が不足しているケースも多いことが知られています。検査で鉄不足が確認された場合は、鉄剤の投与(内服あるいは注射)が行われるなど、それぞれの症状に合わせた治療を併用していくのが一般的です。

 

投稿者: 大橋医院

2024.11.22更新

<夜間、何度も頻尿で起きる>
夜間頻尿とは
夜間、排尿のために1回以上起きなければならない症状を夜間頻尿といいます。加齢とともに頻度が高くなります。夜間頻尿は、日常⽣活において支障度の高い(困る)症状です。
夜間頻尿の原因
夜間頻尿の原因は、大きく分けて1)多尿・夜間多尿、2)膀胱容量の減少、3)睡眠障害に分けられます。これらの3つの原因によって治療法が異なるので夜間頻尿の原因をまずはっきりさせることがとても重要です。
1)多尿・夜間多尿
尿量が多いため夜間頻尿がおきることがあります。特に内科の病気が隠れている場合は、その病気に対する治療が優先されるため、注意が必要です。
1. ①多尿による夜間頻尿
1日24時間の尿量が多くなるために、夜間トイレに何度も起きるものです。1日の尿量が40ml/kg(体重)を超える場合(例えば60kgの体重の人は40ml/kg x 60kg =2,400ml)がこれに当たります。水分の過剰摂取、尿量を増加させる薬剤を内服しているため、糖尿病などの内科の病気によるものがあります。
2. ②夜間多尿
夜間のみ尿量が多くなり、夜間トイレに何度も起きるものです。一つの目安として、65歳以上の方では、24時間の尿量に対する夜間尿量の割合が33%を超える場合は、夜間頻尿と考えられます。寝る前の水分の過剰摂取、薬剤性のもの、ホルモンバランスの乱れ、高血圧や心不全、腎機能障害などの内科の病気によるもの、睡眠時無呼吸症候群(睡眠時に呼吸が一時的に止まる病気で、いびきをかく人によくみられます)があります。
2)膀胱容量の減少
膀胱容量の減少は、少量の尿しか膀胱に貯められなくなるもので、膀胱が過敏になるために起こります。一般的には、昼にも頻尿になることが多いです。
1. ①過活動膀胱
膀胱に尿が少量しか溜まっていないのにも関わらず尿意を感じてしまったり、膀胱が勝手に収縮してしまう病気で、トイレに急いで駆け込む症状(尿意切迫感)があるものです。脳卒中、パーキンソン病などの脳や脊髄(せきずい)の病気で引き起こされる場合もあります。
2. ②前立腺肥大症
男性特有の疾患で、前立腺が大きくなることで排尿がしにくくなり、結果として膀胱が過敏になることがあります。
3. ③その他
間質性膀胱炎や骨盤臓器脱などで夜間頻尿になることがあります。
3)睡眠障害
眠りが浅くてすぐ目が覚めてしまうために、目が覚めるごとに気になってトイレに行くものです。
診断(自分でできるチェック)
以上のように、夜間頻尿の原因は様々ですので、適切な対処をするためには原因を明らかにすることが必要です。夜間の排尿の際に、毎回十分な尿量を排尿する場合(おおよその目安として200-300ml)は多尿もしくは夜間多尿による夜間頻尿、十分な尿量を排尿しない場合(おおよその目安として100ml以下)は膀胱容量の減少による夜間頻尿と考えられます。
排尿習慣を知るために、排尿日誌を用いて、ご自身でも正確にチェックすることが可能です。朝起きてから翌日の朝まで、排尿した時刻とメモリ付コップなどで測定した排尿量を日記のように記録するものです。1回の排尿量(膀胱に溜めることができる膀胱容量)と排尿回数を知ることができ、おおよその原因を知ることができます。図の例では、就寝後から朝までの尿量が多く、1回排尿量は正常なので、夜間多尿が夜間頻尿の原因であることがわかります。

投稿者: 大橋医院

2024.11.20更新

<膀胱炎>
概要
膀胱は尿をためる袋状の臓器で、袋の内面は軟らかい粘膜でできています。膀胱炎は、なんらかの原因によって膀胱に炎症が起きている状態を指します。
一言で膀胱炎といっても、原因によっていくつかの種類に分けられます。一般的に膀胱炎というと急性単純性膀胱炎のことを指しますが、ほかにも複雑性膀胱炎、出血性膀胱炎、間質性膀胱炎、放射性膀胱炎などがあります。今回は膀胱炎の中でもよく見られる急性単純性膀胱炎(以下、膀胱炎)についてまとめます。
膀胱炎は、日本人女性の半分が発症する可能性のある病気として知られています。膀胱炎が女性に多い理由としては、女性のほうが男性よりも尿道が短いこと、尿の出口と肛門(こうもん)や腟(ちつ)の距離が近いことなどが挙げられます。つまり、女性のほうが体の構造上、細菌が膀胱内に入りやすいため膀胱炎を起こしやすいといわれています。男性では炎症は前立腺に起こるため、膀胱に炎症が及ぶのはすでに何らかの病気があるときです。
膀胱炎は、性的活動の活発な世代の女性と高齢女性に多い傾向があります。膀胱炎は繰り返しやすいですが、生活習慣を見直せば予防できる病気でもあります。ただし、何度も膀胱炎を繰り返す場合や治りづらい場合には、ほかの病気が隠れている可能性があるので詳しく調べる必要があります。
原因
膀胱の中に細菌が入り、膀胱の粘膜に炎症が起こることによって膀胱炎を発症します。
ただし、膀胱の中に細菌が入ったからといって、すぐに膀胱炎になるわけではありません。睡眠不足やストレスなどで体の抵抗力が落ちているとき、尿を我慢したときなどに膀胱の中で細菌が増えると炎症が起きて膀胱炎の症状が現れます。女性の場合には、月経前後や性行為後などに膀胱内に細菌が侵入しやすいといわれています。
膀胱炎の原因菌でもっとも多いのは大腸菌です。最近では、抗菌薬に対抗できる耐性菌による膀胱炎も増えています。
症状
膀胱炎で多く見られる症状は頻尿、残尿感、排尿痛です。具体的には、何度もトイレに行きたくなる(頻尿)、排尿してもすっきりした感じがしない(残尿感)、排尿した後に下腹部や陰部が痛い(排尿痛)という症状が突然起きることが多いです。
ほかにも、尿が混濁することや血液が混ざった赤い尿(血尿)を認める場合があります。膀胱炎では通常発熱を伴うことはありません。発熱を伴う場合には、膀胱より上に位置する腎臓まで細菌が侵入し、炎症を起こしている可能性があります。
検査・診断
膀胱炎は、基本的に膀胱炎に伴う症状と尿検査で診断します。
尿検査では、細菌による炎症があることを意味する白血球や細菌の有無を確認します。さらに、尿中の細菌を培養し原因となっている細菌を特定して、どの抗菌薬が効くかどうかも調べます。膀胱炎を繰り返すときは細菌が抗菌薬に効かない耐性菌になっている可能性があります。
治療
膀胱炎の治療は抗菌薬の内服を行います。ただし、最近では抗菌薬に抵抗する力のある菌(耐性菌)が増えてきているので、治療効果の期待できる抗菌薬を的確に選ぶ必要があります。
医療機関で処方された抗菌薬を数回内服すると症状が改善することが多いため、途中で内服をやめてしまう人がいます。途中で内服をやめると症状が再び起きることや耐性菌をつくることがあるので、指示された期間は必ず内服するようにしましょう。
薬以外の治療法としては、十分な量の水分を取ることが大切です。水分を取ることによって、尿と共に膀胱内で増殖した菌を外へ出すことができます。
予防
膀胱炎は繰り返しやすいですが、日常生活を見直すことで予防できる病気です。もし日常生活を見直しても膀胱炎を繰り返す場合には、ほかの病気が隠れている可能性もあるので詳しく検査してもらうようにしましょう。
膀胱炎の予防法には以下のようなものがあります。
• 水分をたくさん取る
十分に水分を取れば、尿と共に細菌を膀胱の外へ出すことができます。普段から水を小まめに飲む習慣をつけるとよいでしょう。
• 体の抵抗力をつける
睡眠不足やストレス、過労などは体の抵抗力を落とし、膀胱炎を起こしやすくするといわれています。
• 陰部を清潔にする
生理前後や性行為後は、膀胱に細菌が入りやすくなるといわれています。おりものシートや生理用ナプキンは小まめに取り換え、性行為後はすぐに排尿しシャワーを浴びるようにしましょう。
• 尿を我慢しない
膀胱内に尿がたまる時間が長いほど細菌が増殖しやすくなります。排尿は我慢しないようにしましょう。
• 前から後ろに拭く
肛門にいる細菌が尿道に入らないように、前から後ろ(尿道から肛門側へ)に拭くようにするとよいでしょう。
• 洋式トイレでは十分開脚して排尿する
欧米人は骨盤が広いため洋式トイレでも大きく開脚しますが、日本人は足を閉じぎみに排尿することがあります。このため、尿道の清潔が十分保たれないことがあります。
膀胱炎を繰り返す場合は大きく開脚して排尿しましょう。

投稿者: 大橋医院

2024.11.18更新

<慢性腎臓病>
概要
腎臓は腰の辺りに位置するソラマメのような形をした150g程度の臓器で、左右に1つずつあります。腎臓は毎日血液をろ過して体の中の不要な水分や老廃物を尿として体の外へ排出しています。腎臓というと尿を作る臓器という印象があるかもしれませんが、尿を作る中で血圧の調整、ナトリウムやカリウム、カルシウムなどのミネラルバランスの維持、酸性とアルカリ性のバランスの調整を行い、さらに赤血球を作るホルモンの分泌、健康な骨のために重要なビタミンDの活性化を行うなど多くの役割があります。
慢性腎臓病(CKD)は、何らかの原因によって腎臓の機能が低下する病気です。慢性腎臓病という名前は聞き慣れないかもしれませんが、20歳以上の8人に1人いると考えられており、新たな国民病といわれることもあります。腎臓のはたらきが健康な人の60%以下に低下する(eGFRが60ml/分/1.73m²未満)か、あるいは尿中にタンパク質が漏れ出るといったなんらかの腎臓の異常が、3か月以上続いた場合に診断されます。
病気の重症度によって症状は異なりますが、腎臓の機能が低下するほど、体に水や老廃物がたまることによる体の不調が起き、ミネラルバランスが保てなくなり、貧血になりやすくなります。腎臓の機能がほとんどなくなると、自分自身の力で尿を作ること、ミネラルなどのバランスをとることができなくなるので、血液透析や腹膜透析、腎移植などの腎代替療法が必要になります。
年をとるほど腎機能は低下するので、高齢になるほど慢性腎臓病の人が増えます。また、腎臓自体の病気に加え、肥満や高血圧、糖尿病、脂質代謝異常、メタボリックシンドローム、、先天性の病気などが慢性腎臓病を引き起こします。慢性腎臓病は、腎臓の機能低下にとどまらず、や脳卒中のような心血管疾患を引き起こす危険因子であることが分かっています。
原因
慢性腎臓病の原因は、多岐にわたります。慢性腎臓病は、加齢や生活習慣と深く関わっており、1つの原因だけでなく複数の原因によって腎機能が低下している場合もあります。慢性腎臓病の原因としては、以下のようなものが考えられます。
• 糖尿病
• 高血圧
• 肥満
• メタボリックシンドローム
• 慢性腎炎症候群・ネフローゼ症候群などの腎臓自体の病気
• 膠原病
• 感染症
• 遺伝性の異常
• 腎臓に悪影響を及ぼす可能性のある薬の服用(解熱鎮痛薬、漢方、抗がん剤など)
• 加齢
症状
慢性腎臓病は、重症度によって症状の出かたが異なります。軽症の場合には、無症状のことがほとんどです。しかし、腎機能の低下が進むと、むくみ、夜間尿(夜間に何度もトイレに行きたくなる症状)、倦怠感(けんたいかん)、食欲の低下、吐き気、手足のしびれなどの症状が出ます。さらに進むと、肺に水が溜まり、息苦しさが出てきます。
検査・診断
慢性腎臓病は、軽度の場合には自覚症状はほとんどないため、検査で見つけることが重要です。実際に、健康診断や人間ドックをきっかけに慢性腎臓病であることが分かる人も多いです。慢性腎臓病の一般的な検査には以下のようなものがあります。
尿検査
腎臓病では、尿の中に血液やタンパク質がもれ出ることがあります。医療機関で検査をすると、もれ出ている血液やタンパク質の量を測定することができます。ただし、発熱や激しい運動、姿勢の変化などで尿検査に異常が出ることもあるので、医療機関で何度か測定して確認することが重要です。
血液検査
腎臓の機能を調べるために、血液中の尿素窒素(BUN)とクレアチニン(Cr)を測定します。慢性腎臓病の重症度を診断するための推算糸球体ろ過量(eGFR)は、年齢、性別、クレアチニンの数値で計算します。eGFRの数値が、60(ml/分/1.73m²)未満の時に慢性腎臓病が疑われます。
画像検査
超音波検査や腹部CT検査などで、腎臓の形や大きさ、腫瘍(しゅよう)や結石の有無などについて調べます。
腎生検
腎機能低下を引き起こしている明確な原因を診断するためには、腎生検がもっとも有効な検査方法です。腎生検では、一般的にうつぶせの状態で背中から腎臓に向かって細い針を刺し、腎臓の組織の一部をとります。採取した腎臓の組織を顕微鏡で詳しくみることで、腎機能低下の原因を探ります。腎生検は入院して行う検査です。
治療
すでに失われた腎臓の機能を取り戻す治療は、現時点ではありません。しかし、腎臓の機能がある程度保たれていれば、症状もなく暮らしていくことができますので、その後の腎機能低下の進行を抑え、現在の腎臓の機能をなるべく維持し長持ちさせることが目標となります。
原因によって、主に行う治療の内容が異なります。たとえば、高血圧や糖尿病といった生活習慣病が原因の場合には、その状態を良くすることがまず大事です。生活習慣病による慢性腎臓病だと言われていなくとも、高血圧や糖尿病などの病気をすでに診断されている場合には、医師と相談し、内服薬による治療などを行うことが検討されます。膠原病や感染症などの全身疾患が原因の場合にも、そのおおもととなる病気に対する治療を行い、病状を落ち着かせることが治療法になります。慢性腎炎症候群(IgA腎症や膜性腎症など)のような腎臓自体の病気が原因の場合には、ステロイドや免疫抑制剤の服用が検討されます。
加えて、原因がどれであっても共通の慢性腎臓病の治療として、規則正しい生活、食事管理、血圧管理などを行います。生活習慣病があると腎機能低下が速く進むことが分かっていますので、体重を適正に保つ、塩分や糖分の過剰摂取を控える、食べ過ぎない、禁煙する、適度な運動をするなどの適切な生活習慣の維持がとても大事です。
慢性腎臓病が進行し、ミネラルなどのバランスが乱れた場合には、それを整えるべく薬の処方を行います。腎臓の機能がほとんどなくなってしまった場合には、腎臓の代わりをしてくれる治療(腎代替療法)として、血液透析、腹膜透析、腎移植のいずれかが行われます。
予防
慢性腎臓病の原因は多岐にわたるので一概にはいえませんが、高血圧や糖尿病、肥満などの生活習慣の乱れに関連する病気は腎臓の機能低下を引き起こすリスクになるだけでなく、腎機能低下の速度も上げることが分かっています。そのため、慢性腎臓病の予防として毎日の生活習慣の見直しをすることは有効です。たとえば、体重を適正に保つ、塩分や糖分の取りすぎを控える、食べ過ぎない、禁煙する、適度な運動をするなどが慢性腎臓病の予防法として挙げられます。腎臓を悪くする可能性のある解熱鎮痛薬や漢方などの飲み過ぎを防ぐことも予防法の1つといえます。
また、慢性腎臓病は進行するまで無症状であり、さらに、進行し失われた腎機能は取り戻すことができないため、定期的に健康診断を受けて腎臓の状態をチェックすることも慢性腎臓病の大事な予防法の1つといえるでしょう。

 

投稿者: 大橋医院

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