2024.09.26更新

治療の目標
これまで慢性骨髄性白血病(CML)の治療は、“白血病細胞をできるだけ減らし、慢性期の状態を長く維持して、移行期や急性転化期へ進行させないこと” を目指して行われていました。しかし、分子標的薬が登場したことで、多くの患者さんが寛解の状態を長期間保つことができるようになりました。その結果、現在の治療の目標は、“白血病細胞を徹底的に減らし、分子標的薬の服用をやめても寛解の状態を保ち続けること“ に変わりつつあります1)。

治療の流れ
患者さんの多くは慢性期の段階で診断され2)、分子標的薬(飲み薬)による治療を開始します1)。

①治療薬の選択
現在のCML治療の中心となっている分子標的薬が、チロシンキナーゼ阻害薬です。“TKI(ティーケイアイ)” という略称で呼ばれることもあります。
TKIにはいくつかの種類があり、それぞれ特徴的な副作用が異なります。そこで、患者さんの年齢、CML以外の病気、服用方法、薬剤費などから、どのTKIを服用するかを相談して決めます1,3)。

②副作用があらわれた場合、十分な効果が得られなかった場合
副作用があらわれた場合は、医師の判断で飲む量を減らしたり1)、一時的に服用をお休みします。
副作用の種類や程度によっては、別の飲み薬(別の種類のTKI、または作用の異なる飲み薬)に変更することもあります4,5)。
また、十分な効果が得られなかったり、薬が効かなくなってきた場合も、別の種類のTKIや、作用の異なる飲み薬への変更が検討されます1)。

③長期にわたって治療効果を維持できた場合
数年間TKIの服用を続け、長期にわたって「深い分子遺伝学的奏効」と呼ばれる治療効果(詳しくは治療効果の判定をご覧ください)を維持できた場合は、医師と相談の上でTKIの服用を中止する場合があります。
ただし、いずれは白血病細胞が再び増えてくることも少なくないため、定期的に医療機関を受診し、検査を受ける必要があります1)。もし白血病細胞が増えてきた場合には、TKIの服用を再開します。

④病気が進行してしまった場合
多くの患者さんは、TKIによる治療で慢性期の状態を維持することができますが、進行してしまった場合には、TKIに化学療法を併用したり、造血幹細胞移植を行う場合があります1)。
※造血幹細胞移植について詳しく知りたい方は、急性骨髄性白血病(AML)のページの解説をご覧ください。

症状もないし、医療費を払うのも大変です。本当に治療しなくてはだめですか?
職場の健康診断などで白血球の増加が見つかって医療機関を受診し、CMLと診断されるケースが多々あります。こうした患者さんの多くは自覚症状がないため、高額で副作用が起こるかもしれない薬を服用することに、抵抗を感じるのもわかります。しかし、治療を受けずにほうっておくと、急性転化し命にかかわる可能性があります3)。その一方で、適切な治療を続ければ、一般成人と同じぐらいの平均寿命が期待できることが明らかになっています6)。
また、自己判断で薬の量を減らしたり服用をやめたりすると、十分な効果が得られないという研究結果もあります7)。副作用が心配な場合や、副作用の症状で困っている場合は、遠慮せずに医師や看護師、薬剤師などの医療スタッフに相談してください。
高額な治療費を補助する制度もあります。詳しくはこちらのページをご覧ください。

治療費と生活の支援制度

【出典】

1) 日本血液学会編:造血器腫瘍診療ガイドライン2023年版.金原出版:100, 106, 119-121, 2023

2) 医療情報科学研究所編:病気がみえるvol.5 血液 第3版 メディックメディア:173, 2023

3) 宮崎仁:もっと知りたい白血病治療 患者・家族・ケアにかかわる人のために 第2版 医学書院:62-63, 79-80, 2019

4) Hochhaus A, et al.: Leukemia 2020; 34: 966-84

5) National Comprehensive Cancer Network: NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology – Chronic Myeloid Leukemia Version 2. 2024 (December 5, 2023):CML-3, 5
https://www.nccn.org/professionals/physician_gls/pdf/cml.pdf(2024/7/26閲覧)

6) Bower H, et al.: J Clin Oncol. 2016; 34: 2851-57.

7) Marin D, et al.: J Clin Oncol. 2010; 28: 2381-88.

【監修】 金沢大学医

投稿者: 大橋医院

2024.09.26更新

二次性心筋症とは、他の疾患や、アルコールなどが原因で起こる心筋症のことを指します。「続発性心筋症」と呼称されることもあります。

発症すると、心筋細胞に異常を来たし、心臓の機能が衰えることから息切れや動悸などの症状が現れます。

二次性心筋症を発症した場合は、心不全症状に対する治療を行いつつ、原因疾患に対しての治療を行います。

原因はさまざまであり、重症度も個々人によって大きく異なります。

原因
二次性心筋症の原因は、以下のようにさまざまなものが挙げられます。

高血圧
弁膜症
先天性心疾患
冠動脈疾患
糖尿病
甲状腺機能低下症
全身性エリテマトーデス(SLE)
アルコール
アミロイドーシス
サルコイドーシス
脚気
放射線治療や薬物などの医療行為
など

 

症状
進行すると、心不全症状として息切れや疲れやすさ、咳や痰、浮腫ふしゅ(むくみ)などの症状が現れます。

横になることで症状が誘発されやすくなることから、夜間就寝中に症状が現れやすいです。また、横になるよりは座っているほうが楽に感じることから、座って時間を過ごすことが多くなる場合もあります。

そのほかにも、原因疾患に関連した症状がみられることがあります。たとえば、甲状腺機能低下症に起因するものであれば、便秘や低体温、皮膚の乾燥などの症状が現れることがあります。

また、自己免疫疾患であれば、貧血や関節の痛み、微熱などの症状が見られることがあります。

検査・診断
二次性心筋症では、心臓の機能を評価するために以下のような検査を行ないます。

胸部単純レントゲン写真(心不全を起こすことから心臓が大きくなり、肺に過剰な水が貯留していることが確認できます。)
心臓超音波検査(心臓の動きをタイムリーに評価できる方法です。)
心電図
血液検査
など

より詳細に心臓の機能を評価するために、心臓MRIと呼ばれる画像検査が行われることもあります。

さらに、原因疾患を特定するための検査も行われます。血液検査によるHbA1cや、甲状腺機能の評価、自己抗体の評価などが行われます。

また、心臓カテーテル検査や、心筋生検といった検査が行われる場合もあります。

投稿者: 大橋医院

2024.09.26更新

ベーチェット病の新たな展開
日本医科大学武蔵小杉病院リウマチ膠原病内科 岳野 光洋
ベーチェット病(B病)は口腔内アフタ性潰瘍,
皮膚病変,眼炎症,外陰部潰瘍を主徴とし,寛
解と増悪を繰り返す炎症性疾患で,腸管,血管,
中枢神経にも重篤な病変をきたし得る.いまだ
病因は不明だが,遺伝素因に環境因子が付加さ
れ,免疫学的機序を介して発症に至ると考えら
れる.遺伝素因として最も重視されるHLA-B51
に加え,GWASに続く詳細な遺伝子解析により,
多数の免疫機能に関連する疾患感受性遺伝子が
同定された.その中にはTLR,NOD2,pyrin
などPAMPs sensorも含まれ,遺伝的解析により
外因(病原微生物)の関与も示された.さらに,
他疾患との感受性遺伝子の類似性に基づき,MHCI-opathy(HLA-B27 関連強直性脊椎炎など含む)
やBehcetʼs spectrum disorder(再発性アフタ性
口内炎,PFAPA症候群)などの新たな疾患群概
念も提唱されている.
B病臨床像を解析すると,本邦患者では皮膚粘
膜主体,皮膚粘膜+関節病変,腸管病変主体,
眼病変主体型,神経病変主体の 5 亜群に分かれ
る.その亜群構成比率を経年的に解析すると,
女性患者比率の増加,HLA-B51 陽性率低下,眼
病変・完全型の減少,腸管型患者の増加などの
B病疫学像の変遷は非常に理解しやすくなる.
また,ヨーロッパリウマチ学会推奨や本邦の
ベーチェット病診療ガイドラインにより,病変
別の治療指針も整備され,病型,重症度に応じ
てコルヒチン,グルココルチコイド(局所・全
身),免疫抑制薬,TNF阻害薬,PDE4 阻害薬な
どが使い分けられている.しかし,その一方,
TNF阻害薬不応例の治療はいまだに課題となっ
ている.
こうした近年の進歩を踏まえ,①MHC-I-opathy
やBehcetʼs spectrum disorderの妥当性の検証に
よる病態解明,②初期の臨床像と臨床亜群特異
的な遺伝背景に基づく重症病型の出現予測,③
疾患活動性あるいは治療効果判定の評価法の開
発と薬効評価,B病版treat-to-target(T2T)の
開発など,今後,期待される展開について概説
する.

投稿者: 大橋医院

2024.09.26更新

厚生労働省は24日、エーザイが開発した筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療薬「メコバラミン(商品名ロゼバラミン)」の製造販売を承認した。症状の進行を抑える効果があるといい、国内のALS治療薬としては約9年ぶり、3例目の承認となる。

 同社によると、徳島大などの研究チームが2017~19年、発症から1年以内に登録された患者約130人を対象に臨床試験(治験)を実施。メコバラミンを投与するグループと偽薬のグループに分け、4カ月後の症状の進行度を比較したところ、メコバラミンを投与したグループで進行が約43%抑制された。7・7%で便秘や発熱などの副作用が見られた。

 ALSは全身の筋肉が徐々に動かせなくなる難病。国内の患者数は約1万人とされる。

投稿者: 大橋医院

2024.09.25更新

<ヒルドイド>
ヒルドイド:目下のクマやシワ、たるみに有効
保湿成分が注目される「ヘパリン類似物質(ヒルドイド、ビーソフテン)」は、目の下のクマやシワ、たるみに効果がある。
ヘパリン類似物質とは、人の体内で生成される「ヘパリン」という糖類に似た成分のことで、ヒルドイドやビーソフテンは、このヘパリン類似物質を主成分とした医薬品の一種です。
ヘパリン類似物質には高い保湿作用・血行促進作用・おだやかな抗炎症作用があり、皮脂欠乏症(皮脂の減少による肌の乾燥)・肌荒れ・しもやけ(凍傷)・ケロイド・アトピー性皮膚炎など、さまざまな皮膚症状に対して効果をもたらします。
保湿効果
ヘパリン類似物質(ヒルドイド・ビーソフテン)には高い親水性と保水力があります。
ヘパリン類似物質(ヒルドイド・ビーソフテン)が肌内部の角質層まで浸透することで、角質層が本来もつ水分保持機能と外的刺激から肌を守るバリア機能を改善し、乾燥肌を根本から改善する効果があります。
血流改善効果
ヘパリン類似物質(ヒルドイド・ビーソフテン)には血液を固まりにくくし、血行を促進する作用があります。
血流を良くすることで内出血の吸収を促したり、肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)・ケロイドといった傷跡の悪化を防ぐ効果も期待できます。
ただし、血友病や血小板減少症などの出血のリスクが高い病気をお持ちの方は、医師や薬剤師に相談するなど十分な注意が必要です。
抗炎症効果
ヘパリン類似物質(ヒルドイド・ビーソフテン)には、炎症を抑える作用があります。
皮膚を正常な状態に戻す作用によって、しもやけ・肌荒れなどの治療に効果が期待できます。
また、筋肉痛や関節痛などを緩和する際にも使用されることがあります。
目の下のクマやシワ、たるみへの効果
目の下のクマへの効果
ヘパリン類似物質(ヒルドイド・ビーソフテン)は目の下のクマに効果が期待できます。
ただし、クマの種類によっては効果が見込めない場合もありますので、自分のクマの種類をしっかり把握することが大切です。

ヒルドイドソフト軟膏 50gr
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投稿者: 大橋医院

2024.09.25更新

薬の効果と作用機序
ビタミンCを補うことで、壊血病などの予防や治療、皮膚炎や皮膚の色素沈着の改善などに使用する薬
ビタミンCは水溶性(水に溶けやすい性質)ビタミンで、コラーゲンの生成などに関わる
コラーゲンは血管や筋肉を正常に保つとともに皮膚や骨などの形成に関わる
ビタミンCはシミなどの原因となるメラニンの色素沈着を抑える作用をもつ
鉄剤と併用することで、鉄の消化管からの吸収を高める目的で使用する場合もある
詳しい薬理作用
ビタミンC(アスコルビン酸)は水溶性(水に溶けやすい性質)ビタミンで、体を構成するタンパク質の約30%を占めるコラーゲンの生成に関わる。コラーゲンは細胞同士をつなぐ働きや骨を丈夫にする働き、血管や筋肉を正常に保つとともに皮膚、骨などの形成に関わるので、ビタミンCはこれらの作用を高める働きをもつ。また、ビタミンCはメラニンの色素沈着を抑える作用などももつ。

ビタミンCが不足すると出血しやすくなる、傷の治りが悪くなる、骨がもろくなる、肌の張りが失われるなどの症状があらわれやすくなる。

本剤はビタミンCを補うことにより、ビタミンC欠乏による壊血病などの予防や治療に用いたり、皮膚炎や皮膚の色素沈着などの改善作用をあらわす。その他、ビタミンCには酸化防止作用があり鉄剤の酸化を防ぎ、消化管からの鉄の吸収を高める目的などで使用される場合もある。

主な副作用や注意点
消化器症状
非常に稀だが、吐き気、下痢などの症状があらわれる場合がある
一般的な商品とその特徴
アスコルビン酸、ハイシー
アスコルビン酸(ビタミンC)製剤
ビタミンCの欠乏が関与すると推測される薬物中毒などに使用する場合もある
シナール
アスコルビン酸(ビタミンC)とパントテン酸カルシウムの配合製剤
鉄剤と併用し、消化管からの鉄の吸収を高める目的で使用される場合もある

投稿者: 大橋医院

2024.09.25更新

今シーズン(2023/24)の世界なインフルエンザの流行は、過去 2 シー
ズンは、はっきりとした二峰性のピークがみられたが、2023/24 シーズン
は、新型コロナウイルス流行前のようなピークがひとつの流行であった。
流行のピークは、これまでは多くの場合 1 月であったが、今シーズンは 12
月にみられ、例年より若干早い流行であった。型・亜型(A 型)・系統(B
型)別では、A/H1pdm09、A/H3 および B 型(ビクトリア系統のみ)それ
ぞれ検出されたが、その割合は国・地域により異なっていた。傾向として、
北半球は A 型の検出が多く(A/H1pdm09 と A/H3 の割合は国・地域によ
り異なっていた)、南半球は B 型の検出が多かった。日本の流行は、冬の
流行が 3 シーズンぶりにみられた 2022/23 シーズンのピーク(2023 年第
6 週)後、全国定点当たり患者報告数は減少したが 1.0 以下になることな
く、そのまま 23/24 シーズンに入った。第 36 週以降報告数は増加し、第
49 週でピーク(定点当たり報告数は 33.7)となり、年末に向かって減少
した。しかし第 1 週以降再び増加し、第 6 週でピーク(定点当たり報告数
は 23.9)となり、それ以降減少した。インフルエンザ分離・検出報告は、
22/23 シーズンでは A/H3 が大多数であったが、23/24 シーズンでは 2023
年中は A/H3 と A/H1pdm が多く報告された(A/H3>A/H1pdm)が、年明
けから B 型(ビクトリア系統のみ)の報告が増えた。国立感染症研究所
(感染研)では、WHO ワクチン推奨株選定会議(2024 年 2 月 19 日~22
日)で議論された流行株の解析成績、令和 5 年度(2023/24 シーズン)ワ
クチン接種後のヒト血清抗体と流行株との反応性およびワクチン製造候
補株の製造効率などを総合的に評価して、令和 6 年度(2024/25 シーズン)
のインフルエンザワクチン製造候補株として、以下を推奨することとした。
A/H1N1 亜型
候補株
及び
推奨順
①A/Victoria/4

投稿者: 大橋医院

2024.09.25更新

2023年11月22日、持続型LDLコレステロール低下siRNA製剤インクリシランナトリウム(商品名レクビオ皮下注300mgシリンジ)が薬価収載と同時に発売された。同薬は、9月25日に製造販売が承認されていた。適応は「次の(1)、(2)のいずれも満たす場合の、家族性高コレステロール血症、高コレステロール血症。(1)心血管イベントの発現リスクが高い、(2)HMG-CoA還元酵素阻害薬で効果不十分、またはHMG-CoA還元酵素阻害薬による治療が適さない」、用法用量は「1回300mgを初回、3カ月後に皮下投与する。以降6カ月に1回の間隔で皮下投与する」となっている。

 家族性高コレステロール血症(FH)は遺伝性疾患で、LDL受容体など原因となる遺伝子の片方だけ変異しているFHヘテロ接合体(HeFH)と、両方が変異しているFHホモ接合体(HoFH)があり、いずれも低年齢の時から血清LDLコレステロール(LDL-C)値が高くなる。また、LDL-C高値と心血管イベント発症には関連が認められており、虚血性心疾患、脳梗塞などを含む動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)予防のためにLDL-Cを管理することが重要とされている。

 現在、LDL-C値低下を目的とした高コレステロール血症の治療には、アトルバスタチンカルシウム(リピトール他)などHMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)の単剤、または作用機序が異なる他の薬剤との合剤、併用療法が基本となっており、多くの患者で有意なLDL-C値低下が認められている。しかし、虚血性心疾患の既往歴を有する患者で、脂質異常を誘因とした心血管イベントの発現リスクが高い場合、またはスタチンの投与が困難な場合には、既存の薬物治療ではLDL-C値の低下が不十分となる症例も多い。

 これに対して、2016年7月よりLDL受容体分解促進蛋白質であるプロ蛋白質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)のLDL受容体への結合を阻害する、ヒト抗PCSK9モノクローナル抗体製剤エボロクマブ(遺伝子組換え)(商品名レパーサ)が臨床使用されるようになり、FHや高コレステロール血症の治療効果を著しく改善してきた。

 インクリシランは、PCSK9蛋白質をコードするmRNAを標的とした低分子干渉リボ核酸(siRNA)製剤で、肝臓に取り込まれた後、肝細胞内でPCSK9 mRNAの分解を促進する。その結果、LDL受容体の発現が増加することによりLDL-Cの取り込みが促進され、血中LDL-C値は低下する。このような、標的mRNAの分解を誘導するsiRNA製剤は、トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーの治療薬として世界で初めて実用化したパチシランナトリウム(オンパットロ)を皮切りに、核酸医薬として注目されている。

 インクリシランはsiRNA製剤であることから、モノクローナル抗体のPCSK9阻害薬エボロクマブとは作用機序が異なり、皮疹、紅斑など注射部位反応によってPCSK9阻害薬の継続投与が困難な場合にも使用できる可能性がある。また、投与間隔が既存のPCSK9阻害薬より長く、持続的なLDL-C低下効果や患者の服薬アドヒアランスの向上が期待できる。

 最大耐用量のスタチンで治療を受けているまたはスタチン不耐である、HoFH患者(ORION-5)やHeFH患者(ORION-9)、ASCVDの既往を有する高コレステロール血症患者(ORION-10)、ASCVDの既往を有するまたはASCVDと同等のリスクを有する高コレステロール血症患者(ORION-11)を対象とした海外第III相試験と、日本人高コレステロール血症(HeFHを含む)患者を対象とした国内第II相試験(ORION-15)において、同薬の有効性および安全性が確認された。海外では、2023年9月現在、欧米など90を超える国または地域で承認されている。

 副作用として、主なものに注射部位反応(疼痛、紅斑、発疹など)(5%以上)、肝機能障害(5%未満)が報告されているので、十分注意する必要がある。

 薬剤使用に際して、下記の事項についても留意しておかなければならない。

●患者選択においては、事前に添付文書の「効能又は効果に関連する注意」の事項を十分把握しておくこと

●HMG-CoA還元酵素阻害薬による治療が適さない場合を除き、HMG-CoA還元酵素阻害薬と併用すること

●「最適使用推進ガイドライン」が厚生労働省より公表されているので、使用前に確認すること

投稿者: 大橋医院

2024.09.25更新

アミロイドーシスとは、アミロイドと呼ばれる線維状の不溶性タンパク質が心臓、腎臓、消化管、脳、神経、皮膚、舌などさまざまな臓器に沈着して機能の異常を引き起こす病気のことです。全身のさまざまな臓器に発症する“全身性アミロイドーシス”と特定の臓器のみに発症する“限局性アミロイドーシス”の2つのタイプがあります。どのようにしてアミロイドが作られるようになるのか明確な発症メカニズムは分かっていませんが、加齢や遺伝、炎症、腫瘍(しゅよう)などが関連する場合があります。
症状はアミロイドが沈着した臓器によって異なり、ほとんど症状がないケースもあれば命の危険が生じるようなケースなどさまざまです。また、徐々に進行していくことが多く、適切な治療を続ける必要があります。
治療法はアミロイドーシスのタイプによってまったく異なりますので、アミロイドーシスのタイプを適切に診断することが非常に重要です。以前は発症した症状を緩和させる対症療法が主体となっていました。しかし、近年ではタイプによっては各種の薬物療法などで予後を改善する治療を行うことも可能です。
原因
アミロイドーシスはアミロイドという異常な線維状の不溶性タンパク質が臓器に沈着するために発症する病気です。アミロイドが体内で産生されるようになる詳しいメカニズムは不明な点が多いです。アミロイドーシスは、いくつかの病気に併発することも知られています。結核などの特定の感染症、関節リウマチ、ベーチェット病などの自己免疫疾患、炎症性腸疾患などの慢性的な炎症性疾患、多発性骨髄腫など腫瘍性疾患、長期間の透析治療を引き金に発症するタイプもあることが知られており、これらの病気や医療行為との関連が指摘されています。また、一部のまれなアミロイドーシスには、血液中のタンパク質を作る遺伝子の異常によってアミロイドが作られるようになることが分かっているタイプもあります。このような場合には、病気が遺伝する可能性があります。
症状
アミロイドーシスを発症すると、初期の頃にはむくみ、倦怠感、息切れ、手足のしびれなどの症状がみられることが多いとされています。病気が進行するとアミロイドが沈着した各種の臓器機能が低下していくため、さまざまな症状が現れるようになります。具体的には、心臓に発症した場合は不整脈や息切れなどの心不全症状を引き起こします。また、消化管に発症した場合は下痢、嘔吐、便秘、イレウスなどの消化器症状、腎臓に発症した場合はネフローゼ症候群や腎不全、神経系に発症した場合はしびれや痛み、麻痺、立ちくらみなどの自律神経症状がみられるようになります。さらに、皮膚などに発症した場合は皮膚が硬くなる・しこりができるといった見た目の変化が現れます。体のさまざまな場所に、アミロイドが腫瘤(しゅりゅう)を作る場合もあります。
検査・診断
アミロイドーシスは発症した臓器の機能低下を引き起こすため、一般的にはそれぞれの臓器の機能や病変の有無を調べるための血液検査、尿検査、画像検査、内視鏡検査などが必要に応じて行われます。
そしてその過程でアミロイドーシスが疑われると、確定診断のために体の一部を採取(生検)し、顕微鏡でアミロイドの沈着があるか否かを詳しく調べる病理検査が必要になります。
また、アミロイドは脂肪組織に沈着しやすい性質があります。その性質を利用して近年、全身性アミロイドーシスに対しては、臍(へそ)の周囲から針を刺して脂肪組織を採取し、特殊な顕微鏡で調べる検査が行われる場合があります。皮膚や消化管から生検が行われる場合も多いです。アミロイドが検出された場合は、アミロイドを作っているタンパク質の種類を調べることで、アミロイドーシスのタイプを診断する必要があります。お近くの病院で詳しく調べることが難しい場合は、専門機関に早く相談することが早期診断に重要です。
治療
アミロイドーシスはタイプにより治療法が異なります。特に予後を改善する各種の新しく効果的な治療はタイプによりまったく異なりますので、適切な早期診断が効果的な早期治療に重要です。また、アミロイドーシスによる各臓器の障害に対しては対症療法が行われます。
予防
アミロイドーシスの発症を予防する方法は解明されていません。
アミロイドーシスを発症した場合はそれぞれの臓器の機能低下による症状に合わせて運動や飲水量、食事の内容に工夫が必要になることもあります。

 

投稿者: 大橋医院

2024.09.24更新

国内でも承認 アルツハイマー病の新薬「レカネマブ」を徹底解説
2023.02.25 更新日2023.10.18 取材/中寺暁子

専門医に聞く、レカネマブとは? アルツハイマー病新薬について
アルツハイマー病の新薬「レカネマブ」が2023年9月25日、日本で承認されました。2021年6月に米食品医薬品局(FDA)で承認された「アデュカヌマブ」と同様、バイオジェン(米国)とエーザイ株式会社(日本)が共同開発した新薬です。認知症の原因物質に作用し、早期アルツハイマー病の進行を抑えることが期待される初めての治療薬となります。脳神経筋センターよしみず病院の川井元晴医師に解説していただきます。

レカネマブについて解説してくれたのは……
川井元晴医師
川井元晴(かわい・もとはる)
脳神経筋センターよしみず病院 副院長
1990年山口大学医学部医学科卒業、1996年同大医学部大学院卒業。同大医学部附属病院脳神経内科もの忘れ外来担当医、同大医学部神経・筋難病治療学講座教授を経て、2022年から現職。認知症の人と家族の会理事、同会山口県支部代表世話人も務める。
レカネマブとは
バイオジェン(米国)とエーザイ株式会社(日本)が共同開発した、アルツハイマー病の新しい治療薬です。アルツハイマー病発症のきっかけとなる、脳内のアミロイドβを減らす作用が認められ、早期アルツハイマー病の進行を抑えることが期待されています。

レカネマブが作用する仕組み 神経細胞 脳内に蓄積したアミロイドβ レカネマブ投与 くっついて除去
従来薬やアデュカヌマブとの違い
日本では現在、4つの認知症治療薬が使用できます。また、日本では承認されていませんが、米国ではレカネマブより先にアルツハイマー病の治療薬「アデュカヌマブ」が承認されています。レカネマブの作用や従来の薬、アデュカヌマブとの違いについて説明します。

どのような作用があるのか
認知症の原因疾患はさまざまですが、最も多いアルツハイマー病は、「アミロイドβ」というたんぱく質が何らかの原因で脳の神経細胞の外側に蓄積することがきっかけになるとみられています。蓄積したアミロイドβがかたまりとなると、今度は神経細胞の中に「タウたんぱく」が蓄積します。すると、神経細胞が減少し、認知機能が低下すると考えられています。

レカネマブは「抗アミロイドβ抗体」と呼ばれる薬で、抗体の働きで脳内に存在するアミロイドβに結合して減らす作用を持っています。特に蓄積したアミロイドβがかたまりになる前段階のアミロイドβ(プロトフィブリル)を除去することがわかっています。

従来の薬(アリセプトなど)との違い
日本で承認されている認知症の治療薬は、ドネペジル(先発品の商品名アリセプト)、ガランタミン(同レミニール)、リバスチグミン(同イクセロンパッチ、リバスタッチパッチ)、メマンチン(同メマリー)の4種類があります。いずれも残っている神経細胞ができるだけ長く働くようにすることで、認知症の症状を一時的に軽くする効果を期待できます。しかし進行を抑えることはできません。


一方、レカネマブはアルツハイマー病発症のきっかけとなる脳内のアミロイドβを減らす作用が認められているため、アルツハイマー病の進行を抑えることが期待できるのです。

※薬についてもっと詳しく知りたい方は、こちらも
「認知症4大タイプの症状と特徴 薬物療法を徹底解説 気になる新薬も」

アデュカヌマブとの違い
アデュカヌマブもレカネマブも「抗アミロイドβ抗体」と呼ばれる薬で、脳内のアミロイドβに結合して減らす作用があります。アミロイドβはかたまりを作る過程で、数や形態が変わっていきますが、そのうちどのアミロイドβに結合するかという点が、アデュカヌマブとレカネマブでは異なります。その違いが治療効果の差にも表れていると考えられています。

日本を含めたアジア、北米、欧州各地の235施設でおこなわれた「第三相臨床試験」(治験の最終段階)では、脳内にアミロイドβの蓄積が確認されたMCI(軽度認知障害)と軽度アルツハイマー型認知症の1795人を対象に、レカネマブを投与するグループと偽薬を投与するグループに分けて治療効果を検証しました。2週間に1回投与し、18カ月後の認知機能の変化を比べたところ、レカネマブを投与したグループは偽薬のグループに比べて27%、症状の悪化を抑制できたのです。

アデュカヌマブは、2つの臨床試験のうち、1つの治験では認知機能の低下を抑制できましたが、もう1つの治験では効果が認められないまま米国で迅速承認されたという経緯があります。

一方レカネマブの臨床試験は、統計学的に明らかな治療効果が得られたといえます。

※アデュカヌマブについてもっと詳しく知りたい方は、こちらも
「アルツハイマー病の新薬「アデュカヌマブ」を徹底解説 効果や薬の値段は?」

誰に使える薬なのか
MCIもしくは軽度アルツハイマー型認知症で、さらにアミロイドPET検査や脳脊髄液検査によりアミロイドβの蓄積が認められた人が対象になります。

中等度以上に進行したアルツハイマー病の人には、効果が確認されていません。また、MCIや軽度認知症であってもアミロイドβの蓄積が認められない人は対象外です。

臨床試験の対象は65歳~80歳くらいの人が多く、それより若い人、もしくは高齢の人はデータが多くありません。特に高齢者には慎重に投与する必要があります。

また、治験では抗凝固薬など出血傾向のある薬を使用している人、さらにMRI検査で脳内に出血性の病変が見つかった人は副作用のリスクが考慮され、対象から外しています。レカネマブが承認された際には、こうしたことも留意する必要があります。

アミロイドPET検査を受けるひと
投薬はどのように行われるのか
2週間に1回、点滴投与します。点滴にかかる時間は、1時間程度です。認知症と診断された人は、一般的に2~3カ月に1回程度通院しますが、レカネマブを使用する場合は通院頻度が高くなります。レカネマブが承認された場合、通院しやすい場所にレカネマブを使用した治療ができる病院があるかどうかということも、治療を受ける条件の一つとなるでしょう。

臨床試験では18カ月にわたり投薬していますが、どのような状態になったら投薬をやめるのかなど、治療期間については、現時点では定まっていません。

副作用について
アデュカヌマブと同様に、副作用として脳の浮腫や出血があります。臨床試験では、12.6%の人に脳浮腫、17.3%の人に脳内出血が確認されましたが、多くの人は自覚症状がありませんでした。このため、レカネマブを使用できるようになった場合は、定期的にMR検査を受ける必要があり、浮腫や出血が認められれば、投薬を休止、もしくは中止します。

また、レカネマブは抗体製剤のため、特に初回の点滴後には、重いアレルギー症状「アナフィラキシー」や発熱、寒気などの症状が出ることもあります。

米国での承認プロセスについて
FDAは、2023年1月6日にレカネマブを迅速承認しました。迅速承認とは、重篤な病気の薬を早く実用化するための制度で、レカネマブは治験の中間段階の結果をもとに迅速承認されました。

日本での状況
日本では2023年1月16日に厚生労働省に承認申請がおこなわれました。

また、レカネマブは、重篤な疾病で医療上の有用性が高いと認められた新薬に与えられる「優先審査品目」に指定されました。治験の結果については、アデュカヌマブのように専門家からの疑義が上がっていないため、承認に向けて期待が高まっていました。

そして、厚生労働省の専門部会は同年8月21日、国内での製造販売を了承しました。近く正式に承認される見込みです。

薬価はどれくらいになるのか
米国での薬価は、日本円に換算すると1人あたり年間約2万6500ドル(約340万円)です。アデュカヌマブと比べるとかなり抑えられていますが、アルツハイマー病は患者数が多い疾患であることを考えると、保険適用の範囲などが課題となります。

保険適用となるのか
厚労省に承認されれば、基本的には公的医療保険が適用されます。レカネマブを使用するには、アミロイドPET検査や脳脊髄液検査によって、アミロイドβの蓄積を確認する必要があります。レカネマブの承認にあたっては、こうした検査も一緒に承認されることが望まれます。

レカネマブはたとえ保険適用になったとしても、認知症の人すべてが使用できるわけではありません。条件に当てはまるかどうかを正しく診断し、フォローアップできる施設での治療が必要です。

アルツハイマー型認知症とは
認知症は、さまざまな原因疾患によって発症しますが、約6割を占めるのがアルツハイマー病によるものです。アルツハイマー病を原因疾患とする認知症は「アルツハイマー型認知症」と呼ばれます。もの忘れから症状が出ることが多く、ゆっくり進行していくのが特徴です。

根本的な原因は明らかになっていませんが、脳内にアミロイドβというたんぱく質が蓄積することが、発症のきっかけになると考えられています。現在使用できる治療薬は、進行のスピードを遅らせることしかできないため、アミロイドβを除去して進行を抑える可能性がある新薬に注目が集まっています。

 

 

投稿者: 大橋医院

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