2024.10.25更新

新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが5類となった2023年5月~24年4月の1年間で、死者数が計3万2576人に上ったことが24日、厚生労働省の人口動態統計で分かった。季節性インフルエンザの約15倍と格段に多く、大部分を高齢者が占める。政府は重症化リスクの低下を理由に新型コロナの類型を引き下げ、日常生活の制約はほぼなくなったが、今も多くの人が脅威にさらされている。

 現在の感染状況は落ち着いているが、例年冬にかけて感染者が増える傾向にある。東北大の押谷仁(おしたに・ひとし)教授(感染症疫学)は「大勢が亡くなっている事実を認識し、高齢化社会の日本で被害を減らすために何ができるのかを一人一人が考えないといけない」と訴えている。

 人口動態統計のうち、確定数(23年5~12月)と、確定前の概数(24年1~4月)に計上された新型コロナの死者数を集計。その結果、3万2576人となり、65歳以上が約97%だった。同時期のインフルエンザの死者数は2244人。新型コロナは、ウイルスが次々と変異して高い感染力を持つ上、病原性はあまり低下せず、基礎疾患のある高齢者が感染して亡くなっているとみられる。

 男女別では男性1万8168人、女性1万4408人で、男性の方が多い傾向だった。喫煙者や慢性肺疾患の患者が男性に多いことが一因の可能性があるが、詳細は解明されていない。

 新型コロナによる年間死者数は、オミクロン株の流行で感染が急拡大した22年は4万7638人、23年は3万8086人で、高い水準ながらも時間の経過に伴い減少傾向にある。自然感染やワクチン接種で免疫を持つ人が増えた影響という。

 3万2576人を23年の死因別年間死者数に当てはめると、1位がん、2位心疾患などに続き8位だった。

 今年4月1日以降、治療薬や入院費の補助といった患者への公費支援はなくなった。押谷氏は「社会経済を止めずに死者をできるだけ減らすためにも、高齢者へのワクチンや高齢者施設における検査といった有効性が示されている対策の費用は国が負担すべきだ」と指摘した。

 ※新型コロナの5類移行

 政府は2023年5月8日、新型コロナウイルス感染症の重症化リスクが低下したとして、感染症法上の位置付けを「新型インフルエンザ等感染症」から「5類」に引き下げた。法律に基づく入院勧告や外出自粛の要請はなくなった。患者への公費支援も段階的に縮小。今年4月1日以降、治療薬や入院費の補助はなくなり、ワクチンは高齢者らを対象とした原則有料の定期接種となった。マスク着用や換気、手指消毒といった対策は引き続き有効だが、個人の判断に委ねられている。

投稿者: 大橋医院

2024.10.24更新

<インフルエンザ>
概要
インフルエンザとは、インフルエンザウイルスにより引き起こされる急性ウイルス性疾患です。例年、11月頃から徐々に患者が増え始め、1月頃に流行がピークに達し、4月過ぎに収束する傾向があります。
インフルエンザの典型的な症状は、急激な発熱や悪寒戦慄(おかんせんりつ)、のどの痛みなど、急激に出現する上気道症状です。38度以上の高熱が3、4日持続した後、解熱していくという経過を辿ることが一般的です。熱が高くならない場合や長引く場合もあり、経過には個人差があります。
インフルエンザは基本的には自然に治癒をする病気ですので、必ずしも抗インフルエンザ薬が必要になる病気ではありません。しかし、肺炎や脳症を発症するリスクもあるため、風邪とは区別して考えるべき病気といえます。
治療を必要とするかどうかは、重症度や合併症の有無などによって異なります。そのため、医療者には注意深く観察する姿勢が求められます。
原因
インフルエンザウイルスにはA型、B型、C型の3つの型があります。このうち、冬に流行する「季節性インフルエンザ」を引き起こす型は、A型とB型です。
インフルエンザウイルスにはさまざまな種類があるため、一度かかっても同じ年でも、違うインフルエンザウイルスに感染することがあります。インフルエンザには、季節性インフルエンザ以外にも新型インフルエンザなど、世界的な大流行を引き起こしうるものが存在します。
新型インフルエンザとは、季節性インフルエンザと抗原性が大きく異なるインフルエンザで、一般の多くの方が免疫を獲得していないことから、全国的かつ急速なまん延により多くの方の生命および健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるものを指します。
季節性インフルエンザと異なり、ほとんどの方が初めて直面するタイプであるため有効な免疫を持っていません。そのため、世界的な大流行を引き起こし、ウイルスの性質によっては死亡率も高くなる可能性があります。2009年に大流行した新型インフルエンザ(H1N1型)は、日本だけでなく世界中で猛威をふるいました。
症状
インフルエンザは咳や鼻水を介する飛沫感染によって感染し、1〜2日程度の短い潜伏期間の後に発症します。
典型的なインフルエンザは、悪寒戦慄、急激な高熱と共に発症します。同時に、筋肉痛や咳、鼻水などの上気道の症状が現れることもあります。発熱期間は3〜5日ほどであることが多く、38度以上の高熱が持続した後に解熱傾向に向かいます。
一度解熱してから再度発熱する「2峰性発熱(にほうせいはつねつ)」と呼ばれる熱型をとることもあります。2峰性発熱の場合は、インフルエンザの自然経過なのか、肺炎などの合併症による発熱なのか、医療機関で正しく判断を受けることが重要です。新型インフルエンザでは、下痢や嘔吐などの消化器症状が生じることもあります。
また、肺炎や脳症などの合併症にも注意が必要です。インフルエンザウイルスの感染に合併症を発症している場合、以下の症状が現れることがあります。
• 発熱の期間が典型的なインフルエンザの例よりも長くなる
• 咳がひどくなり呼吸が苦しくなる
• 意識状態がおかしく、けいれんを起こす
など
重症の肺炎を発症している場合、呼吸のサポートが必要となることがあります。また、重症度が増した場合には、通常の呼吸管理が難しくなり、ECMO(体外式膜型人工肺)を用いた呼吸管理が必要になることもあります。
検査・診断
インフルエンザの診断には、迅速キットが使用されることがあります。鼻から長細い棒を入れて鼻咽頭から検体を採取したあと、迅速キットを用いてインフルエンザウイルスの有無をチェックします。結果は10〜15分ほどで判明します。
また、インフルエンザの検査時に合併症の有無も検査することがあります。肺炎の有無を確認するためには胸部単純レントゲン写真検査や胸部CT撮影を行います。脳症の有無を確認するためには、脳波検査やMRIなどの検査を行います。
治療
インフルエンザの治療方法は、重症度や患者さんの持病を考慮しながら決定されます。
特に、気管支(きかんしぜんそく)や心臓疾患、腎臓疾患などを抱えている患者さんの場合、インフルエンザが重症化するリスクが高くなります。このような患者さんには、積極的な治療を検討します。
インフルエンザの治療薬には、内服薬、吸入薬、点滴薬があります。早期の段階で使用すると高い効果が期待でき、発症後48時間以内に開始することがよいとされています。しかし、実際には症状や経過をみながら治療方針が決定されます。
治療薬の服用の有無や種類にかかわらず、インフルエンザ発症時には、異常行動などが発生しないよう注意深く観察する必要があるとされています。インフルエンザ治療薬のなかには、小児に対して原則使用してはならないとされていた内服薬もありました。しかし、その後さまざまな議論をふまえ、現在では10代の患者さんも使用することができるようになっています(2021年3月時点)。
また、抗生物質と同じように不適切に抗ウイルス薬を使用することは、薬剤耐性ウイルスを誘導することにもつながりかねません。インフルエンザ治療薬は医師の判断のもとで、指示に従った内服・吸入を行いましょう。
予防
手洗い、うがい、マスクの着用などを心がけましょう。また、ワクチン接種を受けることは重症化を防ぐための方法のひとつです。

 

投稿者: 大橋医院

2024.10.23更新

<RSウィルス感染症>
概要
RSウイルス感染症とは、RSウイルスによって引き起こされる呼吸器の病気です。
RSウイルスはヒトからヒトに感染するウイルスで、感染者の咳やくしゃみを吸い込んだり(飛沫感染)、ウイルスが付着した手指や物品を介したり(接触感染)することで鼻や口から入り込み、上気道から肺に感染します。
感染すると、発熱、鼻水や咳などの上気道症状がみられます。多くは軽症で済みますが、場合によっては肺に向かって感染が広がり、細気管支炎や肺炎を発症することがあります。
RSウイルスはごく一般的なウイルスです。2歳までにほとんどの子どもが初感染するといわれており、大人になっても再感染を繰り返すことがあります。初感染時には症状が重くなりやすく、特に乳児期早期の子どもや、基礎疾患がある子どもなどは重症化しやすいため注意が必要です。
原因
RSウイルスに感染する原因として、“飛沫感染”と“接触感染”が挙げられます。
飛沫感染では感染している人の咳やくしゃみ、会話時に飛び散る飛沫(唾液)が鼻や目から入ることで感染します。接触感染では、ウイルスが付着した手指や物品(手すりやドアノブ、机、椅子、コップなど)を介した間接的な接触によって感染します。
なお、RSウイルスが空気感染(飛沫核感染)*するという報告はありません。
*一部のウイルス・細菌では、飛沫の水分が蒸発した後にウイルスの飛沫核が空気中に長時間漂うことがある。この飛沫核を吸い込むことで感染することを空気感染(または飛沫核感染)という。空気感染する代表的なウイルス・細菌として、麻疹ウイルスや水痘・帯状疱疹ウイルス、結核菌などが挙げられる。
症状
RSウイルスに感染すると、典型的には4~6日の潜伏期間を経て、発熱、鼻水、咳などの症状が現れます。感染が上気道にとどまった場合はこうした上気道症状のみで済みますが、下気道まで感染が広がると咳がひどくなるほか、喘鳴(呼吸時のヒューヒュー・ゼーゼー音)や呼吸困難などの下気道症状がみられ、細気管支炎や肺炎が起こることもあります。
また、RSウイルス感染症は初回感染時に症状が重くなりやすく、初感染の乳児の約3割に下気道症状が現れるといわれています。特に低出生体重児や、心臓・肺・神経・筋肉などの病気がある場合、または免疫不全状態にある場合には重症化しやすくなります。また、生後1か月未満の乳児が感染した場合は無呼吸発作を起こして命に関わる可能性もあるため、このような子どもがいる家庭ではより注意が必要です。
一方、大人では軽いかぜのような症状(発熱・咳・鼻水・喉の痛みなど)のみで経過することがほとんどですが、高齢者では肺炎を起こすケースもみられます。
検査・診断
抗原検出キットを使った検査で診断が可能です。この検査では鼻の粘膜を綿棒で拭ったものを使用し、基本的には10分程度で結果が分かります。ただし、感度は100%ではないため、RSウイルスに感染していても陰性になる場合もあります。
また、保険適用となるのは1歳未満の乳児や入院中の患者、早産児、2歳以下の慢性肺疾患・先天性心疾患・ダウン症候群・免疫不全の子どもに限定されています。
治療
RSウイルス感染症に対する効果的な薬はないため、治療は症状の度合いに応じて症状を和らげる対症療法を行います。
具体的には、栄養や水分を補充するために点滴や胃チューブを用いた経管栄養、痰を出しやすくするために去痰薬の投与などが行われます。
また、呼吸困難によってチアノーゼを起こしている場合は酸素投与を行い、呼吸不全に陥っている重症例では人工呼吸器による治療が行われます。
予防
RSウイルスの感染を防ぐためには、マスクの着用や手洗い、子どもが日常的に触れる物品のこまめな消毒、人混みを避けるなどの基本的な感染予防対策が重要です。
早産児や、2歳以下の慢性肺疾患・先天性心疾患・ダウン症候群・免疫不全の子どもには、予防薬であるパリビズマブという注射薬を投与することができます。
また、近年では一部の成人を対象にRSウイルス感染症のワクチンが2つ承認されています。1つは2023年9月に60歳以上を対象に承認され、2024年1月から接種が可能となりました*。もう一方のワクチンは、2024年1月に妊婦を対象に承認され、さらに同年3月には60歳以上も対象に製造販売が承認されたもので、2024年5月現在、販売に向けた準備が進んでいます**。
*ワクチン接種は保険適用外(2024年5月現在)。

 

投稿者: 大橋医院

2024.10.22更新

<クッシング症候群>
概要
クッシング症候群とは、副腎(ふくじん)からのコルチゾールの分泌が過剰になることにより、さまざまな症状をきたす病気の総称です。
主な症状として、赤ら顔になる、顔が丸くなる満月様顔貌(まんげつようがんぼう)や、体幹に脂肪の付きやすくなる中心性肥満など、見た目から分かる症状のほか、階段の上り下りが難しくなる筋力低下や高血圧、糖尿病や骨粗しょう症、月経の異常、気分の落ち込み(うつ症状)などが挙げられます。
中年女性に多くみられる病気で、男女比は1:4といわれています。近年は人間ドックでのCT検査などの画像検査をきっかけにが発見されることが多くなったため、特に軽い症状のサブクリニカルクッシング症候群を含めて診断される頻度は増加していると考えられています。
基本的な治療方法としては、クッシング症候群の主な原因となる副腎皮質腺腫(ふくじんひしつせんしゅ)と呼ばれる腫瘍を手術で取り除くことが検討されます。
原因
コルチゾールの分泌調整
副腎からのコルチゾールの分泌は厳密な調整がなされています。
脳の視床下部と呼ばれる部分から放出される“CRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)”は、脳の下垂体と呼ばれる部位から放出される“ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)”の放出を促進し、ACTHが副腎からのコルチゾールの分泌を促進します。一方でコルチゾールの分泌が過剰になると、CRHの分泌が抑制され、結果的にコルチゾールの分泌が抑制されます(ネガティブフィードバック)。
こうした一連のホルモン分泌調節機構により、コルチゾールの分泌は一定量に保たれつつも、ストレスなど必要なときには適切に調節されています。しかし、何らかの原因によりコルチゾールの分泌が過剰になるとクッシング症候群をきたします。
クッシング症候群の原因
クッシング症候群の中でもっとも多い原因は、副腎皮質腺腫と呼ばれる、腎臓の上にある副腎という臓器の良性腫瘍です。
この副腎腺腫がコルチゾールを過剰に分泌し続けることによって血中のコルチゾール濃度が上昇し、クッシング症候群をきたします。このときには副腎が自律的にコルチゾールを分泌しているため、ネガティブフィードバックによる分泌抑制が起こりません。
このほかに、副腎がんも原因になることがあります。副腎以外の原因としてはACTH産生下垂体腺腫や異所性ACTH産生腫瘍があります。ACTH産生下垂体腺腫ではACTHが過剰に分泌され、それによりコルチゾールが過剰分泌されてしまいます。これをクッシング病といい、クッシング症候群の原因の1つです。
さらに、一部の肺がん(肺小細胞がん)や膵臓(すいぞう)がんなどが異所性にACTHを産生・分泌してしまうことがあり、この場合も同様にクッシング症候群を引き起こします。
症状
クッシング症候群の症状は多岐にわたり、全身に現れます。見た目から分かる特徴としては、中心性肥満が挙げられます。
中心性肥満とは筋肉が減って手足がやせる一方、体幹部に脂肪が多く付き肥満となる状態です。同様に、顔にも多く脂肪が付くことによる満月様顔貌や、肩の後ろに脂肪がつくことで水牛のような盛り上がった肩を呈する水牛様肩(バッファローハンプ)などがあります。
そのほかの身体的特徴としては、赤ら顔、にきび、多毛、お腹を中心とする赤いすじ、近位筋(体の中心に近い筋)の筋力低下などが挙げられます。
また、高血圧、高血糖、高脂血症といった生活習慣病の症状も認められ、これらの原因としてクッシング症候群が見つかる場合もあります。そのほかにもうつ症状や骨粗しょう症、感染症にかかりやすくなるなど、全身にさまざまな症状を引き起こすことが特徴です。
さらにひどい場合には感染症などで命にかかわることもあります。
検査・診断
血液検査で血中のACTHやコルチゾールなどのホルモンの濃度を測定したり、1日の尿を貯めてコルチゾールを測定したりします。
さらに“デキサメタゾン抑制試験”と呼ばれる検査も重要です。具体的には、低用量のデキサメタゾン(コルチゾールと同じ作用を持つホルモン)を与えても、コルチゾールの分泌量が抑制されない場合に自律性分泌が証明されてクッシング症候群と診断されます。
また、クッシング症候群にはさまざまな病型があるので、鑑別のための検査も必要です。クッシング症候群には、ACTHの異常分泌によるもの(ACTH依存性のクッシング症候群)とそうでないもの(ACTH非依存性のクッシング症候群)があるため、鑑別のために血中のACTH値を測定します。ACTH依存性のクッシング症候群と判断された場合、高用量デキサメタゾン抑制試験や頭部MRIなどを併用してクッシング病と異所性ACTH産生腫瘍の鑑別を行います。なお、クッシング病以外の病型のクッシング症候群を疑った際は、全身検索のために特に胸腹部のCTやFDG-PETなどの検査を施行します。
治療
クッシング症候群の治療は、基本的に腫瘍の摘出です。コルチゾール産生副腎腺腫や副腎がんの場合には副腎腫瘍摘出術が行われます。
クッシング病の下垂体腺腫に対しては“経蝶形骨洞的下垂体腺腫摘出術”と呼ばれる術式で、鼻の穴から内視鏡や顕微鏡を使い、蝶形骨洞と呼ばれる副鼻腔(ふくびくう)を経て腫瘍を摘出します。いずれの場合にも、周術期そして術後にもステロイドの補充が必要になります。
異所性ACTH産生腫瘍に対しては、その原因となる腫瘍に対する治療が行われます。原因の腫瘍が摘出しきれない場合には薬物療法が行われます。薬物療法には、副腎におけるコルチゾールを合成する酵素を抑える薬や、副腎そのものを傷害する薬、クッシング病の場合には下垂体腫瘍の機能を直接抑える薬などが使われます。いずれにしてもコルチゾールレベルを正常にすることが、症状や予後を改善することにつながります。

 

投稿者: 大橋医院

2024.10.21更新

<胆石症>
概要
胆石症とは、胆道に結石ができる病気の総称です。胆道の中でもどこに結石ができるかによって、胆嚢結石(たんのうけっせき)(約80%)、胆管結石(約20%)、肝内結石(約2%)に分けられます。胆石は胆汁に含まれる成分が結晶化して固まることででき、成分によって結石の呼び名が異なります。
胆石ができると右の肋骨(ろっこつ)の下やみぞおち、右肩などに痛みを生じるようになりますが、ほとんど症状がみられない人もいます。また、黄疸(おうだん)と呼ばれる皮膚が黄色くなる症状がみられることもあります。
日本で胆石症になる人の数は食生活の欧米化や高齢化によって増えているといわれており、その頻度は10人に1人といわれています。
胆石症の中でも胆管結石の場合は放置すると胆管炎と呼ばれる病気に進行し重症することもあるため、適切な治療を受けることが大切です。
原因
胆石症とは胆道に結石ができる状態を指し、胆石は胆汁に含まれる成分が結晶化して固まることで発生します。
胆石は成分によってコレステロール石と色素石(ビリルビンカルシウム石、黒色石)に分けられ、それぞれ原因が異なります。
コレステロール石は胆汁のコレステロール濃度が高くなることで発生し、色素石のうちビリルビンカルシウム石と呼ばれる胆石は胆汁の細菌感染が原因で発生します。黒色石ができる原因は不明です。
これらの胆石のうちもっとも頻度が高いものはコレステロール石で、肥満、女性、40歳代白人、出産人数が多い人、糖尿病患者、血中コレステロール値が高い、血縁者に胆石症患者がいる場合などにリスクが高くなることが知られています。
症状
胆石症の主な症状は胆道痛と呼ばれる右の肋骨の下辺りの痛み、みぞおちの痛み、右の背中の痛み、右肩の痛みで、食後に現れやすいのが特徴です。
また、黄疸が発生して皮膚や白目の部分が黄色くなったり、ビリルビン尿と呼ばれる褐色~黒色の尿が出たりすることもあります。一方で、胆石症の2~3割は症状がほとんどみられないこともあり、無症状胆石と呼ばれます。
また、一部の人では胆嚢や胆管に炎症を起こすことがあります。炎症が起こると高熱が出るほか、細菌感染が加わると敗血症と呼ばれる重篤な病気に発展することもあります。
検査・診断
胆石症は胆道痛などをきっかけに受診し、画像検査を元に診断されることが多いです。胆石症の検査でよく行われる画像検査には、腹部超音波検査、CT、MRCP(磁気共鳴胆管膵管造影検査)、ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査)などがあります。
一般的には腹部超音波検査が行われます。症状がない場合でも人間ドックや健康診断での腹部超音波検査で発見されることがあります。
画像検査では、胆石の有無のほかに胆石の大きさ、個数、胆嚢の状態などを確認します。
治療
胆石症で痛みなどの症状がみられる場合は手術を行います。胆石のみを取り除いても再発することが多いため、胆石症の手術では胆嚢ごと取り除く胆嚢摘出術が行われます。
胆嚢摘出術には腹腔鏡(ふくううきょう)下手術と開腹手術があり、全身麻酔下で行われます。体の負担が少ない腹腔鏡下手術が第一選択ですが、腹腔鏡下手術が難しい場合は開腹手術が行われます。
また、胆石の状態によっては薬物治療(ウルソデオキシコール酸)や体外衝撃波胆石破砕療法と呼ばれる、体の外から衝撃波を当てて胆石を破砕する方法が使われることもあります。
痛みがない無症状胆石の場合は治療を行わずに経過観察を行いますが、胆管の出口に詰まって胆管炎が生じている場合は、無症状でも胆管内の胆石を除去する治療が必要になります。
治療後の経過
胆石症は、胆石ができる部位や治療の方法によっては再発したり合併症を引き起こしたりすることがあります。胆嚢結石で胆嚢を取り除いた場合は基本的には再発するリスクは低いですが、胆管結石や肝内結石では胆石が再発することがあります。
また、人によっては胆管や胆嚢に炎症が生じる胆管炎や胆嚢炎、胆汁うっ滞、肝内胆管がんなどの合併症が起こることもあるため、治療後も医師の指導の下で定期検査を続けることが大切です。
予防
胆石は食事などの生活習慣と密接に結びついており、日頃から食事に気を付けて胆石の形成を予防することが大切です。
コレステロールや脂質の多い食事はリスクが高まるため、これらの過度の摂取を控え、たんぱく質や食物繊維を含むバランスのよい食事を続けるようにしましょう。
肥満は胆石症のリスク因子ですが、過度なダイエットは胆石形成のリスクを高めるため、適度な食事と運動を心がけることが大切です。

 

投稿者: 大橋医院

2024.10.18更新

アラジール症候群(Alagille syndrome)
今回のPoint
● 日本の患者数:200~300人程度と推定(令和4年度末現在特定医療費(指定難病)受給者証所持者数44人)
● 性別:男女とも
● 主な症状:肝内胆管減少症による胆汁うっ滞、角膜ジストロフィー、成長障害、肝腫大、心室中隔欠損症など
● 原因遺伝子: JAG1、NOTCH2
● 治療:脂溶性ビタミンや中鎖脂肪酸(MCT)補充などの栄養療法、肝移植など
――― 疾患の特徴
アラジール症候群は、生まれつき肝臓や心臓などさまざまな臓器に症状がある遺伝性疾患です。主に症状が現れるのは「肝臓」「心臓や血管」「目」「椎骨」「顔立ち」の5つですが、必ずしも5つ全てに症状が現れるというわけではありません。症状の種類や重症度は人によって異なり、同じ家族内でも気付かないほど軽いものから、移植が必要となる重篤な心臓病や肝臓病までさまざまです。経過に関しても同様です。5つ全てに異常が見られる場合は「完全型アラジール症候群」、肝臓を含めた3つの症状が見られる場合は「不完全型アラジール症候群」となります。また、アラジール症候群として報告されている中には、症状が条件に当てはまらなくても、アラジール症候群特有の遺伝子に変化が見られた場合も含まれています。
この疾患は、通常、乳児期または小児期の早期に見つかります。肝内胆管減少症による胆汁うっ滞が原因で起こる黄疸により、乳児期に見つかるケースが多いとされています。心雑音など心臓の異常により見つかることもあります。まれに、腎臓病や、もやもや病など血管の病気で気付かれるケースもあります。胆汁うっ滞により、皮膚のかゆみや、黄色腫、ビタミン吸収の障害による出血・骨折なども引き起こされる場合があります。特徴的な顔立ちは、幼児期に入ってから目立ってきます。発達の遅れや成長障害、性腺機能不全、消化管の異常が見られる場合もあります。
日本にアラジール症候群の患者さんは200~300人いると推定されています。男女で発症のしやすさに違いはなく、特定の地域でこの疾患が多いということもありません。世界的には3~7万人に1人がアラジール症候群を発症すると推定されています。ただし、症状が軽いなどの理由により診断されていない人もたくさんいると考えられており、実際にはもっと多い可能性があります。
アラジール症候群は、国の指定難病対象疾患(指定難病297)、および、小児慢性特定疾病の対象疾患です。
――― 原因遺伝子
アラジール症候群の原因遺伝子として、「JAG1」「NOTCH2」が見つかっています。
JAG1遺伝子は、20番染色体の20p12.2に存在しており、「Jagged-1」というタンパク質の設計図となる遺伝子です。NOTCH2遺伝子は、1番染色体の1p12に存在しており、Notch2受容体というタンパク質の設計図となる遺伝子です。
いずれも細胞膜タンパク質であるJagged-1とNotch2受容体がお互いにくっつくと、細胞の機能に関連する一連のシグナル伝達反応(Notchシグナル伝達)が起こります。Notchシグナル伝達は、胎生期の発生過程に影響するものです。アラジール症候群の発症につながる、JAG1遺伝子やNOTCH2遺伝子の変異は、Notchシグナル伝達経路が正常に機能しなくなる変異で、その結果、特に胆管、心臓、脊柱、顔立ちに影響が現れている可能性があると考えられています。しかし、詳細はまだ解明されていません。
JAG1遺伝子に変異がある場合は「アラジール症候群1型」、NOTCH2遺伝子の場合は「アラジール症候群2型」と、区別されています。しかし、アラジール症候群の特徴を満たす人全員にどちらかの変異が必ず見つかるというわけではありません。また、これらの遺伝子に変異があっても、軽症で不自由なく生活している人もいます。
アラジール症候群1型と2型は、基本的に常染色体優性(顕性)遺伝形式で遺伝するとされていますが、変異があっても軽症や無症状の人もいます。そのため、遺伝子を受け継げば必ず発症するものではなく、無症状の保因者となることもあります。

米国国立医学図書館が運営する医療情報サイト「MedlinePlus」によると、アラジール症状群の約30~50%は、両親のどちらかがアラジール症候群で、その遺伝子変異を受け継いだことにより発症しています。この他に、血のつながった家系内にアラジール症候群の病歴がなく、両親ともにアラジール症候群ではない場合でも、生まれてくる過程で原因遺伝子に変異が起きて、アラジール症候群になるケースがあります。
――― 診断方法
アラジール症候群には、診断基準があります。
具体的には、「胆汁うっ滞」「心血管系の異常(末梢性肺動脈狭窄が最も特徴的所見)」「骨格の異常(蝶形椎体が特徴的所見)」「眼球の異常(後部胎生環が特徴的所見)」「特徴的な顔立ち」の5つの症状・所見のうちの3つ以上が当てはまり、肝臓の病理検査で小葉間胆管の減少が認められた場合に、アラジール症候群の典型例と診断されます。
上記5つの症状・所見のうちの1つに当てはまる、または腎臓、脳血管、膵臓などにアラジール症候群に特徴的な症状がみられる場合で、血縁者にアラジール症候群と診断された人がおり、常染色体優性(顕性)遺伝形式に矛盾しない遺伝の仕方をしている、または遺伝子を検査してJAG1遺伝子もしくはNOTCH2遺伝子に変異があるとわかった場合、アラジール症候群の非典型例、変異アリルを有するが症状の乏しい不完全浸透例と診断されます。
――― 治療法
今のところ、アラジール症候群の根本的な治療法は見つかっていません。
胆汁うっ滞がある場合、脂溶性ビタミンを長期的に内服します。胆汁の流れを促す利胆剤や、胆汁うっ滞によるかゆみを軽減する薬も内服します。赤ちゃんの場合、胆汁がないと脂質の吸収が悪く成長障害につながるため、中鎖脂肪酸(MCT)の豊富なミルクを使用することもあります。かゆみに対しては、陰イオン交換樹脂や脂質降下薬を内服する場合もあります。
胆汁うっ滞が続いて肝硬変になってしまった場合は、肝移植が行われることがあります。また、著しいかゆみ、成長障害、骨折を繰り返すなど、QOLの著しい低下がみられた場合にも、肝移植が行われることがあります。胆汁のスムーズな流れを促すために、部分胆汁瘻という外科手術も試みられており、良好な成績が報告されてきています。
心臓病の経過も人によりさまざまですが、重症の場合、本人の状態により適切なタイミングでカテーテル治療や外科手術が行われます。重症の腎臓病に対しては、透析や腎移植などが必要になる可能性があります。重症な場合でも、肝移植や心臓の手術で命を落とさないことが可能になってきています。
日常生活において、乳児期には、体重の増加がきちんとみられるか、発達が順調かどうかを確認することが重要です。病態に合わせて、食事内容や水分・塩分に気をつけます。心臓病がある場合には、運動が制限される場合もあります。成人後は、肝臓に負担がかかるアルコールの過度な摂取は控えることが望ましいとされています。また、動脈硬化の原因となる喫煙も避けたほうが良いとされています。
参考サイト
難病情報センター
小児慢性特定疾病情報センター アラジール(Alagille)症候群
MedlinePlus
Genetic and Rare Diseases Info

 

投稿者: 大橋医院

2024.10.18更新

【症例】11歳の男児。1週間前に右膝を怪我し、発熱があり、身体が赤くなったため受診。咽頭発赤はあるものの、溶連菌迅速検査は陰性。皮疹は、紅斑で体全体に見られ、紅斑は膨隆疹ではなかった。手足の浮腫も見られた。経過中には皮膚の落屑はなかった。

「蕁麻疹?」もしかしたら「川崎病?」
 紅斑が見られることから、感染症に伴う急性蕁麻疹の可能性もあるかもしれません。また、膨隆した皮疹ではなく、数日での皮疹の消失はありませんでした。また、発熱、皮疹、手足の浮腫があることから、川崎病の可能性も考えられますが、年齢及び他の症状(眼球結膜充血、口唇の発赤、イチゴ舌、頸部リンパ節腫脹)がないことから、川崎病の可能性は低そうです。怪我の部分から黄色ブドウ球菌(MSSA)が検出されたことから、発疹の原因としてはToxic-shock syndrome(TSS)様発疹症が考えられます。

TSS様発疹症と鑑別を要する疾患
 紅斑と発熱の鑑別診断が必要になります。麻疹や風疹などのウイルス性発疹、リケッチアなどの感染症、感染症に伴う蕁麻疹の免疫・アレルギー疾患などです。また、ブドウ球菌では、その毒素によって、TSSやブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(staphylococcal scalded skin syndrome:SSSS)が起こります。TSSよりは軽症で、新生児TSS様発疹症(Neonatal toxic-shock syndrome-like exanthematous disease)に近い病態ですが、原因菌はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)ではありませんでした。

「診断:TSS様発疹症」
 TSSは、黄色ブドウ球菌から産生されるエクソトキシンであるTSST-1(toxic shock syndrome toxin-1)、enterotoxin Cなどで起こる症候群で、発熱、びまん性の紅斑性発疹、発症1-2週間後の落屑、血圧低下を特徴とし、多臓器障害として嘔吐、下痢、激しい筋肉痛、意識障害、敗血症性ショック、播種性血管内凝固症候群(DIC)、腎不全、肝機能異常などの3臓器系以上の障害を起こします。

 新生児では、落屑はなく、①原因不明の発疹(全身性丘疹状紅斑、融合傾向を示し、表皮脱を来すことは通常ない)、②38度以上の発熱、15万/μL以下の血小板減少、CRP 1-5mg/dLの弱陽性のうち1つ以上、③既知の疾患を除くこと─―が診断基準とされる新生児TSS様発疹症があり、軽症で自然軽快し、ショックを示さず、MRSAによるTSST-1が原因であるとされています。

 本症例では抗菌薬とステロイドによる治療により2日程で解熱し、皮疹も消失しました。落屑は見られませんでした。本症例ではTSST-1、enterotoxin Cの産生菌の証明ができていないので、確定診断は困難ですが、MSSAによるTSS様発疹症が最も考えうるものでした。

(注)なお、本記事で紹介した症例に対する診断が、症状が類似したすべての症例に当てはまるわけではありません。

※参考文献
1) 日本皮膚科学会蕁麻疹診療ガイドライン改定委員会. 蕁麻疹診療ガイドライン2018. 日皮会誌. 2018; 128:2503-2624.
2) Absorbent Hygiene Products Manufacturers Association(AHPMA).トキシックショック症候群 医療従事者向けガイド.
3) 日本川崎病学会、特定非営利活動法人日本川崎病研究センター、厚生労働科学研究 難治性血管炎に関する調査研究班. 川崎病診断の手引き 改訂第6版.2019
4) 清益功浩 他. ブドウ球菌(MSSA)によるTSS様発疹症を呈した1例. 小児科臨床. 2013; 66:913-918.

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投稿者: 大橋医院

2024.10.17更新

幼虫移行症とは
 「幼虫移行症」という疾患があります。日本寄生虫学会監修の『図説 人体寄生虫学』(南山堂)では、「ヒト以外の動物を固有宿主とする寄生虫の感染型がヒトに侵入した場合、成虫に発育することができず幼虫のままヒト体内を移行し種々の症状を引き起こす。このような症候群を幼虫移行症という」とあります。移行というのは、あっちこっちうろうろするということですね。

 さて、幼虫移行症という概念は1950年代に米国のBeaver博士によって確立されたもので、網膜芽細胞腫として摘出された小児の眼球の病理検査で、腫瘍細胞ではなく線虫の幼虫が発見されたのがそもそもの発端でした。最初は鉤虫の幼虫とされたのですが、その後イヌ回虫と鑑定され、さらに、高度な好酸球増多と肝の肉芽腫を呈した小児の病理標本にもイヌ回虫が見出されて、動物の寄生虫もヒトの病気の原因になるということでこのような疾患概念が提唱されました。

イヌ回虫は仔イヌの回虫
 現在はいろいろな寄生虫が幼虫移行症の原因になることが知られていますが、一番重要なのは、やはりイヌ回虫でしょう。では、イヌ回虫というのはどんな寄生虫なのでしょうか。

 イヌ回虫はその名の通り回虫の仲間で、成虫は生後半年くらいまでの仔イヌの小腸に寄生しています。成犬になると免疫の作用で寄生できなくなるといわれています。メスは小腸内で虫卵を産み、仔イヌの糞便中に虫卵が排出されます。この虫卵は外界に出てきてすぐはまだ感染力がありませんが、適度な水分と酸素の存在下で成熟し、中に感染性の幼虫が入った「幼虫包蔵卵」(または「幼虫形成卵」)と呼ばれるものになります。

 仔イヌが幼虫包蔵卵を摂取すると、小腸で孵化した幼虫が粘膜にもぐって血管またはリンパ管に入り、血管内の幼虫は肝臓を通過して、肺に到達します。肺で幼虫は血管から肺胞に移り、気道をさかのぼって喀痰とともに飲み込まれて、胃を通過して小腸に下りて来ます(図1)。このような移動を「体内移行」といい、ヒトの回虫も同様の動きをします。小腸で孵化するんだからそのまま小腸にいればいいものを、なぜか肺を通るわけですが、おそらく、肺で発育に必要ななんらかのスイッチが入るのだと思います。


図1 イヌ回虫の体内移行

イヌ回虫のめくるめく生活環
 これだけだったらただの仔イヌの寄生虫ですが、イヌ回虫のすごいところは、仔イヌ以外のニワトリ、ネズミ、ウシ、さらには成犬といった「非好適宿主」が幼虫包蔵卵を摂取しても、幼虫が感染力を保持したまま生き続けるところです。非好適宿主にはヒトも含まれます。

 非好適宿主に幼虫包蔵卵が飲み込まれると、小腸で孵化した幼虫は直接あるいは肝を通過して肺に到達します。ここまでは仔イヌと同じですが、肺で気道には移らず、そのまま通り抜けて心臓に戻って全身に散布され、筋肉や中枢神経に入った幼虫は休眠状態となり生き続けます。そしてさらにその宿主が別の動物に食べられると、筋肉や中枢内の幼虫は小腸で目覚めて、また粘膜から脈管に入り、新しい宿主の筋肉や中枢内で生き続けます。

 一体いつになったらイヌ回虫は成虫になるのでしょうか? 非好適宿主であるメスの成犬は、幼虫包蔵卵や感染動物を摂取することで体内にイヌ回虫の幼虫が蓄積していきます。そんなメスイヌが妊娠すると、妊娠後期に幼虫は胎盤を通って胎児に移動、肺呼吸の開始とともに肺を通過して小腸に下りてくるのです。すごいでしょ? また、割合は小さいですが、母乳を介した垂直感染も起きます(図2)。


図2 イヌ回虫の宿主移動

 そういえば子どもの頃、親に頼んでどこかからもらってきた仔イヌのお腹に虫がいるということで虫下しを飲ませたことがありました。子ども心に「室内飼いできれいなところにいるのになんで寄生虫?」と不思議だったんですが、あれはイヌ回虫で、お母さん犬がワイルドな生活をしていたんだと思います。完全に理解した。

幼虫移行症の病型
 私たちの研究室の活動に、寄生虫症の診断支援があります。主に蠕虫の抗体検査を引き受けていて、その結果、いろいろな寄生虫症の診断に関わっています。診断の結果はさまざまですが、過去10年くらいの累計ではイヌ回虫を含む動物由来の回虫類による幼虫移行症が全体の3分の1くらいを占めています。

 「イヌ回虫を含む動物由来の回虫類による幼虫移行症」という長ったらしい言い方をしたのは、イヌ回虫症、ネコ回虫症、ブタ回虫症の三者は臨床的に区別がつかず、全部ひっくるめて「動物由来の回虫類による幼虫移行症」と呼んでいるからです。また、イヌ回虫症とネコ回虫症は抗体検査でも区別がつかないので、両者合わせてトキソカラ症といいます(イヌ回虫の学名はToxocara canisでネコ回虫はToxocara cati)。割合ではトキソカラ症が動物由来の回虫類による幼虫移行症の約9割を占めています(Yoshida A, et al. Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 2016;35:1521-9.)。

 動物由来の回虫類による幼虫移行症の症状は虫がどこにいるかによって異なります。肝臓や肺に虫体がいる内臓型では発熱や倦怠感、脊髄では脊髄炎によるしびれや異常感覚(神経型)、網膜に入れば視力障害が出ます(眼型)。

 内臓幼虫移行症では、特に末梢血好酸球増多が顕著で、自覚症状がなく、定期健康診断で白血球増多を指摘されて発覚するパターンもよくみられます。不思議なことに、神経型や眼型では寄生虫体数が少ないのか、好酸球もIgEもあまり上がってきません(図3)。虫がたまたま脊髄や網膜に迷入して、症状が出やすいので受診につながるのだろうと考えています。


図3 動物由来の回虫類による幼虫移行症の臨床像
画像は吉川正英先生(奈良県立医科大学)提供。データは吉田ら(2016)より

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 治療は、病型にかかわらずアルベンダゾール200mg錠を1回2錠1日2回(体重が55 kg未満の場合は1回1錠1日3回)を4週間以上の内服です。4週で改善しないときは2週間休薬して、また4週間の投与が行われます。副作用は主に一過性の肝機能障害です。

日本の幼虫移行症はおとなの病気
 当研究室が診断に関与した動物由来の回虫類幼虫移行症例について、年齢性別分布や食歴などについて調べたところ、患者さんは中高年の男性に多く、食歴の記録では肉やレバーの生食が目立ちました(図4)。


図4 動物由来の回虫類による幼虫移行症の年齢性別分布・病型割合
データは吉田ら(2016)より

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 欧米や途上国ではトキソカラ症は子供の病気とされていますが、日本では間違いなく大人の病気です。多くの例で仔イヌやネコ、ブタなどの感染動物の飼育は確認できなかったことから、主な感染源は土壌中の虫卵ではなく、動物の肉・内臓が主と考えていいようです。

 ちなみにこの研究では、大変に興味深い事実が明らかになりました。年代ごとの病型を調べてみると、若い世代ほど眼型が多くなっていたのです(図4)。欧米の教科書にはトキソカラ症は「子供の目の病気」と書いてあります。患者さんに子供が多いので眼型が多いのでしょう。なぜ子供だと目に行くのか? 理由はまったく分かりません。完全な謎です。

やっぱり日本人の生肉好きは異常
 メインの感染源が生肉・生レバーならば、焼くか煮るかをすれば動物由来の回虫類への感染リスクはぐっと減ります。ところが、というかなんというか、どうも肉やレバーの生食をやめたくない人たちが大勢いるようです。試しに「生レバー(レバ刺し)」でウェブ検索をしてみると、それはそれはいろいろ出てきます(図5)。


図5 ウェブの検索結果「生レバー(レバ刺し)」

 その中で、韓国で生レバーを食べたというネット上の声(要約、一部改変)をいくつか拾ってみると……。

<ネット上の声(要約、一部改変)>

・日本では生の牛レバ刺しは2012年7月から禁止、豚の生食は2015年6月に禁止になっている。調べたら韓国では現在も合法で、専門店が多く存在するらしい。これは行くしかない。

・韓国と言えばレバ刺し、レバ刺しと言えば韓国、ということで今回はレバ刺しを食べに韓国に行ってきました。韓国で安全においしいレバ刺しを食べることができるお店を紹介します。日本では味わうことができないレバ刺し、ぜひ、友人や家族と行ってほしいです。生肉は体質により体調を崩すおそれもあるので自己責任でお願いします。ちなみに、胃腸が弱い私は大丈夫でした。

 あのですね……自己責任て……。ちなみに私たちの研究室で血清抗体検査をしてトキソカラ症と診断されたご夫婦がいらっしゃるのですが、最初のサイトで絶賛されていたお店で生レバーを食べたようです。

 最近も、半生ハンバーグで病原性大腸菌の食中毒というニュースがありました。トキソカラ症が命にかかわることはまずありませんが、細菌やウイルスはシャレになりません。ほんと、この生食信仰はなんとかならんものかと思います。

投稿者: 大橋医院

2024.10.16更新

「GIST」とは
 胃には多くの細胞が存在しています。そのため、食べたものを消化する胃袋の内側にある粘膜から生じる「癌」や「良性ポリープ」、「リンパ腫」、さらには粘膜の下に腫瘤(しゅりゅう)状の病変を形成する悪性腫瘍の一種である肉腫などさまざまな腫瘍が発生します。


GISTの発育タイプ
 消化管粘膜の下に発生する悪性腫瘍のGIST(Gastrointestinal Stromal Tumor)は日本語で消化管間質(かんしつ)腫瘍と呼ばれます。その発生頻度は、年間10万人に1〜2人で、男女差はないとされています。発生部位は、胃が約50~70%と最も多く認められます。GISTは、消化管粘膜の下の筋層などに存在している細胞や前駆細胞が異常に増殖し、腫瘍化することによって生じます。 発育のタイプとして、消化管の内腔側に発育するタイプ(管内発育型)、消化管壁の外側に発育するタイプ(管外発育型)、その中間(消化管壁内発育型)に分類されます。


GISTの症状
 腫瘍が小さければ、ほとんどの場合は無症状です。腫瘍が大きくなると、腫瘍によって消化管の内腔が圧迫され、吐き気や腹痛をきたす他、腫瘍からの出血による下血(黒い色の便)、貧血などの症状が現れることがあります。
 しかしこれらは、GISTに限った症状ではないため、疾患に気づきにくい点があります。そのため、早期発見には検査が大切です。

 
GISTの検査
 
 内視鏡での検査によって、無症状でも初期段階で腫瘍を発見できる可能性が高まってきています。GISTの多くは、正常な粘膜に覆われた出っ張りのように認められることが多く、潰瘍を形成しているものもあります。また、2~3cmほどの小さいGISTの確定診断に、超音波内視鏡下に病変に細い針を刺して細胞を採取する超音波内視鏡下穿刺吸引術(endoscopic ultrasound-guided fine-needle aspiration: EUS-FNA)を行うこともあります。そしてCT検査で、腫瘍の位置や発育タイプ、周囲臓器への浸潤、肝臓や肺などへの転移を調べます。

GISTに対する治療法
 
 2cm以上のものは切除したほうがよいとされています。2cm以下でも、GISTが疑わしい場合は切除をお勧めいたします。
リンパ節転移をすることはほとんどありませんので、可能な限り胃を残して腫瘍の部分(胃の壁ごと)だけを切除します。術後の胃の機能障害はほとんど起こりません。腹腔鏡手術や開腹手術が行われます。5cm以上の腫瘍では開腹手術が安全です。
 腹腔鏡・内視鏡合同手術 (laparoscopy and endoscopy cooperative surgery: LECS)という低侵襲手術もあります。これは保険診療の対象です。LECSとは、口から入れた内視鏡による消化管の中と腹腔鏡による消化管の外からGISTを観察し、切除する範囲を極力最小限にする手術です。
 杏林大学病院上部消化管外科では、口から取り出せる大きさ(3cmまで)の管内発育型GISTに対し、体に傷をつけることなく口から入れた内視鏡だけで胃の全層を切除する究極の低侵襲治療(内視鏡的全層切除)を研究として行ってきました。この方法では、術後の痛みも胃の機能障害もほとんど起こりません。今後は内視鏡的全層切除は「先進医療」として行われる予定です(医療費の一部は患者さん負担となります)。

手術後の治療
 
 切除した腫瘍を顕微鏡で十分に観察します。腫瘍細胞の分裂の度合いで再発しやすさを表す高リスクや低リスクなどに分類されます。
きちんと切除が行われた後でも「高リスク」と判定された場合は、イマチニブ(商品名:グリベック)という薬を3年間内服する必要があります。転移していることなどで切除ができないGISTに対する治療の第一選択にも、イマチニブ(商品名:グリベック)の薬物療法が行われます。
 

 

投稿者: 大橋医院

2024.10.16更新

シャーガス心筋症におけるアミオダロンまたは植込み型除細動器:CHAGASICS無作為臨床試験
Martinelli-Filho M et al. JAMA Cardiol. 2024 Oct 2:e243169.
ポスト full text link
背景
年間10,000人以上のシャーガス病患者が心臓突然死(SCD)を経験しており、そのほとんどは心室細動が原因である。アミオダロン塩酸塩と植え込み型除細動器(ICD)は、慢性シャーガス心筋症患者のSCDを予防するために経験的に使用されてきた。慢性シャーガス心筋症で、Rassiスコアで評価した死亡リスクが中等度から高度の患者において、全死亡の一次予防にICDがアミオダロン療法よりも有効であるという仮説を検証する。ClinicalTrials.gov NCT01722942。

方法
CHAGASICSは非盲検無作為化臨床試験である。2014年5月30日から2021年8月13日までブラジルの13施設から患者を登録し、2021年11月8日を最終追跡期間とした。シャーガス病の血清学的所見が陽性で、Rassiリスクスコアが10点以上(中リスク~高リスク)、非持続性心室頻拍が1エピソード以上ある患者が参加対象となった。データは2022年5月3日から2023年6月16日まで解析された。患者はICDまたはアミオダロン(無作為化後に600mgをローディング投与)を投与される群に1:1で無作為に割り付けられた。主要アウトカムは全死亡で、副次的アウトカムはSCD、心不全による入院、追跡期間中のペースメーカーの必要性などであった。この試験は管理上の理由で早期に中止され、無作為化された患者は323例(アミオダロン群166例、ICD群157例)であった。解析はintention to treatで、追跡期間中央値は3.6年(IQR, 1.8-4.4)であった。平均(SD)年齢は57.4(9.8)歳、185例(57.3%)が男性、平均(SD)左室駆出率は37.0%(11.6%)であった。

結果
死亡はICD群で60例(38.2%)、アミオダロン群で64例(38.6%)であった(ハザード比[HR]、0.86[95%CI、0.60-1.22]、P = 0.40)。SCD(6例[3.8%] vs 23例[13.9%];HR、0.25[95%CI、0.10-0.61];P = 0.001)、ペーシングを必要とする徐脈(3例[1.9%] vs 27例[16.3%];HR、0.10[95%CI、0.03-0.34];P < .001)、心不全による入院(14[8.9%] vs 28[16.9%];HR、0.46[95%CI、0.24-0.87];P = 0.01)は、アミオダロン群と比較してICD群で少なかった。死亡リスクが中等度から高度の慢性シャーガス心筋症患者において、ICDは全死亡リスクを低下させなかった。しかし、ICDはアミオダロン療法と比較して、SCD、ペーシングの必要性、心不全による入院のリスクを有意に減少させた。この試験で得られたエビデンスを確認するためにはさらなる研究が必要である。

原文を読む
Amiodarone or Implantable Cardioverter-Defibrillator in Chagas Cardiomyopathy: The CHAGASICS Randomized Clinical Trial.

 

投稿者: 大橋医院

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