2024.09.30更新

高齢化社会を迎え、いかに健康寿命を延ばすかは、重要な課題です。定期的にスポーツをできている人はいいとしても、現実にはなかなか難しいことも多く、体力を維持するため、〇〇〇ザップなど、手軽なフィットネスが流行っているのも健康への関心の現れかと思われます。

 筆者自身が、「運動不足⇒体が硬くなる⇒動きにくくなる⇒さらに運動不足になる」という悪循環を感じていたところ、体の硬さが死亡リスクに関与するかもしれない、という論文が目に入ってきました。

 通常、体力というと、筋力や歩行能力、日常生活遂行能力など、運動能力に関するものが多いと思いますが、本論文で評価しているのは、運動能力ではなく、体の20の関節の柔らかさです。約3000人の中高年男女を登録し、平均12.9年経過観察をしています。そして、体(関節)の柔軟さが生命予後と相関があるという結果だったことを示しています。また、予想通り、女性は男性よりも15歳以上体が柔軟であるという結果でした。体の柔軟性に注目したかなりユニークな研究だと思いますし、その結果も興味深いものでしたので、ここで紹介しました。

私の見解
 「体の柔軟性が生命予後に関連する」という結果を示した本論文は、ヒトの体力を評価する上で新しい視点を提供してくれたと思います。柔軟性が予後に関連するメカニズムについては、本論文では触れられていません。心血管系の機能と相関するのか、骨格筋の質となんらかの関連があるのか、などが考えられると思いますが、今後の課題と言えるでしょう。また、ストレッチトレーニングなどで柔軟性を高めることが予後改善につながるかどうかも、非常に興味のあるところです。

日常臨床への生かし方
 中高年になると体を動かすことが億劫になりますが、柔軟性を保つため、なるべくまめに体を動かすことは大事です。また、スポーツやフィットネスクラブに出かける時間がなくても、家でストレッチをすることで柔軟性を維持することができます。

投稿者: 大橋医院

2024.09.30更新

<脂質異常症>
概要
脂質異常症とは、血液中の脂肪分(コレステロールや中性脂肪)が多すぎる、あるいは少なすぎる状態をいいます。従来は高脂血症と呼ばれていた病態も脂質異常症の一部に含まれます(高脂血症という用語は病態を正しく表していないとして、2007年に日本動脈硬化学会が診断名を「脂質異常症」に改訂しました)。
血液中の中性脂肪やLDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)が基準値よりも高すぎても、逆にHDLコレステロール(いわゆる善玉コレステロール)の値が低すぎても、動脈硬化を引き起こすリスク因子になります。このため、脂質異常症は、や脳梗塞など、動脈硬化によって発症する可能性のある血管系の病気の引きがねになると考えられています。
原因
生活習慣
脂質異常症の多くは生活習慣によって起こります。多くは運動不足や偏った食事、肥満などが原因で成人以降に発症します。
体質的な要因
他の病気や薬の影響
他の病気や服用している薬の影響で、血液中の脂質のバランスが悪くなることによって脂質異常症を発症することがあります。他の病気や服用している薬など、なんらかの原因があるものを二次性(続発性)脂質異常症といいます。
脂質異常症と関係がある病気には、糖尿病やその他の内分泌疾患(クッシング症候群・先端巨大症など)のほか、甲状腺機能低下症・肝胆道系疾患・腎臓病(ネフローゼ症候群)などが知られています。また、原因となる薬剤として、ステロイドホルモン、β遮断薬、経口避妊薬などが知られています。
症状
脂質異常症は基本的に症状が現れないことが多いです。原発性高脂血症や高コレステロール血症では皮膚に特徴的な黄色腫を生じることがあります。また、眼球に角膜輪(かくまくりん)と呼ばれる白い輪がみられたり、高カイロミクロン血症による肝腫大がみられたりすることもあります。
脂質異常症をそのまま放置していると、動脈硬化が進み、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などの病気を起こしやすくなります。また、中性脂肪の値が高いと、冠動脈疾患・脳梗塞・脂肪肝・などのリスクが高まります。
検査・診断
脂質異常症の診断では、空腹時の血液中に含まれる脂質の値が重要になります。そのため、血液検査を行い、LDLとHDLの2つのコレステロールの値と、中性脂肪の値を測定します。
治療
脂質異常症の治療は、生活習慣が原因である場合には生活習慣の改善が基本となります。それだけでは十分な改善がみられない場合は薬物治療が考慮されます。
生活習慣の改善
生活習慣の改善には、禁煙、食生活の内容を見直し、食べ過ぎをやめること、お酒の飲み過ぎを控えること、さらにウオーキングや水泳、ラジオ体操などの有酸素運動を取り入れることが有効です。
薬物治療
薬物治療には大きく2種類の薬があります。1つは、コレステロールの値を下げる薬で、代表例はスタチン系薬とよばれるものです。もう1つは中性脂肪の値を下げる薬で、代表例はフィブラート系薬やエイコサペンタエン酸とよばれるものです。

 

投稿者: 大橋医院

2024.09.29更新

基本情報
薬効分類
植物ステロール製剤
コレステロールや脂質の低下作用や脳内の機能改善作用により脂質異常症や心身症による症状を改善する薬

詳しく見る
植物ステロール製剤
ハイゼット
効能・効果
過敏性腸症候群の身体症候
過敏性腸症候群の緊張
過敏性腸症候群の不安
過敏性腸症候群の抑うつ
高脂質血症
更年期障害の身体症候
更年期障害の緊張
更年期障害の不安
更年期障害の抑うつ
心身症の身体症候
心身症の緊張
心身症の不安
心身症の抑うつ」


注意すべき副作用
めまい 、 ふらつき 、 浮上感 、 嘔気 、 嘔吐 、 腹痛 、 下痢 、 便秘 、 腹部膨満感 、 食欲不振
用法・用量(主なもの)
〈高脂質血症〉ガンマオリザノールとして、通常成人1日300mgを3回に分けて食後に経口投与する
なお、年齢、症状により適宜増減する
〈心身症(更年期障害、過敏性腸症候群)における身体症候並びに不安・緊張・抑うつ〉ガンマオリザノールとして、通常成人1日10〜50mgを経口投与する
なお、年齢、症状により適宜増減する
ただし、過敏性腸症候群に用いる場合は、1日最高50mmg


主な副作用
めまい 、 ふらつき 、 浮上感 、 嘔気 、 嘔吐 、 腹痛 、 下痢 、 便秘 、 腹部膨満感 、 食欲不振 、 過敏症
上記以外の副作用
発疹 、 そう痒 、 皮膚異常感 、 血圧上昇 、 頭痛 、 頭重感 、 いらいら感 、 動悸 、 AST上昇 、 ALT上昇 、 肝機能障害 、 口渇 、 浮腫 、 脱力感 、 眠気 、 腹部不快感 、 不快感 、 腹鳴 、 胸やけ 、 げっぷ 、 無味感 、 口内炎 、 潮紅 、 倦怠感 、 体のほてり 、 夜間頻尿
基本情報

相対禁止
妊婦・産婦
注意
授乳婦
新生児(低出生体重児を含む)
乳児
幼児・小児
高齢者
投与に際する指示
高齢者
年齢や性別に応じた注意事項
注意
小児等(0歳〜14歳)
基本情報
副作用
注意事項
相互作用
処方理由
添付文書
相互作用
基本情報


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



効果・効能(添付文書全文)
1). 高脂質血症。
2). 心身症(更年期障害、過敏性腸症候群)における身体症候並びに不安・緊張・抑うつ。
(効能又は効果に関連する注意)
〈高脂質血症〉適用の前に十分な検査を実施し、高脂質血症であることを確認した上で本剤の適用を考慮すること。

用法・用量(添付文書全文)
〈高脂質血症〉
ガンマオリザノールとして、通常成人1日300mgを3回に分けて食後に経口投与する。
なお、年齢、症状により適宜増減する。
〈心身症(更年期障害、過敏性腸症候群)における身体症候並びに不安・緊張・抑うつ〉
ガンマオリザノールとして、通常成人1日10〜50mgを経口投与する。
なお、年齢、症状により適宜増減する。
ただし、過敏性腸症候群に用いる場合は、1日最高50mgまでとする。

投稿者: 大橋医院

2024.09.28更新

88歳のお爺さん、火曜日は元気だったのに、木曜日から、発熱、38度、意識混濁、

先ほど往診に行ったが、血圧140/80、spO2:94,肺音、心音が良いが

尿から、黴菌が、好中球、扁平上皮、  ”尿路感染”からの発熱、早速、点滴と抗生物質を静注、

これで明日も仕事続行だ。今日も明日も午後2時から勉強会、

サー頑張るぞ!

投稿者: 大橋医院

2024.09.27更新

先に保険適用された「レケンビ点滴静注200mg」「同点滴静注500 mg」(一般名:レカネマブ(遺伝子組み換え))と同様に、対象患者数が多くなると予想され、保険適用された場合には「巨大な市場規模になる」可能性があるため、「薬価算定の特例ルール」を検討する—。

9月25日に開催された中央社会保険医療協議会・総会でこうした議論が始まりました。今後、具体的な特例ルールを薬価専門部会で議論し、それを中医協総会で承認した後に、下部組織である薬価算定組織で具体的な値決め(薬価案の作成)が行われます。

なお、同日には薬価専門部会も開催され、来年度(2025年度)の薬価中間年改定論議が行われています。こちらは別稿で報じます。

認知症患者数の増大踏まえると、市場規模が巨大になる可能性否定できず
医療技術が高度化し、優れた医薬品が登場してきています。優れた医薬品について「高額の薬価が設定され、多くの患者に使用される」ことは患者・製薬メーカーにとって好ましいことですが、「医療保険財政」の側面からは手放しで喜ぶこともできません(医療費・薬剤費が増加すれば医療保険財政が厳しくなる)。

このため、2022年度の薬価制度改革では「年間1500億円超の市場規模が見込まれる医薬品が承認された場合には、通常の薬価算定手続きに先立ち、直ちに中医協総会に報告し、当該品目の承認内容や試験成績などに留意しつつ、薬価算定方法の議論する」とのルールが設けられています。すでに、このルールに基づき▼「新型コロナウイルス感染症治療薬であるゾコーバ錠」にかかる特別薬価ルール(関連記事はこちらとこちら)▼「認知症治療薬であるレケンビ点滴静注」に係る特別薬価ルール—が設定されています。

 

投稿者: 大橋医院

2024.09.27更新

国立長寿医療研究センターは8月28日、同センターの「もの忘れ外来」の受診者およびその家族を対象とした研究プロジェクト「NCGG-STORIES(National Center for Geriatrics and Gerontology–Life STORIES of People with Dementia)」について、これまでに論文発表されている複数の研究成果をまとめ、発表した。研究成果は「International Journal of Geriatric Psychiatry」などに掲載されている。

 NCGG-STORIESは2022年から開始されたプロジェクト。対象者は、2010年6月から現在までの十数年間に同センターもの忘れ外来を受診した患者と家族のうち、研究利用に同意の得られた約8,000組で、世界最大規模の基盤研究となる。診療データに加え、ゲノムや頭部MRI情報が含まれており、診断後の医療や介護、緊急入院、終末期ケア、意思決定などのライフストーリーを、公的データやアンケート調査を用いて詳細に追跡している。認知症ケアに関する新しい知見を得て、より適切な医療・介護の提供体制を整え、必要な支援や政策の提言を行い、認知症の人とその家族の生活の質を向上させることを目指している。

 研究だけでなく実践や実装にも活用できる。例えば、得られた知見をもとにした科学的に裏付けられた政策を立案することで、現場でより効果的な支援が提供できるようになる。また、民間企業も知見を活用して、認知症の人やその家族に向けた新しいサービスや製品の開発、既存のサービスの改善を図ることが期待される。これにより、認知症ケアの質の向上とともに、共生社会の実現に向けて、社会全体で認知症の課題に取り組むための基盤強化が期待できる。

MCIや認知症の人の早期死亡を予測するリスクスコア開発

 今回、同センターは研究成果のうち、国際学術誌に掲載された4つについて概要をまとめた。

 1つ目は、認知症の人の早期死亡を予測するリスクスコアの開発(Sugimotoら2023)である。NCGG-STORIESの参加者がもの忘れ外来を初めて訪れた際に収集されたデータを活用し、死亡リスクを予測するモデルを作成した。対象となった2,610人のうち、中央値4.1年の追跡期間で544人が死亡していた。予測モデルには、年齢 (70~79歳:+3点、80~84歳:+4点、85歳以上:+6点)、性別 (男性:+4点)、BMI (やせ:+1点、 過体重:-1点)、歩行速度の低下 (+1点)、身体不活動 (+1点)、手段的日常生活動作の障害 (+1点)、MMSE (認知機能評価) (11~20点:+2点、10点以下:+3点)、肺疾患 (+1点)、糖尿病 (+1点)が含まれた。この予測モデルの点数範囲は-1から19点とされ、この予測モデルの予測力は高いことがわかった。

6つの認知症タイプ別に死亡リスクと死因を解析

 2つ目は、認知症タイプ別の死亡リスクと死因 (Onoら,2023)に関する研究である。NCGG-STORIESから3,229人のデータを用いて、認知機能正常(NC)、軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー病、血管性認知症、レビー小体型認知症(DLB)、前頭側頭葉変性症の6グループ別の死亡リスク、死因、予後因子を検証した。その結果、すべての認知症タイプおよびMCIの人はNCの人に比べて死亡リスクが高く(ハザード比2.61-5.20)、DLBの人はADの人よりもさらに死亡リスクが高いことがわかった。最も一般的な死因は肺炎であり、次いでがんとなった。早期死亡とAPOE4遺伝子保有との関連は認められなかった。この研究結果は、認知症タイプ別の死亡リスクと死因を示す貴重な資料として、今後の高齢者医療の計画と政策策定に役立つことが期待される。

血糖コントロール状況が認知症の人の予後に及ぼす影響も調査

 3つ目は、認知症の人の血糖コントロール状況が予後に及ぼす影響(Sugimotoら,2024)である。血糖管理状況は、日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会が提唱した血糖管理目標値を基準とした。解析対象は1,996人で、そのうち468人が糖尿病を有していた (血糖管理良好群:317人、高血糖群:94人、低血糖群:57人)。調査の結果、非糖尿病患者と比較して、高血糖群および低血糖群は死亡リスクが高いことが示され、血糖管理良好群では、統計的に有意な死亡リスクの増加は見られないことを確認した。このことから、高齢者糖尿病診療ガイドラインに沿った血糖管理を達成することで、糖尿病患者の寿命延伸につながる可能性が明らかになった。

認知症の行動・心理症状を最大8年追跡調査、死亡リスクが高くなる要因判明

 4つ目は、認知症の行動・心理症状 (Noguchiら,2024)に関する研究である。軽度認知障害または認知症の診断を受けた2,746人を最大8年間追跡し、初診時におけるDementia Behavior Disturbance Scaleにより評価した行動・心理症状と早期死亡との関係性を分析した。結果、男性において行動・心理症状が強いと死亡リスクが高く、また症状のうち、日常生活への関心の欠如、日中の過度な睡眠、介護拒否の項目は特に高い死亡リスクと関係した。研究成果は、認知症の人の予後改善に対して行動・心理症状の評価と適切な対処が重要であることを示した。

2024年度から医療と介護のレセプト情報が統合、新たな分析が可能に

 NCGG-STORIES のデータは、2024年度から新たに医療と介護のレセプト情報が統合される。これにより、初診から治療、介護、そして死亡に至るまでの一連の過程を追跡することが可能となり、認知症の人のライフストーリーが明らかになると考えられる。この統合データにより、診断後から死亡に至るまでの介護費用の算出や医療・介護サービスの効果分析も可能になる。「認知症ケアの質を向上させ、認知症の人やその家族により適切な支援を提供するための貴重な科学的根拠が得られることが期待される」と、研究グループは述べている。

提供:QLifePro 医療ニュース

投稿者: 大橋医院

2024.09.27更新

国立長寿医療研究センターは8月28日、同センターの「もの忘れ外来」の受診者およびその家族を対象とした研究プロジェクト「NCGG-STORIES(National Center for Geriatrics and Gerontology–Life STORIES of People with Dementia)」について、これまでに論文発表されている複数の研究成果をまとめ、発表した。研究成果は「International Journal of Geriatric Psychiatry」などに掲載されている。

 NCGG-STORIESは2022年から開始されたプロジェクト。対象者は、2010年6月から現在までの十数年間に同センターもの忘れ外来を受診した患者と家族のうち、研究利用に同意の得られた約8,000組で、世界最大規模の基盤研究となる。診療データに加え、ゲノムや頭部MRI情報が含まれており、診断後の医療や介護、緊急入院、終末期ケア、意思決定などのライフストーリーを、公的データやアンケート調査を用いて詳細に追跡している。認知症ケアに関する新しい知見を得て、より適切な医療・介護の提供体制を整え、必要な支援や政策の提言を行い、認知症の人とその家族の生活の質を向上させることを目指している。

 研究だけでなく実践や実装にも活用できる。例えば、得られた知見をもとにした科学的に裏付けられた政策を立案することで、現場でより効果的な支援が提供できるようになる。また、民間企業も知見を活用して、認知症の人やその家族に向けた新しいサービスや製品の開発、既存のサービスの改善を図ることが期待される。これにより、認知症ケアの質の向上とともに、共生社会の実現に向けて、社会全体で認知症の課題に取り組むための基盤強化が期待できる。

MCIや認知症の人の早期死亡を予測するリスクスコア開発

 今回、同センターは研究成果のうち、国際学術誌に掲載された4つについて概要をまとめた。

 1つ目は、認知症の人の早期死亡を予測するリスクスコアの開発(Sugimotoら2023)である。NCGG-STORIESの参加者がもの忘れ外来を初めて訪れた際に収集されたデータを活用し、死亡リスクを予測するモデルを作成した。対象となった2,610人のうち、中央値4.1年の追跡期間で544人が死亡していた。予測モデルには、年齢 (70~79歳:+3点、80~84歳:+4点、85歳以上:+6点)、性別 (男性:+4点)、BMI (やせ:+1点、 過体重:-1点)、歩行速度の低下 (+1点)、身体不活動 (+1点)、手段的日常生活動作の障害 (+1点)、MMSE (認知機能評価) (11~20点:+2点、10点以下:+3点)、肺疾患 (+1点)、糖尿病 (+1点)が含まれた。この予測モデルの点数範囲は-1から19点とされ、この予測モデルの予測力は高いことがわかった。

6つの認知症タイプ別に死亡リスクと死因を解析

 2つ目は、認知症タイプ別の死亡リスクと死因 (Onoら,2023)に関する研究である。NCGG-STORIESから3,229人のデータを用いて、認知機能正常(NC)、軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー病、血管性認知症、レビー小体型認知症(DLB)、前頭側頭葉変性症の6グループ別の死亡リスク、死因、予後因子を検証した。その結果、すべての認知症タイプおよびMCIの人はNCの人に比べて死亡リスクが高く(ハザード比2.61-5.20)、DLBの人はADの人よりもさらに死亡リスクが高いことがわかった。最も一般的な死因は肺炎であり、次いでがんとなった。早期死亡とAPOE4遺伝子保有との関連は認められなかった。この研究結果は、認知症タイプ別の死亡リスクと死因を示す貴重な資料として、今後の高齢者医療の計画と政策策定に役立つことが期待される。

血糖コントロール状況が認知症の人の予後に及ぼす影響も調査

 3つ目は、認知症の人の血糖コントロール状況が予後に及ぼす影響(Sugimotoら,2024)である。血糖管理状況は、日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会が提唱した血糖管理目標値を基準とした。解析対象は1,996人で、そのうち468人が糖尿病を有していた (血糖管理良好群:317人、高血糖群:94人、低血糖群:57人)。調査の結果、非糖尿病患者と比較して、高血糖群および低血糖群は死亡リスクが高いことが示され、血糖管理良好群では、統計的に有意な死亡リスクの増加は見られないことを確認した。このことから、高齢者糖尿病診療ガイドラインに沿った血糖管理を達成することで、糖尿病患者の寿命延伸につながる可能性が明らかになった。

認知症の行動・心理症状を最大8年追跡調査、死亡リスクが高くなる要因判明

 4つ目は、認知症の行動・心理症状 (Noguchiら,2024)に関する研究である。軽度認知障害または認知症の診断を受けた2,746人を最大8年間追跡し、初診時におけるDementia Behavior Disturbance Scaleにより評価した行動・心理症状と早期死亡との関係性を分析した。結果、男性において行動・心理症状が強いと死亡リスクが高く、また症状のうち、日常生活への関心の欠如、日中の過度な睡眠、介護拒否の項目は特に高い死亡リスクと関係した。研究成果は、認知症の人の予後改善に対して行動・心理症状の評価と適切な対処が重要であることを示した。

2024年度から医療と介護のレセプト情報が統合、新たな分析が可能に

 NCGG-STORIES のデータは、2024年度から新たに医療と介護のレセプト情報が統合される。これにより、初診から治療、介護、そして死亡に至るまでの一連の過程を追跡することが可能となり、認知症の人のライフストーリーが明らかになると考えられる。この統合データにより、診断後から死亡に至るまでの介護費用の算出や医療・介護サービスの効果分析も可能になる。「認知症ケアの質を向上させ、認知症の人やその家族により適切な支援を提供するための貴重な科学的根拠が得られることが期待される」と、研究グループは述べている。

提供:QLifePro 医療ニュース

投稿者: 大橋医院

2024.09.27更新

免疫系の異常により、自分の細胞を間違って攻撃してしまう自己免疫疾患のひとつです。
主に脳や脊髄、視神経などに炎症が生じ、中枢神経系の組織が障害される病気です。発症に関わる自己抗体は発見されていません。

疫学(日本)
患者数 約17,600人1)
有病率 14.3人/10万人2)
発症年齢 30歳前後1)
男女比 1:2~31)
原因(病態)
免疫系の異常により、中枢神経系のニューロン(神経細胞)の軸索を覆うミエリン髄鞘 ずいしょうが攻撃を受けて脱落(脱髄だつずい)し、神経活動における情報がスムーズに伝わらなくなる病気です。
MS特有の自己抗体は見つかっていません。

:MSの原因(イメージ図)


中枢神経系:脳、脊髄からなり、全身の神経ネットワークの司令塔としての働きを担っています。
軸索:神経の情報を伝える電線のようなものです。
ミエリン:軸索を守る“電線のカバー”のようなものです。ミエリンが脱落すると、軸索がむき出しになり、情報がうまく伝わらなくなります。

症状
中枢神経系で、ミエリンが脱落した部位や程度によって、あらわれる神経症状はさまざまであり、症状のタイプや程度も一人ひとり異なります(図2)。

:MSの症状の特徴1, 2)


見た目ではわからない症状も多く、人から理解してもらえないことが多いため、孤独を感じる患者さんも少なくありません。

経過
MSは再発・寛解を繰り返し、一部、慢性的に進行する方もいます。

発症後の経過から「再発寛解型(RR)MS」と「一次性進行型(PP)MS」に大きく分けられます(図3)。
RRMSは再発と寛解を繰り返す型で、多くのMS患者さんがこの型です。RRMS患者さんの15%は、進行性の「二次性進行型(SP)MS」に移行します3)。 一方、PPMSは進行性の型で、一部の患者さんがこの型です。
MSでは、繰り返す再発や障害の蓄積・進行を抑えることが重要です。

:MSの経過:病型別(イメージ図)


【出典】
1)難病情報センターホームページ(2024年4月現在)
2)多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン2023. p. 4-6.
3)Houzen H et al. Mult Scler Relat Disord. 2023; 73:104696.

投稿者: 大橋医院

2024.09.27更新

尿失禁
女性に多い代表的な症状に尿失禁があります。くしゃみや咳など腹圧がかかった拍子に尿が漏れてしまう腹圧性尿失禁、急に我慢できないほど強い尿意が起きてトイレまで間に合わない切迫性尿失禁などがあります。尿失禁は改善できる病気です。生活の質を著しく低下させるため、早めに専門医を受診しましょう。

腹圧性尿失禁
膀胱・子宮・直腸・膣を支える骨盤底筋群、排尿をコントロールする尿道括約筋はどちらも筋肉ですから、加齢によって筋力が衰えますし、出産でダメージを受けやすく、機能低下を起こしやすくなっています。機能低下している状態で急に強い腹圧がかかると尿漏れが起こります。

症状
急に強い腹圧がかかる咳・くしゃみ・ジャンプ・重いものを持つなどの際に尿漏れが起こります。

診察
パッドテストやチェーン膀胱造影により、尿漏れの状態や膀胱と尿道の位置を確認します。
パッドテストは、500mlの水分を摂取し、パッドをつけて1時間ほど決められた動作を行っていただいた上でパッドの重さを測定してレベルを判定します。2g以下の場合は尿漏れがないと判断され、軽度(2.1~5g)、中等度(5.1~10g)、重度(10.1g以上)となります。なお、パッドテストは生理中には行えません。
チェーン膀胱造影は、造影剤を用いたレントゲン検査です。膀胱の位置、膀胱と尿道の角度などを確認できます。

治療
トレーニングや干渉低周波治療、薬物療法、手術などがあり、症状や状態、年齢などを考慮した上で適切な治療法を組み合わせて行います。重度の場合もTVT手術やTOT手術など簡単な手術でほとんどの場合、治すことができます。肥満も腹圧がかかりやすくなるため、肥満がある場合にはその解消も重要です。

骨盤底筋トレーニング
筋力を回復させて症状を改善に導くトレーニングです。軽度の腹圧性尿失禁の場合、通常は3ヶ月程度のトレーニングである程度の効果が見込めます。

干渉低周波治療
干渉低周波を用いて骨盤底筋を強化する治療法で、一般的にはトレーニングの補助的な治療として用いられます。

薬物治療
膀胱の強すぎる収縮力を少しだけ抑えるもの、尿道括約筋の締りを改善するものなどがあります。トレーニングの補助として用いられることが多くなっています。

TVT法(手術)
腹圧がかかった際に尿道が大きく移動しないよう、尿道と膣の間にテープを挿入して支えることで尿失禁を防止します。小さな切開を膣と下腹部の3ヶ所に行うだけですからお身体への負担が小さく、再発率が低いため最も多く用いられている手法です。

コラーゲン注入
内視鏡を用いてコラーゲンを注入し、膀胱の出口を狭くして尿漏れを防止する方法です。切開せずに行えますが、手術のTVT法に比べると再発率が高いとされています。

切迫性尿失禁
いきなり強い尿意が起こってトイレに間に合わず、尿漏れが起こる状態です。排尿抑制の指令に関する問題によって起こっているケース、膀胱の過敏状態により起こっているケースがあります。
排尿抑制の指令は、大脳から発せられて膀胱に伝わりますが、指令がうまく発せられない、あるいは膀胱にうまく伝わらないと膀胱が勝手に収縮して排尿する無抑制収縮を起こします。これは脳梗塞、脊髄疾患などの疾病によって起こることが多くなっています。症状を起こさない微少脳梗塞によって無抑制収縮を生じている場合もあります。
また、膀胱が過敏になって起こっているケースでは、過活動膀胱が多くなっていますが、他に原因疾患として膀胱炎などがある可能性があります。また、原因が特定できない場合は、不安定膀胱とされます。

症状
強い尿意が急激に生じてトイレに間に合わず、尿漏れが起こります。手洗いなど水の流れる音や感触などがきっかけになって強い尿意が起こるケースもあります。

診察
症状や尿漏れが起こるきっかけなどについてうかがっていきます。その後、膀胱内圧測定を行って確定診断となります。膀胱内圧測定は生理食塩水を膀胱に注入して圧を測定する検査です。

治療
抗コリン薬やβ3(ベータスリー)受容体作動薬などを用いた薬物療法が中心になります。膀胱の収縮を抑制する薬は効果が現れやすいのですが、唾液分泌が減る副作用があるため、長期服用や高齢者の服用が難しいこともあります。他に、飲水コントロール、骨盤底筋訓練、膀胱訓練や排尿記録などの行動療法などを行うこともあります。

女性に多いその他の泌尿器疾患
過活動膀胱
女性に多いその他の泌尿器疾患トイレが近い、夜中にトイレに起きる、急に強い尿意が起こるなどの症状を生じる病気です。尿漏れを起こす切迫性尿失禁が起こることもあります。尿がたまる前に膀胱が収縮してしまう状態を過活動膀胱と呼びますが、こうした症状は膀胱炎や結石、がんなどでも起こりますので、必ず専門医を受診してください。また、過活動膀胱は治療によって改善できますので、お気軽にご相談ください。

神経因性膀胱
排尿時には勢いよく出すという仕組みそのものに不具合が生じ、尿漏れ・排尿しにくい・残尿感など、排尿に関する症状が起こります。放置していると腎臓にダメージを及ぼす可能性があります。また、原因疾患として脳血管障害の後遺症、脊髄障害、パーキンソン病などがあることも考えられます。症状があったら早めに受診してください。

心因性頻尿
不安や緊張などストレスによって尿意を頻繁に感じてしまう状態です。誰でも緊張すると尿意を感じやすくなりますが、それが日常的に起こるようになると通勤や通学、会議や試験など、トイレに行きにくい環境につい不安を感じるなど生活に支障を及ぼすことがあります。尿意への不安があることで尿意をさらに強く感じ、意識するようになるという悪循環を生みやすいので早めに専門医を受診するようおすすめしています。

尿路結石症
女性はその生涯で10人に1人が尿路結石症になるとされており、女性の尿路結石症は増加傾向にあります。症状には、頻尿、血尿、下腹部痛、わき腹の痛みがあります。激痛が起こることもしばしばありますが、無症状のケースもあります。結石が排出されると痛みはなくなりますが、再発しやすく、適切な治療を受けずにいると腎機能低下を起こすことがあります。

腎盂腎炎
腎臓は実質的な組織である腎実質、尿が流れる道の尿路の一部である腎盂腎杯に分けられます。腎盂腎炎は、腎実質や腎盂腎杯が細菌などに感染して炎症を起こしている状態です。膀胱炎や尿路感染症によって起こることもあります。症状は、頻尿、残尿感、排尿痛、血尿、尿の白濁、背中や腰の痛み、発熱、寒気、吐き気、脱水などがあります。腎盂内に尿がうっ滞している場合や高熱があって脱水を起こしている場合には入院が必要になることもあります。

腎機能障害
腎機能障害は腎臓の働きが悪くなって機能が低下した状態を指します。腎機能に障害が起こると腎不全となりますが、これには急性腎不全と慢性腎不全があって、どちらも機能を十分に回復させるためには早期の治療が必須です。また、尿がうまく出ない、尿が全く出ないなど急性腎不全の場合には、速やかに受診する必要があります。慢性腎不全は初期の自覚症状が乏しいため、排尿に関する違和感があったら泌尿器科を早めに受診するよう心がけてください。進行すると頻尿、夜間トイレに起きる、顔や足にむくみがある、疲れやすい、食欲が落ちた、息が切れるなどが現れます。こうした症状があったら、できるだけ早く泌尿器科を受診しましょう。

骨盤臓器脱
膀胱や子宮、直腸などの臓器は骨盤底筋群という強力な筋肉や靭帯に支えられています。この骨盤底筋は、出産でダメージを受けたり、加齢や閉経によって衰えることがあります。骨盤底筋が弱くなってゆるんでしまうと膀胱や子宮、直腸などを支えきれなくなって、膣から飛び出してくることがあります。これが骨盤臓器脱で、飛び出してしまう臓器によって膀胱脱、子宮脱、直腸脱と呼ばれることがあります。軽度の症状には下腹部の違和感、頻尿、残尿感、便秘などがあり、脱出の程度が重くなると出血やかゆみなども起こります。早期であればより負担の少ない治療で改善できるため、早めにご相談ください

投稿者: 大橋医院

2024.09.27更新

023年11月22日、補体(C5)阻害薬ジルコプランナトリウム(商品名ジルビスク皮下注16.6mgシリンジ、同皮下注23.0mgシリンジ、同皮下注32.4mgシリンジ)が薬価収載された。同薬は、9月25日に製造販売が承認されていた。適応は「全身型重症筋無力症(ステロイド薬又はステロイド薬以外の免疫抑制薬が十分に奏効しない場合に限る)」、用法用量は「成人に、次に示す用量を1日1回皮下投与する。体重56kg未満は16.6mg、56kg以上77kg未満は23.0mg、77kg以上は32.4mg」となっている。

 重症筋無力症(MG)は神経筋接合部のシナプス後膜上にある、いくつかの標的抗原に対する自己抗体の作用により、神経筋接合部の刺激伝達が障害されて生じる自己免疫性疾患である。自己抗体のアセチルコリン受容体(AChR)抗体と筋特異的受容体型チロシンキナーゼ(MuSK)抗体が、MGの病因として病原性を認められており、日本のMG患者全体の約80~85%はAChR抗体陽性とされている。さらに、日本のMG患者のうち、約20%は眼筋に症状が限局した眼筋型MG(眼瞼下垂、複視など)、残りの約80%は広く随意筋に障害が及ぶ全身型MG(運動、発語、嚥下および呼吸障害など)に分けられている。

 現在、全身型MGの薬物治療としては、プレドニゾロン(プレドニン他)などの経口ステロイドを中心に、タクロリムス水和物(プログラフ他)やシクロスポリン(ネオーラル他)といった経口免疫抑制薬、アンベノニウム塩化物(マイテラーゼ)などの抗コリンエステラーゼ薬、血漿交換、ポリエチレングリコール処理人免疫グロブリン(献血ヴェノグロブリンIH)、乾燥ポリエチレングリコール処理人免疫グロブリン(献血グロベニン-I)、遺伝子組換え製剤の抗補体(C5)モノクローナル抗体エクリズマブ(ソリリス)およびラブリズマブ(ユルトミリス)、遺伝子組換え製剤の抗胎児性Fc受容体抗体フラグメント製剤エフガルチギモドアルファ(ウィフガート)などが臨床使用されている。

 ジルコプランは補体成分C5を阻害する、15個のアミノ酸から構成される大環状ペプチドである。既存のC5阻害薬エクリズマブやラブリズマブが静注製剤であることに対し、日本初の自己注射が可能な皮下注製剤である。

 全身型MGは、主に自己抗体がAChRに結合することでC5などの補体が活性化し、シナプス後膜に膜侵襲複合体(MAC)が形成される。MACが蓄積することで運動終板が破壊、神経伝達の抑制により発症する。ジルコプランは補体C5に結合し、C5aおよびC5bへの開裂の阻害による下流の補体活性化の抑制、並びにC5bとC6の結合阻害によりMAC形成と細胞溶解活性を抑制する。

 抗AChR抗体陽性の18歳以上の全身型MG患者を対象とした、国際共同第III相二重盲検試験(MG0010)において、同薬の有効性および安全性が確認された。2023年9月に、日本において世界初となる承認を取得した。

 重大な副作用として、重篤な感染症(1.4%)、膵炎、重篤な過敏症(各0.5%)が報告されている。その他の副作用として、主なものに注射部位反応(内出血、疼痛など:22.2%)、感染症(上気道感染、上咽頭炎、副鼻腔炎、尿路感染など:5%以上)などがある。また、重大なものとして、髄膜炎菌感染症の可能性があるので、十分注意する必要がある。

 薬剤使用に際して、下記の事項についても留意しておかなければならない。

●抗AChR抗体陽性の患者に投与すること(添付文書の「効能又は効果に関連する注意」の項を参照)

●原則として、投与開始の少なくとも2週間前までに、髄膜炎菌に対するワクチンを接種すること(添付文書の「効能又は効果に関連する注意」の項を参照)

●投与開始12週後までに症状の改善が認められない場合には、他の治療法への切り替えを考慮すること(添付文書の「用法及び用量に関連する注意」の項を参照)

●投与中は、定期的に膵酵素(血清アミラーゼ、血清リパーゼ)を測定し、上昇が認められた場合には、適切な処置を行うこと(添付文書の「重要な基本的注意」の項を参照)

●自己注射の適用に関しては、添付文書の「重要な基本的注意」を参照すること

●承認までの治験症例が極めて限られていることから、有効性及び安全性に関するデータ収集のために、全使用症例で使用成績調査を実施すること

●医薬品リスク管理計画書(RMP)では、重要な潜在的リスクとして「重篤な感染症」が挙げられている

投稿者: 大橋医院

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