尿失禁
女性に多い代表的な症状に尿失禁があります。くしゃみや咳など腹圧がかかった拍子に尿が漏れてしまう腹圧性尿失禁、急に我慢できないほど強い尿意が起きてトイレまで間に合わない切迫性尿失禁などがあります。尿失禁は改善できる病気です。生活の質を著しく低下させるため、早めに専門医を受診しましょう。
腹圧性尿失禁
膀胱・子宮・直腸・膣を支える骨盤底筋群、排尿をコントロールする尿道括約筋はどちらも筋肉ですから、加齢によって筋力が衰えますし、出産でダメージを受けやすく、機能低下を起こしやすくなっています。機能低下している状態で急に強い腹圧がかかると尿漏れが起こります。
症状
急に強い腹圧がかかる咳・くしゃみ・ジャンプ・重いものを持つなどの際に尿漏れが起こります。
診察
パッドテストやチェーン膀胱造影により、尿漏れの状態や膀胱と尿道の位置を確認します。
パッドテストは、500mlの水分を摂取し、パッドをつけて1時間ほど決められた動作を行っていただいた上でパッドの重さを測定してレベルを判定します。2g以下の場合は尿漏れがないと判断され、軽度(2.1~5g)、中等度(5.1~10g)、重度(10.1g以上)となります。なお、パッドテストは生理中には行えません。
チェーン膀胱造影は、造影剤を用いたレントゲン検査です。膀胱の位置、膀胱と尿道の角度などを確認できます。
治療
トレーニングや干渉低周波治療、薬物療法、手術などがあり、症状や状態、年齢などを考慮した上で適切な治療法を組み合わせて行います。重度の場合もTVT手術やTOT手術など簡単な手術でほとんどの場合、治すことができます。肥満も腹圧がかかりやすくなるため、肥満がある場合にはその解消も重要です。
骨盤底筋トレーニング
筋力を回復させて症状を改善に導くトレーニングです。軽度の腹圧性尿失禁の場合、通常は3ヶ月程度のトレーニングである程度の効果が見込めます。
干渉低周波治療
干渉低周波を用いて骨盤底筋を強化する治療法で、一般的にはトレーニングの補助的な治療として用いられます。
薬物治療
膀胱の強すぎる収縮力を少しだけ抑えるもの、尿道括約筋の締りを改善するものなどがあります。トレーニングの補助として用いられることが多くなっています。
TVT法(手術)
腹圧がかかった際に尿道が大きく移動しないよう、尿道と膣の間にテープを挿入して支えることで尿失禁を防止します。小さな切開を膣と下腹部の3ヶ所に行うだけですからお身体への負担が小さく、再発率が低いため最も多く用いられている手法です。
コラーゲン注入
内視鏡を用いてコラーゲンを注入し、膀胱の出口を狭くして尿漏れを防止する方法です。切開せずに行えますが、手術のTVT法に比べると再発率が高いとされています。
切迫性尿失禁
いきなり強い尿意が起こってトイレに間に合わず、尿漏れが起こる状態です。排尿抑制の指令に関する問題によって起こっているケース、膀胱の過敏状態により起こっているケースがあります。
排尿抑制の指令は、大脳から発せられて膀胱に伝わりますが、指令がうまく発せられない、あるいは膀胱にうまく伝わらないと膀胱が勝手に収縮して排尿する無抑制収縮を起こします。これは脳梗塞、脊髄疾患などの疾病によって起こることが多くなっています。症状を起こさない微少脳梗塞によって無抑制収縮を生じている場合もあります。
また、膀胱が過敏になって起こっているケースでは、過活動膀胱が多くなっていますが、他に原因疾患として膀胱炎などがある可能性があります。また、原因が特定できない場合は、不安定膀胱とされます。
症状
強い尿意が急激に生じてトイレに間に合わず、尿漏れが起こります。手洗いなど水の流れる音や感触などがきっかけになって強い尿意が起こるケースもあります。
診察
症状や尿漏れが起こるきっかけなどについてうかがっていきます。その後、膀胱内圧測定を行って確定診断となります。膀胱内圧測定は生理食塩水を膀胱に注入して圧を測定する検査です。
治療
抗コリン薬やβ3(ベータスリー)受容体作動薬などを用いた薬物療法が中心になります。膀胱の収縮を抑制する薬は効果が現れやすいのですが、唾液分泌が減る副作用があるため、長期服用や高齢者の服用が難しいこともあります。他に、飲水コントロール、骨盤底筋訓練、膀胱訓練や排尿記録などの行動療法などを行うこともあります。
女性に多いその他の泌尿器疾患
過活動膀胱
女性に多いその他の泌尿器疾患トイレが近い、夜中にトイレに起きる、急に強い尿意が起こるなどの症状を生じる病気です。尿漏れを起こす切迫性尿失禁が起こることもあります。尿がたまる前に膀胱が収縮してしまう状態を過活動膀胱と呼びますが、こうした症状は膀胱炎や結石、がんなどでも起こりますので、必ず専門医を受診してください。また、過活動膀胱は治療によって改善できますので、お気軽にご相談ください。
神経因性膀胱
排尿時には勢いよく出すという仕組みそのものに不具合が生じ、尿漏れ・排尿しにくい・残尿感など、排尿に関する症状が起こります。放置していると腎臓にダメージを及ぼす可能性があります。また、原因疾患として脳血管障害の後遺症、脊髄障害、パーキンソン病などがあることも考えられます。症状があったら早めに受診してください。
心因性頻尿
不安や緊張などストレスによって尿意を頻繁に感じてしまう状態です。誰でも緊張すると尿意を感じやすくなりますが、それが日常的に起こるようになると通勤や通学、会議や試験など、トイレに行きにくい環境につい不安を感じるなど生活に支障を及ぼすことがあります。尿意への不安があることで尿意をさらに強く感じ、意識するようになるという悪循環を生みやすいので早めに専門医を受診するようおすすめしています。
尿路結石症
女性はその生涯で10人に1人が尿路結石症になるとされており、女性の尿路結石症は増加傾向にあります。症状には、頻尿、血尿、下腹部痛、わき腹の痛みがあります。激痛が起こることもしばしばありますが、無症状のケースもあります。結石が排出されると痛みはなくなりますが、再発しやすく、適切な治療を受けずにいると腎機能低下を起こすことがあります。
腎盂腎炎
腎臓は実質的な組織である腎実質、尿が流れる道の尿路の一部である腎盂腎杯に分けられます。腎盂腎炎は、腎実質や腎盂腎杯が細菌などに感染して炎症を起こしている状態です。膀胱炎や尿路感染症によって起こることもあります。症状は、頻尿、残尿感、排尿痛、血尿、尿の白濁、背中や腰の痛み、発熱、寒気、吐き気、脱水などがあります。腎盂内に尿がうっ滞している場合や高熱があって脱水を起こしている場合には入院が必要になることもあります。
腎機能障害
腎機能障害は腎臓の働きが悪くなって機能が低下した状態を指します。腎機能に障害が起こると腎不全となりますが、これには急性腎不全と慢性腎不全があって、どちらも機能を十分に回復させるためには早期の治療が必須です。また、尿がうまく出ない、尿が全く出ないなど急性腎不全の場合には、速やかに受診する必要があります。慢性腎不全は初期の自覚症状が乏しいため、排尿に関する違和感があったら泌尿器科を早めに受診するよう心がけてください。進行すると頻尿、夜間トイレに起きる、顔や足にむくみがある、疲れやすい、食欲が落ちた、息が切れるなどが現れます。こうした症状があったら、できるだけ早く泌尿器科を受診しましょう。
骨盤臓器脱
膀胱や子宮、直腸などの臓器は骨盤底筋群という強力な筋肉や靭帯に支えられています。この骨盤底筋は、出産でダメージを受けたり、加齢や閉経によって衰えることがあります。骨盤底筋が弱くなってゆるんでしまうと膀胱や子宮、直腸などを支えきれなくなって、膣から飛び出してくることがあります。これが骨盤臓器脱で、飛び出してしまう臓器によって膀胱脱、子宮脱、直腸脱と呼ばれることがあります。軽度の症状には下腹部の違和感、頻尿、残尿感、便秘などがあり、脱出の程度が重くなると出血やかゆみなども起こります。早期であればより負担の少ない治療で改善できるため、早めにご相談ください