2024.10.03更新

急性骨髄性白血病は、正常なら好中球、好塩基球、好酸球、単球と呼ばれる種類の白血球に成長する細胞ががん化して、短期間のうちに骨髄の正常な細胞を締め出してしまう、生命を脅かす病気です。

疲労感を覚えたり、顔色が青白くなったり、感染や発熱を起こしやすくなったり、あざや出血を起こしやすくなることがあります。

診断には血液検査と骨髄検査が必要です。

治療としては、寛解を得るための化学療法に加え、再発を避けるための追加の化学療法や、ときに造血幹細胞移植を行います。

(白血病の概要も参照のこと。)

急性骨髄性白血病(AML)はどの年齢層でもみられますが、成人の白血病では最も多いタイプです。ときに、別のがんの治療として行われた化学療法や放射線療法が原因でAMLが発生することもあります。

AMLでは、未熟な白血球が急速に骨髄に蓄積して、以下のいずれかの正常な血球に成長する細胞を破壊して締め出します。

赤血球:全身の組織に酸素を運んでいる血球

白血球:体を感染から守っている血球

血小板:血液凝固のプロセスを助けている細胞のような微細な粒子

がん化した白血球は正常な白血球のようには機能しません。そのため、白血球が増加しているように見えても、正常な白血球は減少しているため、感染に対する抵抗力は低下しています。

白血病細胞は血流に乗ってほかの臓器にも運ばれ、そこで成長と分裂を続けます。

AMLにはいくつかの種類(亜型)があり、白血病細胞の特徴を基に識別されます。

急性前骨髄球性白血病は、AMLの重要な亜型の1つです。この亜型では、前骨髄球(成熟した好中球に成長する初期段階の細胞)が染色体変異を起こし、これらの未熟な細胞が蓄積されるようになります。

AMLの症状
AMLの最初の症状は、急性リンパ性白血病のそれとよく似ていて、骨髄で正常な血球が十分に作られないことが原因で生じます。

発熱と大量発汗は感染を示唆している場合があり、 感染は正常な白血球が減りすぎることで起こる場合があります。

脱力、疲労、蒼白は、赤血球が減りすぎること(貧血)で起こる場合があります。呼吸が困難になったり、心拍数が速くなったり、胸に痛みが出たりする場合もあります。

血小板が極端に少なくなるために(血小板減少症)、あざや出血が生じやすくなり、ときには鼻血や歯ぐきからの出血がみられます。一部の患者では、脳や腹部の中で出血が起きることもあります。

白血病細胞は他の臓器に侵入することがあります。白血病細胞が骨髄で増殖すると、骨痛や関節痛を生じることがあります。白血病細胞によって肝臓や脾臓が腫れて大きくなると、腹部膨満感や腹痛が生じることがあります。白血病細胞によって、皮膚の表層付近(皮膚白血病)や歯ぐき、眼の中を含む全身のいたるところで小さなかたまりができることがあります。

皮膚白血病


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AML細胞は、髄膜(脳と脊髄を覆う組織)に広がって白血病性髄膜炎を引き起こすことがあり、その場合は以下の症状がみられます。

頭痛

嘔吐

脳卒中

視覚、聴覚、および顔面筋の障害(白血病性髄膜炎)

急性前骨髄球性白血病と呼ばれるAMLの亜型では、出血や血液凝固の問題がよくみられます。

AMLの診断
血液検査

骨髄検査

AMLの診断も急性リンパ性白血病の診断と同様です。各種の白血球の数の測定などを行う、血算といわれる検査を実施します。ほぼ常に骨髄検査を行って、AMLの診断を確定し、他の種類の白血病と鑑別します。未熟な白血球(芽球)を検査して染色体異常がないか調べますが、その結果は白血病の種類を特定し、治療に用いる薬剤を選定するのに役立ちます。

腫瘍マーカーや電解質異常を含めた血液検査や尿検査も行われ、AMLに関連する異常がほかにないか判定します。

画像検査も必要になる場合があります。脳に白血病細胞が伸展していることを示す症状があれば、CT検査やMRI検査を行います。胸部のCT検査を実施して、肺の周囲に白血病細胞がないか調べることもあります。内臓が腫大していかどうかを判定するため、腹部のCT検査、MRI検査、超音波検査が行われます。化学療法薬は心臓に影響を及ぼすことがあるため、化学療法を開始する前に心エコー検査(心臓の超音波検査)を行うことがあります。

AMLの予後(経過の見通し)
治療をしない場合、大半の患者が診断後数週間から数カ月で死に至ります。治療によって、20~40%の患者が再発せずに5年以上生存できます。強力な治療を行った場合、若い人では40~50%が5年以上生存できます。再発はほぼ必ず最初の治療から5年以内に起こるため、5年を過ぎても白血病が再発しない場合は治癒したと考えられます。

生存期間と最も強く関連する要因は、白血病細胞にみられる遺伝子異常の種類です。65歳以上の場合、血液検査で白血球数が多いなどの特定の結果が出た場合、別のがんのために化学療法と放射線療法を受けた後にAMLを発症した場合、また骨髄異形成症候群が先行して認められている場合は、予後が非常に悪くなります。

急性前骨髄球性白血病は、かつて白血病で最も悪性のものだと考えられていました。現在では、AMLの中で最も治癒の可能性が高い白血病です。急性前骨髄球性白血病の70%以上が治ります。早期診断が極めて重要です。

AMLの治療
化学療法

造血幹細胞移植

AMLの治療では、速やかに寛解を得る(ほぼすべての白血病細胞を破壊する)ことが目標になります。ただし、治療でよくなる前に、健康状態が悪くなることもよくあります。

また、治療によって骨髄の機能が抑制されて白血球(特に好中球)が非常に少なくなります。好中球が少なすぎると、感染を起こしやすくなります。治療により粘膜(口腔内など)も剥がれて、細菌が侵入しやすくなります。感染を予防するために細心の注意を払い、感染した場合は速やかに治療します。赤血球と血小板の輸血も必要になります。

寛解導入化学療法がAML治療の最初の段階です。一般的に使用される化学療法薬には、シタラビンやダウノルビシン(またはイダルビシンやミトキサントロン)などがあります。シタラビンは持続点滴で7日間投与し、ダウノルビシンは静脈内投与を3日間行います。そのほかにも、ミドスタウリンやゲムツズマブ・オゾガマイシン、デシタビン、アザシチジン、ベネトクラクス、グラスデギブ(glasdegib)などが(特に高齢の患者や特定の種類のAMLに)使用されることがあります。

地固め化学療法は、AMLが寛解状態になってから行われます。通常は、白血病細胞ができるだけ多く破壊されるようにするために、初回治療の数週間後からさらに化学療法を数コース追加します。

同種造血幹細胞移植(「同種」とは、ほかの人からの幹細胞であるという意味です)は、再発のリスクが高い一部の人で寛解導入療法と地固め療法の後に行われます。しかし、組織型が適合した(ヒト白血球抗原[HLA]が一致した)人から幹細胞が得られる場合にしか、移植することができません。幹細胞のドナー(提供者)は兄弟姉妹の場合が普通ですが、HLAが適合する他者から提供を受ける場合もあり、ときには、HLAの一部が適合しない家族や他人から提供を受けたり、へその緒に含まれる臍帯血(さいたいけつ)幹細胞を使用したりすることもあります。

急性リンパ性白血病とは異なり、成人での脳に対する予防的治療は、通常必要ありません。また、低用量の長期化学療法(維持療法)によって生存率は向上しないことが示されています。

急性前骨髄球性白血病では、全トランス型レチノイン酸(トレチノイン)と呼ばれる種類のビタミンAで治療することができます。 特に診断時に白血球数が多い場合や白血球が突然増加した場合は、化学療法に全トランス型レチノイン酸が併用される頻度が高くなります。急性骨髄性白血病のうち、この亜型のAMLに限っては三酸化ヒ素も効果的です。

再発
治療による効果がみられない場合や、寛解には至ったものの再発の可能性が高い(一般に、特定の染色体異常が認められている場合)と考えられる若い人では、化学療法薬の大量投与に続けて造血幹細胞移植が行われます。

造血幹細胞移植を実施できない再発患者には追加の化学療法を行いますが、しばしば治療に体が耐えられず、効果も得られにくくなります。若年者の場合および最初の寛解が1年以上続いている場合は、追加の化学療法で高い効果が得られます。再発したAML患者に追加の集中化学療法を行うべきかどうかを判断する際には、多くの要素が考慮されます。

さらなる情報

投稿者: 大橋医院

2024.10.03更新

体外衝撃波治療はrTMSと同様にPI3K-Akt経路を活性化させる
 これまでの連載で、うつ病や発達障害などの近年増加している精神疾患には炎症が関与していること、酸化ストレス除去に中心的な役割を果たすNrf2を活性化すると炎症が抑制されることを解説しました。また前回の連載(第35回)で、うつ病に対する物理学的治療法であるrTMS(repetitive transcranial magnetic stimulation)は、脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor:BDNF)の受容体であるTrkBの下流に存在するPI3K-Akt経路を活性化し、GSK3βの抑制を通じてNrf2を活性化することで抗うつ効果の作用機序の一部となっていることを解説しました。

 では、rTMSという物理学的治療により、抗うつ効果をもたらすことができるのであれば、他の物理学的治療、例えば衝撃波でも同様の効果をもたらすことはできるのでしょうか。

 衝撃波とは、音速を超える物体から生じる圧力の波で音波の一種です。過去には衝撃波は体外衝撃波結石破砕術(Extracorporeal Shock Wave Lithotripsy:ESWL)として胆石や尿路結石の破砕に用いられていましたが、近年は、ESWLの1/10以下のエネルギー量で行われる体外衝撃波治療(Extracorporeal Shock Wave Therapy:ESWT)が主流となっており、またESWTは抗炎症作用を持つことが報告されています1)。日本でも2012年に難治性足底腱膜炎に対するESWTが保険収載されています。

 ESWTは腱炎、偽関節、早期の無腐性大腿骨頭壊死など、主に腱や骨に対する治療法として整形外科領域で使用されています。ESWTの作用機序は、衝撃波により細胞に対して圧力、引張力、せん断力などの物理的影響が加わることでインテグリンやカドヘリンなどの細胞接着分子が影響を受け、その刺激を起点として細胞内でYAP/TAZなどの転写共役因子が活性化され、さまざまな遺伝子の発現が調整される一連の伝達経路、つまりメカノトランスダクションによると考えられています2,3)。細胞に対する物理刺激によってYAP/TAZが活性化されると、cyclic GMP-AMP synthase-stimulator of interferon gene(cGAS-STING)経路が抑制され、STINGが抑制されれば炎症性サイトカインを転写する因子であるNF-κBの核内への移行が阻害されるため、抗炎症作用が発揮されます3,4)。

 ESWTは抗炎症作用だけではなく、血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)やBDNFを増加させることが報告されています5,6)。そのため脊髄損傷などによる末梢の神経細胞に対する再生作用が期待されており7)、実際に脊髄損傷に対するESWTの治験が計画されています8)。ESWTはrTMSと同様にPI3K-Akt経路を活性化することが報告されているため9)、うつ病にも有効かもしれません。

衝撃波を頭蓋内に到達させる技術の開発で脳の局所刺激が可能に
 しかし、脳は頭蓋骨で覆われており、頭蓋外から衝撃波を当て、脳内に刺激が到達するのでしょうか。それについては経頭蓋集束超音波刺激(transcranial focused ultrasound stimulation:tFUS)という装置があり、頭蓋外から脳の深部にあるターゲットとなる脳組織へ集束した超音波を発射し、超音波の熱でそれを凝固させる、パーキンソン病や本態性振戦の治療法があります。衝撃波も超音波と同じく音波の一種なので、超音波が頭蓋骨を通過するならば衝撃波も通過できる可能性があります。

 この問題をスイスのStorz medical社が解決しました。Storz medical社はNeurolithという経頭蓋パルス刺激(transcranial pulse stimulation:TPS)を開発し、頭皮に装置を押し当て脳内へ向けて衝撃波を発射することで、頭皮から計測して8cmまでの深さで脳を刺激できることを示しました。この技術により脳の局所刺激が可能となりました。また、8cmあれば側頭葉内側にある海馬に到達させることもできます。さらには、超音波は多数の振動を伴う連続波で熱を発生させますが、衝撃波は単一の圧力パルスであるため、ほとんど熱を発生させません。2018年12月にStorz medical社は神経疾患の治療のための機器として、Neurolithの欧州連合(EU)のCEマークを取得しました。

 TPSは現在様々な脳疾患への臨床研究がなされていますが、その中で最も研究が進んでいるのはアルツハイマー病です。今回はTPSのアルツハイマー病に対するシステマティックレビューを紹介し、うつ病への展開について解説します10)。

投稿者: 大橋医院

2024.10.03更新

<多発性硬化症>
概要
多発性硬化症(Multiple Sclerosis:MS)は視力障害、感覚障害、運動麻痺などさまざまな神経症状の再発と寛解を繰り返す、厚生労働省が指定する難病の1つです。
病気の経過に応じて“再発寛解型”“一次性進行型”“二次性進行型”に分類され、再発寛解型は症状が現れては治ることを繰り返し、日本ではそのうちの約20%が数十年後に二次性進行型へと移行するといわれています。
二次性進行型では、はじめは症状が現れたり、治ったりを繰り返す再発寛解型を示しますが、次第に再発せずに、ゆっくりと体の障害が進行するようになります。一方、一次性進行型ははじめから障害が継続して進行するタイプです。
詳細な原因は分かっていないものの、何らかの免疫異常によって中枢神経のさまざまな部位に脱髄(だつずい)が繰り返し引き起こされ、症状が現れると考えられています。
よく似た病気として、視神経脊髄炎(NMO)や抗MOG抗体陽性脱髄疾患などが挙げられ、診断の際には鑑別が必要です。多発性硬化症は欧米人に多い病気ですが、日本でも約12,000人の患者がいると推定されています。平均発症年齢は30歳前後で、20歳代で発症する方がもっとも多いといわれています。女性の患者の割合が高く、男性の2~3倍程度と報告されています。
近年では、治療薬の選択肢が広がるとともに、日常生活を改善する治療法が確立されつつあります。
原因
現在のところ、多発性硬化症が発症する正確な原因は分かっていません(2020年12月時点)。しかし、免疫の異常がその発症に関わっていると考えられています。
多発性硬化症は、神経線維を覆う髄鞘(ずいしょう)(ミエリン)という部分が破壊される病気です。神経線維は、神経活動の刺激を伝える軸索と、それを節状に覆う髄鞘によって構成されています。多発性硬化症が起こると、本来自己を守るはずの免疫システムが髄鞘を攻撃して軸索がむき出しの状態になる“脱髄”が引き起こされます。脱髄が起こると神経伝導がうまくいかなくなり、神経症状が現れるようになります。
疫学調査から、発症に関わる要因としてEBウイルスへの感染や喫煙歴が報告されています。また、多発性硬化症は遺伝性の病気ではありませんが、遺伝的要因として特定のHLA型と発症に関連性があると考えられています。
症状
多発性硬化症は局所性の炎症性脱髄病変が部位を変え、時間を変えて繰り返し起こる病気です。
脱髄の病変は大脳、小脳、視神経、脳幹、脊髄など、中枢神経の組織であればどこにでも起こる可能性があります。脱髄病変の起こった部位によって異なる神経症状が認められます。
初めて現れる症状としては、以下が挙げられます。
• 視力視野障害(ものが見にくい)
• 複視(ものが二重に見える)
• 感覚障害(しびれる)
• 運動障害(力が入らない、動きにくい)
• 歩行障害
• 排尿障害
• 構音障害(発声や発語が困難になる)
• 高次脳機能障害(記憶障害や注意障害など)
など
再発寛解型の場合、寛解と再発を繰り返すことが特徴です。適切な治療によって症状が安定する寛解期*をむかえます。以前は1~2年の間に患者さんの多くにそれまでとは異なる新たな症状の再発が見られましたが、多発性硬化症の疾患修飾薬(DMD)の登場により現在では状況がよくなってきています。
また、治療が奏功しない場合は、再発と寛解を繰り返しながら徐々に神経症状全体が慢性的に増悪していき、“二次性進行型”となります。
*寛解期:症状が治っている期間あるいは症状は残ったままだが、増悪や進行はみられない期間。
検査・診断
多発性硬化症の検査では、まずは神経学的検査が行われます。視力障害、感覚障害、運動麻痺などさまざまな神経症状について病歴の詳しい聞き取りや、ものの見え方、眼球運動、体の感覚、運動機能など、体の状態を確認する基本的な検査です。
また、神経学的検査に加え、MRI検査、髄液検査、誘発電位検査などがあわせて実施されます。
とりわけ、多発性硬化症を診断する際のMRI検査の重要性は年々高まっており、脱髄病変がどこにどのようにあるかをみることに長けています。特に、ガドリニウム造影剤を用いた検査では新しい病変を白く映すことができるため、病変が発生した時期を推定するのに役立ちます。
治療
多発性硬化症の治療は発症の原因が明らかになっていないことから、神経症状の早期回復ならびに再発の予防、障害の進行抑制を目的とした薬物療法が中心です(2020年12月時点)。
初めて症状が現れたとき、あるいは再発時には、メチルプレドニゾロンという副腎皮質ステロイド薬を用いたステロイドパルス療法が行われます。この薬は、再発の予防効果はないものの、症状や後遺症を軽減させる作用があります

投稿者: 大橋医院

2024.10.03更新

<Wallenberg 症候群>
概要
延髄外側症候群とは、脳幹の一部である延髄(えんずい)と呼ばれる部位に、が起こることで生じるさまざまな神経症状のことで、ワレンベルク症候群とも呼ばれます。椎骨動脈(ついこつどうみゃく)や延髄外側部に血液を送る後下小脳動脈(こうかしょうのうどうみゃく)の閉塞(へいそく)などが原因で、飲食物の飲み込みの障害(嚥下(えんげ)障害)、声のかすれ()、顔や首から下の半身の温痛覚障害などの症状が突然起こります。
一般に脳梗塞は60歳以上の人に多い病気といわれていますが、延髄外側症候群の平均発症年齢は50歳前後であり、若年者であっても注意が必要です。
原因
延髄外側症候群の主な原因は、動脈硬化によって起こる脳梗塞であるといわれています。
脳梗塞とは脳の血管が詰まり、脳の一部の血流が途絶えることでさまざまな機能障害を引き起こす病気です。脳梗塞には、高血圧などによって脳の深い部分を流れている細い血管が詰まって起こる “ラクナ梗塞”、延髄外側症候群のように比較的大きな脳の血管にコレステロールがたまることによって起こる“アテローム血栓性脳梗塞”、心臓などで作られた血栓(血の塊)が血流に乗って脳へと流れ、脳血管に詰まって起こる“心原性脳塞栓症(しんげんせいのうそくせんしょう)”などがあります。
延髄外側症候群は、椎骨動脈解離を原因として起こることもあります。椎骨動脈解離とは、首から脳へと流れる椎骨動脈と呼ばれる血管の内部が裂けてしまうことをいいます。動脈解離はさまざまな部位の動脈に生じることがありますが、脳動脈の中では椎骨動脈にもっとも起こりやすいといわれています。裂けた血管の内膜が血流を妨げ、椎骨動脈が小脳へとつながる後下小脳動脈が閉塞し延髄外側に脳梗塞を起こします。また、裂けた部位から血管が膨らんでこぶ(解離性脳動脈瘤(かいりせいのうどうみゃくりゅう))が発生し、くも膜下出血を起こすケースもあります。
症状
延髄外側症候群では嘔吐、嚥下障害、声のかすれ、温度や痛みを感じる機能の障害、物が二重に見える複視(ふくし)などさまざまな症状が現れます。一般的な脳梗塞では手足の麻痺(まひ)がみられますが、延髄外側症候群では運動麻痺は起こりません。
嚥下障害・声のかすれ
喉の筋肉に麻痺が生じ、飲食物をうまく飲み込めなくなったり、声がかすれるようになったりします。また、しゃっくりが止まらなくなるなどの症状がでることもあります。
温度や痛みを感じる機能の障害
延髄が障害されると、顔や首から下の半身に感覚障害が起こることがあります。温度や痛みに関する感覚(温痛覚)は一部交差しているため、顔の症状と体の症状がある場合は、それぞれ左右反対側に症状がみられるのが特徴です。
小脳性運動失調
四肢や体の感覚を脳に伝える神経が障害されると、運動失調がみられる場合があります。歩行時のふらつきや、歩行時に横にずれてまっすぐ歩けないなどの症状がみられることもあります。
ホルネル症候群
延髄の交感神経の一部が障害されると、瞳孔の開きが悪くなったり、まぶたが垂れ下がったり、眼球の位置が後ろに後退したりするなど、主に目の症状が現れます。そのほか顔の発汗量が低下したり、顔が赤みを帯びたりすることもあります。
めまい・嘔吐
平衡感覚などを司(つかさど)る前庭神経に障害が及ぶと、回転しているかのようなめまい(回転性めまい)や嘔吐などがみられることがあります。
検査・診断
脳梗塞・脳動脈解離などの病気が疑われる場合、問診や臨床所見の確認、血圧測定などの診察のほか、CT検査やMRI検査などの画像検査を行います。脳MRI検査では、脳の血管を映し出すMRA検査を同時に行い、椎骨動脈の閉塞や解離の有無を診断します。椎骨動脈解離が生じている場合は、裂けた部位にこぶが発生することがあるため血管の閉塞部位と原因を正確に診断することが重要です。
治療
延髄外側症候群の治療では、脳梗塞の治療と同様に、詰まった脳血管に対する治療を行います。具体的には発症から4.5時間以内であれば血栓溶解療法(t-PAという薬で血栓を溶かす治療法)のほか、脳血管にカテーテルと呼ばれる細い管を通し、血栓を取りのぞく治療(血栓回収療法)を検討します。脳梗塞は発症からできるだけ早い段階で治療を行い、血流を再開させることで症状の大きな改善が期待できます。これら急性期治療の後、再発防止を目的とした抗血栓療法の継続を検討します。
椎骨動脈解離を原因とする延髄外側症候群の場合は、 解離部分にこぶが生じていないか、こぶが破裂してくも膜下出血を起こす心配はないかなどを詳しく確認した上で、抗凝固薬や抗血小板薬などの薬を用いた抗血栓療法を行うことが一般的です。

 

投稿者: 大橋医院

2024.10.03更新

本論文は、中年期におけるストレス疲労が認知症発症にどのように影響するのかを長期にわたり追跡した、非常に興味深い研究である。認知症のリスク要因として、これまで多くの生活習慣病や遺伝的要因が取り上げられてきたが、精神的ストレスが認知症に具体的にどの程度寄与するのかは未解明の部分が多い。

 特に、本論文は50年にわたる追跡データを用いて、女性を対象としたストレス疲労と認知機能の低下の関連性を調査しており、実臨床において高齢女性患者のストレス管理が重要であることを示唆している。家庭医療学の観点からも、長期間にわたる慢性的なストレスが認知症に及ぼす影響を検討することで、予防的なアプローチや介入の新たな視点を得られる可能性がある。

私の見解
 本論文から、中年期における慢性的なストレスや疲労が、後年にわたり認知機能の低下を引き起こす可能性が示された点は、家庭医として日常診療において注視すべき点である。実際に、ストレスや疲労を訴える患者は少なくなく、その多くがうつ病や不安障害と併発していることが多いが、この研究は、ストレス関連の疲労(stress-related exhaustionを以下このように翻訳する)がこれらの精神疾患とは独立して認知症リスクを高めることを示唆している。

 具体的には、ストレス関連の疲労を有する女性は、75歳以前に認知症を発症するリスクが有意に高く(ハザード比2.95、95%CI 1.35–6.44)、認知症発症年齢も平均76歳と、非ストレス群(82歳)に比べて若い。この結果から、疲労を伴う深刻なストレス状態にある患者には、特に注意を払う必要があることが分かる。

 私の臨床経験でも、慢性的なストレスを抱えた患者は、記憶力の低下や集中力の欠如といった認知機能の低下を訴えることが多い。これが長期的には認知症の発症リスクを高める可能性があることを示すこの研究結果は、ストレスの診療において、早期からの介入と長期的なフォローアップがいかに重要であるかを再認識させる。

 また、家庭医療では患者との長期的な信頼関係を築くことが可能であるため、ストレス管理に関する包括的なケアを提供できる立場にある。ストレス関連の疲労のサインを見逃さず、適切なストレスマネジメントを提案することが、患者の将来的な認知機能の維持に寄与する可能性がある。

日常臨床への生かし方
 本研究の結果を鑑みて、慢性的なストレスを抱える患者には、心理的な支援やライフスタイルの改善を促すとともに、ストレス管理プログラムへの参加を推奨することが有効である。特に、認知症リスクが有意に上昇する年齢になる前(75歳以前)に、定期的な健康相談やストレスマネジメント指導を行うことが、認知症予防につながる可能性がある。

 本研究で示されたように、ストレス疲労を有する患者は、同年代の非ストレス群と比較して認知症発症リスクが高いため、ストレス軽減に向けた具体的な介入が求められる。

投稿者: 大橋医院

2024.10.01更新

リン酸エステル加水分解過程に亜鉛依存性酵素関与が示唆、正確な作用機序は?

 京都大学は9月17日、培養細胞とラットを用いて、ビタミンBのリン酸エステル加水分解に4つの亜鉛依存性酵素が重要な役割を果たすこと、さらに、この加水分解活性が亜鉛栄養状態によって大きく影響されることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院生命科学研究科の神戸大朋准教授、湯浅花修士課程学生(研究当時)、西野勝俊助教(現:東京工科大学講師)、永尾雅哉教授、東京慈恵会医科大学の木戸尊將講師、須賀万智教授、滋賀県立大学の福渡努教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「The FASEB Journal」にオンライン掲載されている。

 ビタミンBは水溶性の補酵素であり、さまざまな酵素の補因子として生命維持に不可欠な役割を果たす必須微量栄養素だ。例えば、ビタミンB1(VB1)は、ピルビン酸脱水素酵素やα-ケトグルタル酸脱水素酵素などの酵素とともに炭水化物代謝に関与する。ビタミンB2(VB2)はクエン酸回路、脂肪酸酸化、およびホモシステイン代謝に関与するいくつかの酸化還元酵素の補因子として機能しており、また、他のビタミンの代謝にも関与する。

 ビタミンB1(VB6)はアミノ酸、脂質、炭水化物の代謝を含む細胞代謝過程に関与しており、神経伝達物質の合成や1炭素代謝にとって重要だ。このように、ビタミンBはさまざまな生体反応に関わっているため、不足すると健康が損なわれることがよく知られている。細胞内でビタミンBが生理機能を発揮するには、リン酸エステルまたはヌクレオチドといった活性体の形(以下、リン酸エステル体)である必要があり、VB1はチアミン二リン酸(TDP)、VB2はフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、VB6はピリドキサールリン酸(PLP)が主たる活性体となる。一方で、これらのリン酸エステル体が細胞内に取り込まれて利用されるためには、膜輸送される前にリン酸エステルが加水分解される必要がある「TDP→チアミン、FAD→リボフラビン(RF)、PLP→PL(ピリドキサル)」この過程には亜鉛依存性酵素が関与していることが示唆されていたが、これまで、その正確な作用機序は明らかにされていなかった。

4つの亜鉛依存性酵素が重要な役割

 研究チームはこれまで、消化管からの亜鉛吸収や亜鉛依存性酵素に亜鉛を供給する役割を果たす亜鉛トランスポーターに関する解析を実施してきた。その研究過程で細胞外や細胞膜に局在して機能する亜鉛依存性酵素が、さまざまなリン酸エステル体化合物を加水分解していること、さらに、このリン酸エステル体の加水分解がいくつかの栄養素の細胞膜の通過に重要であることに注目した。特に、リン酸エステル体の加水分解が吸収・代謝に必須となる栄養素としては、VB1(TDP)、VB2(FAD)、VB6(PLP)があり、同研究ではこの加水分解に関わる酵素を特定することを試みた。リン酸エステル体の除去に関わると予想される15種の酵素を1つずつ過剰発現させて加水分解活性をHigh Pressure Liquid Chromatography(HPLC)を使用して解析した結果、ALP、CD73、ENPP1、ENPP3の4つの亜鉛依存性酵素が重要な役割を果たすことを明らかにした。

ビタミンB代謝、亜鉛栄養状態によって大きく影響される

 研究グループは、別の先行研究において、これら4つの亜鉛依存性酵素の活性が亜鉛欠乏に応じて鋭敏に低下することを明らかにしていた。そこで、亜鉛状態を変化させて培養した培養細胞や亜鉛欠乏食で飼育したラットの血清を使用して、亜鉛栄養状態とビタミンBリン酸エステル体の加水分解との関係を解析したところ、この加水分解活性が亜鉛欠乏によって大きく減少することが明らかとなった。これらの結果は、ビタミンB代謝が亜鉛栄養状態によって大きく影響されること、すなわち、亜鉛栄養状態を適切に保つことがビタミンB代謝において重要であることを明確に示した成果になる。

亜鉛欠乏症の多様な症状に新たな知見

 亜鉛欠乏は非常に多様な症例を示す。その中にはビタミンB欠乏症と類似したいくつかの症状も存在している。今回の研究成果は、亜鉛栄養状態とビタミンB代謝との間の関連性を示す興味深い結果となるだけでなく、亜鉛欠乏症とビタミンB欠乏症との間の類似性を説明し、亜鉛欠乏症の多様な症状に関する新たな知見を提供する成果となると考えている。今後は、本知見を臨床戦略に役立てたいと考えている、と研究グループは述べている。

投稿者: 大橋医院

2024.10.01更新

今のケアに満足していない方へ。1日2回、1回2錠。小粒で飲みやすく、続けやすい。 シミの原因となるメラニンをもとから抑え、肌のターンオーバーを正常化し、シミを緩和します。 シミ対策にプレミアムの力。4つの作用でシミを緩和。代謝を助けるL-システイン。シミケア。

投稿者: 大橋医院

2024.10.01更新

韓国でのSGLT-2阻害薬とDPP-4阻害薬を開始した40-69歳の2型糖尿病患者における認知症リスクを比較した大規模な集団ベースのコホート研究である。この研究では、SGLT-2阻害薬使用者は、DPP-4阻害薬使用者と比較して認知症のハザード比が0.65(95%CI 0.58-0.73)となったことが示されている。さらに、SGLT-2阻害薬の治療効果は治療期間が長くなるに伴って増加し、アルツハイマー病や血管性認知症に対しても同様の効果が見られたという結果となっている。

 本論文は、糖尿病治療薬としてのSGLT-2阻害薬が単に血糖コントロールに寄与するだけでなく、認知機能の低下を防ぐ可能性があるという点で非常に興味深い。このような効果は、日常診療における認知症予防戦略に新たな可能性を提供するため、糖尿病患者のケアにおいて非常に重要であると考えた。特に、2型糖尿病患者は認知症のリスクが高いことが知られており、SGLT-2阻害薬が認知症予防に有効である可能性があるという点は着目に値する。

私の見解
 糖尿病患者の認知機能低下に対するリスク管理は、包括的な患者ケアにおいて重要な課題である。筆者も日常臨床で多くの高齢糖尿病患者を診療している中で、認知症の予防は特に関心が高い。

 今回の研究が示すSGLT-2阻害薬の認知症予防効果は、臨床現場で幅広く活用できると考えられる。糖尿病患者の認知症リスクは、アルツハイマー病や血管性認知症など複数のタイプがあり、そのメカニズムはインスリン抵抗性や血管障害など多因子にわたる。SGLT-2阻害薬の使用によって、認知症のリスクが0.65に低減するという結果は、血糖コントロールだけでなく、同薬の心血管保護作用や抗炎症作用、さらには神経保護作用が関与している可能性が高い。このことは、血糖管理と認知機能の保護が密接に関連しているという見解を裏付けるものである。

 総じて継続的な外来では、患者との長期的な関係性を重視し、認知機能の変化を早期に把握し予防的な介入を行うことが重要である。この文脈で、SGLT-2阻害薬の長期使用が認知症予防に寄与する可能性があることは、非常に有用な知見である。例えば、糖尿病患者に対する血糖コントロールの改善と同時に、認知機能低下を防ぐための予防策としてSGLT-2阻害薬の使用を積極的に検討することができる。また、認知機能の低下を早期に発見するために、定期的な認知機能検査や生活習慣改善の指導も併用して行うことが望ましい。

 ただし、あくまでもガイドラインなどと照らし合わせて糖尿病治療薬を適切に決めていくことが望ましいのは変わらない。

日常臨床への生かし方
 具体的な日常臨床での活用方法として、まず糖尿病患者に対してSGLT-2阻害薬を選択する際には、認知症予防の観点も含めた包括的な評価が重要である。特に、認知症の家族歴がある患者や心血管リスクの高い患者には、SGLT-2阻害薬の使用を優先的に検討することができる。実際に、本研究では治療期間が2年以上になると認知症リスクがさらに低減することが示されており、長期的な使用が推奨される可能性がある。

 長期に継続する外来では特に、患者一人ひとりのリスクファクターを考慮しながら最適な治療法を選択することが求められる。本論文で示されたSGLT-2阻害薬の認知症予防効果は、そのような個別化医療の一助となる知見であり、今後の日常臨床において有用に活用できるだろう。

投稿者: 大橋医院

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