2024.10.31更新

<前立腺肥大>
概要
前立腺肥大症とは、男性の体において膀胱に隣接して尿道を取り巻いている前立腺という臓器が大きくなり、尿道が細くなることによって排尿にまつわるいろいろな症状をきたす病気を指します。
前立腺は男性ホルモンの変化に影響を受けます。そのため、前立腺肥大症では、男性ホルモンのはたらきが衰え始める30歳代から前立腺が大きくなり始め、加齢とともに大きくなります。肥大する前立腺の大きさや形には個人差があります。
原因
加齢に伴う男性ホルモンの変化が、前立腺肥大症に関与していると考えられています。これは、前立腺が男性ホルモンのはたらきと密接に影響し合う臓器であるためです。
このほか、以下に挙げる因子と前立腺肥大症との関連が明らかになりつつあります。
• 肥満
• 高血圧
• 高血糖
• 脂質異常症
など
症状
前立腺肥大症になると、尿道の一部が細くなるために尿に関するいろいろな症状が起こるようになります。具体的には、以下のような症状が現れます。
• 排尿困難(尿が出にくい)、または尿閉(尿が出ない)
• 頻尿:おしっこが近い、夜中にトイレで何度も起こされる
• 尿意切迫感:突然おしっこに行きたくなる
• 残尿感:尿を出しても出し足らない感じがする
• 尿失禁:尿を漏らしてしまう
• 検査・診断
• 前立腺肥大症の検査では、日常生活で尿について困っていることを問診で伺ったうえで、さまざまな検査を行います。たとえば、尿流測定で実際に尿の出る速さを測定したり、腹部超音波検査で尿が溜まった状態の前立腺体積や形状、膀胱変形の有無などを調べたりします。また、トイレの後に膀胱内の尿の量を推定(残尿測定)したり、直腸診を実施し、肛門から指をいれて前立腺を触診して大きさや硬さ、表面のゴツゴツ感がないかなどを調べたりします。
• 前立腺がんの腫瘍マーカーであるPSAという値は前立腺肥大症でもが高くなることがあり、高値の場合は定期的なフォローやより詳しい検査を行います。
• 治療
• 前立腺肥大症の治療方法には、大きく分けて薬を用いた薬物療法と、手術で前立腺の一部を取り除く手術の2つがあります。通常はまず薬物療法を行いますが、効果が不十分であったり、尿路感染や腎機能障害などの合併症が生じていたりする場合や、重症と判定されるような場合には、手術など外科的治療を行うことが多いです。
• 薬物療法
• 薬物療法で用いる薬には、前立腺や膀胱の一部の筋肉を緩めて尿の通りをよくするタムスロシンなどの交感神経α1受容体拮抗薬や、男性ホルモンのはたらきを抑える5α還元酵素阻害薬などがあります。また、近年では、タダラフィルというホスホジエステラーゼ5阻害薬も一般的になっています。
• 手術治療
• 手術は尿道から内視鏡入れて行う治療が標準的です。
• その方法には幾つかあり、尿道の内側から前立腺を削り取る経尿道的前立腺切除術(TURP)、ホルミウムレーザーを用いた前立腺核出術(HoLEP)やレーザーを用いた前立腺蒸散術(PVP)などがあります。

 

投稿者: 大橋医院

2024.10.30更新

<心臓神経症>
概要
心臓神経症とは、胸の痛みや呼吸苦、動悸など心臓に関わる症状があるにもかかわらず、検査などでは異常が認められず特定の身体疾患と診断できないものを指します。不安やストレス、抑うつ状態と関連していることが多く、不安神経症や身体表現性障害といった精神疾患に準じた治療が行われます。
原因
原因となるのは、心臓や肺などの臓器ではなく、日常生活や職場でのストレス、環境の変化などにより不安や緊張が高まっていたり、抑うつ状態であったりすることなどが発症の原因であるといわれています。
症状
胸の痛み、動悸、呼吸苦、めまいなど、狭心症や不整脈などの循環器疾患と同様の症状を自覚します。狭心症の症状は、運動時など体を動かしているときに起こることが多いですが、心臓神経症では安静にしているときに症状が起こることも多く、不安やストレスが強くなることに伴って症状が現れることもあります。
検査・診断
一般的に循環器疾患や呼吸器疾患、消化器疾患などがないか検査で調べ、臓器の異常による疾患が除外できた場合に診断されます。そのため、心臓神経症の診断に特別な検査はありません。循環器疾患や呼吸器疾患、消化器疾患を診断するための一般的な検査が行われます。
胸部レントゲン検査
心不全や気胸など、胸痛や呼吸苦をきたすような疾患がないか調べます。
血液検査
狭心症や心筋梗塞などの冠動脈が狭くなって起こる虚血性心疾患の場合、心臓の筋肉から出てくる心筋逸脱酵素が上昇します。また、動脈硬化のリスクが高いかどうかを血液検査で調べることもあります。
心電図検査(標準12誘導心電図、ホルター心電図、運動負荷心電図)
狭心症や心筋梗塞の場合は心電図の異常をきたすので、その有無を調べます。また、症状として動悸が現れている場合はホルター心電図により日常生活の中で不整脈が起きていないかを調べます。
心臓超音波検査
狭心症や心筋梗塞、心不全などの循環器疾患がある場合、心臓の動きが悪くなったり、心臓の弁の状態が悪くなったりしていることがあるので、心臓超音波検査によって調べます。
上部消化管内視鏡
胃炎や胃潰瘍により胸部の痛みが引き起こされていることもあるので、状況によっては内視鏡検査を行うこともあります。
他にも、冠攣縮性狭心症による胸痛の可能性もあり、ニトログリセリンなどの血管拡張薬を試すこともあります。さらに、そのほかの検査が追加される場合もありますが、このような検査によって原因となる疾患がみつからず、不安やストレスなど原因となるような背景がある場合に心臓神経症と診断されます。
治療
不安神経症や身体表現性障害などの精神疾患に準じた薬物治療や非薬物治療が行われます。治療の際には、内科や循環器内科の医師だけでなく、心療内科や精神科の医師と協力して行われます。
薬物治療
不安神経症の治療に用いられる抗不安薬、うつ病の治療に用いられる抗うつ薬などが使用されます。頻脈や動悸などの自律神経症状が強い場合はβ遮断薬が併用されます。
非薬物療法
症状の原因となっている不安やストレスを避けるような生活を心がけることのほか、認知行動療法と呼ばれる、医師や臨床心理士、カウンセラーとの対話のなかで病気や自己に対する認識を変えていき、回復を目指す治療法が用いられる場合もあります。

 

投稿者: 大橋医院

2024.10.29更新

<前立腺肥大>
概要
前立腺肥大症とは、男性の体において膀胱に隣接して尿道を取り巻いている前立腺という臓器が大きくなり、尿道が細くなることによって排尿にまつわるいろいろな症状をきたす病気を指します。
前立腺は男性ホルモンの変化に影響を受けます。そのため、前立腺肥大症では、男性ホルモンのはたらきが衰え始める30歳代から前立腺が大きくなり始め、加齢とともに大きくなります。肥大する前立腺の大きさや形には個人差があります。
原因
加齢に伴う男性ホルモンの変化が、前立腺肥大症に関与していると考えられています。これは、前立腺が男性ホルモンのはたらきと密接に影響し合う臓器であるためです。
このほか、以下に挙げる因子と前立腺肥大症との関連が明らかになりつつあります。
• 肥満
• 高血圧
• 高血糖
• 脂質異常症
など
症状
前立腺肥大症になると、尿道の一部が細くなるために尿に関するいろいろな症状が起こるようになります。具体的には、以下のような症状が現れます。
• 排尿困難(尿が出にくい)、または尿閉(尿が出ない)
• 頻尿:おしっこが近い、夜中にトイレで何度も起こされる
• 尿意切迫感:突然おしっこに行きたくなる
• 残尿感:尿を出しても出し足らない感じがする
• 尿失禁:尿を漏らしてしまう
検査・診断
前立腺肥大症の検査では、日常生活で尿について困っていることを問診で伺ったうえで、さまざまな検査を行います。たとえば、尿流測定で実際に尿の出る速さを測定したり、腹部超音波検査で尿が溜まった状態の前立腺体積や形
状、膀胱変形の有無などを調べたりします。また、トイレの後に膀胱内の尿の量を推定(残尿測定)したり、直腸診を実施し、肛門から指をいれて前立腺を触診して大きさや硬さ、表面のゴツゴツ感がないかなどを調べたりします。
前立腺がんの腫瘍マーカーであるPSAという値は前立腺肥大症でもが高くなることがあり、高値の場合は定期的なフォローやより詳しい検査を行います。
治療
前立腺肥大症の治療方法には、大きく分けて薬を用いた薬物療法と、手術で前立腺の一部を取り除く手術の2つがあります。通常はまず薬物療法を行いますが、効果が不十分であったり、尿路感染や腎機能障害などの合併症が生じていたりする場合や、重症と判定されるような場合には、手術など外科的治療を行うことが多いです。
薬物療法
薬物療法で用いる薬には、前立腺や膀胱の一部の筋肉を緩めて尿の通りをよくするタムスロシンなどの交感神経α1受容体拮抗薬や、男性ホルモンのはたらきを抑える5α還元酵素阻害薬などがあります。また、近年では、タダラフィルというホスホジエステラーゼ5阻害薬も一般的になっています。
手術治療
手術は尿道から内視鏡入れて行う治療が標準的です。
その方法には幾つかあり、尿道の内側から前立腺を削り取る経尿道的前立腺切除術(TURP)、ホルミウムレーザーを用いた前立腺核出術(HoLEP)やレーザーを用いた前立腺蒸散術(PVP)などがありま

投稿者: 大橋医院

2024.10.28更新

<パニック障害>
概要
パニック症(パニック障害)とは、予期しない突然の強い恐怖や不快感の高まりが生じて、動悸、息苦しさ、吐き気、ふるえ、めまい、発汗などの“パニック発作”を繰り返す病気のことです。
このようなパニック発作は特定の状況で生じることもあるため、発作を避けようとするあまり外出が困難になるなど日常生活に支障をきたすケースも少なくありません。また、さらなるパニック発作またはその結果について持続的な懸念、または心配(例:抑制力を失う、どうかなってしまう)が生じ、1か月以上持続します(予期不安)。
多くは成人前後に発症しますが、女性のほうがなりやすい病気であるとされています。
パニック症で現れるさまざまな症状は、発作が治まると自然に改善していくため治療の必要はありません。しかし、日常生活に支障をきたしやすい病気であるため、発作を予防するために薬物療法や精神療法などが必要となります。
原因
パニック症は、強い恐怖心が突然芽生えて動悸、息苦しさ、吐き気など、さまざまな症状が現れるパニック発作を繰り返す病気のことです。この病気の明確な発症メカニズムは解明されていませんが、脳の延髄(えんずい)と呼ばれる部位の機能に何らかの異常があることによって引き起こされるとの説があります。
延髄には体内の二酸化炭素の量を感知するはたらきがあります。パニック症の人は二酸化炭素のわずかな変化に過剰に反応することで“酸素不足”と誤認識し、呼吸や心拍数が速くなるといった症状が現れると考えられていますが、あくまで“仮説”とされているのが現状です。
症状
パニック症は、原因がないにもかかわらず突然生命の危機に陥るような強い恐怖を感じ、動悸、息苦しさ、吐き気、ふるえ、めまい、発汗などの症状に襲われる“パニック発作”が繰り返される病気のことです。災害時などに命に危機を感じて上述したような症状が現れることは多々ありますが、パニック症でははっきりとした理由がないのに突然発作が生じるのが特徴の1つといえます。
パニック発作は通常10分程度で自然に改善していきます。しかし、予期せぬ時に生じるため、発作に対して強い不安を覚えるようになります。また、発作が起こった場所や発作が起こっても助けを求められないような場所へ出向くことを極端に恐れるあまり、外出できなくなるなど日常生活に支障をきたしやすいのも特徴です。
検査・診断
パニック症は、上述したように動悸や息苦しさ、めまいなどさまざまな身体的症状を引き起こす病気です。
そのため、パニック症が疑われる場合であっても何らかの身体的な病気による症状でないことを確認するため、血液検査、画像検査、心電図検査などがそれぞれの症状に合わせて必要となります。これらの検査でまったく異常がなく、“理由がない予期せぬパニック発作が繰り返されること”、“パニック発作に対する不安が少なくとも1か月以上続いていること”に当てはまればパニック症と診断されます。
なお、パニック症は予期しないパニック発作が突然生じることが診断を下すための条件とされています。中には予期されるパニック発作を併せて持つこともありますが、原因がはっきり分かるストレスに晒された際の発作のみではパニック症とは診断されません。
治療
パニック症で生じるさまざまな症状は、身体的な異常によって引き起こされているわけではないため治療の必要はありません。しかし、この病気はパニック発作への不安から日常生活に支障をきたすことが多いため、パニック発作を抑えるための治療が必要です。
具体的には次の2つの治療が行われています。
薬物療法
パニック症では抗うつ薬や抗不安薬を用いた薬物療法が行われます。特に選択的セロトニン再取り込み阻害薬の効果が高いとされています。
精神療法
薬物療法と同時に精神療法を行うこともあります。カウンセリングを通して患者自身の認識と現実との違いを把握し、認識の歪みを改善する“認知行動療法”が行われることが多いですが、避けている場所や状況に身を置く“曝露療法”などが行われることも少なくありません。
予防
パニック症は明確な発症メカニズムが解明されていないため、確実な予防方法はないのが現状です。しかし、パニック症は放っておくと発作に対する不安感から日常生活に支障をきたすケースも少なくありません。
適切な治療の継続によって症状を改善することができますので、パニック症を疑う症状があるときはできるだけ早めに医師に相談しましょう。

 

投稿者: 大橋医院

2024.10.27更新

<腎性貧血>
概要
腎性貧血とは、腎臓で作られる“エリスロポエチン”と呼ばれる物質の産生量が減少することによって引き起こされる貧血のことです。エリスロポエチンは“造血ホルモン”とも呼ばれ、“赤血球”という血液の細胞の産生を促す作用があります。このため、エリスロポエチンが減少すると赤血球の産生量も減少し、貧血を引き起こします。
腎性貧血は、腎機能が低下するほど発症しやすくなります。これは、腎臓の機能が低下すると尿細管や間質に障害が生じ、エリスロポエチンの生産量が減少してしまうためです。慢性的に腎機能が低下する慢性腎不全は、糖尿病腎症や高血圧などの生活習慣病や、慢性糸球体腎炎によって引き起こされることがあります。
慢性腎不全と貧血、そして心疾患は、“心腎貧血症候群”とも呼ばれ、互いに影響し合っています。慢性腎不全にかかっている人は心疾患のリスクが高く(心腎連関)、貧血もまた心臓への負担となり、心疾患のリスクが高まるといわれています。これらによって結果的に心疾患にかかると、今度は腎臓に負担がかかるようになり、腎不全が悪化することで貧血が進行するという悪循環を招きます。そのため、腎性貧血は積極的な治療が望まれる病態のひとつとされています。
原因
腎性貧血は慢性腎不全(腎臓の機能が低下すること)により、“造血ホルモン”と呼ばれるエリスロポエチンの産生量が低下することによって引き起こされます。特に、腎臓の機能が健常人の半分以下になると発症するリスクが高くなることが分かっています。
慢性腎不全の原因として挙げられるのは糖尿病腎症や慢性腎炎、腎硬化症などの病気です。これらの病気では、赤血球の寿命が短くなったり、栄養不足を引き起こしたりしやすくなるため、エリスロポエチンの産生量低下と相まってさらに貧血を発症しやすくなると考えられています。
症状
腎性貧血では、貧血に特有の症状が現れます。貧血とは、全身に酸素を運搬するはたらきを担う赤血球上の“ヘモグロビン”が減少する病気です。このため、貧血を発症すると全身を巡る酸素が減少し、怠さや疲れ、息切れ、めまいなどを引き起こします。また、全身への血流量を増やして酸素不足を補おうとする仕組みがはたらくため、心臓の拍動が速くなり、動悸が生じやすくなります。このため、貧血が続くと心臓に過度な負担がかかり、心不全を発症しやすくなるのも特徴のひとつです。
また、腎性貧血の原因となる慢性腎不全は、尿量減少や血圧上昇などを引き起こすため心臓に負担をかけて心不全を引き起こしやすくなり、一方で心不全は腎臓への血流を低下させるため腎不全を悪化させます。その結果、腎性貧血が悪化し、それがさらに心不全から腎不全を悪化させるといった負のスパイラルに陥りやすくなる“心腎貧血症候群”が近年注目を集めています。
検査・診断
腎性貧血に対しては次のような検査が行われます。
血液検査
貧血の程度や血中エリスロポエチン濃度などを調べるために血液検査が行われます。そのほかにも、体内に蓄えられている鉄の量や、鉄が有効に使われているかを評価するための指標なども調べられ、貧血を引き起こしている原因をさまざまな角度から評価していくのが一般的です。
画像検査
腎臓の状態を調べるための検査です。一般的に、腎性貧血が生じる程度に進行した慢性腎不全は腎臓の萎縮が見られます。このような状態を確認したり、腎臓にがんなどの病気がないことを確認したりするため、超音波検査やCT検査などを実施するケースが一般的です。
腎生検
腎性貧血を引き起こす慢性腎不全の原因や重症度を調べるための検査です。腎性貧血の診断そのものには必ずしも必要ではありませんが、腎性貧血を引き起こす腎臓病の原因や重症度を知り、治療方針を決定するために重要な検査です。
なお腎生検は、入院のうえ行われます。背中から腎臓に針を刺して組織を採取し、その後、あおむけでの安静が必要です。光学顕微鏡、電子顕微鏡、免疫組織化学検査などの詳しい観察が行われます。腎生検は出血などリスクのある検査ですが、治療方針を決めるために必要と考えられる場合には、検査がすすめられます。
治療
一般的に、腎性貧血はヘモグロビン値が10~11g/dL(正常値:男性13.0~16.6g、女性11.4~14.6g)程度に低下した場合は治療を開始することが推奨されています。
治療は基本的に、赤血球造血刺激因子製剤(ESA製剤)の皮下注射が行われます。エリスロポエチンは赤血球の元となる造血幹細胞に刺激を加えることによって赤血球への分化を促します。このESA製剤は、エリスロポエチンが造血幹細胞に刺激を与える部位に作用することで赤血球の産生を促す効果を持つ薬です。このため、この薬を投与することで不足したエリスロポエチンの作用が補われ、貧血を改善へ導くとされています。
近年、低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素(HIF-PH)阻害薬が開発されました。HIF-PH阻害薬は、内服薬であり内因性のエリスロポエチン分泌を刺激します。すでに維持透析患者には保険適用で使用されており、今後は保存期慢性腎臓病患者への保険適用も期待されています。
一方で、腎性貧血を発症している腎不全患者は体内の鉄分が不足しているケースも多いことが知られています。検査で鉄不足が確認された場合は、鉄剤の投与(内服あるいは注射)が行われるなど、それぞれの症状に合わせた治療を併用していくのが一般的です。

投稿者: 大橋医院

2024.10.25更新

新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが5類となった2023年5月~24年4月の1年間で、死者数が計3万2576人に上ったことが24日、厚生労働省の人口動態統計で分かった。季節性インフルエンザの約15倍と格段に多く、大部分を高齢者が占める。政府は重症化リスクの低下を理由に新型コロナの類型を引き下げ、日常生活の制約はほぼなくなったが、今も多くの人が脅威にさらされている。

 現在の感染状況は落ち着いているが、例年冬にかけて感染者が増える傾向にある。東北大の押谷仁(おしたに・ひとし)教授(感染症疫学)は「大勢が亡くなっている事実を認識し、高齢化社会の日本で被害を減らすために何ができるのかを一人一人が考えないといけない」と訴えている。

 人口動態統計のうち、確定数(23年5~12月)と、確定前の概数(24年1~4月)に計上された新型コロナの死者数を集計。その結果、3万2576人となり、65歳以上が約97%だった。同時期のインフルエンザの死者数は2244人。新型コロナは、ウイルスが次々と変異して高い感染力を持つ上、病原性はあまり低下せず、基礎疾患のある高齢者が感染して亡くなっているとみられる。

 男女別では男性1万8168人、女性1万4408人で、男性の方が多い傾向だった。喫煙者や慢性肺疾患の患者が男性に多いことが一因の可能性があるが、詳細は解明されていない。

 新型コロナによる年間死者数は、オミクロン株の流行で感染が急拡大した22年は4万7638人、23年は3万8086人で、高い水準ながらも時間の経過に伴い減少傾向にある。自然感染やワクチン接種で免疫を持つ人が増えた影響という。

 3万2576人を23年の死因別年間死者数に当てはめると、1位がん、2位心疾患などに続き8位だった。

 今年4月1日以降、治療薬や入院費の補助といった患者への公費支援はなくなった。押谷氏は「社会経済を止めずに死者をできるだけ減らすためにも、高齢者へのワクチンや高齢者施設における検査といった有効性が示されている対策の費用は国が負担すべきだ」と指摘した。

 ※新型コロナの5類移行

 政府は2023年5月8日、新型コロナウイルス感染症の重症化リスクが低下したとして、感染症法上の位置付けを「新型インフルエンザ等感染症」から「5類」に引き下げた。法律に基づく入院勧告や外出自粛の要請はなくなった。患者への公費支援も段階的に縮小。今年4月1日以降、治療薬や入院費の補助はなくなり、ワクチンは高齢者らを対象とした原則有料の定期接種となった。マスク着用や換気、手指消毒といった対策は引き続き有効だが、個人の判断に委ねられている。

投稿者: 大橋医院

2024.10.24更新

<インフルエンザ>
概要
インフルエンザとは、インフルエンザウイルスにより引き起こされる急性ウイルス性疾患です。例年、11月頃から徐々に患者が増え始め、1月頃に流行がピークに達し、4月過ぎに収束する傾向があります。
インフルエンザの典型的な症状は、急激な発熱や悪寒戦慄(おかんせんりつ)、のどの痛みなど、急激に出現する上気道症状です。38度以上の高熱が3、4日持続した後、解熱していくという経過を辿ることが一般的です。熱が高くならない場合や長引く場合もあり、経過には個人差があります。
インフルエンザは基本的には自然に治癒をする病気ですので、必ずしも抗インフルエンザ薬が必要になる病気ではありません。しかし、肺炎や脳症を発症するリスクもあるため、風邪とは区別して考えるべき病気といえます。
治療を必要とするかどうかは、重症度や合併症の有無などによって異なります。そのため、医療者には注意深く観察する姿勢が求められます。
原因
インフルエンザウイルスにはA型、B型、C型の3つの型があります。このうち、冬に流行する「季節性インフルエンザ」を引き起こす型は、A型とB型です。
インフルエンザウイルスにはさまざまな種類があるため、一度かかっても同じ年でも、違うインフルエンザウイルスに感染することがあります。インフルエンザには、季節性インフルエンザ以外にも新型インフルエンザなど、世界的な大流行を引き起こしうるものが存在します。
新型インフルエンザとは、季節性インフルエンザと抗原性が大きく異なるインフルエンザで、一般の多くの方が免疫を獲得していないことから、全国的かつ急速なまん延により多くの方の生命および健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるものを指します。
季節性インフルエンザと異なり、ほとんどの方が初めて直面するタイプであるため有効な免疫を持っていません。そのため、世界的な大流行を引き起こし、ウイルスの性質によっては死亡率も高くなる可能性があります。2009年に大流行した新型インフルエンザ(H1N1型)は、日本だけでなく世界中で猛威をふるいました。
症状
インフルエンザは咳や鼻水を介する飛沫感染によって感染し、1〜2日程度の短い潜伏期間の後に発症します。
典型的なインフルエンザは、悪寒戦慄、急激な高熱と共に発症します。同時に、筋肉痛や咳、鼻水などの上気道の症状が現れることもあります。発熱期間は3〜5日ほどであることが多く、38度以上の高熱が持続した後に解熱傾向に向かいます。
一度解熱してから再度発熱する「2峰性発熱(にほうせいはつねつ)」と呼ばれる熱型をとることもあります。2峰性発熱の場合は、インフルエンザの自然経過なのか、肺炎などの合併症による発熱なのか、医療機関で正しく判断を受けることが重要です。新型インフルエンザでは、下痢や嘔吐などの消化器症状が生じることもあります。
また、肺炎や脳症などの合併症にも注意が必要です。インフルエンザウイルスの感染に合併症を発症している場合、以下の症状が現れることがあります。
• 発熱の期間が典型的なインフルエンザの例よりも長くなる
• 咳がひどくなり呼吸が苦しくなる
• 意識状態がおかしく、けいれんを起こす
など
重症の肺炎を発症している場合、呼吸のサポートが必要となることがあります。また、重症度が増した場合には、通常の呼吸管理が難しくなり、ECMO(体外式膜型人工肺)を用いた呼吸管理が必要になることもあります。
検査・診断
インフルエンザの診断には、迅速キットが使用されることがあります。鼻から長細い棒を入れて鼻咽頭から検体を採取したあと、迅速キットを用いてインフルエンザウイルスの有無をチェックします。結果は10〜15分ほどで判明します。
また、インフルエンザの検査時に合併症の有無も検査することがあります。肺炎の有無を確認するためには胸部単純レントゲン写真検査や胸部CT撮影を行います。脳症の有無を確認するためには、脳波検査やMRIなどの検査を行います。
治療
インフルエンザの治療方法は、重症度や患者さんの持病を考慮しながら決定されます。
特に、気管支(きかんしぜんそく)や心臓疾患、腎臓疾患などを抱えている患者さんの場合、インフルエンザが重症化するリスクが高くなります。このような患者さんには、積極的な治療を検討します。
インフルエンザの治療薬には、内服薬、吸入薬、点滴薬があります。早期の段階で使用すると高い効果が期待でき、発症後48時間以内に開始することがよいとされています。しかし、実際には症状や経過をみながら治療方針が決定されます。
治療薬の服用の有無や種類にかかわらず、インフルエンザ発症時には、異常行動などが発生しないよう注意深く観察する必要があるとされています。インフルエンザ治療薬のなかには、小児に対して原則使用してはならないとされていた内服薬もありました。しかし、その後さまざまな議論をふまえ、現在では10代の患者さんも使用することができるようになっています(2021年3月時点)。
また、抗生物質と同じように不適切に抗ウイルス薬を使用することは、薬剤耐性ウイルスを誘導することにもつながりかねません。インフルエンザ治療薬は医師の判断のもとで、指示に従った内服・吸入を行いましょう。
予防
手洗い、うがい、マスクの着用などを心がけましょう。また、ワクチン接種を受けることは重症化を防ぐための方法のひとつです。

 

投稿者: 大橋医院

2024.10.23更新

<RSウィルス感染症>
概要
RSウイルス感染症とは、RSウイルスによって引き起こされる呼吸器の病気です。
RSウイルスはヒトからヒトに感染するウイルスで、感染者の咳やくしゃみを吸い込んだり(飛沫感染)、ウイルスが付着した手指や物品を介したり(接触感染)することで鼻や口から入り込み、上気道から肺に感染します。
感染すると、発熱、鼻水や咳などの上気道症状がみられます。多くは軽症で済みますが、場合によっては肺に向かって感染が広がり、細気管支炎や肺炎を発症することがあります。
RSウイルスはごく一般的なウイルスです。2歳までにほとんどの子どもが初感染するといわれており、大人になっても再感染を繰り返すことがあります。初感染時には症状が重くなりやすく、特に乳児期早期の子どもや、基礎疾患がある子どもなどは重症化しやすいため注意が必要です。
原因
RSウイルスに感染する原因として、“飛沫感染”と“接触感染”が挙げられます。
飛沫感染では感染している人の咳やくしゃみ、会話時に飛び散る飛沫(唾液)が鼻や目から入ることで感染します。接触感染では、ウイルスが付着した手指や物品(手すりやドアノブ、机、椅子、コップなど)を介した間接的な接触によって感染します。
なお、RSウイルスが空気感染(飛沫核感染)*するという報告はありません。
*一部のウイルス・細菌では、飛沫の水分が蒸発した後にウイルスの飛沫核が空気中に長時間漂うことがある。この飛沫核を吸い込むことで感染することを空気感染(または飛沫核感染)という。空気感染する代表的なウイルス・細菌として、麻疹ウイルスや水痘・帯状疱疹ウイルス、結核菌などが挙げられる。
症状
RSウイルスに感染すると、典型的には4~6日の潜伏期間を経て、発熱、鼻水、咳などの症状が現れます。感染が上気道にとどまった場合はこうした上気道症状のみで済みますが、下気道まで感染が広がると咳がひどくなるほか、喘鳴(呼吸時のヒューヒュー・ゼーゼー音)や呼吸困難などの下気道症状がみられ、細気管支炎や肺炎が起こることもあります。
また、RSウイルス感染症は初回感染時に症状が重くなりやすく、初感染の乳児の約3割に下気道症状が現れるといわれています。特に低出生体重児や、心臓・肺・神経・筋肉などの病気がある場合、または免疫不全状態にある場合には重症化しやすくなります。また、生後1か月未満の乳児が感染した場合は無呼吸発作を起こして命に関わる可能性もあるため、このような子どもがいる家庭ではより注意が必要です。
一方、大人では軽いかぜのような症状(発熱・咳・鼻水・喉の痛みなど)のみで経過することがほとんどですが、高齢者では肺炎を起こすケースもみられます。
検査・診断
抗原検出キットを使った検査で診断が可能です。この検査では鼻の粘膜を綿棒で拭ったものを使用し、基本的には10分程度で結果が分かります。ただし、感度は100%ではないため、RSウイルスに感染していても陰性になる場合もあります。
また、保険適用となるのは1歳未満の乳児や入院中の患者、早産児、2歳以下の慢性肺疾患・先天性心疾患・ダウン症候群・免疫不全の子どもに限定されています。
治療
RSウイルス感染症に対する効果的な薬はないため、治療は症状の度合いに応じて症状を和らげる対症療法を行います。
具体的には、栄養や水分を補充するために点滴や胃チューブを用いた経管栄養、痰を出しやすくするために去痰薬の投与などが行われます。
また、呼吸困難によってチアノーゼを起こしている場合は酸素投与を行い、呼吸不全に陥っている重症例では人工呼吸器による治療が行われます。
予防
RSウイルスの感染を防ぐためには、マスクの着用や手洗い、子どもが日常的に触れる物品のこまめな消毒、人混みを避けるなどの基本的な感染予防対策が重要です。
早産児や、2歳以下の慢性肺疾患・先天性心疾患・ダウン症候群・免疫不全の子どもには、予防薬であるパリビズマブという注射薬を投与することができます。
また、近年では一部の成人を対象にRSウイルス感染症のワクチンが2つ承認されています。1つは2023年9月に60歳以上を対象に承認され、2024年1月から接種が可能となりました*。もう一方のワクチンは、2024年1月に妊婦を対象に承認され、さらに同年3月には60歳以上も対象に製造販売が承認されたもので、2024年5月現在、販売に向けた準備が進んでいます**。
*ワクチン接種は保険適用外(2024年5月現在)。

 

投稿者: 大橋医院

2024.10.22更新

<クッシング症候群>
概要
クッシング症候群とは、副腎(ふくじん)からのコルチゾールの分泌が過剰になることにより、さまざまな症状をきたす病気の総称です。
主な症状として、赤ら顔になる、顔が丸くなる満月様顔貌(まんげつようがんぼう)や、体幹に脂肪の付きやすくなる中心性肥満など、見た目から分かる症状のほか、階段の上り下りが難しくなる筋力低下や高血圧、糖尿病や骨粗しょう症、月経の異常、気分の落ち込み(うつ症状)などが挙げられます。
中年女性に多くみられる病気で、男女比は1:4といわれています。近年は人間ドックでのCT検査などの画像検査をきっかけにが発見されることが多くなったため、特に軽い症状のサブクリニカルクッシング症候群を含めて診断される頻度は増加していると考えられています。
基本的な治療方法としては、クッシング症候群の主な原因となる副腎皮質腺腫(ふくじんひしつせんしゅ)と呼ばれる腫瘍を手術で取り除くことが検討されます。
原因
コルチゾールの分泌調整
副腎からのコルチゾールの分泌は厳密な調整がなされています。
脳の視床下部と呼ばれる部分から放出される“CRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)”は、脳の下垂体と呼ばれる部位から放出される“ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)”の放出を促進し、ACTHが副腎からのコルチゾールの分泌を促進します。一方でコルチゾールの分泌が過剰になると、CRHの分泌が抑制され、結果的にコルチゾールの分泌が抑制されます(ネガティブフィードバック)。
こうした一連のホルモン分泌調節機構により、コルチゾールの分泌は一定量に保たれつつも、ストレスなど必要なときには適切に調節されています。しかし、何らかの原因によりコルチゾールの分泌が過剰になるとクッシング症候群をきたします。
クッシング症候群の原因
クッシング症候群の中でもっとも多い原因は、副腎皮質腺腫と呼ばれる、腎臓の上にある副腎という臓器の良性腫瘍です。
この副腎腺腫がコルチゾールを過剰に分泌し続けることによって血中のコルチゾール濃度が上昇し、クッシング症候群をきたします。このときには副腎が自律的にコルチゾールを分泌しているため、ネガティブフィードバックによる分泌抑制が起こりません。
このほかに、副腎がんも原因になることがあります。副腎以外の原因としてはACTH産生下垂体腺腫や異所性ACTH産生腫瘍があります。ACTH産生下垂体腺腫ではACTHが過剰に分泌され、それによりコルチゾールが過剰分泌されてしまいます。これをクッシング病といい、クッシング症候群の原因の1つです。
さらに、一部の肺がん(肺小細胞がん)や膵臓(すいぞう)がんなどが異所性にACTHを産生・分泌してしまうことがあり、この場合も同様にクッシング症候群を引き起こします。
症状
クッシング症候群の症状は多岐にわたり、全身に現れます。見た目から分かる特徴としては、中心性肥満が挙げられます。
中心性肥満とは筋肉が減って手足がやせる一方、体幹部に脂肪が多く付き肥満となる状態です。同様に、顔にも多く脂肪が付くことによる満月様顔貌や、肩の後ろに脂肪がつくことで水牛のような盛り上がった肩を呈する水牛様肩(バッファローハンプ)などがあります。
そのほかの身体的特徴としては、赤ら顔、にきび、多毛、お腹を中心とする赤いすじ、近位筋(体の中心に近い筋)の筋力低下などが挙げられます。
また、高血圧、高血糖、高脂血症といった生活習慣病の症状も認められ、これらの原因としてクッシング症候群が見つかる場合もあります。そのほかにもうつ症状や骨粗しょう症、感染症にかかりやすくなるなど、全身にさまざまな症状を引き起こすことが特徴です。
さらにひどい場合には感染症などで命にかかわることもあります。
検査・診断
血液検査で血中のACTHやコルチゾールなどのホルモンの濃度を測定したり、1日の尿を貯めてコルチゾールを測定したりします。
さらに“デキサメタゾン抑制試験”と呼ばれる検査も重要です。具体的には、低用量のデキサメタゾン(コルチゾールと同じ作用を持つホルモン)を与えても、コルチゾールの分泌量が抑制されない場合に自律性分泌が証明されてクッシング症候群と診断されます。
また、クッシング症候群にはさまざまな病型があるので、鑑別のための検査も必要です。クッシング症候群には、ACTHの異常分泌によるもの(ACTH依存性のクッシング症候群)とそうでないもの(ACTH非依存性のクッシング症候群)があるため、鑑別のために血中のACTH値を測定します。ACTH依存性のクッシング症候群と判断された場合、高用量デキサメタゾン抑制試験や頭部MRIなどを併用してクッシング病と異所性ACTH産生腫瘍の鑑別を行います。なお、クッシング病以外の病型のクッシング症候群を疑った際は、全身検索のために特に胸腹部のCTやFDG-PETなどの検査を施行します。
治療
クッシング症候群の治療は、基本的に腫瘍の摘出です。コルチゾール産生副腎腺腫や副腎がんの場合には副腎腫瘍摘出術が行われます。
クッシング病の下垂体腺腫に対しては“経蝶形骨洞的下垂体腺腫摘出術”と呼ばれる術式で、鼻の穴から内視鏡や顕微鏡を使い、蝶形骨洞と呼ばれる副鼻腔(ふくびくう)を経て腫瘍を摘出します。いずれの場合にも、周術期そして術後にもステロイドの補充が必要になります。
異所性ACTH産生腫瘍に対しては、その原因となる腫瘍に対する治療が行われます。原因の腫瘍が摘出しきれない場合には薬物療法が行われます。薬物療法には、副腎におけるコルチゾールを合成する酵素を抑える薬や、副腎そのものを傷害する薬、クッシング病の場合には下垂体腫瘍の機能を直接抑える薬などが使われます。いずれにしてもコルチゾールレベルを正常にすることが、症状や予後を改善することにつながります。

 

投稿者: 大橋医院

2024.10.21更新

<胆石症>
概要
胆石症とは、胆道に結石ができる病気の総称です。胆道の中でもどこに結石ができるかによって、胆嚢結石(たんのうけっせき)(約80%)、胆管結石(約20%)、肝内結石(約2%)に分けられます。胆石は胆汁に含まれる成分が結晶化して固まることででき、成分によって結石の呼び名が異なります。
胆石ができると右の肋骨(ろっこつ)の下やみぞおち、右肩などに痛みを生じるようになりますが、ほとんど症状がみられない人もいます。また、黄疸(おうだん)と呼ばれる皮膚が黄色くなる症状がみられることもあります。
日本で胆石症になる人の数は食生活の欧米化や高齢化によって増えているといわれており、その頻度は10人に1人といわれています。
胆石症の中でも胆管結石の場合は放置すると胆管炎と呼ばれる病気に進行し重症することもあるため、適切な治療を受けることが大切です。
原因
胆石症とは胆道に結石ができる状態を指し、胆石は胆汁に含まれる成分が結晶化して固まることで発生します。
胆石は成分によってコレステロール石と色素石(ビリルビンカルシウム石、黒色石)に分けられ、それぞれ原因が異なります。
コレステロール石は胆汁のコレステロール濃度が高くなることで発生し、色素石のうちビリルビンカルシウム石と呼ばれる胆石は胆汁の細菌感染が原因で発生します。黒色石ができる原因は不明です。
これらの胆石のうちもっとも頻度が高いものはコレステロール石で、肥満、女性、40歳代白人、出産人数が多い人、糖尿病患者、血中コレステロール値が高い、血縁者に胆石症患者がいる場合などにリスクが高くなることが知られています。
症状
胆石症の主な症状は胆道痛と呼ばれる右の肋骨の下辺りの痛み、みぞおちの痛み、右の背中の痛み、右肩の痛みで、食後に現れやすいのが特徴です。
また、黄疸が発生して皮膚や白目の部分が黄色くなったり、ビリルビン尿と呼ばれる褐色~黒色の尿が出たりすることもあります。一方で、胆石症の2~3割は症状がほとんどみられないこともあり、無症状胆石と呼ばれます。
また、一部の人では胆嚢や胆管に炎症を起こすことがあります。炎症が起こると高熱が出るほか、細菌感染が加わると敗血症と呼ばれる重篤な病気に発展することもあります。
検査・診断
胆石症は胆道痛などをきっかけに受診し、画像検査を元に診断されることが多いです。胆石症の検査でよく行われる画像検査には、腹部超音波検査、CT、MRCP(磁気共鳴胆管膵管造影検査)、ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査)などがあります。
一般的には腹部超音波検査が行われます。症状がない場合でも人間ドックや健康診断での腹部超音波検査で発見されることがあります。
画像検査では、胆石の有無のほかに胆石の大きさ、個数、胆嚢の状態などを確認します。
治療
胆石症で痛みなどの症状がみられる場合は手術を行います。胆石のみを取り除いても再発することが多いため、胆石症の手術では胆嚢ごと取り除く胆嚢摘出術が行われます。
胆嚢摘出術には腹腔鏡(ふくううきょう)下手術と開腹手術があり、全身麻酔下で行われます。体の負担が少ない腹腔鏡下手術が第一選択ですが、腹腔鏡下手術が難しい場合は開腹手術が行われます。
また、胆石の状態によっては薬物治療(ウルソデオキシコール酸)や体外衝撃波胆石破砕療法と呼ばれる、体の外から衝撃波を当てて胆石を破砕する方法が使われることもあります。
痛みがない無症状胆石の場合は治療を行わずに経過観察を行いますが、胆管の出口に詰まって胆管炎が生じている場合は、無症状でも胆管内の胆石を除去する治療が必要になります。
治療後の経過
胆石症は、胆石ができる部位や治療の方法によっては再発したり合併症を引き起こしたりすることがあります。胆嚢結石で胆嚢を取り除いた場合は基本的には再発するリスクは低いですが、胆管結石や肝内結石では胆石が再発することがあります。
また、人によっては胆管や胆嚢に炎症が生じる胆管炎や胆嚢炎、胆汁うっ滞、肝内胆管がんなどの合併症が起こることもあるため、治療後も医師の指導の下で定期検査を続けることが大切です。
予防
胆石は食事などの生活習慣と密接に結びついており、日頃から食事に気を付けて胆石の形成を予防することが大切です。
コレステロールや脂質の多い食事はリスクが高まるため、これらの過度の摂取を控え、たんぱく質や食物繊維を含むバランスのよい食事を続けるようにしましょう。
肥満は胆石症のリスク因子ですが、過度なダイエットは胆石形成のリスクを高めるため、適度な食事と運動を心がけることが大切です。

 

投稿者: 大橋医院

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