2024.11.12更新

<慢性閉塞性肺疾患>
概要
慢性閉塞性肺疾患(COPD)とは、これまで慢性気管支炎やと呼ばれてきた病気をまとめて1つの呼び名としたものです。
COPDは、たばこの煙など体に有害な物質を長期間吸入・曝露(ばくろ)することで肺に炎症を起こす病気であり、中高年に発症する喫煙習慣を背景とした生活習慣病ともいえます。
疫学的なデータでは、40歳以上の8.6%、約530万人がこの病気であると推定されていますが、その多くは未だにCOPDと診断されず適切な治療も行われていません。
COPDは肺の病気ですが、虚血性心疾患、骨粗しょう症、糖尿病など、全身のさまざまな病気の原因にもなっています。また、COPDの人はCOPDでない人に比べて、同じ量のたばこを吸っていても肺がんになる確率が約10倍高いといわれています。
COPDは進行する前に発見し、ほかの病気を上手にコントロールすることが大切です。


原因
COPDの原因は、有害物質を吸い込むことや大気汚染によることが一般的です。
最大の原因は喫煙で、日本ではCOPDの90%以上が喫煙により発症しているといわれています。また、喫煙者の15~20%がCOPDを発症することも分かっています。
たばこの煙を吸い込むと、肺や気管支が炎症を起こして咳や痰が出たり、気管支が細くなり空気の流れが悪くなったりします。さらに、気管支の奥にある肺胞(はいほう)が壊れてしまうと肺気腫が発生します。COPDではこれらの変化が両方とも起こっていると考えられ、治療によって元に戻すことはできません。
また、風邪やインフルエンザなどの呼吸器系の感染症によって呼吸困難などの症状が悪化することをCOPDの“増悪”といいます。
症状
COPDの患者は一般的に、歩いたり階段の上り下りをしたりする時などに息切れがする労作時呼吸困難や、慢性的な咳や痰などの症状がみられます。また、患者によっては呼吸をするときにゼーゼー、ヒューヒューといった音のする喘鳴(ぜんめい)や発作性呼吸困難など、に似た症状が出ることもあります。
COPDの増悪では、安定している時に比べて肺機能が低下し、息切れが悪化して咳や痰の量が増加します。また、感染による発熱、呼吸困難による結果的な頻脈、呼吸筋疲労に伴う疲労感、倦怠感(けんたいかん)、不眠などの症状がみられることもあります。
COPDの増悪は命に関わることもあります。また、息切れ、、呼吸機能の低下など、一度COPDの増悪が起こると回復に1か月以上を要することも珍しくありません。
検査・診断
長期間の喫煙歴や慢性的な咳や痰、労作時の呼吸困難などがみられた場合はCOPDが疑われ、精密検査を行います。確定診断のためには、呼吸機能検査(スパイロメトリー)が必要です。
COPDでは、1秒率(1秒量÷努力性肺活量)が、最大の努力をして息を吐いたときの総量(努力性肺活量)と最初の1秒間に吐いた量(1秒量)の比であり、空気の通り道が狭くなっているかどうか(閉塞性換気障害)の指標となります。COPDは、気管支を拡張させる吸入薬を使用した後の1秒率が70%以下であることと、閉塞性障害の原因となるほかの病気が除外されることで診断されます。
重症の場合、胸部X線写真では肺の透過性の亢進(こうしん)、過膨張が認められることがあります。しかし、これらの所見は早期診断には役立ちません。CTスキャンは、肺胞が破壊された早期の段階で肺の気腫性病変を検出することができます。
また、COPDの診断には閉塞性換気障害の存在が重要です。COPDは全身性の病気であるため、全身に炎症が起こって骨格筋の機能が低下し、栄養障害が起こり骨粗しょう症を併発します。このような肺以外の症状や病気もCOPDの重症度に影響するため、合併症を含めた病状の評価と治療が重要となります。
治療
一度壊れてしまった肺は元に戻らないため、COPDでは呼吸機能を維持するための治療を継続的に行います。具体的には、気管支を広げて空気の通りをよくする薬物療法や呼吸をスムーズに行うための運動療法(呼吸リハビリテーション)などが行われます。喫煙を続けると呼吸機能の低下が加速するため、禁煙が治療の基本となります。
COPD管理の目標は、(1)症状とQOL(生活の質)の改善(2)運動能力と身体能力の改善と維持(3)増悪の予防(4)病気の進行の抑制(5)全身合併症と肺合併症の予防と治療(6)生命予後の改善です。重症度は、気流閉塞の程度だけでなく、症状の程度や増悪の頻度などから総合的に判断し、段階的に治療を強化していきます。
予防
COPD では、症状の急激な悪化(増悪)で命に関わることがあります。そのため、普段から増悪を起こさない対策が重要となります。
喫煙は呼吸機能が低下するだけでなく増悪を起こす危険もありますので、喫煙を続けている人は禁煙をする必要があります。

 

投稿者: 大橋医院

2024.11.11更新

<動脈管開存症>
概要
動脈管開存症とは、本来なら出生後に自然に閉じるはずの“動脈管(大動脈と肺動脈をつなぐ血管)”が開いたままになる病気のことです。動脈管開存症は先天性心疾患の1つであり、そのうちの5~10%を占めるとされています。特に低出生体重児に多くみられ、1,500g未満で生まれた極低出生体重児の34%、1,000g未満で生まれた超低出生体重児の48%が発症して治療を受けているといわれています。
胎児期は、肺呼吸をしていないことから肺に必要な血流量が少なく、心臓から肺に血流を送る肺動脈から全身に血液を送り出す大動脈に直接つながる動脈管が存在しています。この動脈管は、生まれて肺呼吸を始めると肺へ多くの血流が必要になるため、機能的には生後10~15時間、器質的には生後2~3週ほどで自然に閉じるのが通常です。しかし、動脈管の閉鎖が正常に行われず開いたままの状態になると、動脈管を介して大動脈から肺動脈へ血液が逆流します。それにより心臓への負担が増え肺への血流量が増加することで、哺乳不良や体重増加不良などを引き起こします。
原因
動脈管は出生後に肺呼吸を行うことで、血液中の酸素増加とプロスタグランジンという物質の血中濃度低下によって収縮し、機能的に生後10~15時間、器質的には生後2~3週ほどで閉鎖します。
しかし、以下に記載するさまざまなケースによって動脈管の閉鎖が妨げられます。
早産による動脈管組織などの未発達
低出生体重児の動脈管は、正期産と比べて酸素の反応が鈍く、またプロスタグランジンの代謝が未成熟で体内に残りやすいため、動脈管が閉じにくいと考えられています。
さらに低出生体重児は動脈管の組織が十分に発達する前に生まれることもあるため、動脈管が閉鎖しにくいことも動脈管開存症を発症しやすいとされています。
血中の酸素不足
出産時のトラブルや、ほかの先天性心疾患によって血中の酸素が不足した状態になることも動脈管開存症の原因となります。
先天性風疹症候群
妊娠中に母親がウイルスに感染した場合、胎盤を経由して胎児が先天性風疹症候群を発症することがあります。この先天性風疹症候群も動脈管開存症を引き起こしやすいことが知られています。
症状
動脈管開存症は、出生後に閉じるはずの大動脈と肺動脈をつなぐ“動脈管”が開いたままになる病気です。大動脈は心臓から全身に血液を送り出す血管で、肺動脈は全身を巡って酸素が少なくなった血液が心臓から肺へ送り出される血管です。
胎児期は肺で呼吸をしていないため、肺へ多くの血流は必要なく、肺動脈から直接大動脈へ血液が流れるために動脈管が存在しています。しかし、出生後に肺呼吸を開始すると肺に多くの血流が必要になるため、動脈管が閉塞して大動脈と肺動脈の交通はなくなるのが通常です。また、肺動脈の圧力は出生後に低下していきます。そのため、出生後も動脈管が開いたままの状態になると圧力が高い大動脈から圧力が低い肺動脈へ血液が逆流するため、肺へ送られる血液量が増えて全身へ送られる血液が減少します。
その結果、動脈管が太く血液の逆流量が多い場合は、心臓と肺へ負担がかかるため、脈圧の増加(収縮期血圧-拡張期血圧)や息切れ、多呼吸、頻脈をはじめ、体重増加不良、哺乳不良、多汗などの症状が引き起こされます。
低出生体重児の場合、肺うっ血や心不全などを招きます。また、腸管が壊死(えし)する壊死性腸炎といった重篤な合併症を引き起こすこともあり、治療が遅れると命に関わることもあります。
検査・診断
動脈管開存症は特徴的な心雑音を聴取できるのが特徴です。聴診や身体所見などから動脈管開存症が疑われるときは次のような検査を行います。
心臓超音波検査
心臓の形や血液の流れ、機能などを評価できる検査です。動脈管開存症が疑われた場合は第一に心臓超音波検査を行い、開いたままの動脈管の確認や心臓への負担の程度などを評価する必要があります。
画像検査
動脈管開存症は重症な場合、心不全に至ることがあります。そのため、心不全による心拡大(心臓が大きくなる)の有無を確認するためにX線検査を行うのが一般的です。
心電図検査
この病気は不整脈を引き起こすことがあるため、心電図検査を行うのが一般的です。
血液検査
貧血や炎症の有無、肝臓や腎臓の機能など全身の状態を把握する目的で血液検査を行う必要があります。
治療
動脈管開存症は重症度などによって治療方法が大きく異なります。
動脈管開存症と診断された場合でも約3分の1は自然に閉鎖していくとされています。そのため動脈管の開存が認められるものの、症状がなく大動脈から肺動脈への逆流が少ない場合は特別な治療をすることなく経過を見ていくこともあります。一方、上述したような呼吸苦などの心不全症状がある場合は、水分制限を行ったうえで利尿薬などによる薬物療法を行います。また、未熟児動脈管開存では動脈管の収縮を促すインドメタシンという薬物を投与します。
しかし、心不全が進行している場合や、未熟児動脈管開存でインドメタシンが作用しない場合などでは、動脈管を閉鎖するための外科手術やカテーテル治療が必要になります。外科手術では、動脈管を糸で結んだりクリップで閉じたりする開胸手術や、内視鏡の映像を見ながら動脈管をクリップで閉じる胸腔鏡下手術が挙げられます。
予防
動脈管開存症は早産や先天性風疹症候群が発症に関与していると考えられています。早産の可能性がある場合は、新生児呼吸窮迫症候群(RDS)などのリスクを軽減するため妊婦にステロイドを投与することがありますが、そのステロイド投与が動脈管開存症の予防にもつながると考えられています。また、先天風疹症候群は動脈管開存症以外にもさまざまな症状を引き起こすため、妊娠前にワクチンを接種するなどの対策が推奨されています。

 

投稿者: 大橋医院

2024.11.09更新

<心室中隔欠損症>
概要
心室中隔欠損症は、心臓の左右下部に存在する心室を隔てる壁(心室中隔)に穴が開いている病気です。穴が開く位置により模様部欠損型や筋性部欠損型、流入部型、流出部型などに分けられ、このうち模様部欠損型がもっとも多く認められます。
心室中隔欠損症は先天性の病気であり、約1,000人に3人の割合で確認されます。小児の先天性疾患としてはもっとも多い病気とされ、全体の約20%を占めます。しかし、小児で発見された場合、その約半数は出生後1年以内に心室中隔の穴が自然に閉じるといわれています。一方、成人で発見される先天性疾患全体の約15%を占めており、比較的発症頻度の高い先天性疾患であるといわれています。
原因
心室中隔欠損症は、先天的な異常が原因であるといわれています。心室中隔は通常妊娠4週から8週頃に形成されますが、何らかの異常により正常に形成されず、穴が残ることにより発症するとされています。
症状
心室中隔欠損症では、“肺高血圧症”や“心拡大”、“アイゼンメンジャー症候群”などをきたし、さまざまな症状を認めます。
本来、心臓はポンプのようなはたらきをし、全身に血液を循環させる役割があります。しかし、心室中隔欠損症の場合には、心室中隔に穴が空き左心室と右心室がつながることで、本来直接血液が流れ込むことがない左心室から右心室へ血流が生じます。
大動脈へ送られる体に必要な分の血液に加えて、心室中隔を通して左心室から右心室へ血液が送られるようになるため、通常の心臓としての機能に加えて余分な血液を送る負荷が心臓にかかるようになり、その負荷に対応すべく左心房と左心室は本来よりも大きくなり、心拡大を起こすことがあります。加えて、通常より多くの血液が肺へと送られるため肺の血管の圧が上昇し、肺高血圧症を引き起こすこともあります。
穴の大きさや場所によって異なりますが、症状の程度はさまざまで、中には命に関わるケースがあります。軽度の場合には無症状のこともありますが、中等大の穴が開いている場合には生後1〜2か月程度から呼吸や脈拍が速くなったり、授乳が困難だったりするケースがあるほか、手足の冷感や寝汗などの症状を認めることがあります。重症の場合には、肺高血圧の状態をきたした結果、手足や唇などが青紫色になるチアノーゼを生じることもあります。さらに肺高血圧症が重症化すると、チアノーゼに加え胸の痛みや疲れやすさ、失神などを生じることもあります(アイゼンメンジャー症候群)。
このほか、症状の程度にかかわらず“感染性心内膜炎”を引き起こすことがあります。これは心室中隔欠損症によって血流が乱れ、心臓の壁を傷付けることで細菌が付着しやすくなるためです。それらの細菌は、歯科治療や外科的処置などによって体内に侵入し、感染性心内膜炎を発症する原因になることがあります。
検査・診断
心室中隔欠損症は、新生児検診や乳児検診で発見されることがあります。検診で心臓の雑音が聴取されるなどの異常がある場合には、心電図や胸部X線検査、心エコー検査などを行い診断します。
心室中隔欠損症の検査所見では、心電図で心室の肥大が確認されるほか、胸部X線検査では心拡大や肺血管陰影の増強などが確認されます。しかし、軽症の場合にはこのような検査を行っても異常を示さないケースもあります。いずれも心エコー検査で穴の大きさや部位、心室の圧、血流などを確認することで診断されます。
治療
すでに心臓に負荷がかかっている場合には、心不全症状の改善を目的として利尿剤等を用いた薬物療法が行われます。薬物療法によって改善がみられる場合には、時期をみて心臓カテーテル検査を行い、2歳頃までに手術が行われます。一方、薬物療法を行っても呼吸症状が改善しない場合や症状の進行が疑われる場合には、早期に手術が行われることもあります。
軽症の場合には薬物療法や手術をせず経過観察を行うこともありますが、この場合でも歯科治療や何らかの外科的処置を受ける際には感染性心内膜炎の予防のために抗生剤の内服を検討する必要があります。
手術療法
心室中隔の欠損部にパッチを当て、穴をふさぐ手術が行われます。手術では心臓を一時的に止めて治療を行うため、心臓の機能を代わって担う人工心肺という装置を用いて全身麻酔下にて行います。
人工心肺が使用できない場合や穴をふさぐことが困難な場合には、肺に流れる血液量を制限する肺動(はいどう)脈(みゃく)絞(こう)扼(やく)術(じゅつ)という手術を行うこともあります。海外では、手術ではなくカテーテルを用いて穴を塞ぐ治療を行うこともあり、将来的に日本でも可能になる可能性があります。
予防
心室中隔欠損症は先天性疾患であるため、予防することは困難です。しかし、小児発症の多くは出生後の検診で発見されるため、定期的に検診を受けることが早期発見につながります。また、小児で重症の場合には呼吸の荒さや授乳量の低下、体重減少などの異常から発見される場合があり、成人の場合にも呼吸困難やむくみ、原因不明の発熱がきっかけで診断に至るケースもあります。そのため、何らかの異常に気付いたら早めに医療機関の受診を検討するとよいでしょう。

 

投稿者: 大橋医院

2024.11.08更新

<心房中隔欠損症>
概要
心房中隔欠損症(Atrial septal defect :ASD)とは、心房中隔(右心房と左心房を2つの空間に分けている壁)に穴が開いている状態を指します。心臓は、右心房、右心室、左心房、左心室の4つの部屋から構成されています。右心房と左心房は、それぞれ全身と肺からの血液が戻ってくる部屋です。この両者の部屋は心房中隔と呼ばれる壁により隔てられています。
心房中隔欠損症は、先天性心疾患(産まれつきの心臓の病気の総称)の1つであり、その中でも一定の割合を占めています。また、心房中隔欠損症は女児に多いことが知られています。
先天性心疾患ではあるものの、無症状であることが多いため、新生児や乳児期に発見されることは少なく、就学時検診やそのほかの理由で小児科を受診した際などに発見されることが多いです。大きな穴では自然閉鎖は期待できず、年齢を経てから心不全による症状が徐々に現れることもあります。心臓や肺への負担状況を判断しながら、治療が行われる病気です。
原因
胎児期、左右の心房を隔てる心房中隔には、卵円孔(らんえんこう)と呼ばれる生理的な穴が存在しています。胎児は胎盤を介して酸素を取り入れるため、肺で酸素を取り入れる必要がありません。そのため、胎児の右心房に返ってきた血液は肺へ流れることは少なく、卵円孔を介して左心房へと移動します。
出生後、赤ちゃんは自分自身の肺で酸素を取り込まなければならなくなるため、右心房に帰ってきた血液が肺に流れるようになり、卵円孔は不要になります。そのため生後、卵円孔は自然閉鎖します。
心房中隔欠損の多くは卵円孔の部位に認めますが、タイプによって穴が生じる場所は異なります。それぞれのタイプに応じて、症状の現れ方や自然閉鎖するかどうかの傾向、治療法も異なってきます。
原因として特定の遺伝子異常は分かっておらず、複数の遺伝的要因や環境的要因が考えらえています。また染色体異常や胎児期におけるによる感染、母体のアルコールの過剰摂取なども心房中隔欠損症の発症に関与するリスク因子であると考えられています。
症状
心房中隔欠損により、新生児期や乳幼児期に症状が現れることはまれです。一方、同じように心臓に穴が空いている心室中隔欠損症においては、乳児期にも症状が出ることがあります。心室中隔欠損症とは異なり、心房中隔欠損症は、症状がないうちから、3歳児検診、学校心臓検診、別の病気などでかかりつけ医に見てもらったことなどをきっかけに診断されることが多い病気です。
心房中隔欠損症では、同じ世代の子どもと比べるとやや体が小さい、走ると疲れやすい、風邪をひきやすいなど、間接的に心臓や肺への負担を示唆する症状が見られることがあります。
病状がさらに進行すると、成人期以降にチアノーゼ、易疲労感、失神、胸痛、多呼吸、寝汗、不整脈(心房細動と呼ばれるものが代表的)などが生じることもあります。また、妊娠をきっかけにこれらの症状が現れることもあります。
検査・診断
お子さんに症状がない場合でも、聴診所見から心房中隔欠損の疑いを指摘されることがあります。胸部X線、心電図、心エコー検査をもとに診断されます。
心房中隔欠損が大きく、心臓や肺に負担が大きい場合には、治療が必要です。また、心臓にほかの先天性心疾患を伴うことがあります。そのため、治療方針の決定や合併症の判断をより正確にするために、心臓カテーテル検査を行うこともあります。
治療
治療(手術や内服薬の処方など)を行うかについては、心房中隔欠損に伴う症状や合併心疾患の有無などによって判断します。
心房中隔欠損が小さく、合併する心疾患もないお子さんの場合は、無治療で経過観察します。一方、欠損が大きく、心不全症状が現れた場合には、利尿剤などで心不全症状のコントロールを行い、次に述べる閉鎖術を検討します。また、不整脈が見られる場合には、抗不整脈薬を用いることも検討されます。
心房中隔欠損症は、心室中隔欠損症と比べて自然閉鎖は期待しにくい病気です。そのため、経過を見ながら、心房中隔欠損の閉鎖術を検討します。閉鎖術には大きく2つの方法があります。1つはカテーテルにより閉鎖する方法(カテーテルインターベンション)、もう1つは心臓の穴を直接閉じる方法(パッチ閉鎖や直接縫合など)です。
カテーテルインターベンションのメリットは、胸にメスを入れる必要がなく、太ももの血管から穴を防ぐ栓を挿入して閉鎖する方法であり、侵襲性(しんしゅうせい)が低い点です。しかし、心房中隔欠損の位置や大きさによっては適応にならない場合もあります。穴の位置やそのほかの合併症(たとえば弁の逆流)の関係から、手術が選択されることもあります。

 

 

投稿者: 大橋医院

2024.11.06更新

<シャイドレーガー症候群>
概要
シャイ・ドレーガー症候群とは、立ちくらみや尿失禁といった自律神経障害を代表的な症状とする進行性の神経疾患です。病気が進行するとパーキンソン症状や小脳失調症状をみることになります。線条体黒質変性症やオリーブ橋小脳萎縮症といった病気と比べて、中枢神経における病変部位の変化や症状が共通することも知られています。そのため、シャイ・ドレーガー症候群は、これら病気とともに多系統萎縮症と総称されています。発症後は緩やかに進行しますが、病気の本態を根本的に治療する方法は確立されておらず、自律神経症状・パーキンソン症状などに対する対症療法が治療の中心になります。
原因
シャイ・ドレーガー症候群は中枢神経が変性することを原因として発症します。変性を受けるのは、脳幹や脊髄の自律神経に関与する部位、体幹のバランスやスムーズな運動動作に重要な小脳、橋核、オリーブ核、線条体、黒質と呼ばれる部位などが主体です。特に「オリゴデンドロサイト」と呼ばれるグリア細胞において変化が生じることが知られており、この中に「αシヌクレイン」から構成される物質が形成されます。こうした変化及び出現する症状は、線条体黒質変性症やオリーブ橋小脳萎縮症と呼ばれる病気と共通するため、シャイ・ドレーガー症候群を含めて、包括的に多系統萎縮症と呼びます。
基本的には家族歴などのない状況において発症します。しかし、ときに家族内で多発することも知られています。こうした家系を対象にした研究を通して、COQ2遺伝子の異常が病気の発症に関与していることが考えられています。COQ2遺伝子に異常が生じると、エネルギー産生に必須のコエンザイムQ2と呼ばれるタンパク質の構成に異常を呈することになります。現在(2018年現在)までのところ、シャイ・ドレーガー症候群の病態が完全に解明されているとはいえません。治療成績についてもまだまだ向上が必要な病気であり、今後の研究の発展が期待されています。
症状
シャイ・ドレーガー症候群では、まず自律神経症状が出現します。具体的には立ちくらみや尿失禁、インポテンツなどの症状です。自律神経障害が前面に出ますが、病気の進行と共にパーキンソン症状や小脳失調症状が現れるようになります。
パーキンソン症状
歩行が遅くなる、声が小さくなる、動きが鈍くなるなどが代表的な症状です。
小脳失調症状
歩行時のふらつきや発語の障害などが生じるようになります。認知機能に異常がみられることや、うつ症状を呈することもあります。
シャイ・ドレーガー症候群は、パーキンソン病よりも進行が早いという特徴があります。最終的には誤嚥(ごえん)性肺炎を代表とする病気により、10年未満の経過で亡くなるケースも多いです。
検査・診断
シャイ・ドレーガー症候群の診断の際は、症状の確認や身体所見が重要です。また、頭部MRIも重要な検査であり、障害を受けている脳の部位(小脳や脳幹部位など)を特定します。脳の活動性や血流の評価を行うために、PETやSPECTといった検査も行われます。その他、自律神経系の異常を探索するために、膀胱機能検査、起立性低血圧の検査などを行います。パーキンソン病との鑑別が求められることも少なくなく、MIBG心筋シンチグラフィも検討されます。
治療
シャイ・ドレーガー症候群を根本的に治療する方法は、現在(2018年現在)までのところ確立されていません。そのため、対症療法が治療の中心になります。たとえば、起立性低血圧に対しては昇圧剤、パーキンソン症状に対してはパーキンソン病の治療薬を用いた治療が行われます。
シャイ・ドレーガー症候群では、歩行障害や嚥下機能の障害、発語障害などを経時的にみるようになります。そのため、リハビリテーションなど、障害の進行を抑制する試みが重要です。歩行がままならなくなった場合には車いすなどの装具の使用、嚥下機能が強く障害されてしまい誤嚥性肺炎を繰り返す場合には胃瘻(いろう)の増設などが検討されることになります。
シャイ・ドレーガー症候群の治療成績は、現状において満足いくものとはいえません。そのため原因の解明に加えて、より根本的な治療方法の開発が強く期待されています。

 

投稿者: 大橋医院

2024.11.05更新

<最近学習したこと>  大橋信昭
私が自己学習で驚いたことを羅列する。
15世紀までの物理は、ニュートン、ガリレオらが立派な仕事をしたが、古典物理学として一区切りする。
物質の最少単位は、原子と思っていたが、量子力学が花開いてから、驚くことの連続である。原子の中には陽子、中性子、電子があり陽子と中性子の塊の周囲を電子が飛び交う。原子の大きさを東京ドームとしたら、陽子、中性子はピッチャーマウンドの大きさになる。陽子、中性子の中には7種類のクオーク(素粒子がある。)この素粒子がこの宇宙の最小物質ではないかといわれている。クオークは7種類あり、電化的に陽性が種類、中性が2種類、陰性が1種類(?)。間違っているかもしれない。クオークが7種類あるということは、この世は3次元と、私たちは思っているが、時間を入れて4次元、計算上7次元から成り立つと言われている。7次元の世界はどういう世界か誰も知らない。宇宙ができて138億年、最初は小さな玉で、その中に宇宙が全部、凝集していた。高温で抗エネルギ―で、137億年前にビッグバーンがあり、この小さな玉が大爆発し、一秒の―18秒で宇宙空間が出来上がった。しかし、かなり高熱で、水素が中心に、Heが控えめに、宇宙区間を散在していた。やがて時間は経過し、宇宙空間は冷えていき、水素を中心にやがて集まり、どこからか分かりませんが70種類の元素を含めて大きな塊から惑星にまでなり、やがて惑星も無限になり、銀河団を形成する。銀河団も無限にでき、この銀河団は、急速に離れ、宇宙空間は拡大の一途をたどる。宇宙空間はどこまであるのか、何兆光年にわたり、人間が観測できるものではない。私たちは天の銀河系の片隅に太陽系があり、太陽の惑星の3番目に地球がある。宇宙空間で、人類が観測できるのは、たったの4.6%である。私達だって、空気が見えないのと同じで、57%は暗黒エネルギー、40%少しが暗黒物質からなる。2024年の現在、暗黒エネルギーの正体がわかっていない。素粒子の一種かも知れない?私たちの周りにも素粒子は飛び交い、宇宙の暗黒エネルギーの正体かもしれない。岐阜県の神岡町にスーパーカミオカンデという、巨大な水槽を地下深くに作り、5万トンの水にニュートリノを捕まえるために巨大な施設ができている。私たちは素粒子で出来ている。ニュートリノは宇宙に溢れている。しかし、これ以上はきりがない。私は、光の勉強に夢中になった。これは奥が深い。Youtubeの、のもと愛を追いかけていただくと、ご理解できる。著書もアマゾンで注文した。書いていたら、仕事で忙しいし、医学の勉強、アメリカ大統領選挙、地球中が不安定だので筆をおく。もっと書けと言われても無理なのです。
ご理解を!

 

投稿者: 大橋医院

2024.11.02更新

<ギランバレー症候群>
概要
ギラン・バレー症候群とは、末梢神経が障害されることによって脱力・しびれ・痛みなどの症状が引き起こされる病気のことです。
私たちの神経には、脳や脊髄(せきずい)といった“中枢神経”とそこから分岐して全身に分布していく“末梢神経”があります。末梢神経はさらに、運動に関わる運動神経・感覚に関わる感覚神経・身体の機能を調節する自律神経に分類されますが、ギラン・バレー症候群ではこれらの神経に異常が生じることによって発症すると考えられています。
末梢神経に異常が生じる原因は、ウイルスや細菌による感染をきっかけに起こる免疫反応が自身の末梢神経を攻撃することによるものと考えられています。この病気は特別な治療を行わなくても自然に症状が軽快していくケースが多い一方、重症化するケースもあるため発症した場合はできるだけ早い段階で治療を開始することが望ましいとされています。
発症率は10万人あたり1~2人と比較的珍しい病気ですが、小児から高齢者まで全ての年代で発症する可能性があるため注意が必要です。
原因
ギラン・バレー症候群患者の3人に2人は発症の1~3週間前にカンピロバクター、サイトメガロウイルス、EBウイルスなどの感染症にかかった既往があるとされています。カンピロバクター腸炎後に起こるギラン・バレー症候群では、この細菌に対する抗体が自身の末梢神経を攻撃してしまうことにより発症することが分かっています。サイトメガロウイルス、EBウイルス感染後に起こるタイプについても同様の原因が推定されていますが、まだ証明はされていません。
また、そのほかにも、インフルエンザなどのワクチンによって引き起こされるケースも報告されています。新型コロナウィルス感染の後に発症するケースも報告されています。
症状
ギラン・バレー症候群の症状の現れ方や重症度には個人差がありますが、下痢・風邪症状や発熱などの感染症症状が生じて1~4週間後に手足の力が入りにくくなっていくのが典型的なパターンです。多くは、足の力が入りにくくなり、徐々に腕にも脱力が広がっていき、階段の上り下りができない・布団の上げ下ろしができないといった症状が現れます。また、脱力と同時にしびれや痛みが生じるケースも少なくありません。
一般的に、これらの症状は上下肢に現れますが重症なケースでは、顔の筋肉や目を動かす筋肉、物の飲み込みに関わる筋肉にも麻痺が生じることがあり、中には呼吸に関わる筋肉が麻痺して呼吸困難に陥ることも少なくありません。さらに、末梢神経のなかでも自律神経のダメージが強い場合は、脱力・しびれ・痛み以外にも頻脈や血圧の高度の変動などの症状が引き起こされることも知られています。
ギラン・バレー症候群は突然、前述のような症状が現れますが、多くは発症後4週間ほど経つと徐々に改善に向かい、半年~1年ほどで元の状態に戻っていきます。しかし、急激に重症化するケースもあり、発症者の20%は1年後でも何らかの神経障害を残し、2~5%の方は命を落としているのが現状です。
検査・診断
症状などからギラン・バレー症候群が疑われるときは、次のような検査が行われます。
血液検査
末梢神経の異常を引き起こす糖尿病などとの鑑別をする目的で血液検査が行われます。また、ギラン・バレー症候群患者の60%の血中には末梢神経の成分を攻撃する抗体が存在するとされているため、この抗体の有無を調べる検査も行われます。
画像検査
脳や脊髄などの中枢神経の異常による症状との鑑別をするため、CTやMRIなどによる画像検査が行われます。
末梢神経伝導検査
末梢神経の電気的な活動が伝わる速さを測定することで、末梢神経が正常に機能しているか調べることができる検査です。ギラン・バレー症候群では、電気的な活動が伝わる速度が遅くなったり、伝わらなくなったりする部位が生じるため、診断の大きな手がかりとなります。
髄液検査
腰に針を刺して髄液を採取し、髄液中の細胞を詳しく調べる検査です。ギラン・バレー症候群では髄液中のたんぱくが増加し、細胞数が正常といった変化が生じるため、診断に役立つとされています。また、麻痺などを引き起こす髄膜炎や脳腫瘍では細胞数が増えるのでこれらとの鑑別にも有用です。
治療
ギラン・バレー症候群は特別な治療をしなくても自然に軽快していくケースが多いとされています。しかし、重症化した場合はできるだけ早い段階で次のような治療が行われます。
血液浄化療法
血液中の有害な物質を取り除いて体内に戻す治療法です。ギラン・バレー症候群に対して血液浄化療法を行うと、症状が軽くなり、回復が早くなることが分かっています。頻度や回数は重症度によって異なりますが、多くは1日おきに4~5回程度の治療が行われます。
免疫グロブリン大量静注療法
原因となっている免疫反応(抗体)を抑えるため、大量の免疫グロブリン製剤を点滴で投与する治療方法です。
症状を改善するための治療
ギラン・バレー症候群はさまざまな症状が引き起こされるため、それぞれの症状を改善するために治療が行われます。具体的には、呼吸困難に対する人工呼吸器装着、嚥下(えんげ)困難(物が飲み込めない)に対する栄養管理(経管栄養)などが挙げられます。
予防
ギラン・バレー症候群を引き起こす細菌・ウイルス感染自体を予防することは困難ですので、予防法はないのが現状です。
重症化すると呼吸筋の麻痺のために命にかかわるケースもあるため、感染症症状が現れて1~3週間ほどで急に脱力症状などが現れた場合はできるだけ早く病院を受診するようにしましょう。

 

投稿者: 大橋医院

2024.11.01更新

<新形コロナウィルス感染症>
概要
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による感染症です。2019年12月に中国で初めて報告され、今もなお世界的な流行を見せています。日本では2023年4月1日までに33,462,859人(国内人口の約26.5%)が新型コロナウイルス感染症と診断されています。
新型コロナウイルスについて厚生労働省は、入院措置・勧告や外出自粛といった措置をとれる“新型インフルエンザ等感染症(感染症法上の2類相当)”に位置付けていましたが、2023年5月8日から季節性インフルエンザなどと同じ感染症法に規定される“5類感染症”に移行しました。これにより、政府が外出自粛を要請することはなくなり、感染対策は個人や事業者の判断に委ねられるなど、大きな転換点を迎えました。
新型コロナウイルス感染症は、新型コロナウイルスの感染から1~14日(当初は平均約5日、オミクロン株では平均約2日)の潜伏期間ののち、発熱、鼻水、喉の痛み、せきなどの呼吸器症状や、嗅覚異常や味覚異常といった症状が現れます。また、感染者の一部は肺炎が悪化して酸素投与や集中治療室での人工呼吸管理が必要になることがあり、特に、高齢者や基礎疾患などがある人、一部の妊娠後期の人で重症化のリスクが高いといわれています。2022年7〜8月にかけて新型コロナウイルス感染症と診断された人のうち、重症化した割合は50歳代以下で0.01%、60・70歳代で0.26%、80歳代以上で1.86%、また死亡した割合は50歳代以下で0.00%、60・70歳代で0.18%、80歳代以上で1.69%と報告されています。
新型コロナウイルスは発症の2日前から発症後5~10日間程度までは、ほかの人に感染させる可能性があるといわれています。特に、発症直前や直後がもっともウイルス排出量が多く、感染のリスクが高まるため、流行期間中は症状の有無にかかわらず3密(密閉・密集・密接)や、飲酒を伴う懇親会のように感染リスクが高まる“5つの場面”を避けることが大切です。
原因
新型コロナウイルス感染症の原因は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)です。ウイルスはヒトの粘膜に付着し、そこから体内に入り込んで増殖することで発熱やせきなどの症状を引き起こします。
コロナウイルスとはRNAを遺伝情報とし、“エンベロープ”と呼ばれる脂質の二重膜を持つウイルスの総称です。新型コロナウイルス以外にはいわゆる“かぜ”の原因となるウイルスや、重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)の原因となるウイルスがあります。
新型コロナウイルスの感染経路
新型コロナウイルスは一般的に“飛沫感染”と“接触感染”によって感染し、中でも飛沫感染が主な感染経路であると考えられています。なお新型コロナウイルスは、飛沫が飛びやすいマスクなしでの会話や、3密(密閉・密集・密接)の環境で感染しやすいことが分かっています。
飛沫感染とは、感染者の飛沫(くしゃみ、咳、会話によるつばなど)に含まれたウイルスをほかの人が口や鼻などから吸い込むことで感染する経路です。
接触感染とは、感染者が触れることなどでウイルスが付着したものに、ほかの人が触れてその手で口や鼻などを触ることでウイルスが粘膜から感染する経路です。目の粘膜からも感染するといわれています。
感染後
新型コロナウイルスは、発症後7~10日間が経過するまではウイルス排出の可能性があるといわれているため、他人に感染させるリスクが高いことに注意する必要があります。特に発症後5日間は感染リスクが高いことから、外出を控えることが強く推奨されます。
また5日が経過していたとしても、熱が下がり、せきや喉の痛みなどの症状が軽快してから24時間程度は様子を見て、外出を控えることが推奨されます。
新型コロナウイルスの変異株
新型コロナウイルスなどのウイルスは、増殖や流行を繰り返す中で遺伝子配列を少しずつ変異させており、新型コロナウイルスは約2週間で1か所程度の速さで変異を繰り返しているといわれています。そのうち感染性が高まったり、ワクチンへの効果を弱めたりする、またはその可能性がある株を「懸念される変異株(VOC)」と「注目すべき変異株(VOI)」として警戒の対象としていますが、2023年9月時点では、VOCに該当する系統の指定はありません。
オミクロン株は従来の新型コロナウイルス同様、引き続き高齢者の重症化リスクは高い一方、若年者の重症化リスクはより低く、ほとんどが軽症で済むことが特徴です。
症状
新型コロナウイルス感染症の発症早期では発熱・鼻汁・喉の痛み・せき・倦怠感・息苦しさといったかぜやインフルエンザに似た症状や、嗅覚異常・味覚異常、下痢などが現れることがあります。一部の人は症状が悪化して肺炎になり、入院が必要になることもあり、さらに重症化すると集中治療室での人工呼吸管理が必要になります。
重症化する場合は発症後約5~7日程度で急速に悪化することが多く、特に高齢者や基礎疾患(糖尿病、心不全、呼吸器疾患など)を持つ人で重症化しやすいことが知られています。
また、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)と呼ばれる重度の呼吸不全や、サイトカインストームと呼ばれる過剰な免疫反応、血栓症や心筋炎が合併症としてみられることもあり、若年層であっても重症化することがあります。
新型コロナウイルス感染症の後遺症
新型コロナウイルス感染症にかかった人の中には、治療や療養が終わったにもかかわらず一部の症状が長引くことがあり、いわゆる後遺症として報告されています。
新型コロナウイルス感染症の後遺症については研究が進められている最中ですが、以下の後遺症が報告されています。
• 体のだるさ
• 筋力の低下
• 集中力の低下
• 脱毛
• 睡眠障害
• 嗅覚障害
• 咳
• 頭痛
• 味覚障害
• 記憶障害
• 関節の痛み など
• ただし、いずれの後遺症もほとんどの場合で時間の経過とともに軽快していく傾向があると考えられています。また、入院中酸素投与が必要であった人や、気管内挿管・人工呼吸器管理が必要であった人はそうでない人と比較して後遺症が残りやすいということも明らかになりました。
• 検査・診断
• 新型コロナウイルス感染症を診断するための検査には、抗原検査とPCR検査やLAMP検査があります。抗原検査は、ウイルスを特徴づけるタンパク質(抗原)の存在を調べるもので、PCR検査やLAMP検査はウイルスを特徴づける遺伝子配列の有無を調べるものです。それぞれ、検査の精度、検査が行える場所、判定にかかる時間が異なります。検査は、鼻咽頭(びいんとう)や鼻腔(びくう)のぬぐい液や唾液を検体として行われます。
• 新型コロナウイルス感染症は検査結果と医師の診察に基づいて診断が確定します。そのため、自分で行う抗原検査の結果が陰性であっても、医師の診察が行われていなければ新型コロナウイルス感染症ではないと確定することはできません。
• 新型コロナウイルス感染症の重症度
• 新型コロナウイルスの重症度は、血液の酸素飽和度(SpO2)と呼ばれる検査値と、臨床症状に基づいて判断されます。
• 軽症:SpO296%以上、呼吸器症状がない、せきのみで息切れがない
• 中等症I(呼吸不全なし):SpO294%~95%、息切れと肺炎所見がある
• 中等症II(呼吸不全あり):SpO293%以下、酸素投与が必要
• 重症:集中治療室での治療が必要または人工呼吸器が必要
治療
新型コロナウイルス感染症の治療方法は重症度によって異なります。軽症の場合は対症療法を行いながら経過観察を行うことで自然に軽快することも多く、解熱剤などが使用されることがあります。
病状や重症度に応じて、中和抗体薬、抗ウイルス薬、ステロイド薬、免疫調整薬、中和抗体薬や酸素の投与を行います。また、集中治療室での治療や人工呼吸器の使用が必要になる場合もあります。
新型コロナウイルスの治療薬
日本で使用できる新型コロナウイルスの治療薬については、2023年9月時点で主に以下の治療薬が承認されています。
抗炎症薬
• デキサメタゾン:ステロイド薬。中等症II〜重症の患者への投与が推奨されている。
• バリシチニブ:関節リウマチなどに使用される薬。中等症II〜重症の患者に検討される。
• トシリズマブ:関節リウマチの治療薬としても使用される。中等症II〜重症の患者に検討される。
抗ウイルス薬
• レムデシビル:エボラ出血熱の治療薬として開発されていた薬。ハイリスクの軽症~重症患者まで幅広く検討される。
• モルヌピラビル:ハイリスクの軽症~中等症Iの患者に検討される。妊婦には使用できない。
• ニルマトレルビル/リトナビル:ハイリスクの軽症~中等症Iの患者に検討される。併用できない治療薬が多いため注意が必要。
• エンシトレルビル:軽症~中等症Ⅰの患者に検討される。妊婦には使用できず、多くの薬剤が併用禁忌となっている。重症化リスクの少ない患者にも使用が可能である。
中和抗体薬
• カシリビマブ/イムデビマブ:ハイリスクの軽症~中等症Iの患者に検討されるほか、濃厚接触者の発症の抑制にも使用できる。
• ソトロビマブ:ハイリスクの軽症~中等症Iの患者に対して使用される。
• チキサゲビマブ/シルガビマブ:ハイリスクの軽症~中等症Ⅰの患者に検討されるほか、免疫抑制状態にある患者に投与し発症を抑える効果も期待できる。
• 新型コロナウイルス感染症は、マスクなどの防護対策を行わずに、3密(密閉・密集・密接)の環境で人と接することで感染が広がることが分かっています。そのため予防には、マスクなどの防護対策を行ったうえで3密を避け、体調が悪いときは外出を控えるなどの予防対策が推奨されます。接触感染を避けるために手洗いや身の周りのものの消毒・除菌を行うことが有効です。
• 新型コロナワクチン
• 2023年9月20日からの“令和5年秋開始接種”では、生後6か月以上を対象にオミクロン株の亜系統であるXBB.1系統に対応した1価ワクチンの接種が開始されます。
• 新型コロナワクチンは、新型コロナウイルス感染症の発症、感染、重症化を予防する効果があることが確認されています。また追加接種を受けた場合、追加接種をしていないケースと比べて、発症や重症化、入院それぞれの予防効果が高くなることも報告されています。
• ワクチンの種類にもよりますが、接種後に接種部分の痛み、発熱、倦怠感、頭痛、筋肉や関節の痛み、寒気、下痢などの副反応が一定の頻度でみられます。ごくまれですが、心筋炎が発症した事例も報告されています。

 

投稿者: 大橋医院

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