2024.12.17更新

<たこつぼ型心筋症>
心筋症は心臓の筋肉の異常により心臓の機能が損なわれる病気です。心臓の筋肉が分厚く(心肥大)なる肥大型心筋症や、左心室が大きくなって(心拡大)心臓の動きが悪くなる拡張型心筋症といった特発性心筋症が代表的です。
たこつぼ型心筋症は1990年に日本で命名された二次性心筋症で、高齢の女性に多く、強い精神的や肉体的ストレスの後に胸痛や動悸(どうき)、呼吸困難、吐き気といった狭心症や心筋梗塞とよく似た症状で発症します。
急性心筋梗塞に似た心電図の波形と心臓超音波検査でこの病気に特徴的な心臓の動きが見られれば、緊急入院の上、集中治療室で厳重な管理と病状に合った治療を受ける必要があります。
診断を確定するには心臓カテーテル検査が必要です。心臓を栄養する冠状動脈には明らかな異常が無いのに、左心室の造影検査で、本来左心室は円錐型をしていますが、たこつぼ型心筋症では先端の心尖部(しんせんぶ)が動かなくなり、逆に手前の心基部(しんきぶ)が過剰に収縮し、心尖部が膨らんだように見えて、収縮時にその名の通り左心室は“たこ漁”で使用される“たこつぼ”の様な形になります。
経過は軽症から重症まで様々で、一般に予後は比較的良好ですが、心不全、不整脈、低血圧、ショックや突然死が起こる事もあり軽視できません。また再発される方もおられますので注意が必要です。
病因の詳細は不明ですが、身内の不幸や激しい口論、運動など突然の強いストレスにより、交感神経が活性化し血液中に大量のカテコラミン(アドレナリン、ノルアドレナリン)が放出されて心臓の筋肉が障害されるため、また中高年女性が多いので女性ホルモンが減少しているためではないかとも考えられています。
近年地震や台風、洪水などの大規模災害時の循環器疾患として、エコノミークラス症候群(肺梗塞症・深部静脈血栓症)、不整脈、狭心症、心筋梗塞、大動脈解離と共に注目され、2004年の新潟県中越地震や2011年の東日本大震災でも被災地で平時より多くの患者さんが発生してしまいました。自然災害に対する恐怖、愛する者との死別、経済的問題、家屋の全壊、避難所生活などによる精神的ストレスが発症の原因になっているようです。予防法はまだ確立されていませんが、避難所での自動血圧計やAED(自動体外式除細動器)の配置と、胸痛がある方への専門医による心電図や超音波検査の施行、プライバシーの確保や、早期からのメンタルヘルスケアの介入が必要と考えられています。

 

投稿者: 大橋医院