<Wallenberg 症候群>
概要
延髄外側症候群とは、脳幹の一部である延髄(えんずい)と呼ばれる部位に、が起こることで生じるさまざまな神経症状のことで、ワレンベルク症候群とも呼ばれます。椎骨動脈(ついこつどうみゃく)や延髄外側部に血液を送る後下小脳動脈(こうかしょうのうどうみゃく)の閉塞(へいそく)などが原因で、飲食物の飲み込みの障害(嚥下(えんげ)障害)、声のかすれ()、顔や首から下の半身の温痛覚障害などの症状が突然起こります。
一般に脳梗塞は60歳以上の人に多い病気といわれていますが、延髄外側症候群の平均発症年齢は50歳前後であり、若年者であっても注意が必要です。
原因
延髄外側症候群の主な原因は、動脈硬化によって起こる脳梗塞であるといわれています。
脳梗塞とは脳の血管が詰まり、脳の一部の血流が途絶えることでさまざまな機能障害を引き起こす病気です。脳梗塞には、高血圧などによって脳の深い部分を流れている細い血管が詰まって起こる “ラクナ梗塞”、延髄外側症候群のように比較的大きな脳の血管にコレステロールがたまることによって起こる“アテローム血栓性脳梗塞”、心臓などで作られた血栓(血の塊)が血流に乗って脳へと流れ、脳血管に詰まって起こる“心原性脳塞栓症(しんげんせいのうそくせんしょう)”などがあります。
延髄外側症候群は、椎骨動脈解離を原因として起こることもあります。椎骨動脈解離とは、首から脳へと流れる椎骨動脈と呼ばれる血管の内部が裂けてしまうことをいいます。動脈解離はさまざまな部位の動脈に生じることがありますが、脳動脈の中では椎骨動脈にもっとも起こりやすいといわれています。裂けた血管の内膜が血流を妨げ、椎骨動脈が小脳へとつながる後下小脳動脈が閉塞し延髄外側に脳梗塞を起こします。また、裂けた部位から血管が膨らんでこぶ(解離性脳動脈瘤(かいりせいのうどうみゃくりゅう))が発生し、くも膜下出血を起こすケースもあります。
症状
延髄外側症候群では嘔吐、嚥下障害、声のかすれ、温度や痛みを感じる機能の障害、物が二重に見える複視(ふくし)などさまざまな症状が現れます。一般的な脳梗塞では手足の麻痺(まひ)がみられますが、延髄外側症候群では運動麻痺は起こりません。
嚥下障害・声のかすれ
喉の筋肉に麻痺が生じ、飲食物をうまく飲み込めなくなったり、声がかすれるようになったりします。また、しゃっくりが止まらなくなるなどの症状がでることもあります。
温度や痛みを感じる機能の障害
延髄が障害されると、顔や首から下の半身に感覚障害が起こることがあります。温度や痛みに関する感覚(温痛覚)は一部交差しているため、顔の症状と体の症状がある場合は、それぞれ左右反対側に症状がみられるのが特徴です。
小脳性運動失調
四肢や体の感覚を脳に伝える神経が障害されると、運動失調がみられる場合があります。歩行時のふらつきや、歩行時に横にずれてまっすぐ歩けないなどの症状がみられることもあります。
ホルネル症候群
延髄の交感神経の一部が障害されると、瞳孔の開きが悪くなったり、まぶたが垂れ下がったり、眼球の位置が後ろに後退したりするなど、主に目の症状が現れます。そのほか顔の発汗量が低下したり、顔が赤みを帯びたりすることもあります。
めまい・嘔吐
平衡感覚などを司(つかさど)る前庭神経に障害が及ぶと、回転しているかのようなめまい(回転性めまい)や嘔吐などがみられることがあります。
検査・診断
脳梗塞・脳動脈解離などの病気が疑われる場合、問診や臨床所見の確認、血圧測定などの診察のほか、CT検査やMRI検査などの画像検査を行います。脳MRI検査では、脳の血管を映し出すMRA検査を同時に行い、椎骨動脈の閉塞や解離の有無を診断します。椎骨動脈解離が生じている場合は、裂けた部位にこぶが発生することがあるため血管の閉塞部位と原因を正確に診断することが重要です。
治療
延髄外側症候群の治療では、脳梗塞の治療と同様に、詰まった脳血管に対する治療を行います。具体的には発症から4.5時間以内であれば血栓溶解療法(t-PAという薬で血栓を溶かす治療法)のほか、脳血管にカテーテルと呼ばれる細い管を通し、血栓を取りのぞく治療(血栓回収療法)を検討します。脳梗塞は発症からできるだけ早い段階で治療を行い、血流を再開させることで症状の大きな改善が期待できます。これら急性期治療の後、再発防止を目的とした抗血栓療法の継続を検討します。
椎骨動脈解離を原因とする延髄外側症候群の場合は、 解離部分にこぶが生じていないか、こぶが破裂してくも膜下出血を起こす心配はないかなどを詳しく確認した上で、抗凝固薬や抗血小板薬などの薬を用いた抗血栓療法を行うことが一般的です。