2024.10.01更新

韓国でのSGLT-2阻害薬とDPP-4阻害薬を開始した40-69歳の2型糖尿病患者における認知症リスクを比較した大規模な集団ベースのコホート研究である。この研究では、SGLT-2阻害薬使用者は、DPP-4阻害薬使用者と比較して認知症のハザード比が0.65(95%CI 0.58-0.73)となったことが示されている。さらに、SGLT-2阻害薬の治療効果は治療期間が長くなるに伴って増加し、アルツハイマー病や血管性認知症に対しても同様の効果が見られたという結果となっている。

 本論文は、糖尿病治療薬としてのSGLT-2阻害薬が単に血糖コントロールに寄与するだけでなく、認知機能の低下を防ぐ可能性があるという点で非常に興味深い。このような効果は、日常診療における認知症予防戦略に新たな可能性を提供するため、糖尿病患者のケアにおいて非常に重要であると考えた。特に、2型糖尿病患者は認知症のリスクが高いことが知られており、SGLT-2阻害薬が認知症予防に有効である可能性があるという点は着目に値する。

私の見解
 糖尿病患者の認知機能低下に対するリスク管理は、包括的な患者ケアにおいて重要な課題である。筆者も日常臨床で多くの高齢糖尿病患者を診療している中で、認知症の予防は特に関心が高い。

 今回の研究が示すSGLT-2阻害薬の認知症予防効果は、臨床現場で幅広く活用できると考えられる。糖尿病患者の認知症リスクは、アルツハイマー病や血管性認知症など複数のタイプがあり、そのメカニズムはインスリン抵抗性や血管障害など多因子にわたる。SGLT-2阻害薬の使用によって、認知症のリスクが0.65に低減するという結果は、血糖コントロールだけでなく、同薬の心血管保護作用や抗炎症作用、さらには神経保護作用が関与している可能性が高い。このことは、血糖管理と認知機能の保護が密接に関連しているという見解を裏付けるものである。

 総じて継続的な外来では、患者との長期的な関係性を重視し、認知機能の変化を早期に把握し予防的な介入を行うことが重要である。この文脈で、SGLT-2阻害薬の長期使用が認知症予防に寄与する可能性があることは、非常に有用な知見である。例えば、糖尿病患者に対する血糖コントロールの改善と同時に、認知機能低下を防ぐための予防策としてSGLT-2阻害薬の使用を積極的に検討することができる。また、認知機能の低下を早期に発見するために、定期的な認知機能検査や生活習慣改善の指導も併用して行うことが望ましい。

 ただし、あくまでもガイドラインなどと照らし合わせて糖尿病治療薬を適切に決めていくことが望ましいのは変わらない。

日常臨床への生かし方
 具体的な日常臨床での活用方法として、まず糖尿病患者に対してSGLT-2阻害薬を選択する際には、認知症予防の観点も含めた包括的な評価が重要である。特に、認知症の家族歴がある患者や心血管リスクの高い患者には、SGLT-2阻害薬の使用を優先的に検討することができる。実際に、本研究では治療期間が2年以上になると認知症リスクがさらに低減することが示されており、長期的な使用が推奨される可能性がある。

 長期に継続する外来では特に、患者一人ひとりのリスクファクターを考慮しながら最適な治療法を選択することが求められる。本論文で示されたSGLT-2阻害薬の認知症予防効果は、そのような個別化医療の一助となる知見であり、今後の日常臨床において有用に活用できるだろう。

投稿者: 大橋医院