2024.10.23更新

<RSウィルス感染症>
概要
RSウイルス感染症とは、RSウイルスによって引き起こされる呼吸器の病気です。
RSウイルスはヒトからヒトに感染するウイルスで、感染者の咳やくしゃみを吸い込んだり(飛沫感染)、ウイルスが付着した手指や物品を介したり(接触感染)することで鼻や口から入り込み、上気道から肺に感染します。
感染すると、発熱、鼻水や咳などの上気道症状がみられます。多くは軽症で済みますが、場合によっては肺に向かって感染が広がり、細気管支炎や肺炎を発症することがあります。
RSウイルスはごく一般的なウイルスです。2歳までにほとんどの子どもが初感染するといわれており、大人になっても再感染を繰り返すことがあります。初感染時には症状が重くなりやすく、特に乳児期早期の子どもや、基礎疾患がある子どもなどは重症化しやすいため注意が必要です。
原因
RSウイルスに感染する原因として、“飛沫感染”と“接触感染”が挙げられます。
飛沫感染では感染している人の咳やくしゃみ、会話時に飛び散る飛沫(唾液)が鼻や目から入ることで感染します。接触感染では、ウイルスが付着した手指や物品(手すりやドアノブ、机、椅子、コップなど)を介した間接的な接触によって感染します。
なお、RSウイルスが空気感染(飛沫核感染)*するという報告はありません。
*一部のウイルス・細菌では、飛沫の水分が蒸発した後にウイルスの飛沫核が空気中に長時間漂うことがある。この飛沫核を吸い込むことで感染することを空気感染(または飛沫核感染)という。空気感染する代表的なウイルス・細菌として、麻疹ウイルスや水痘・帯状疱疹ウイルス、結核菌などが挙げられる。
症状
RSウイルスに感染すると、典型的には4~6日の潜伏期間を経て、発熱、鼻水、咳などの症状が現れます。感染が上気道にとどまった場合はこうした上気道症状のみで済みますが、下気道まで感染が広がると咳がひどくなるほか、喘鳴(呼吸時のヒューヒュー・ゼーゼー音)や呼吸困難などの下気道症状がみられ、細気管支炎や肺炎が起こることもあります。
また、RSウイルス感染症は初回感染時に症状が重くなりやすく、初感染の乳児の約3割に下気道症状が現れるといわれています。特に低出生体重児や、心臓・肺・神経・筋肉などの病気がある場合、または免疫不全状態にある場合には重症化しやすくなります。また、生後1か月未満の乳児が感染した場合は無呼吸発作を起こして命に関わる可能性もあるため、このような子どもがいる家庭ではより注意が必要です。
一方、大人では軽いかぜのような症状(発熱・咳・鼻水・喉の痛みなど)のみで経過することがほとんどですが、高齢者では肺炎を起こすケースもみられます。
検査・診断
抗原検出キットを使った検査で診断が可能です。この検査では鼻の粘膜を綿棒で拭ったものを使用し、基本的には10分程度で結果が分かります。ただし、感度は100%ではないため、RSウイルスに感染していても陰性になる場合もあります。
また、保険適用となるのは1歳未満の乳児や入院中の患者、早産児、2歳以下の慢性肺疾患・先天性心疾患・ダウン症候群・免疫不全の子どもに限定されています。
治療
RSウイルス感染症に対する効果的な薬はないため、治療は症状の度合いに応じて症状を和らげる対症療法を行います。
具体的には、栄養や水分を補充するために点滴や胃チューブを用いた経管栄養、痰を出しやすくするために去痰薬の投与などが行われます。
また、呼吸困難によってチアノーゼを起こしている場合は酸素投与を行い、呼吸不全に陥っている重症例では人工呼吸器による治療が行われます。
予防
RSウイルスの感染を防ぐためには、マスクの着用や手洗い、子どもが日常的に触れる物品のこまめな消毒、人混みを避けるなどの基本的な感染予防対策が重要です。
早産児や、2歳以下の慢性肺疾患・先天性心疾患・ダウン症候群・免疫不全の子どもには、予防薬であるパリビズマブという注射薬を投与することができます。
また、近年では一部の成人を対象にRSウイルス感染症のワクチンが2つ承認されています。1つは2023年9月に60歳以上を対象に承認され、2024年1月から接種が可能となりました*。もう一方のワクチンは、2024年1月に妊婦を対象に承認され、さらに同年3月には60歳以上も対象に製造販売が承認されたもので、2024年5月現在、販売に向けた準備が進んでいます**。
*ワクチン接種は保険適用外(2024年5月現在)。

 

投稿者: 大橋医院