【症例】11歳の男児。1週間前に右膝を怪我し、発熱があり、身体が赤くなったため受診。咽頭発赤はあるものの、溶連菌迅速検査は陰性。皮疹は、紅斑で体全体に見られ、紅斑は膨隆疹ではなかった。手足の浮腫も見られた。経過中には皮膚の落屑はなかった。
「蕁麻疹?」もしかしたら「川崎病?」
紅斑が見られることから、感染症に伴う急性蕁麻疹の可能性もあるかもしれません。また、膨隆した皮疹ではなく、数日での皮疹の消失はありませんでした。また、発熱、皮疹、手足の浮腫があることから、川崎病の可能性も考えられますが、年齢及び他の症状(眼球結膜充血、口唇の発赤、イチゴ舌、頸部リンパ節腫脹)がないことから、川崎病の可能性は低そうです。怪我の部分から黄色ブドウ球菌(MSSA)が検出されたことから、発疹の原因としてはToxic-shock syndrome(TSS)様発疹症が考えられます。
TSS様発疹症と鑑別を要する疾患
紅斑と発熱の鑑別診断が必要になります。麻疹や風疹などのウイルス性発疹、リケッチアなどの感染症、感染症に伴う蕁麻疹の免疫・アレルギー疾患などです。また、ブドウ球菌では、その毒素によって、TSSやブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(staphylococcal scalded skin syndrome:SSSS)が起こります。TSSよりは軽症で、新生児TSS様発疹症(Neonatal toxic-shock syndrome-like exanthematous disease)に近い病態ですが、原因菌はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)ではありませんでした。
「診断:TSS様発疹症」
TSSは、黄色ブドウ球菌から産生されるエクソトキシンであるTSST-1(toxic shock syndrome toxin-1)、enterotoxin Cなどで起こる症候群で、発熱、びまん性の紅斑性発疹、発症1-2週間後の落屑、血圧低下を特徴とし、多臓器障害として嘔吐、下痢、激しい筋肉痛、意識障害、敗血症性ショック、播種性血管内凝固症候群(DIC)、腎不全、肝機能異常などの3臓器系以上の障害を起こします。
新生児では、落屑はなく、①原因不明の発疹(全身性丘疹状紅斑、融合傾向を示し、表皮脱を来すことは通常ない)、②38度以上の発熱、15万/μL以下の血小板減少、CRP 1-5mg/dLの弱陽性のうち1つ以上、③既知の疾患を除くこと─―が診断基準とされる新生児TSS様発疹症があり、軽症で自然軽快し、ショックを示さず、MRSAによるTSST-1が原因であるとされています。
本症例では抗菌薬とステロイドによる治療により2日程で解熱し、皮疹も消失しました。落屑は見られませんでした。本症例ではTSST-1、enterotoxin Cの産生菌の証明ができていないので、確定診断は困難ですが、MSSAによるTSS様発疹症が最も考えうるものでした。
(注)なお、本記事で紹介した症例に対する診断が、症状が類似したすべての症例に当てはまるわけではありません。
※参考文献
1) 日本皮膚科学会蕁麻疹診療ガイドライン改定委員会. 蕁麻疹診療ガイドライン2018. 日皮会誌. 2018; 128:2503-2624.
2) Absorbent Hygiene Products Manufacturers Association(AHPMA).トキシックショック症候群 医療従事者向けガイド.
3) 日本川崎病学会、特定非営利活動法人日本川崎病研究センター、厚生労働科学研究 難治性血管炎に関する調査研究班. 川崎病診断の手引き 改訂第6版.2019
4) 清益功浩 他. ブドウ球菌(MSSA)によるTSS様発疹症を呈した1例. 小児科臨床. 2013; 66:913-918.
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