2024.10.13更新

 ヘリコバクター・ピロリ(H.ピロリ)菌感染率は、日本ではかなり低下してきていますが、世界全体に目を向けるとまだまだ高いようで、多くの論文が見られます。その中で、H.ピロリを除菌治療すると大腸がんが減るという論文が目に留まりました。

 H.ピロリ菌感染が慢性胃炎を引き起こし、さらに胃がんの原因にもなっていることは有名ですし、それ以外にも特発性血小板減少症などの胃外疾患の原因にもなっていることも、比較的知られていると思います。ただ、大腸がんの原因であるというのは、筆者もこれまであまり目にすることがありませんでした。また胃とは離れた大腸という臓器において、どのような機序でH.ピロリ菌感染が発がんと関わっているのかという点についても興味をひかれ、この論文に注目しました。

私の見解
 本論文は、約81万人という膨大な数の退役軍人を対象とした後ろ向き研究です。H.ピロリ陽性者と陰性者、また、H. ピロリ陽性者で治療を受けた症例と受けていない症例を比較し、新規大腸がん症例、致命的経過をとった症例が、H.ピロリ陽性者および非治療者で多いことを示しています。したがって、H.ピロリ菌感染が、大腸がんの発がんやそれによる死亡に関与していることが示されました。

 疫学調査とはいえ、十分な数による検討ですので、その結果の信頼性は高いと思われます。その機序などがどこまで分かっているのかに興味がそそられたため、調べてみたところ、「Effects of Helicobacter pylori infection on intestinal microbiota, immunity and colorectal cancer risk」(Front Cell Infect Microbiol 2024: 14: 1339750)というレビュー論文が見つかりました。

 このレビュー論文では、これまで多くの疫学調査からH.ピロリ菌感染によって大腸がんのリスクが約1.8倍となることがまず指摘されています。さらにその機序として、H.ピロリ菌は胃内の免疫系を活性化し、その後クロストークによって小腸から大腸の免疫系に影響を与え、それによって腸内細菌叢も変化させることで大腸がんの発生に関与している可能性を示唆しています。正確な機序はまだ分かっていないため、さらなる検討が必要なようですが、現在増えつつある大腸がんに対する対策の一つになり得る有用な知見だと思います。

 ただし現在、日本では胃がんは減少しつつあり、その要因の一つは除菌治療によるH.ピロリ菌感染率の低下だと考えられます。これに対し大腸がんは増加傾向ですので、この増加の主な原因はそれ以外にあることになりますが、H.ピロリが大腸がんの一因であることは間違いなさそうです。

日常臨床への生かし方
 H.ピロリ菌の除菌治療は、慢性胃炎、さらには胃がんの予防という効果がありますが、現在増加傾向にある大腸がんの予防効果も期待できると考えられます。

投稿者: 大橋医院