急性痛の原因はほとんどが侵害受容性です。すなわち、外傷や疾患による組織の傷害や炎症によって、プロスタグランジンやブラジキニンなどの発痛物質が発現し、これらが末梢神経にある侵害受容器を刺激することで痛みが起こります。ただし、神経障害性疼痛の要素が多少なりともある場合(帯状疱疹の急性期など)もあります。また、心理社会的因子は、慢性痛のときほど大きな要因となることはまれですが、決して軽視してはいけません。例えば、興奮しているスポーツ選手が捻挫や打撲の痛みをものともせずにプレーを続けることがあるのはよく知られています。
侵害受容性疼痛に対しては、痛みの原因となっている外傷や疾患の治癒を促進することが最も重要です。そのためにも痛みをできるだけ抑える必要があり、慢性痛とは異なり、神経ブロック療法や薬物療法を積極的に用います。
神経ブロック療法は慢性痛の治療ではあまり推奨されませんが、急性痛に対しては著効を示します。ただし、1)合併症の治療・予防目的で抗凝固薬や免疫抑制薬を使用しているため神経ブロック療法がそもそも使えない患者さんも多い、2)外来ベースですぐに神経ブロックができる医療機関が少ない、3)持続的な効果を得るのが外来ベースでは困難である(薬剤の単回投与だと鎮痛効果持続時間は最長でも12時間程度となります)──などの理由から、実際にはそれほど利用されていません。
やはり、急性痛治療の主力は薬物療法です(表1)。
表1 急性痛の対処によく用いられる薬
薬剤名 特徴 注意点
非ステロイド性抗炎症薬
(NSAIDs) 作用機序として、炎症に伴う痛みに著効する。 短期の使用なら問題ないが、長期連用では副作用(消化管障害、腎機能障害など)に要注意。効果時間が短いものもある。天井効果がある。
アセトアミノフェン 作用機序は不明。炎症がなくても有効。NSAIDsなどとの併用が可能(有効)。 十分量が使われていないことが多い。大量使用で肝機能障害を起こしうる。特にアルコール常用者では減量が必要。抗炎症作用は弱い。
トラマドール 弱オピオイド作用およびセロトニン・ノルアドレナリン再吸収阻害作用を持つ。麻薬処方箋が不要。 CYP2D6の活性が原因で人によって効果が異なる場合がある。CYP2D6阻害作用のある薬剤(パロキセチンなど)との併用に注意。投与開始時に嘔気が多い。
強オピオイド 炎症の有無と無関係に強力な鎮痛作用を発揮する。 保険適用上、急性痛にはフェンタニル(術後の静注)とモルヒネしか使えない。使いこなすためには、十分な知識と訓練と経験が必要。
第一選択薬、非ステロイド性抗炎症薬の注意点
急性痛(≒侵害受容性疼痛)に対する第一選択薬はもちろん非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)です。組織の傷害や炎症によって発現するプロスタグランジンの生合成を抑制することが作用機序ですからドンピシャリです。ただ、気を付けなければならないことがいくつかあります。
1.短期間なら大きな問題になることは少ないですが、長期連用(数カ月以上)によって、消化管障害、腎機能障害、凝固機能障害、心機能障害などの副作用が起こる危険性があります。Cox-2選択性が高いもの(セレコキシブなど)は消化管障害が起こりにくいとされています。ただし(あくまで個人的な感想ですが)、セレコキシブ100mgはロキソプロフェン1錠よりも鎮痛効果が弱いようです。「手術後、外傷後、抜歯後」なら適応があるので、1回200mg(1日400mg)処方したほうが良いでしょう。
2.薬剤によっては鎮痛効果の持続時間が短いものがあります。例えば、ロキソプロフェンの効果持続時間は4-6時間です。従って、1日中続く痛みをカバーするためには長時間作用性のもの(セレコキシブなど)を選択する必要があります。
3.天井効果(鎮痛効果の限界)があるため、複数のNSAIDsを併用してはいけません。鎮痛効果はほとんど変わらないのに、副作用の危険性が増えます。例えば、ロキソプロフェン1錠×3回+屯用としてジクロフェナク座薬などはいけません。
アセトアミノフェンは用量と副作用に注意
NSAIDsと同じくらい使い勝手の良い薬がアセトアミノフェンです。ただ色々な誤解があってあまりうまく使われていないようです。
1.適正とされていた用法・用量が以前はかなり少なかった(1回量300-500mg、1日最大量1500mg)ので、いまだに少なめに処方する医師が多いようです。現在は1回量最大1000mg、1日最大量4000mgまで処方することができます。従って、通常成人であれば1回量500-600mgは処方すべきです。1回量で200mgや300mgの処方を見ることがありますが、これは小児の用量です。
2.作用機序はいまだによく分かっていないのですが、少なくとも抗炎症作用はほとんどありません。従って、急性痛に対しては特に問題がない限りNSAIDsが第一選択薬となります。
3.日本では以前はNSAIDsに準じた扱いで、副作用や禁忌もNSAIDsに準じて書かれていました。ようやく最近、厚生労働省が改訂を指示し、「重篤な腎障害のある患者」「重篤な心機能不全のある患者」「消化性潰瘍のある患者」「重篤な血液の異常のある患者」および「アスピリン喘息(非ステロイド性消炎鎮痛剤による喘息発作の誘発)またはその既往歴のある患者」の5集団に対する禁忌解除を行いました。アセトアミノフェンは腎機能障害、心機能障害、消化管障害、凝固能異常をほとんど起こしません。その点ではNSAIDsよりも危険性は少ないです。
4.アセトアミノフェンで注意すべき副作用は肝機能障害です。重篤な場合は肝不全を起こし高率で死に至ります。気を付けなければならないのは、一度の大量摂取(24時間以内に合計で150mg/kg以上)、アルコール常用者、極度の栄養障害などです。これはアセトアミノフェンの代謝経路を考えると理解しやすいです(図1)。
図1 アセトアミノフェンの代謝経路
アセトアミノフェンのほとんどは肝臓でグルクロン酸抱合か硫酸抱合されて無毒化されます(1)。抱合されなかった一部は肝酵素のCYP 2E1で代謝され、NAPQIという物質になります(2)。この物質は肝毒性が強いのですが、通常はグルタチオン抱合で無毒化されるため、問題は起こりません(3)。
問題が起こるのは、1)グルクロン酸/硫酸抱合の処理能力を超えるほど一度にアセトアミノフェンを大量摂取した場合、2)グルクロン酸/硫酸抱合が起こるよりも先にCYP 2E1がアセトアミノフェンを分解してNAPQIが大量にできる場合、3)NAPQIを無毒化できるだけのグルタチオンがない場合です。
CYP 2E1はエタノールの主な分解酵素であり、アルコール常用者では酵素誘導されて活性が高くなっています。また極度の栄養障害がある場合には、グルタチオンの体内量が低下している場合があります。
5.1と逆ですが、アセトアミノフェンの投与量が多すぎる場合もあります。アルコール常用(ただし、具体的にどれくらいの頻度・量以上が問題となるかはよく分かっていません)を医師が見逃している場合も結構ありますし、アセトアミノフェンは市販の風邪薬を含む他の解熱・鎮痛薬に頻用されています。SG配合顆粒には1包1gあたり250mg、トラマドール・アセトアミノフェン配合錠には1錠あたり325mgが含まれています。
6.以上のことから私は、1回600mg、1日最大4回(2400mg)までを一つの目安として処方しています。