わが国は超高齢化に伴い循環器疾患を有する人も高齢化し、フレイルを有する頻度は多くなっています。そのため循環器疾患とフレイルの関連についても多く検討されるようになっています。今回はフレイルと循環器疾患との関連について、特に多く罹患されている病気について説明します。フレイルと高血圧の関連については、血圧(平均血圧などを含む)は高いとする報告や逆に低いとする報告などがあり、一定の見解はありません。わが国における研究ではフレイルと収縮期血圧、脈圧(収縮期血圧ー拡張期血圧)などは相関し、高血圧の人ではフレイルと頭部MRIにおける白質病変(脳梗塞のリスクとなる)や尿蛋白との関連が強いことが示されています。このことはフレイルは高血圧による臓器障害の進展に影響する可能性があります。フレイルが降圧薬の治療効果にどう影響するかを検証した幾つかの試験では、降圧薬による治療は降圧を強化したほうがしない場合より脳卒中、心血管予防効果においてフレイルの程度にかかわらず強く認められるとされています。
ただしこれらの試験では脳卒中の既往者、認知症、施設入所者などは試験から除外されており、これらの人及び人生の終末期に近い人については、その降圧目標は個別に判断したほうがよいことがわかっています。フレイルと心房細動との関連は高齢者において高率に認められ、また、フレイルを有している人は認知機能が有意に低下していたとの報告があります。心房細動の人は梗塞(特に脳塞栓)を併発するリスクが高く、そのためその予防のために抗凝固薬を服用されている事が多いです。しかしフレイルを合併すると抗凝固治療を控えられる傾向があり、そのため脳塞栓発症リスクは高くなります。一方、心房細動の人において、フレイルは塞栓リスクや出血リスクよりも死亡などの強い規定因子であり、抗凝固治療による脳卒中予防の意義が低くなるという側面も指摘されています。したがってフレイル合併心房細動の人の抗凝固治法については、その益と害を考慮して治療の適応を決めるのがよいとされています。
フレイルと心不全は、併存する疾患、加齢に伴う身体的、精神的な変化、急性ストレスなどを介して双方向に影響し合っており、心不全の増悪や入院を繰り返すことにより不可逆な状態に陥ると考えられています。以前より心不全とフレイルとの関連については多くの報告があります。それらによると心不全の人はフレイルにより救急による医療機関への受診、入院、そして死亡といった予後の悪化に陥ることが多いというものです。すなわちフレイルは予後の悪化因子とされています。
またフレイル合併心不全の人の予後向上にむけた運動や栄養などの効果は確率されておらず、今後の展開が望まれています。心筋梗塞などの急性冠症候群(ACS)とフレイルとの関連では、再梗塞、再入院の増加、死亡と関連していたとの報告が多くみられます。この場合、カテーテルを冠動脈に挿入して梗塞の原因となっている血管の血流を梗塞前の状態に近くもどしても同様だとの報告が認められます。ACS後の人はフレイルの頻度が高く、その短期または長期の予後はよくないのが現状です。
以上、循環器疾患の人におけるフレイルの頻度は、一般の集団者より高く、フレイルがその予後の悪化因子であることを説明しました。今後は高齢の循環器疾患の人の増加は必至であり、フレイルに対する有効な介入・治療法の早期確立が求められるところです。