2024.10.06更新

うつ病エピソードを満たす患者に対して、うつ病と診断し治療しても必ずしも全ての患者が寛解に至るわけではない。そのような患者の中には、治療抵抗性うつ病の患者のほかに、発達障害などの併存症の診断治療が適切に行われていない患者や、うつ病ではなく双極症と診断し治療するのが適切な患者もいる。したがって、いくら現在の気分エピソードが抑うつエピソードであっても、双極症の抑うつエピソードの可能性を残しつつ診療を継続するのが良いと考える。

 本論文は、過去にうつ病と診断されたが、現在は双極症I型ないしII型と診断変更となった患者とうつ病患者の背景や特徴を比較検討しているため、気分障害の患者を診療していく上では臨床的に有用な報告だと考えた。

私の見解
 本研究には1463例のうつ病および過去にうつ病と診断されていたが、現在は双極症と診断変更となった患者が包括されている。当初うつ病と診断されていた患者の14.5%が後に双極症に診断変更された(I型4.0%、II型10.5%)。

 うつ病よりも双極症に多い特徴は、男性、再発回数が多い、気分変調症の合併、自殺企図、不眠症の併存の少なさ、興奮、身体症状、性欲低下、体重減少、精神病症状や他の精神疾患の合併、パニック症、広場恐怖症、社交恐怖症、全般不安症、強迫症、摂食障害および反社会性パーソナリティ症であった。双極症I型 vs うつ病、双極症II型 vs うつ病、双極症I型 vs 双極症II型のそれぞれについて有意差があった特徴を表で示す。

 

日常臨床への生かし方
 気分障害患者の診療において、現在のエピソードが(軽)躁病エピソードでない場合には双極症と診断することが難しい場合がある。一般的に双極症患者における(軽)躁病エピソードの期間は全期間に比べて短い(Arch Gen Psychiatry 2002; 59: 530-537、Curr Psychiatry Rep 2003; 5: 417-418)。気分障害の患者に対して初回の面接の後に詳細な2回目の面接をすることで、双極症II型の患者が22%から40%と約2倍も増えたという報告もある(J Affect Disord 1998; 50: 163-173)。井上らは、1)抗うつ薬による躁転、2)混合性の特徴、3)過去1年間のエピソード回数が2回以上、4)大うつ病エピソードの初発年齢が25歳未満、5)自殺企図歴の5つの臨床因子がうつ病と双極症の鑑別に有用だと報告しており、筆者も臨床で非常に参考にしてきた(J Affect Disord 2015: 174: 535-541)。

 本論文では、双極症のI型とII型それぞれについて、うつ病に比べて有意な背景や特徴にどのようなものがあるのかを検討しており参考になる。双極症とうつ病では治療法が異なるばかりか、抗うつ薬による躁転というリスクもあるため、本論文を参考にうつ病患者を診療する場合は、''この患者さんをうつ病として診療しているが双極症らしさを示す因子があるため、これまでに(軽)躁病エピソードがなくても今後双極症に診断変更する可能性があるかもしれない''と思いながら診療することは臨床的に有益だろう。

投稿者: 大橋医院