<多発性硬化症>
概要
多発性硬化症(Multiple Sclerosis:MS)は視力障害、感覚障害、運動麻痺などさまざまな神経症状の再発と寛解を繰り返す、厚生労働省が指定する難病の1つです。
病気の経過に応じて“再発寛解型”“一次性進行型”“二次性進行型”に分類され、再発寛解型は症状が現れては治ることを繰り返し、日本ではそのうちの約20%が数十年後に二次性進行型へと移行するといわれています。
二次性進行型では、はじめは症状が現れたり、治ったりを繰り返す再発寛解型を示しますが、次第に再発せずに、ゆっくりと体の障害が進行するようになります。一方、一次性進行型ははじめから障害が継続して進行するタイプです。
詳細な原因は分かっていないものの、何らかの免疫異常によって中枢神経のさまざまな部位に脱髄(だつずい)が繰り返し引き起こされ、症状が現れると考えられています。
よく似た病気として、視神経脊髄炎(NMO)や抗MOG抗体陽性脱髄疾患などが挙げられ、診断の際には鑑別が必要です。多発性硬化症は欧米人に多い病気ですが、日本でも約12,000人の患者がいると推定されています。平均発症年齢は30歳前後で、20歳代で発症する方がもっとも多いといわれています。女性の患者の割合が高く、男性の2~3倍程度と報告されています。
近年では、治療薬の選択肢が広がるとともに、日常生活を改善する治療法が確立されつつあります。
原因
現在のところ、多発性硬化症が発症する正確な原因は分かっていません(2020年12月時点)。しかし、免疫の異常がその発症に関わっていると考えられています。
多発性硬化症は、神経線維を覆う髄鞘(ずいしょう)(ミエリン)という部分が破壊される病気です。神経線維は、神経活動の刺激を伝える軸索と、それを節状に覆う髄鞘によって構成されています。多発性硬化症が起こると、本来自己を守るはずの免疫システムが髄鞘を攻撃して軸索がむき出しの状態になる“脱髄”が引き起こされます。脱髄が起こると神経伝導がうまくいかなくなり、神経症状が現れるようになります。
疫学調査から、発症に関わる要因としてEBウイルスへの感染や喫煙歴が報告されています。また、多発性硬化症は遺伝性の病気ではありませんが、遺伝的要因として特定のHLA型と発症に関連性があると考えられています。
症状
多発性硬化症は局所性の炎症性脱髄病変が部位を変え、時間を変えて繰り返し起こる病気です。
脱髄の病変は大脳、小脳、視神経、脳幹、脊髄など、中枢神経の組織であればどこにでも起こる可能性があります。脱髄病変の起こった部位によって異なる神経症状が認められます。
初めて現れる症状としては、以下が挙げられます。
• 視力視野障害(ものが見にくい)
• 複視(ものが二重に見える)
• 感覚障害(しびれる)
• 運動障害(力が入らない、動きにくい)
• 歩行障害
• 排尿障害
• 構音障害(発声や発語が困難になる)
• 高次脳機能障害(記憶障害や注意障害など)
など
再発寛解型の場合、寛解と再発を繰り返すことが特徴です。適切な治療によって症状が安定する寛解期*をむかえます。以前は1~2年の間に患者さんの多くにそれまでとは異なる新たな症状の再発が見られましたが、多発性硬化症の疾患修飾薬(DMD)の登場により現在では状況がよくなってきています。
また、治療が奏功しない場合は、再発と寛解を繰り返しながら徐々に神経症状全体が慢性的に増悪していき、“二次性進行型”となります。
*寛解期:症状が治っている期間あるいは症状は残ったままだが、増悪や進行はみられない期間。
検査・診断
多発性硬化症の検査では、まずは神経学的検査が行われます。視力障害、感覚障害、運動麻痺などさまざまな神経症状について病歴の詳しい聞き取りや、ものの見え方、眼球運動、体の感覚、運動機能など、体の状態を確認する基本的な検査です。
また、神経学的検査に加え、MRI検査、髄液検査、誘発電位検査などがあわせて実施されます。
とりわけ、多発性硬化症を診断する際のMRI検査の重要性は年々高まっており、脱髄病変がどこにどのようにあるかをみることに長けています。特に、ガドリニウム造影剤を用いた検査では新しい病変を白く映すことができるため、病変が発生した時期を推定するのに役立ちます。
治療
多発性硬化症の治療は発症の原因が明らかになっていないことから、神経症状の早期回復ならびに再発の予防、障害の進行抑制を目的とした薬物療法が中心です(2020年12月時点)。
初めて症状が現れたとき、あるいは再発時には、メチルプレドニゾロンという副腎皮質ステロイド薬を用いたステロイドパルス療法が行われます。この薬は、再発の予防効果はないものの、症状や後遺症を軽減させる作用があります
2024.10.03更新
多発性硬化症
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