2024.10.01更新

リン酸エステル加水分解過程に亜鉛依存性酵素関与が示唆、正確な作用機序は?

 京都大学は9月17日、培養細胞とラットを用いて、ビタミンBのリン酸エステル加水分解に4つの亜鉛依存性酵素が重要な役割を果たすこと、さらに、この加水分解活性が亜鉛栄養状態によって大きく影響されることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院生命科学研究科の神戸大朋准教授、湯浅花修士課程学生(研究当時)、西野勝俊助教(現:東京工科大学講師)、永尾雅哉教授、東京慈恵会医科大学の木戸尊將講師、須賀万智教授、滋賀県立大学の福渡努教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「The FASEB Journal」にオンライン掲載されている。

 ビタミンBは水溶性の補酵素であり、さまざまな酵素の補因子として生命維持に不可欠な役割を果たす必須微量栄養素だ。例えば、ビタミンB1(VB1)は、ピルビン酸脱水素酵素やα-ケトグルタル酸脱水素酵素などの酵素とともに炭水化物代謝に関与する。ビタミンB2(VB2)はクエン酸回路、脂肪酸酸化、およびホモシステイン代謝に関与するいくつかの酸化還元酵素の補因子として機能しており、また、他のビタミンの代謝にも関与する。

 ビタミンB1(VB6)はアミノ酸、脂質、炭水化物の代謝を含む細胞代謝過程に関与しており、神経伝達物質の合成や1炭素代謝にとって重要だ。このように、ビタミンBはさまざまな生体反応に関わっているため、不足すると健康が損なわれることがよく知られている。細胞内でビタミンBが生理機能を発揮するには、リン酸エステルまたはヌクレオチドといった活性体の形(以下、リン酸エステル体)である必要があり、VB1はチアミン二リン酸(TDP)、VB2はフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、VB6はピリドキサールリン酸(PLP)が主たる活性体となる。一方で、これらのリン酸エステル体が細胞内に取り込まれて利用されるためには、膜輸送される前にリン酸エステルが加水分解される必要がある「TDP→チアミン、FAD→リボフラビン(RF)、PLP→PL(ピリドキサル)」この過程には亜鉛依存性酵素が関与していることが示唆されていたが、これまで、その正確な作用機序は明らかにされていなかった。

4つの亜鉛依存性酵素が重要な役割

 研究チームはこれまで、消化管からの亜鉛吸収や亜鉛依存性酵素に亜鉛を供給する役割を果たす亜鉛トランスポーターに関する解析を実施してきた。その研究過程で細胞外や細胞膜に局在して機能する亜鉛依存性酵素が、さまざまなリン酸エステル体化合物を加水分解していること、さらに、このリン酸エステル体の加水分解がいくつかの栄養素の細胞膜の通過に重要であることに注目した。特に、リン酸エステル体の加水分解が吸収・代謝に必須となる栄養素としては、VB1(TDP)、VB2(FAD)、VB6(PLP)があり、同研究ではこの加水分解に関わる酵素を特定することを試みた。リン酸エステル体の除去に関わると予想される15種の酵素を1つずつ過剰発現させて加水分解活性をHigh Pressure Liquid Chromatography(HPLC)を使用して解析した結果、ALP、CD73、ENPP1、ENPP3の4つの亜鉛依存性酵素が重要な役割を果たすことを明らかにした。

ビタミンB代謝、亜鉛栄養状態によって大きく影響される

 研究グループは、別の先行研究において、これら4つの亜鉛依存性酵素の活性が亜鉛欠乏に応じて鋭敏に低下することを明らかにしていた。そこで、亜鉛状態を変化させて培養した培養細胞や亜鉛欠乏食で飼育したラットの血清を使用して、亜鉛栄養状態とビタミンBリン酸エステル体の加水分解との関係を解析したところ、この加水分解活性が亜鉛欠乏によって大きく減少することが明らかとなった。これらの結果は、ビタミンB代謝が亜鉛栄養状態によって大きく影響されること、すなわち、亜鉛栄養状態を適切に保つことがビタミンB代謝において重要であることを明確に示した成果になる。

亜鉛欠乏症の多様な症状に新たな知見

 亜鉛欠乏は非常に多様な症例を示す。その中にはビタミンB欠乏症と類似したいくつかの症状も存在している。今回の研究成果は、亜鉛栄養状態とビタミンB代謝との間の関連性を示す興味深い結果となるだけでなく、亜鉛欠乏症とビタミンB欠乏症との間の類似性を説明し、亜鉛欠乏症の多様な症状に関する新たな知見を提供する成果となると考えている。今後は、本知見を臨床戦略に役立てたいと考えている、と研究グループは述べている。

投稿者: 大橋医院