2024.09.24更新

不健康な生活習慣により腸内細菌叢のバランスが崩れると、腸内細菌により心臓病を誘発する物質が産生されてしまう可能性があるという。デンマーク・コペンハーゲン大学などの研究。

人間の腸には、腸内細菌叢とよばれる何兆もの細菌がある、人間の健康にプラスとマイナス、両方の影響を与える可能性がある。バランスが取れているとき、腸内細菌は健康を促進する多くの化合物を生産する「体内の化学工場」として機能する。しかし、不健康な生活習慣(質の低い食生活、喫煙、運動不足、病気)によりバランスが崩れると、心筋梗塞、狭心症、心不全などの遺伝的リスクの高い人々に複数の非感染性慢性疾患を引き起こすおそれのある物質を生成する可能性がある。

研究者らは、慢性心疾患の人々において、腸内細菌叢が変化していることをすでに明らかにしており、さらに、不健康な微生物叢によって生成される化合物、例えば、トリメチルアミンのような肝臓でTMAOに代謝されて動脈硬化を引き起こす元になる化合物を特定している。

しかし、腸内細菌叢の変化に関するこれらの発見は、何らかの薬を服用中の患者を対象とした研究でみられたため、異議を唱えられている。心臓病の患者には数種類の薬が用いられるが、いずれも腸内細菌叢を乱すことが知られている。ゆえに、心血管障害を持つ人々の腸内微生物叢に影響を与えたのが実際には何であるのかは不明だった。

さらに問題を複雑にしているのは、心臓病が過体重や2型糖尿病の初期段階と並行して発症することが多く、腸内細菌叢が乱れていることも特徴であるという事実だ。

今回、研究の対象としたのは、①健康な人、②肥満と2型糖尿病だが心臓病でない人、③心筋梗塞、狭心症、心不全のいずれかの患者。デンマーク、フランス、ドイツに住む計1,241人の中年の人が集められた。研究者らは、約700の異なる細菌種を定量し、腸内細菌叢におけるそれらの機能を推定。そして「腸内化学工場」に由来するこれらの化合物の多くを含む血液中を循環する1,000を超える化合物と比較した。

「これらの腸内細菌と血液中の化合物の約半分は、投薬治療によって変化しており、心臓病や、心臓病の診断前に発生する糖尿病や肥満などの初期の病気の段階とは直接関係がないことがわかりました」と研究者のペダ-セン教授は述べている。

「残りの半分のうち、腸内細菌叢の障害の約75%は、患者が心臓病に気付く何年も前の、過体重と2型糖尿病の初期段階で発生しました。」

しかし、初期の腸内細菌叢の変化は、その組成と機能に特定の心臓病関連の変化を示した心臓病患者で持続していた。代謝異常の初期段階と診断された心臓病の後期段階の両方で、病気の細菌叢は細菌細胞と細菌の能力の喪失によって特徴づけられた。さらに患者らは、短鎖脂肪酸などの健康促進をする化合物を生成する細菌の種類が少なく、特定の食事性アミノ酸、コリン、L-カルニチンから不健康な化合物を生成する細菌の種類が多いことを示した。血液中の化合物の分析は、腸内細菌叢の不均衡を反映していた。

心臓病患者における腸内細菌叢と血中化合物の変化に関する知見は、同時に掲載されたイスラエルの研究でも検証され拡張されたという。

「心臓病患者で起きている腸内細菌叢の主要な障害や変化は、心臓病の症状が始まり診断を受ける何年も前から始まっています。これらの変化は薬物治療によっては説明されません。」

今回の研究の主な制限は、これが因果関係ではなく関連性を報告しているに過ぎないということである。けれどもペダーセン教授は、過去10年間に、特定の微生物叢由来の化合物に対する多くの細胞および動物実験が、今回の研究で特定されたもののように、不均衡な腸内細菌叢が心臓の発達にどのように役割を果たすかを示していると強調している。

ペダーセン教授は「これまでの研究によって、心臓病の発症のさまざまな段階での不均衡な腸内細菌叢が、より植物主体でエネルギーが管理された食事を食べ、喫煙を避け、毎日の運動を順守することによって修正し、部分的に回復できることが示されています。腸内細菌叢の役割の蓄積された証拠を、心臓病の発症および死亡の予防または遅延に焦点を絞った公衆衛生イニシアチブに変換する時が来ました」とペダーセン教授は述べている。

出典は『ネイチャー医学』。 (論文要旨)

投稿者: 大橋医院