2024.09.20更新

2023年11月22日、補体(C5)阻害薬ジルコプランナトリウム(商品名ジルビスク皮下注16.6mgシリンジ、同皮下注23.0mgシリンジ、同皮下注32.4mgシリンジ)が薬価収載された。同薬は、9月25日に製造販売が承認されていた。適応は「全身型重症筋無力症(ステロイド薬又はステロイド薬以外の免疫抑制薬が十分に奏効しない場合に限る)」、用法用量は「成人に、次に示す用量を1日1回皮下投与する。体重56kg未満は16.6mg、56kg以上77kg未満は23.0mg、77kg以上は32.4mg」となっている。

 重症筋無力症(MG)は神経筋接合部のシナプス後膜上にある、いくつかの標的抗原に対する自己抗体の作用により、神経筋接合部の刺激伝達が障害されて生じる自己免疫性疾患である。自己抗体のアセチルコリン受容体(AChR)抗体と筋特異的受容体型チロシンキナーゼ(MuSK)抗体が、MGの病因として病原性を認められており、日本のMG患者全体の約80~85%はAChR抗体陽性とされている。さらに、日本のMG患者のうち、約20%は眼筋に症状が限局した眼筋型MG(眼瞼下垂、複視など)、残りの約80%は広く随意筋に障害が及ぶ全身型MG(運動、発語、嚥下および呼吸障害など)に分けられている。

 現在、全身型MGの薬物治療としては、プレドニゾロン(プレドニン他)などの経口ステロイドを中心に、タクロリムス水和物(プログラフ他)やシクロスポリン(ネオーラル他)といった経口免疫抑制薬、アンベノニウム塩化物(マイテラーゼ)などの抗コリンエステラーゼ薬、血漿交換、ポリエチレングリコール処理人免疫グロブリン(献血ヴェノグロブリンIH)、乾燥ポリエチレングリコール処理人免疫グロブリン(献血グロベニン-I)、遺伝子組換え製剤の抗補体(C5)モノクローナル抗体エクリズマブ(ソリリス)およびラブリズマブ(ユルトミリス)、遺伝子組換え製剤の抗胎児性Fc受容体抗体フラグメント製剤エフガルチギモドアルファ(ウィフガート)などが臨床使用されている。

 ジルコプランは補体成分C5を阻害する、15個のアミノ酸から構成される大環状ペプチドである。既存のC5阻害薬エクリズマブやラブリズマブが静注製剤であることに対し、日本初の自己注射が可能な皮下注製剤である。

 全身型MGは、主に自己抗体がAChRに結合することでC5などの補体が活性化し、シナプス後膜に膜侵襲複合体(MAC)が形成される。MACが蓄積することで運動終板が破壊、神経伝達の抑制により発症する。ジルコプランは補体C5に結合し、C5aおよびC5bへの開裂の阻害による下流の補体活性化の抑制、並びにC5bとC6の結合阻害によりMAC形成と細胞溶解活性を抑制する。

 抗AChR抗体陽性の18歳以上の全身型MG患者を対象とした、国際共同第III相二重盲検試験(MG0010)において、同薬の有効性および安全性が確認された。2023年9月に、日本において世界初となる承認を取得した。

 重大な副作用として、重篤な感染症(1.4%)、膵炎、重篤な過敏症(各0.5%)が報告されている。その他の副作用として、主なものに注射部位反応(内出血、疼痛など:22.2%)、感染症(上気道感染、上咽頭炎、副鼻腔炎、尿路感染など:5%以上)などがある。また、重大なものとして、髄膜炎菌感染症の可能性があるので、十分注意する必要がある。

 薬剤使用に際して、下記の事項についても留意しておかなければならない。

●抗AChR抗体陽性の患者に投与すること(添付文書の「効能又は効果に関連する注意」の項を参照)

●原則として、投与開始の少なくとも2週間前までに、髄膜炎菌に対するワクチンを接種すること(添付文書の「効能又は効果に関連する注意」の項を参照)

●投与開始12週後までに症状の改善が認められない場合には、他の治療法への切り替えを考慮すること(添付文書の「用法及び用量に関連する注意」の項を参照)

●投与中は、定期的に膵酵素(血清アミラーゼ、血清リパーゼ)を測定し、上昇が認められた場合には、適切な処置を行うこと(添付文書の「重要な基本的注意」の項を参照)

●自己注射の適用に関しては、添付文書の「重要な基本的注意」を参照すること

●承認までの治験症例が極めて限られていることから、有効性及び安全性に関するデータ収集のために、全使用症例で使用成績調査を実施すること

●医薬品リスク管理計画書(RMP)では、重要な潜在的リスクとして「重篤な感染症」が挙げられている

投稿者: 大橋医院