2023年11月22日、持続型LDLコレステロール低下siRNA製剤インクリシランナトリウム(商品名レクビオ皮下注300mgシリンジ)が薬価収載と同時に発売された。同薬は、9月25日に製造販売が承認されていた。適応は「次の(1)、(2)のいずれも満たす場合の、家族性高コレステロール血症、高コレステロール血症。(1)心血管イベントの発現リスクが高い、(2)HMG-CoA還元酵素阻害薬で効果不十分、またはHMG-CoA還元酵素阻害薬による治療が適さない」、用法用量は「1回300mgを初回、3カ月後に皮下投与する。以降6カ月に1回の間隔で皮下投与する」となっている。
家族性高コレステロール血症(FH)は遺伝性疾患で、LDL受容体など原因となる遺伝子の片方だけ変異しているFHヘテロ接合体(HeFH)と、両方が変異しているFHホモ接合体(HoFH)があり、いずれも低年齢の時から血清LDLコレステロール(LDL-C)値が高くなる。また、LDL-C高値と心血管イベント発症には関連が認められており、虚血性心疾患、脳梗塞などを含む動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)予防のためにLDL-Cを管理することが重要とされている。
現在、LDL-C値低下を目的とした高コレステロール血症の治療には、アトルバスタチンカルシウム(リピトール他)などHMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)の単剤、または作用機序が異なる他の薬剤との合剤、併用療法が基本となっており、多くの患者で有意なLDL-C値低下が認められている。しかし、虚血性心疾患の既往歴を有する患者で、脂質異常を誘因とした心血管イベントの発現リスクが高い場合、またはスタチンの投与が困難な場合には、既存の薬物治療ではLDL-C値の低下が不十分となる症例も多い。
これに対して、2016年7月よりLDL受容体分解促進蛋白質であるプロ蛋白質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)のLDL受容体への結合を阻害する、ヒト抗PCSK9モノクローナル抗体製剤エボロクマブ(遺伝子組換え)(商品名レパーサ)が臨床使用されるようになり、FHや高コレステロール血症の治療効果を著しく改善してきた。
インクリシランは、PCSK9蛋白質をコードするmRNAを標的とした低分子干渉リボ核酸(siRNA)製剤で、肝臓に取り込まれた後、肝細胞内でPCSK9 mRNAの分解を促進する。その結果、LDL受容体の発現が増加することによりLDL-Cの取り込みが促進され、血中LDL-C値は低下する。このような、標的mRNAの分解を誘導するsiRNA製剤は、トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーの治療薬として世界で初めて実用化したパチシランナトリウム(オンパットロ)を皮切りに、核酸医薬として注目されている。
インクリシランはsiRNA製剤であることから、モノクローナル抗体のPCSK9阻害薬エボロクマブとは作用機序が異なり、皮疹、紅斑など注射部位反応によってPCSK9阻害薬の継続投与が困難な場合にも使用できる可能性がある。また、投与間隔が既存のPCSK9阻害薬より長く、持続的なLDL-C低下効果や患者の服薬アドヒアランスの向上が期待できる。
最大耐用量のスタチンで治療を受けているまたはスタチン不耐である、HoFH患者(ORION-5)やHeFH患者(ORION-9)、ASCVDの既往を有する高コレステロール血症患者(ORION-10)、ASCVDの既往を有するまたはASCVDと同等のリスクを有する高コレステロール血症患者(ORION-11)を対象とした海外第III相試験と、日本人高コレステロール血症(HeFHを含む)患者を対象とした国内第II相試験(ORION-15)において、同薬の有効性および安全性が確認された。海外では、2023年9月現在、欧米など90を超える国または地域で承認されている。
副作用として、主なものに注射部位反応(疼痛、紅斑、発疹など)(5%以上)、肝機能障害(5%未満)が報告されているので、十分注意する必要がある。
薬剤使用に際して、下記の事項についても留意しておかなければならない。
●患者選択においては、事前に添付文書の「効能又は効果に関連する注意」の事項を十分把握しておくこと
●HMG-CoA還元酵素阻害薬による治療が適さない場合を除き、HMG-CoA還元酵素阻害薬と併用すること
●「最適使用推進ガイドライン」が厚生労働省より公表されているので、使用前に確認すること